新メンバーなんて書くっきゃないので帰ってきました。
投稿遅れましたが供給ありがとうございます……!
ラティスの帰った日
その知らせが屋敷に届いたのは、ある日の昼下がりのことだった。
その時、私は厨房に……正確に言えば、厨房横の小部屋にいた。わずかに傾いた西日が窓の外から柔らかな光と温かさをふんだんに届ける部屋の中で、机の上に置いてある湯気の立つカップの中身は、あの一件からまた日を改めて出直して、今度こそティルルと摘んできたたんぽぽを使ってのたんぽぽコーヒー。そして隣にはその体が温まる苦みに調和した甘さの今日のおやつである、彼女手製のカップケーキ。向かいの席ではそのティルル本人が、端正な顔立ちをわずかに緊張させて同じものを前に私が口を付けるのをどぎまぎと待っている。毎回そんなに緊張してくれなくてもティルルの腕前は信用しているし、今日もその腕前が遺憾なく振るわれたことは味見と称して先に一口持っていったであろうパルラ(先ほどここに来る途中にちょうど、同じデザインのカップケーキを片手に摘まみながら反対方向へと走り去る彼女と出会った)の挨拶がてらに垣間見えた幸せそうな表情から見ても明らかだ。
が、まあそういうわけにもいかないのだろう。このおやつの時間、いつもは誰かしら他にたまたま手が空いていたドラゴンメイドも揃っているのだが、今日はたまたま皆して手が放せなかったらしく私とティルルの2人きりといういささか珍しいシチュエーション。この機会に、何でもいいから私の好みを聞いておきたい……ということなのだろう。そういうところがいかにも真面目な、同時にちょっと生き方が不器用な彼女らしいし、それが愛おしく感じるあたり私も大概惚れた弱み、相当彼女にやられているな、などとどこか他人事に考えたりもする。まあこれ以上待たせるのも彼女に悪いし、まずはコーヒーの方を一口。暖かな大地の苦みを舌の上で転がしてから喉の奥へと滑り込ませ、後味が残った口の中へカップケーキの方を一口。これ単体ならばいつも彼女が作るおやつよりもやや甘味が強い気がするが、たんぽぽコーヒーのコーヒーとよく似た、しかし若干違う苦みと合わせると話は別、微妙に慣れないその味と完璧に調和して、体の芯から温まるような満足感がぽかぽかと残る。
コーヒーカップを机に置いてティルルと目を合わせ、そんな感想を伝えようと口を開く。そんな平和なひと時はしかし、突然開いた小部屋の扉によって妨げられた。
「失礼します、御主人様。ティルルもここにいたんですね、ちょうどよかったです」
―――――ハスキーさん……あれ、みんなも?
いつも私の前で見せてくれる凛とした中に確かな愛情と忠誠を感じる柔らかな微笑みではなく、若干緊張の面持ちすら漂う真面目顔のハスキーさん。他のメイドたちに話を聞く限り、私が想像していた以上に相当に高位なドラゴンであるらしいハスキーさんがそんな表情を浮かべているということ自体がすでに結構なレア物なのだが、その後ろにラドリー、パルラ、ナサリー、チェイムとこの屋敷にいる全員が一様になんとも言い難い微妙な表情を浮かべてくっついているというのがもう相当な何かが起きていることを窺わせる。顔色が暗いわけではないから別に悪い知らせとかそういったものではなさそうだけれど、かといって手放しに喜べるような話でもないらしい。
……それとパルラは、せっかく真面目な話をしに来てくれたみたいなのに口の端にカップケーキの食べかすが微妙についているのをどうにかして欲しい。可愛いけど。ただ逆に言えばそんなちゃっかりものの彼女らしからぬ状態のまま、身だしなみや証拠隠滅の暇すらもなくこの場に姿を現してくれたという現状の重大性の証明にもなるのだが。
一拍置いて、ハスキーさんが重々しく口を開く。
「先ほど、ラティスから手紙が届きました」
ラティス?思い返そうとして、すぐに断念した。駄目だ、知らない名前だ。「思い出せない」ではなく、「知らない」ことを自信をもって断言できる。アディプスなら知ってるけど、さすがにドラゴンメイドとの関係はないだろう。そんな混成デッキがあるという話も、ちょっと聞いたことがない。これでも私にだって彼女たちに関連することならあっちの世界にいた時からどんな情報でも収集して来たという自負があるが、どこにも引っかかるところがない。
しかし、正面のティルルにとってはそうでもなかったらしい。
「ラティスさんから、ですか……」
復唱する彼女はやはり他の皆と同じ嬉しさ懐かしさ半分、なんとも言い難い感情が半分こもったどうにも微妙な顔。どうもこの話題では蚊帳の外にいるのが私だけらしいと改めて理解できたところで、ハスキーさんが頷いた。
「ええ。御主人様に説明いたしますとラティスというのは、私たちの家族といっても過言でない存在。いわば、この屋敷に所属する
―――――……ええぇ!?
さらりと告げられたのは、まさに衝撃の真実だった。これには過去イチで驚いたし、人生でもそうは出ないくらい大きな声が出た。思わず椅子から立ち上がった私にハスキーさんが、次いでそれを見た他の皆もその後ろで深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。御主人様に対し同じメイドである彼女のことをこれまで黙っていた非礼、後ほどいかなる処罰でも受けますのでお申し付けください。一言添えますと彼女は少々……その、奔放な気質がありまして。かれこれ数百年ほどこの屋敷にも姿を見せておらず、こちらとしてもなかなか連絡を取ることが難しかったもので」
―――――い、いや別に怒ってるわけじゃないからそんな処罰なんて……ちょっと、いやだいぶ驚いただけで
7人目のドラゴンメイド……まだ顔も効果もステータスも知らないその存在を明かされて私がどれだけ驚いたのかは、想像に難くないだろうからここでは割愛する。本当に全く予想していなかったところから突如降って湧いてきた爆弾情報に殴られた衝撃も冷めやらない中、それでも今は彼女たちの話を聞こうとどうにか気を取り直す。
―――――そ、それで?とりあえず皆も頭を上げてさ、その手紙とラティスさん?がどうしたって?
「御主人様の温情、大変感謝致します。とはいえそれでは私どもの気が済みませんが、その話は後日改めて」
そんなハスキーさんらしい前置きから始まった話を要約すると、大体こんなところになる。
1,そのラティスさんは彼女らと同じくドラゴンメイドとして、まだ主人のいなかった頃からこの屋敷に住んでいた。
2,しかし仕えるべき主もいなければその目途も立っていない、そもそも仮に主ができたとしてそれが自分の傅くだけの価値がある相手であるという保証もないのに全てを含め待ちの一方であるという状況に嫌気が差した。
3,そして昔の、といってもドラゴンの寿命感覚からすればさほど古くはないある日、ついに彼女は荷物を纏めて屋敷からふらりと飛び出した(ハスキーさん曰くあの折はちょうど私の昔話をせがまれまして、今となっては恥ずかしい話なのですが魔と武を共に極めるために諸国を巡っていた際の話を少々、どうもそれで火が付いてしまったらしく、とのことらしい。今度私もそれ聞いてみようと密かに心に誓ったのは内緒)。
4,そこからは数年数十年、下手をすると百年越しで思い出したように時折り手紙のやり取りが行われるだけの時代が随分長く続いていた。あちらから出してきた手紙の残存魔力を高位の魔法使いでもあるハスキーさんが読み取って居場所を割り出し全員分の返事を送り返すやり方でしか現在の居所を掴めないため、全てのタイミングはそのラティスさんの気まぐれだった。
5,つい最近も偶然そんな手紙が届き、つい興が乗ってしまった彼女たちが今この屋敷では主人……つまり私と暮らしていることやその詳細をたっぷり書きつけた手紙六人分をそれはそれは分厚い便箋で送り返した。
6,まさかの即日で返事が来た、それが今日のこと。
その分厚い便箋の中身とか色々気になるところはあったけれど、多分話が進まないのでぐっと堪える。ラティスさんの過去と、連絡もまともに取れない相手だから私に黙っていたというのはとりあえず理解できた。となると、目下聞いておくべきことはまずこれだろう。
―――――その手紙の中身、何が書いてあったの?
「その人間、つまり御主人様のことを今すぐ観に行く、と。ラティスも御主人様に危害を加えるような真似をする子ではありませんしそんなこと私どもが絶対にさせはしませんが、何分私どもも直接顔を合わすのは久々ですし、彼女は主人に対し忠誠を誓うと言うドラゴンメイドの文化に対しても少々懐疑的な……あえて悪く言ってしまうと、少々変わり者の気質がありまして。御主人様のことも、まだ彼女の主人であると認めてはいないと思われます」
「それとラティスちゃん、とっても優しくていい子ではあるんですけど昔は、男性全般に対してあまりいい印象を持っていなかったんですよ。色々世界を見て回って、少しは改善されているといいんですけど」
ハスキーさんの言葉を継いだ困り顔のナサリーの捕捉に、なんとなく皆のこの表情の理由が私にも掴めてきた。確かにそんな相手が今のこの屋敷に帰ってくれば、自分が不在の間に勝手にやってきた男である私が主人面して名前だけでもトップに収まっている現状を目の当たりにし、あまり快く思わなくても仕方ないだろう。まさか気に食わないからといって問答無用ということはないだろうが、それを抜きにしてもだ。そしてそれはそれとして、久々の仲間への再会はそりゃあ嬉しくもあるだろう。
だんだん状況が見えてきたところで、次に気になったことを聞いてみる。
―――――ちなみに、ここに着くのがいつ頃になるとかは?
「それはおそらく意図的に書いてありませんでしたので、私からはなんとも……申し訳ありません」
それがわかっていれば私としてもまだ心構えができたのだが、わからないというのであればどうしようもない。
―――――とりあえず、いつ帰ってきてもいいように準備だけしてあげて欲しいかな。元々ここは、そのラティスさんの家でもあったんだよね?
そう伝えると、ほんの少しだけどハスキーさんの顔つきもほっとしたものになった。もう何カ月も毎日毎日顔を合わせては改めてデレデレと惚れ直しているのだから、さすがにある程度の機微は読めるようになる。いかにメイド長たる彼女といえど、主人と同胞との板挟みにはさすがに困っていたのだろう。しかしこれは、私自身のためでもある。
一応私も元を辿ればここには招かれた立場といえど、あちらからしてみればそんなの知ったことではなく。私という存在は、昔は存在しなかった異物でしかない。そして人間とドラゴンでは、もう幾度となく痛感しているようにあまりにも種族としてのスペックが違いすぎる。私がここにいられて彼女たちと対等以上に口をきくことができているのは、ひとえに当人たちからの忠誠と溺愛を受けているからにすぎない。あくまで彼女たちこそが、例外の側なのだ。越えてはいけない一線を忘れたら、瞬きするほどの暇もなく消し炭や八つ裂きでは済まないだろう。
―――――何か手伝いたいところだけど、多分引っ込んでた方がいい……かな
「そうですね……とりあえず彼女には私どもの方で対処して、その後で御主人様への御目通りは行おうと思います。もちろん彼女がここに到着次第、御主人様にもお伝えいたしますが」
―――――わかった。じゃあ、とりあえず部屋に戻ってるから
「でしたら、今日のおやつも私がお運びします!」
邪魔にならないように引っ込んでいようと意識を固めると、慌ててティルルが手を挙げる。作り手として一番美味しい出来立てのうちに食べて欲しいというのは、もちろんあるだろう。だがそれ以外に先ほどまではもう少し続くはずだった私といた時間を邪魔された格好になることに対しても思う所が多少あり、その埋め合わせではないけれど。だからこそ、咄嗟に挙手までしたのだろう……というのは、あながち私の思い上がりでもないはずだ。その証拠として何よりも、先ほどから音を立てない程度のごくわずかにだが若干不機嫌そうに揺れっぱなしな尻尾が彼女の本音を物語っている。
―――――えっと……
個人的には彼女と一緒にいられるのは嬉しいけれど、他の皆としてはどうだろうか。少し迷ってハスキーさんの後ろ、パルラに視線を送る。多分ハスキーさんに直接聞くと、私がそうして欲しいならとそちらを最優先に答えてしまうはずだ。その点ちゃっかりもので目端の効き、頭の回転も速いパルラならばこちらの意図を汲んだうえで正直な所を教えてくれるだろう……ああ、なるほど。
案の定こちらの視線の意味を即座に察知し、コンマ数秒ほど考え込んだのちに他の皆には気づかれないよう小さく首を横に振ったパルラの姿に感謝の意を込めて小さく頷き返し、私からの正式な許可を待っているティルルへと向き直って罪悪感と心苦しさを感じながらも口を開く。
―――――ありがとうティルル、でもこっちはいいから、準備の方を手伝ってあげて?
「そん……いえ、そう、ですか……わかりました……」
ある程度覚悟はしていたが、思った以上に効果は覿面だった。沈んだ表情でその尻尾はしょぼんと垂れ、心なしか輪のような角までへたれたように見えてわかりやすく落ち込みながらも返事だけはどうにかしてくれた彼女を見ていると思わず抱きしめたくなってしまうが、スタイル抜群のお姉さんである彼女にそれをやるのは色々とまずいだろう。絵面的にも、そして主に私の理性も。
―――――また今度、また今度絶対埋め合わせはするから。約束だよ
「はい……」
無論ティルルのような女性とのデートを口約束で終わらせるつもりはさらさらないし彼女自身もそれは理解してくれていると思いたいけれど、それでも寂しいものは寂しいのだろう、まだあまり元気なさそうに、それでも多少は気分が晴れたように頷いてくれた。とはいえ言った私だって寂しいしこの時点で既に後悔しかかっているのだから、ここは勘弁してほしい。
「では、私たちはこれで失礼いたします」
こちらの話も済んだ頃を見計らい絶妙なタイミングでハスキーさんが優雅に一礼すると、後ろの皆もそれに倣って頭を下げ、それぞれの持ち場へと散っていく。これ以上あのままでいるとせっかく決めたのに本気で撤回しそうだったのでまさに最高のタイミングだったし、そうであることを分かったうえで話を終わらせてくれたのだろう。本当に、何から何まで完璧で最高なメイドさんだ。1人残された私も心の中で感謝を述べると、後で本人に直接改めて伝えようと心に決めてカップケーキと湯気の立つコーヒーカップをトレイに乗せた。今日の午後は大人しく部屋にこもって、デッキの調整でもして邪魔にならないようにしていよう。
そしてカップケーキとたんぽぽコーヒーを載せたトレイ片手に自室に戻り部屋のドアを開けた時、風が私の頬を撫でた。大きく開いた窓では純白の染みもくすみも存在しないカーテンが、外から吹き込んでくる柔らかな風にあおられてぱたぱたとはためいている。
―――――あれ?
こちらでドアを開けたから、空気の抜け道ができて一気に風が吹き込んできたのだろう……それはわかるし、そのこと自体は何らおかしくはない。ただ、ついさっきこの部屋を私が出た時、この窓は果たして開いていただろうか。最初から開きっぱなしだった、と言われれば、そんな気もするような。いや最後に見た時は閉まっていた、と言われれば、やっぱりそんな気もするような。
首を傾げながら、その窓際にある小さなテーブルに手の中のトレイを置こうと一歩踏み出し、自室の中に踏み込んだ瞬間。
―――――え?
何もしていないにもかかわらず、背後で扉の閉まる音がした。咄嗟に振り向くと、間違いなく私が今入ってきたばかりの扉はすでに閉まりきっている。これはさすがにおかしい、こんなことはここで暮らしてから一度もなかったはずなのに。警戒しながら再び前の方へと向き直ると、そこには。
―――――っ!?
先ほどまで誰もいなかったはずの、窓際のテーブル。座って外の景色を見ながらちょっとした作業やお喋りができるようにと設置されている、この屋敷に存在する物品の例に漏れず高級そうで、けれど嫌味さは感じないお洒落な調度品のテーブルと、それを挟んで向かい合うよう設置された同じデザインの椅子。そのうち片方に、1人の女性が腰かけていた。
「御機嫌よう、お初にお目にかかりましたね」
完全に固まる私に鈴を鳴らすような声で小さく笑いかけ、ゆっくりと立ち上がって分厚い絨毯の上を音もなく近寄ってくるその女性。そのまま手を伸ばせば触れることすらできるような距離まで近寄って来てようやく、その身に纏っているのが紺色と純白の対比が眩しいドレスめいたデザインの豪奢なメイド服であることに意識がいった。そして、彼女が超絶美少女、などと陳腐な枕詞を付けることすら憚られるほどの天上の美に恵まれていることも。
ベージュがかった金髪からは頭の上、フリルの後ろ側と両耳のあたりからそれぞれ2本ずつ計6本の真珠色をした角が伸び、ぱっちりと大きな茶色の瞳は謎めいた光を湛えて向き合ったこちらの視線をこの意識ごとその中へと吸い込まれそうになる錯覚すら覚えて。すらりとした鼻梁に形が良く控えめな主張の、しかし瑞々しさが伝わってくるような唇からどうにか目を逸らすと、やはりというかなんというか、圧倒的な盛り上がりを見せる衣服越しですらいかにも柔らかそうなふたつのお山がそのまま視界を埋め尽くす。きゅっと締め付けられた細い腰の下、ロングスカートに隠された脚はその高さからだけでもすらりと長く伸びていることが容易に想像がつき、わずかに見える足元にはブーツの先端、つま先の部分に鋭い爪のような意匠が付いている。
まさに非の打ち所がない、人間には決して到達し得ないような上位種族の美女。そして極め付きにはそんな思いを確信へと後押しする、腰のあたりから伸びたその角と同じく真珠色の尾。天翔けるドラゴンのそれというよりもむしろ海中を自在に駆ける海竜のそれのような、先端に広がるイルカのように二股に分かれた尾びれの他にも何対かのひれが途中から伸びている、一本の尾。
―――――ラティス……さん?
至近距離でじっと見つめられ、その胸元の膨らみとやや垂れ目気味な大きな瞳に意識の大部分を奪われながら、思い浮かんだその名を口にする。我ながらひどく頼りない、震えてさえいる声色だったが、同時に確信があった。そもそもこの屋敷は、ハスキーさんをはじめとしたドラゴンメイドたちによって守られている。余所者がこんなに簡単に入ってこられるはずがなく、逆説的に彼女が余所者ではない存在であることを示している。そしてつい先ほど聞いたばかりの、ハスキーさんの言葉。ここまで状況が揃っていれば、幼稚園児にだってわかるだろう。
「あら、もうご存じなのですね、『御主人様』?」
含みのある呼称……この屋敷の皆が私のことをそう呼んでくれる時のような親愛と敬愛の込められていない、むしろそれらを揶揄するような調子の言葉。しかし幸いにも、私に対する悪意や害意のようなものもまだ感じない。
……ああ、そうか。不意に、納得がいった。今まさに、それを試されているんだ。こちらの一挙手一投足を、彼女へと向ける視線や言葉のひとつひとつを、自分がこの男に傅く価値があるかどうかを、その全てを見定められている。だから、この部屋に突然現れたんだ。他の誰の所でもなく、玄関から堂々と入るでもなく、この私だけがいるこの部屋に。となると、今日の全ては私を彼女とふたりきりにさせるためのハスキーさんの手引きだろうか?ほんの少しだけ可能性が頭をよぎって、即座に否定して自分を恥じた。常に私を一番に考えてくれる彼女がそんなことをするとは思えないし、仮にその意図があったとしてもこんな不意打ちじみたやり口ではなく公正に、あらかじめこういう理由があるので今日ここでラティスさんに会って欲しいと私には伝えてくるはずだ。最愛の彼女自身、私が信じなければ一体誰が信じるんだ。
そこまで考えたところで、背筋に冷たいものが走った。仮にこちらの推論が正しければ、つまり眼前の彼女は他のドラゴンメイドたちの目を完全に欺いてこの場所まで辿り着いている?付き合いが長いから行動が読める、というのは、一因としてもちろんあるだろう。古い仲間がまさかこんなことをしてくるはずがない、という油断だって、ハスキーさんたちにはあったはずだ。でもそれにしたって、同じだけ付き合いがあるはずの6人の目と思考を完全に読み切ったうえで、事実そのどれにも引っかからずに?それを事実やってのけるためには一体どれほどの知恵と、そして実力が必要となるのだろう。
「では改めまして……
柔らかいはずの絨毯に足が固定されたような感覚を味わいながらひどく難儀してどうにか唾を呑む私とは対照的に、優雅にスカートの両端を両手で広げ完璧な所作、見惚れるような動きで一礼したラティスさんが、どこからともなく取り出した1枚の紙を差し出してきた。人間の上位存在である彼女たちにとっては、私がどれだけ隠そうとしたところで隠し事なんてまともにできやしない。今の私が何を考えていたかは、手に取るようにわかっているはずだ。そのうえで、何も言うことなく次のアイテムを差し出した……つまり、手始めの第一関門は合格を貰ったということなのだろうか。すなわち、自分が現れたという情報からどこまで思考を巡らせるか。あるいはハスキーさんのことを信じられるか、だったのかもしれない。いずれにせよ、次のステップだ。
にこにこと笑みを浮かべながら差し出されたポーズのまま受け取れ、ということなのだろうそれを、できる限り指の震えが出ないように、ぎこちない動きにならないようにと念じて祈りながら両手で受け取る。ハスキーさんの言葉通り、彼女はまだこちらのことを主人として認めてはいない。今のにしても、いつまでも圧倒されて受け取りが遅れるようならばそこで無様と断じられ見切りを付けられていた可能性まである。その柔和な笑み、状況さえ違えば見惚れていたであろう彼女の表情からは、現状どんな感情も窺い知れない……しかしそれも当然だろう。私自身はあくまでいち人間に過ぎず、そもそも初対面からまだ5分と経っていないのだから。
受け取ったそれを間違っても落とさないように、かと言って力を込めすぎてくしゃくしゃにしないように細心の注意を払いながら、何が書かれているのかを確認する。紫色の枠に8つの星、目の前の彼女と瓜二つの全身図が載ったイラスト……そんな気は薄々していたが、やはりカード、それも遊戯王OCGのカードだこれ。そして悲しき
ドラゴンメイド・ラティス
融合・効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2000/守3000
同じ属性でレベルが異なる「ドラゴンメイド」モンスター×2
自分のフィールド及び墓地から1体ずつ、上記のカードを除外した場合のみEXデッキから特殊召喚できる。
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。デッキからレベル4以下の「ドラゴンメイド」モンスター1体を特殊召喚する。
②:自分・相手のスタンバイフェイズに発動できる。自分のフィールド・除外状態のモンスターを融合素材としてデッキに戻し、ドラゴン族の融合モンスター1体を融合召喚する。
……絶句した。強い、弱い、もはやそういった次元の話ですらない。単純に純構築だけを仮定しても狙って属性を落とせるパルラ、ティルル、お心づくし及びそれに繋がるチェイムは全て初動になり、目の前の彼女とそこから連鎖で繋いだドラゴンメイドの誰かないしそこから派生するリンクモンスター、そして極めつけにはシュトラールが相手ターンには並び、状況によってはさらにその展開効果まで可能。どうにかして効果を防がれ墓地に落とされたとしてもレベル8という数値、そしてリクルート効果の融合召喚時、ではなく特殊召喚時、というタイミングの広さが効いてパルラ、ティルル、チェイムからはそのまま共通効果であるバトルフェイズ開始時の入れ替わりから再び戦線のリカバリーが可能。融合を使わずに召喚できるカードが墓地・除外融合を内蔵していることの恩恵も計り知れなく、これまでテーマ内の隠れた弱みでもあった、なまじ融合役のお召し替えに再利用効果が付いているためピン投入が基本であるが故の『墓地のお召し替え対象D.D.クロウ』『お召し替えにチェーンしてコズミック・サイクロン』という地味で目立たないが仮に通されれば一発サレンダーすらも見えてきかねなかった致命傷へのリカバリーも可能。混合構築であってもお召し替え同様にドラゴン族であれば出し先を選ばないというのはかなり重要で、光と闇の竜王のようなシンプルなパワーカードから、墓地のカードを再利用することに重きを置くならばスターヴ・ヴェネミーやワイアーム、ドラゴネクロといった数々の強者が一瞬にして私の脳裏をよぎる。
長らく【ドラゴンメイド】を、正統派から変わり種まであらゆる構築で使い続けてきたという自負があるからこそ、テキストを読むだけで理解できてしまう。これはまさしく、このテーマに対する革命と呼べるカード。短期決戦時の火力を跳ね上げながらも本来テーマ内で最も得意とするファイトスタイルである中長期戦にも隙なく対応でき、彼女たちの戦場をひとつ新たなステージへと上げる、そんな化け物じみたポテンシャルを秘めたカードだ。
「あら、どういたしました?何かご不満でも?」
―――――え?あ、ああ……ま、まさか!
先ほどまでの天使のような表情から一転、にやにやとやや意地の悪い笑みを浮かべるラティスさん。完全にすべてを忘れて食い入るようにテキスト(とイラスト)を眺めていた私もそこでようやく我に返り、ばっと顔を上げる。
「ふふふ、まあいいですけど。ところで立ち話もなんですし、そろそろ座りましょうか」
そういう彼女の手には、いつの間にか私が持っていたはずのトレイが乗せられていて。さすがはメイドというべきか、カップのたんぽぽコーヒーの水面もしんと凪いだままという驚異的なバランス感覚でその中身を最初彼女が座っていた机に並べていく。そのまま当然のようにカップが置かれた側の席に座ると、優雅にそれを持ち上げて中身を口元に傾けた。
「では、いただきます」
あまりにも自然で洗練された動きに声をかける暇すらなかったが、その言葉でふとあることに思い至る。あのカップは、最初にチェイムと一緒に飲みかけていたものをそのまま持ってきたものだった。自分用の物しか持ちだしていないのだから、間違えようがない。それに彼女が口を付けたということは、間接……考えるのを止めようとしても時すでに遅く、顔が熱くなってきたのを自覚する。そんなこちらの気も知らず当のラティスさんはその白い喉をこくこくとわずかに動かして中の液体をゆっくりと味わい、満足げに目を閉じてその風味を楽しむいかにも絵になる様子を見せていた。次いでこれまた当然のようにカップケーキにも手を伸ばし、一口。
「もう何十年ぶりでしょうか……ティルルさん、相当腕が上がっていますね。どうやら、遊んでいたわけではないようで」
目を閉じたままどこか満足げに、優しい声音でそう呟く。これが、ドラゴンメイドの仲間に対して見せる彼女の表情なのだろう。なるほど、これは……気まぐれに屋敷を飛び出して長いこと世界を放浪し、今日も突然の手紙で皆を振り回している彼女が、しかしそれでも屋敷の皆から慕われている。その理由の一端が、ようやく私にもわかった気がした。
「あら、どうされました?そんなところに立ったままでは、まるで私の執事のようですね」
再び目を開いてこちらを見つめ、柔らかな手招き。面白がるような声音にようやく、いまだに自分が突っ立ったままだったことを思い出した。ふらふらと誘われるようにラティスさんの向かいの席に着くと、なぜかそのまま机越しに私の顔をじっと見つめられた。美人と顔を合わせるというのはこちらとしても大歓迎だけれども、何も言わずただこちらを見つめているだけというのはさすがに緊張が先に立つ。もしこの屋敷で他のドラゴンメイドの皆と過ごした経験がない状態だったならば、この空気に耐えきれず悲鳴を上げて逃げ出していてもおかしくなかった。それでもここで退くのは駄目だと直感し、ぐっと堪えて肩肘張って、こちらの全てを見透かしてくるような深い瞳の直視を必死に耐える。
それは無限にも思える時間だったが、実際のところはほんの数分程度だったのだろう。
「ふうん……なるほど、よくわかりました」
ふっと、周りの空気が楽になった。何に納得したというのか謎めいた一言を残してラティスさんが視線を外し、おもむろに立ち上がったのだ。今度は何をするつもりかと固唾を呑んで見ていると、なぜか座ったままの私の後ろに回って来て。
そのままふわり、と、当たり前ではあるけれどハスキーさんをはじめ他の誰とも違う、まさしくラティスさんのそれとしか形容しようのない女性特有のどこか甘い匂いが強く届く。そしてするりと首の横を通って私の胸元あたりで組まれるたおやかな腕と、後頭部に感じるなんとも柔らかで、けれど確かな弾力のある温かい感触。
「ふむ、なるほどなるほど。これは……確かに?」
―――――な、なな……!
何をされているのか、嫌でも理解できてしまう。俗に言うあすなろ抱き……背後から抱き着かれて、その豊満な感触を惜しげもなく押し付けられている。ともすればこのまま即座に思考停止してこの幸せに甘んじていたいという極めて激しい誘惑に駆られるし、事実ここにいるのがもしも他のドラゴンメイドだったならば、私も喜び勇んでそうしていただろう。だが今回に限っては、ひとつの懸念が本当にギリギリのところで私の理性を残していた。
わからないのが、どうして彼女は急にこんなことをやりだしたのかだ。まるで行動が、心情が読めないことへの警戒。それこそ先程の論に従えばこれが一発アウト狙いの美人局、体を張った色仕掛けである可能性だって排除しきれるほど、私はラティスさんという人のことを知らない。
「なんで突然こんなこと、ですか?そうですね、今説明してもいいですが。まとめて話す方が、手間が少ないかと」
吐息すらも感じる距離で、ますます強く密着するように抱きしめられながら甘く囁かれる。一度言葉を切って意味深な視線を扉の方へと向けた瞬間、凄まじい破砕音と共にその扉が部屋の外から内側へと弾け飛んだ。次いで、見覚えのあるしなやかな、すらりと伸びる黒白の長身が部屋の中へと弾丸じみた勢いで飛び込んでくる。
「……御主人様っ!遅れて申し訳ありません、ご無事です……か……?」
―――――シュトラール!?
その姿を、どうして私が見間違えようか。最愛の彼女のドラゴンとしての姿、珍しい竜人タイプで人語を語ることのできる二足歩行の竜。無駄のないしなやかな筋肉となめし皮のような鱗に包まれた細身の体に想像もつかないほどの膂力を秘め、ワインレッドの皮膜を持つ巨大な翼は今の最高速での突入アクションのためかコンパクトに折りたたまれている。太くうねるその尻尾も、ハスキーさんの状態よりも一回り大きく伸びる2本の角も。一般的なドラゴン、としてはかなり異端寄りの造形でありながら何よりも凛々しく、そして神々しさすら感じるほどに美しい。
そんな彼女が、おそらくは今の破壊をもたらした魔力の塊であろう光を両手に宿して私の方を見たまま、目の前の光景に理解が追い付かないとでも言いたげにぱちくりと目を瞬かせる。まず抱き着かれたままの私に、次いで後ろで抱き着いたまま今の衝撃を受けても離れようとする素振りすら見せないラティスさんへたいそう冷たい視線を向け、ややあってその全身が光の粒子に包まれた。
「……ご無事なようで大変何よりです、御主人様。それとラティス、いつの間にどこから入ったの?」
早々に姿を変え、いつものハスキーさんとしての竜人メイド姿に戻った彼女が、らしくないわずかな苛立ちを言葉の端々に覗かせながら若干棘のある口調で問いを放つ。彼女が感情を隠しきれていないということは、まあつまりそれだけ派手に怒っているのだろう。こういうタメ語のハスキーさんも新鮮で素敵だな、などと現実逃避めいたことをぼんやり考えていると、余裕たっぷりにラティスさんが答えた。
「皆して私にはあれだけのろけ話を送りつけておいて、いざ『愛しの御主人様』にちょっと引っ付かれたらもう嫉妬ですか?お宝に強欲なのはドラゴンの性とはいえ、本当に随分とお熱ですね」
「ラティス!」
「はいはい、わかりました……実際、久しぶりですものね。ラティス、ただいま帰還いたしました」
「まったく……お帰りなさい、ラティス。皆も、貴女に会うのを待っていますよ。お部屋を汚してしまいましたが少々お待ちください御主人様、いま彼女を皆に引き合わせて参りますので」
軽く肩をすくめるともう揶揄うのは止めにしたらしく、ひょいと背筋を伸ばしてあすなろ抱きを解くラティスさん。それに伴って後頭部に感じていた幸せな熱と感触が退いていったことに残念だ、という思わず湧いてきた感情が、表情に出ていないといいのだけれど。そして先ほど私にもやってみせたようなスカートの端を軽く広げての一礼に、ハスキーさんもいつもの慈愛の籠った、しかし少女のように爛漫な笑顔で応えてくるり背を向ける。その後ろをやはり皆に会えるのが嬉しいのだろう、心なしか弾んだ足取りでついて行こうとしていたラティスさんが、一度だけ振り返って私の方へとウインクする。
「ドラゴンメイド・ラティス、本日よりこの屋敷にて改めて仕えさせていただきます……末永くよろしくお願いしますね、あなた様?」
「「あなた様!?」」
聞きなれない呼称に、弾かれたような勢いでこちらを振り返ったハスキーさん共々声を合わせて驚愕する。
「あら、本当に仲良しさんですね。さ、行きましょうハスキーさん?」
そんな私たちを交互に見てくすくすと口に手を当て上品に笑い、半ばハスキーさんの手を引くようにして今度こそ廊下の奥へと去っていく。かつて扉だった箇所、壊れたままの大穴からその様子を見送りながら、張り続けていた緊張の糸が急に切れたことへの疲労やこれから考えることの多さに、私はぐったりとしてしばらく動けなかった。
正直まだ読み込みや設定が甘く多少悔いが残る出来なのと、そもそもシュテルン回も作りたいのでまだ何かやる……かもです。
予定は未定。
ドラゴンメイド・ラティス
書いたら来た新規。おっとりしたお嬢様風……に見せかけて結構な自由奔放タイプ。だが良識と常識自体は持ち合わせており、どんな存在にせよ屋敷の主となる存在が来たらどうせ皆がこちらの連絡に合わせて真っ先に知らせてくるだろうしと、そのタイミングで見極めも兼ねて一度帰るつもりだった。とはいえそうそうそんなこと起こりはしないだろう、と思っていたら不意打ちで読む前から何があったのかわかる手紙の山が返ってきたことには流石に閉口したが、ちゃんと礼儀としてその全部に目を通した律儀な子。文体こそすべて違えど例外なくあまりに甘ったるいその文面には幾度となく砂糖を吐きそうになったが、恋する乙女の軍団に何を言っても無駄だと諦めているためそれに関して問い詰めるつもりはない。が、少なくとも私はこうはならないぞという意識を固めることはできた。ついでにその主人が女性、特にその胸に弱いことも把握したうえで現れた。
本編中では何を考えているのかまるで読めないとその奔放さで主人を困惑させ通しだった……が、それはあくまでも主人視点。視点を変えれば物理的にも弱っちく魔法も使えないような遥かに脆弱な人間が、それでも精一杯虚勢を張って自分に負けないよう相対している様子に割と早い段階から完全に庇護欲を撃ち抜かれており、なぜ仲間たちが主人を甘やかしたがるのかを本能で理解したしその輪に加わる気はすでに満々である。
魔法使いとしてもドラゴンとしてもトータルではハスキーに一歩及ばないものの相当に高位の力を持ち、特に防御や隠密といった系統を得意とする。屋敷内に入り込んで主人の部屋の扉を開かないようにしたのも言うまでもなく彼女であり、ひとたび守勢に回った彼女を止められるのは、それこそ本編でやったように本気になったシュトラールくらいのものだろう。
そのハスキーのことは同じメイドとして、そしてドラゴンとしても心底尊敬しているが、それはそれとして機会を見つければからかいもする程度には古い仲。ラストのあなた様、呼びはハスキーへのからかい兼牽制半分、本気半分。
主人
ナサリーの言及した通り、本来はどちらかといえば男嫌いの方であるラティスと相対する。が、ドラゴンとの相対的にはあまりに存在として弱い相手だったためその最初のハードルをそもそも引っかかることなく潜り抜けるというバグ技じみた挙動で突破し、見た目も割と彼女の好みだったためかなりの爆速で陥落させていたことは知る由もない。
ドラゴンメイド・ラドリー
拙い文章だがご主人さまへの愛情たっぷり、はちきれんばかりの思いのたけを込めてラティスのお手紙に返事を出した。子供の手紙らしくやや読みづらく文法も怪しい所があったがそれがかえって臨場感や迫真の感情を生み出しており、内容も微笑ましい部分が多かったため癒しポイント的扱いを受けていたことは当然知る由もない。
ドラゴンメイド・パルラ
ラティスへの返事を書くにあたりまず他のメイドの顔を思い返し、皆の書く手紙の内容が主人一色になることを危惧して最初に近況を纏めておいた隠れ有能メイド。しかしマスターラブ勢っぷりでは他の誰にも退くつもりもない彼女もまた大概であり、最低限やることをやり土産の珍しいお菓子をさりげなく要求したら後はひたすら乙女フィルターがかかりにかかりまくったマスターとの日々を書き連ねた。送ってきたのは彼女なのに、なぜか途中から恋する女子の日記を盗み見ているような罪悪感を覚えた、とはラティスの弁。
ドラゴンメイド・ティルル
本当はああしたかったこうしたかったを後になってから反省会する悪い癖は前回から多少マシになったとはいえ治り切っておらず、それを原液でぶちまけた結果もはや手紙というより恋愛小説の原稿、それも恐ろしく分厚い超大作を送り付けた。登場人物が完全にナマモノなのに目を瞑れば、糖分こそかなり高いものの内容自体は恋愛ものとして普通に面白かったらしく最終的にメインの赤髪ロングの娘がご主人様と結ばれたシーンではラティスも自然と「よかった」と思ってしまい、そう感じたことにちょっと負けた気がしたらしい。
ドラゴンメイド・ナサリー
手紙だけでは愛しの主人の人となりが伝わらないだろう、と思い立ち、こんな人ですよ、と自分とのツーショット写真の焼き増しとお手製御主人様人形を同梱した。しかしそちらの制作に時間を取られたため、手紙の内容自体は他のメイドのそれに比べてやや短く内容の糖度も低め。本人はそんな結果になってしまったことに大層不服だったが、当のラティスからは相当な気合が込められたことは一目で伝わる人形さえ見ないふりをすれば、全体的にあまりに濃厚な内容の手紙の山の中では比較的軽めに読める休憩ポイントその2扱いされて有難がられていた。
ドラゴンメイド・チェイム
アナログゲームを好む彼女は自然と鍛えられる関係上その語彙力や発想力も高く、恥ずかしがり屋で普段抑圧しがちな反動もあってその能力と秘めた(当然秘めても隠してもいない)恋心を遺憾なく発揮した結果ティルル同様の恋愛小説……をもはや通り越して官能小説に片足突っ込んでいるような際どい内容の超大作をしれっとお出しする。これにはあのチェイムがこんな原稿を!?と、もはや手紙扱いすらされていない中でも心底ラティスを驚かせていた。
ドラゴンメイド・ハスキー
自他ともに認める御主人ラブ勢筆頭っぷりは依然として健在であり、今回ラティス帰還のきっかけとなった手紙も全てメイド長として目を通したうえでゴーサインを出した。というか自分が一番長々と達筆で思いの丈を書いていた。御主人様の幸せが第一なのでハーレム要員が増えること自体は歓迎しているが、いきなり屋敷の中に魔法防御で密室と化した空間が出てきた上にそれがよりにもよって愛しの御主人様のいる私室、本気で大慌てしてなりふり構わず全力でようやくぶち抜いたと思ったら当の本人は抱き着かれおっぱい押し付けられて取り繕えない程度にはデレデレしていたしそれをあからさまに見せつけられたので安堵の裏返しもあり流石に切れかけた。あすなろ抱きはまだやったことがないので心底羨ましいが、平時の精神状態ではメイドという立場を意識して自分からはなかなか言い出せない従者の鑑兼恋する乙女。ただ諦めるつもりは全くないので前回のように特別なシチュエーションで覚悟を決めさせれば言い出せるし、実際言えば爆速でOKが出るので夢の実現はそう遠い未来ではない。