ドラゴンメイド・ラブコール   作:久本誠一

7 / 15
21:00~ ハスキー

 名残惜しいですが、この『特別』は明日もその先も、ずっと続きますものね。

 

 そんな言葉を最後に残してチェイムが自室へと帰っていくと、しんとなった部屋には私だけが残った。柔らかなオレンジ色のランプが照らす部屋の中で、なんとなく落ち着かない気分になってベッドに腰かけ、結局じっとしていられずにすぐ立ち上がって動物園の熊のようにうろうろと勝手知ったる部屋の中を歩き回る。いっそ部屋の外に出ていこうかとも思ったが、それで入れ違いにでもなればそれこそ馬鹿馬鹿しい。私がここにいることは、すでにチェイムから伝わっているであろう。

 朝からこちらラドリー、パルラ、ティルル、ナサリーに関しては、こちらがアクションを起こすまでもなく向こうから出向いてくれた。チェイムに対しても、おそらく普段の傾向から考えても私の部屋にいるのではないかという漠然とした予感があった。けれど、最後のひとりに関しては。

 

 ドラゴンメイド・ハスキー。凛として理知的で頼りになり、いつも優しく愛情深く、よく気が利いて物知りで、だけどちょっぴり口下手なところもあり、たまに不意打ちで子供じみた面を見せることもある、私が誰よりも信頼して愛するひと。まだ今日は朝食時の挨拶やナサリーとの帰還への出迎えなど細々した場面を除き出会えていない……というよりも意図的に顔を合わさないようにされていたようなのでほとんど会話もできていないが、彼女もまあ、今日の他のメイドたちの傾向や先ほどチェイムから聞いた話から察するにこれからすぐに会えるのだろう。

 しかし、来るとわかっていて待ち構えているというのはなんともむず痒いような、妙な気分のするものである。ましてその理由が、私とふたりで過ごす時間を作りたいからだという。忘れもしない私の人生が一変したあの日、初めて生の彼女に会ってこの世界に足を踏み入れた日も、彼女はこんな気持ちで私の帰宅を待っていたのだろうか。相変わらず持て余した時間の始末に困り、意味もなく窓の外を眺めたりクローゼットの扉を開けてみてはまた閉めたりして体感一カ月にも二カ月にも感じるような時を過ごしていると、ついにその時が来た。控えめで慎ましやかだが力のこもったノック音が、入口の扉から確かに聞こえてきたのだ。

 

 ―――――は、はい!どうぞ!

 

 緊張のあまり裏返ったまるで余裕のない声にカッと全身が熱くなり、あまりの恥ずかしさ情けなさに鏡なんて見なくても顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。もちろん彼女はこんなことで人を笑うような性格なんてしていないけれど、自分で自分が情けなくなるのはまた別の話だ。せめて深呼吸でもしてうるさいぐらいに高鳴っているこの心臓の鼓動と真っ赤な顔色が戻るまで待ってもらえば、と思った時には時すでに遅く、既に許可を得たことで扉がゆっくりと開かれるところだった。

 

「失礼します、御主人様」

 

 そして聞こえてくる、普段他のメイドたちに見せている彼女の姿からは想像もつかないほどいっぱいいっぱいに張り詰めたハスキーボイス。付き合いが長いからこそ読み取れる程度にかすかに、しかし隠し切れていない緊張でごくわずかに強張ったその端正な表情は、けれどなおその素材の強さだけでため息が出るほどに美しく。照れのせいでうっすらと紅潮した頬に潤んだ瞳は、庇護欲と嗜虐心を同時にくすぐってきて(というのも、生物としての文字通り格の違いを考えればとんでもなく見当違いな話なのだが。あらゆる要素から考えても、庇護にせよ嗜虐にせよ本来はこちらが一方的に受ける立場だ)、元来の大人びた顔立ちとのギャップがたまらなく愛らしい。

 そしてそんな彼女の様子からは、やはり変わらないなとなんとも言えない感慨が胸をよぎる。今日が特別こんな調子なのではなく、こと私と彼女だけの間に限り、その関係性は初めて出会ったあの日あの時から大して変化していない。あれから随分時を経て他のメイドとは普通に喋れるようになった私も、同じく他のメイドの前では常に一片の隙もない完璧な竜僕として振舞うハスキーさんも。他に誰かがいるならばさほど問題はないのに、いざ最愛の相手と何かの拍子でふたりきりになるとずっとこんな調子だ。私から彼女にずっと向け続けた気持ちも、そしてそれに応えてくれた、彼女からの想像もつかないほどに深い……ちっぽけな人間一人など、瞬く間に飲み込んでしまいそうなほどに大きな愛情も。お互いに相手の想いはよく理解しているのに、どうにもふたりきりだとそれをさらけ出せるほど心に余裕がなくなってしまう。

 

 だけど、ここまで今日という日に起きた全てのお膳立てを皆にしてもらって、なおも受け身でいるのはさすがに違うだろう。甘酸っぱいといえば聞こえはいいけれど、どこまでもじれったい沈黙を無理にでも破るため、上下でぴったりと張り付いてしまったかのような喉を開いて無理にでも声を出す。

 

 ―――――ハスキーさん!

 

 入室しようとした足をごく自然に止めて小首を傾げ、慎ましやかに主人の……つまり私の言葉を待つハスキーさん。しかし私としても、何を言おうとして口を開いたわけではない。とにかくここで私の側から声を出せないようならずっと後悔を引きずることになる、そんな強迫観念にも似た考えにつられてのことだ。当然、この先のことはノープランなわけで。

 

 ―――――その、今日は……じゃなくて!今日も、ええと、だから……

 

 最初は、チェイムから聞いた今日の彼女たちの試みについてお礼を言いたかった。生活の世話をされ想われるだけでなく、この私のために丸一日時間を割いてあれこれ調整してくれたこと、色々と考えた上で動いてくれたこと……無論明日には改めて一人一人に心からの感謝を伝えるつもりではいるけれど、まずはその案をまとめて形にしてくれたであろうことが容易に想像のつく今日という日の立役者、目の前の彼女にそれを伝えたかった。

 けれどいざそれを口にしようとすると、また余計な迷いが生じる。そもそもこの屋敷に来てから……いや、彼女と初めて出会った日……いや、それでもまだ足りないだろう。

 

 だって、私にとっては全てのはじまり。『ドラゴンメイド・ハスキー』というカードの存在を、初めて知った日。あの時からずっと、彼女には感謝しっぱなしの日々が続いているのだから。

 それを何とか、伝えたかった。重なり続けた日々の思いのたけを、どうにか目の前の彼女に。こんな機会だからこそ、きちんと言葉にして伝えたかった。

 けれど、うまく言葉が出てこない。たった五文字の言葉程度で私の想いは伝わってくれるのか、この時点ですでに格好悪い所を晒してしまっているのに、これ以上のミスは嫌だ。だって、だって。馬鹿馬鹿しいちっちゃなプライドだけど、惚れた女の子の前では格好悪い所なんて見せたくないじゃない。

 

 後になって思い返せばこの時の私は完全にパニック状態、思考がドツボにはまっていた。緊張や拭いきれなかった照れくささ、変に入った気合といった様々な感情が絡み合った末に悪い方に悪い方に転がり落ちて、自分ひとりではとっくに抜け出せない所まで来てしまっていたのだろう。

 

 しかし、そこから救い上げてくれたのもやはり彼女だった。慈愛に満ちた微笑みを口元に浮かべ音もなく近寄ってきたハスキーさんのすべすべとして柔らかい女性特有の手が、言葉に詰まる私の手をそっと包み込む。それだけではなくそのままもう片方の手も伸びて、頭の上にそっと触れられる感触。撫でられているのだ、と理解できたときには体ごと引き寄せられ、気が付けば立ったまま抱きとめられるような姿勢になっていた。心のざわめく甘い、けれど同時に落ち着き安らぐ空気がふわりと鼻腔をくすぐり、メイド服越しですら嫌でも意識させられる熱い肢体の感触が生の実感をもって伝わってくる。

 

「出過ぎた真似でしたら申し訳ございません、いかなる罰でもお受けします……ですが、ふふふ。こうしていると、御主人様に初めてお会いした時のことを思い出しますね」

 

 耳元で吐息と共に囁かれる言葉にぞくぞくしたものを感じながら、うん、と小さく頷く。やっぱり彼女の方も、あの時のことを思い出していたか。あの時はひたすら土下座していたのを止めてもらったけれど、今回はお礼の言葉がうまく出なかったのを宥めてもらって。彼女に包まれているという意識から心臓の鼓動は一層早まって、だけどさっきまでの嫌な感覚はすっかり消えさって。どうにもこと彼女が絡むと空回りばかりだけど、改めてこれだけ伝えようと顔を上げると、すぐ目の前にある彼女の顔と目が合った。緩やかなカーブを描きながらすらりと真上に伸びた立派な二本の角からはじまり、艶のある触り心地の良さそうな黒髪に、眼鏡の奥に見える宝石のように濁りなく綺麗な瞳。すらりとした鼻梁に、ふっくらと形のいい唇、そしてどこまでもきめ細やかで染みひとつない肌。それは決して人間には辿り着けない人外の美、全てが調和した完璧な美女。

 もはや暴力的ですらある顔面偏差値の高さにもう何度目かもわからず見惚れて言葉を失い、慌てて自分を取り戻す。美人は三日で飽きるなんて格言は、少なくともこの屋敷ではあり得ない。ハスキーさんだけでなくラドリー、パルラ、ティルル、ナサリー、チェイム……それぞれタイプは違えどレベルの高さという点では同じ人外の美女美少女である彼女たちは、どれだけ見ていても後から後からそれまで気づけなかった新たな魅力がその内側から湧き上がってくる。飽きるだなんて以ての外、一分一秒と時が経つごとに、彼女たちにはますます魅了される一方だ。

 だけど、だからといっていちいち顔を見るだけで意識が吸い込まれていたら日常生活もままならないわけで。復帰が早くなったという意味では、私も多少なりとも目が肥えて耐性が付いてきたのかもしれない。それでもここまで至近距離で見つめ合うとなると、今のはちょっと危なかったけれど。

 

 ―――――それで、ハスキーさん

 

「はい。御主人様のメイドに、何なりとお申し付けください」

 

 もしかしたら彼女には、私が何を言おうとしているかなんてとっくにお見通しなのかもしれない。でも仮にそうだとしてもそんな態度はおくびにも出さず、きちんと私が自分の言葉にするまで待ってくれている。細やかな気配りに甘やかしてもらっていることを自覚しつつ、それが心地いいと感じてしまうのもまた事実なわけで。

 

 ―――――その、ちょっと見苦しいところ、見せちゃったけど。いつもいつも、それに今日もだけど。毎日、本当にありがとう。私を「主人」だって言ってくれて、会いに来てくれて、こんな生活をくれて。本当に、ありがとう……!

 

 どうにか言い切る私の顔は、さぞ赤くなっていただろう。面と向かって言うとなると、照れくさいものは照れくさい。抱きとめられて頭を撫でられながらの時点で、恥も何もないとは自分でも思う。

 

「……~っ!勿体ないお言葉、ありがとうございます……!私、私は……!」

 

 そしてそんな私の本音は、彼女がそれを予期していたのかどうかはさておき予想以上の反応を叩き出した。みるみるうちにその目は潤み、さっと赤みが差した頬は控えめな、しかし咲き誇るような笑顔を浮かべて。感極まって私の手と頭に回されていた両腕は両方とも私の背中に回り、私のドラゴンに比べ遥かに脆い体に危害が及ばない程度の、しかし平均的成人男性程度の力ではまるで抵抗できないほどには強く抱きしめられてますます体が密着する。

 

 ―――――ちょ、ちょっと!?

 

「きゃっ!?御主人様!」

 

 しかし、それを喜んでばかりもいられなかった。あまりに突然な、それもハスキーさんというこの女性らしからぬ行動にすっかり対応が遅れてバランスが崩れた私たちの体を、見たこともないほどの勢いで咄嗟にしゅるりと伸ばしたその長い尻尾が守るように巻き付く。ますますがっちりと固定されて抱き合ったままで、それでもバランスは戻しきれずよたよたと数歩下がり、結局そのまま後ろに倒れ込み……柔らかな感触に、すぐに背中を受け止められる。

 一瞬何が起こったのかと混乱しそうになったが、状況はすぐに理解できた。どうやら、うまい具合にベッドの上に倒れ込めだらしい。横を見ると、同じくシーツの上で横たわるハスキーさんと目が合った。私の上に倒れる形にならないよう、瞬時に腕と尻尾の抱擁を解いてくれたのだろう。それでもあの彼女が揃って転倒しているあたり、よほどギリギリのタイミングだったらしい。

 

 ―――――だいじょ……

「大丈夫ですか御主人様!?申し訳ございません、メイドの身でありながら御主人様に対し斯様な真似を……!」

 

 ハスキーさんが私の言葉を途中で遮ってまでこんな食い気味に来るの、間違いなく私は初めて見た。跳ね起きてこちらに掴みかからんばかりの勢いで迫ってくるのを押し止めて(今だから懺悔すると、極めて珍しいシチュエーションなのでちょっと勿体ないとも思った。けどそれ以上に、あまりに必死に心配してくれる彼女を見ているとそんなこと言っていられなかった)どこも怪我していないし痛くもない、当然私としても何も気にしていないことを伝えると、ようやく安心したように胸を撫で下ろして深く息を吐く。でっかい……じゃなくて。まずい、ちょっとパルラに悪影響を受けたかもしれない。

 それからどれくらいの間、隣同士何もしないまま寝そべっていただろうか。特に何かを語ることもせず、互いに顔を合わせては充足感に笑みを浮かべ合う。お互い、言葉はいらなかった。そんなゆっくりとした心地いい沈黙の時間が、邪魔されることなくしばらく過ぎていった。

 

「先ほどは、私としたことが思わず我を忘れてしまいました」

 

 やがてお互い示し合わせたように同時のタイミングで半身起き上がりったところで、ベッドに腰かけた姿のまま改めて頭を下げるハスキーさん。自分の言動を思い返しているのかまたその顔が赤くなりつつあるのには気がつかないふりをして、首を横に振る。

 

 ―――――でも、私としては正直嬉しかったよ?あんなハスキーさん、普段は見せてくれない顔で

 

「その、可能でしたら忘れてくださると……」

 

 ―――――嫌だなあ、って言ったら、駄目?

 

「せ、せめてあの子達に対しては内密にして頂くわけには……駄目、でしょうか?」

 

 絶対忘れるものかと脳内に焼き付けたのは本当だけれど、軽く意地悪するつもりで正面から一度断ってみる……軽い気持ちだったのにそのまま涙目、上目遣い、理知的な中にちょっぴり不安さを滲ませた表情のトリプルコンボでのカウンターが返ってきた。うわかっわいい、そんな弱みの見せ方、誰だって断れるはずがない。

 

 ―――――ちょっとズルくない、今の?

 

「お言葉ですが御主人様、今のは御主人様も同じですよ?あんなふうに仰られたら、この御主人様のハスキーは万難を排してでもその命に尽くしたくなってしまいますもの」

 

 お互いさま、というわけか。全然釣り合ってない気はするけど、それを口にすることはなかった。部屋にかかった年代物の柱時計が、ちょうどそのタイミングで日付の変更を告げたのだ。

 

「あ……」

 

 ごくわずかな、ともすれば聞き逃してしまいそうなほどに小さい残念そうな声が隣から漏れ聞こえる。私だって、ここは同じ気持ちだ。チェイムの弁によれば、今回彼女たちの持ち時間はひとりにつき3時間。彼女が退室してハスキーさんがここに来たのが、おおむね9時。時計がてっぺんを告げたということは、これで時間切れ。自他ともに、そして公私ともに線引きはきっちりしている真面目なハスキーさんのことだ、そこは律義に守るだろう。

 

「…………」

 

 だけど予想に反し、妙に長い沈黙。なぜかいつまでも立ち上がろうとすらしない気配にふと横を見ると、なんだか覚悟の決まった、というかいつもより明らかに目の据わった彼女に見つめ返される。

 

 ―――――えっと、ハスキーさん?

 

 ちょっと腰を浮かせてさりげなく距離を取ろうとしても、その矢先に先手を打つ形でぐいと距離を詰められた。ほとんど密着したような位置でまじまじと見つめられると、女性らしい彼女の匂いのみならず普段はさすがに判別できない形のいいまつ毛の一本一本やぷるぷるとした唇といった細かい情報が視覚と嗅覚から一斉に襲い掛かってくる。抗いがたいその魅力に加え彼女の竜の証でもある縦長の瞳孔が放つ逃げないでくださいと訴えかけてくるような眼光に、結局私も抵抗を止めてその場に座り直した。

 

「御主人様、こんな逸話をご存じですか?少し、失礼しますね」

 

 そしてその口から唐突に紡がれた話題にますます困惑しているうちに、気が付けば彼女の手はそっと私の肩にかけられていた。そのまま澄ました顔で、壊れ物でも扱うかのように優しくたおやかな指に力が籠められる。もう逆らう気もなかったため流れに従ってまた上半身をベッドに倒れ込ませる私と同時に、彼女もメイド服に皺が付くのではないかという(どこか現実逃避めいた)私の心配を他所に隣へと倒れ込んできた。そのままいつの間にか肩から離されていた手を私の顎にかけてそっと押し上げ角度を調整し、またお互いの視線をまっすぐに合わされる。

 

「ドラゴンは、とっても強欲なんです。私、ハスキーの全ては言うまでもなく御主人様のものですが、私もドラゴンの端くれとして、手に入れたお宝は決して手放したくないんですよ?」

 

 ―――――え、ええと……?

 

 さらっと聞き流しはしたがよくよく考えれば大胆な発言もさることながら、それとこの突然の行動の意図との関係がまだ掴み切れずになんと返答したものか言葉に詰まる。

 

「だから、ですね。もう今の御主人様はこの竜の巣に、自分を抑えられなかったはしたなくて悪いドラゴンの手元に連れ込まれたお宝なんです」

 

 自分でやっておきながらよほど恥ずかしいのか先ほど見せた嬉し泣きとはまた別の羞恥に目を潤ませ、普段の聞き取りやすい声ではなく若干もにょもにょと言葉尻をすぼめながら、それでも最後までそんなことを言い切ったハスキーさん。そのまますっと更に顔を寄せ、吐息すら感じられるほどの耳元で甘く囁きかけてくる。

 

「ですからこのまませめて次の朝まで、お傍にいさせてください……ね?」

 

 ああ駄目ですこれは、もう絶対駄目です。こんな可愛い生き物はもう反則が過ぎる、難色なんて絶対に示せるわけがない。一も二もなくこくこくと頷くと、そのままぎゅっと抱きしめられて。かすかに伝わる心臓の鼓動は明らかに平常より早く、ハスキーさんがどれだけの想いを振り絞ってこの提案をしてきたのかが否が応にも伝わってくる。

 

 ……結局そのまま「お宝」として愛情たっぷりに一晩抱き枕となっていたところを、よりにもよって起こしに来てくれたパルラに見つかって。

 

「おっはようございます、マスター!今日はマスター愛しのパルラちゃんが一番乗り……あーっ!メイド長、それはズルです抜け駆けですよ!せめて今からでも代わって、いやせめて私も混ぜ……!」

 

 から始まり、その屋敷中に響き渡るような大声を聞きつけた他の皆までなんだなんだとやって来て。それはもう大騒ぎになったのは、まだ未来の話。

 

 ……最終的になんだか圧のある笑顔でナサリーが放った「では今日から5日間、私たちも『添い寝係』として順番にローテーションを回してみましょうか。構いませんよね、ハスキーちゃん(彼女は本気で怒るとハスキーさんへの敬称が『さん』から『ちゃん』になる、という学びを私はこの日に得た)?」という私の意思が一切介在していない鶴の一声でようやく落ち着くに至ったのは、さらに少しだけ未来の話。




ドラゴンメイド・ハスキー
 ご主人様ラブ勢最大派閥にしてドラゴンメイド筆頭。なお実質両者に違いはない。
 今でこそメイド長として屋敷で大人しく平和な日々を過ごしているものの、本来は相当に高位のドラゴンかつその種族特徴である膨大な魔力と生来の稀有な才能と知能に支えられた魔法使いでもある。かつてヤンチャしていた(公式設定)過去には諸国漫遊がてら世界各地の技や術を学びつつ合間で突っかかってくる気に食わない相手を叩きのめしており(妄想設定)、未開の辺境には彼女を『突然現れ民を苦しめていた土着の邪神を葬り去った龍神』として今なお信仰する地が細々とあるとかないとか。
 普段は気高く凛とした頼れる美女のイメージが強く実際その評価自体は間違っていないのだが、主人の前ではひとりの恋する雌ドラゴンでもある。今日は顔にも態度にも完璧に出さず隠し通してはいたものの朝からずっ……とひたすらに夜が来るのを待ち望んでおり、ただでさえ恋愛感情と好きの矢印が煮詰まっていたところにいざ自分の番になるとなんか御主人様がたまらなく愛おしいことを言い出したため、普段からその完璧さを保つための強力な武器であった鋼の自制心と山より高い従者としての誇りが理性ごと全部ぶっ飛んだ。一晩たっぷりふたりきりで愛しの主人を両手両足尻尾全てを絡めて抱き枕にした後の彼女の寝顔は過去に誰も見たことがないほど幸福そうであり、他のメイド全員にかなり本気で(羨ましさ半分に)怒られて反省しながらもそれはそれは生き生きしていたという。

ひとまずこれで終わります。また何かこの世界で続きを書くかは完全未定。
最後に一言書くとすれば、私もただただこんな生活が送りたいです。ドラゴンメイドはいいぞ。
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