サイド3は惨禍にあった。この場所はもとより反地球連邦思想が強く、デモも盛んに起こる場所である。無計画なデモは簡単に略奪へと発展する。
今回の反地球連邦政府へのデモも半ばそうなっていた。民衆は暴徒と化し、親地球連邦派の商店やビルに投石を行った。
地球連邦政府にもメンツはある。居留民の保護を名目に、駐屯している連邦軍部隊が、デモの鎮圧に乗り出した。
連邦駐屯部隊は、暴徒の鎮圧には大袈裟すぎる武力を投じた。実弾射撃、戦車の投入。士官学校の学生からしてみれば、これは虐殺であり、到底許されない行為だ。
食堂にあるテレビでは、デモの鎮圧の様子が写されていた。私の家が燃えてないか心配になる。あの家は豪邸じゃないし、今は叔父しか住んでいない。叔父なら、うまく逃げているだろう。そうあってほしい。
デモ隊の一般市民が銃で撃たれ、物言わぬ肉塊へと変わっていく。デモ隊も、親連邦市民の家に投石や放火をしていたとはいえ、軍の投入と市民の殺戮だ。柄にもなく憤ってしまう。
デモの鎮圧の様子が写されたテレビを見て、学生が険しい顔をしている。憤りを隠せず、友人らと叫んでいる者もいる。
ガルマとシャアが、そんな中でテレビを消した。彼らは最上級生のリーダーだ。私は、彼らとはそこまで親しくない。
知識として、彼らが蜂起を行うことは知っている。後に暁の蜂起と呼ばれるものだ。大局的なレベルでは、この蜂起を止めるべきなのだろうが、私は全くそう思えなかった。
目の前で守るべき市民が殺されているのだ。これを政治的な理由で黙って見過ごすなんてことは不可能だった。この学校にいる多くの軍人の卵が同じ気持ちなのだろう。
「シャア。ガルマ。二人とも、何か考えがあるんでしょう? 私もその企てに参加させてもらえないかしら?」
「アミニア、何故そう思った?」
「女のカン」
原作知識です。なんて言えない。シャアとガルマは顔を見合わせる。その後、ちょっと嫌そうに私を見た。
シャアとガルマが立てた計画は、すでに何人かの上級生が知っていたらしい。計画書はよくできていた。明日には決行されるという。
明日、私は人を殺す。嫌だ。だけど、画面の向こうで守るべき市民が殺される方が、人を殺すことより嫌だった。
§ § §
自走迫撃砲。歩兵戦闘車。装甲兵員輸送車。これらは倉庫から持ち出された車輌だ。そして、散々演習を通して、士官学校の学生が馴染んだ兵器でもある。
士官学校の位置するガーディアン・バンチには、地球連邦軍サイド3駐屯部隊の基地が設置されている。そこの部隊は、明日デモの鎮圧のため、本国に投入される。
連邦軍基地を制圧することで事態を拡大し、デモの鎮圧をやめさせ、強制的に連邦軍とサイド3政府を交渉のテーブルに着かせることが、私たちの目的だ。
「酔い止めって万能ね。あんまり酔わない」
「APCだと酔うのに、ジェットパックなら大丈夫ってのもおかしな話だね」
「バイクも酔わないわ。私、閉所恐怖症みたいなのよ」
「あー。そういうこと。でも、宇宙の演習で吐いてたよね」
「わ、わたくし宇宙恐怖症なの」
「アミニアちゃん、焦るとお嬢様になるよね」
「そんなことないですわ!」
「ほら、なってる」
私の会話相手はルームメイトで、仲良しのエジリさん。彼女は、私のバディとして戦場に行くのだ。
ヒュルルルと特徴的な音がする。迫撃砲だ。自走迫撃砲が砲撃を開始したのだ。事前砲撃が始まったことで、敵は異変を察知するだろう。
シャア率いる斥候部隊は、もう接敵しているだろう。
【総員降車開始】
車長の命令で、私たちはハッチから飛び出した。歩兵戦闘車や、装甲兵員輸送車は万能ではない。歩兵の援護なしに戦闘を行うのは目隠しして戦うようなことになる。
降車して展開する。敵を探していると、バディのエジリが悲鳴をあげた。61式戦車がそこにいたのだ。
61の砲が光る。先頭の歩兵戦闘車が、爆散した。
「あぁ……ハインツが」
歩兵戦闘車に乗っていた学友は助からないだろう。61の連装砲は即座に、最後尾の歩兵戦闘車をスクラップへと変えた。
同時に、発砲音が広がる。連邦軍の歩兵が展開しはじめたのだろう。味方も撃ち返す。しかし寡勢だ。明らかに味方の発砲音の方が少ない。
敵は優秀な部隊だった。十分に敵情を分析したはずだったのに、戦場は甘くなかった。
「完全に挟まれた。車列が動けない」
「私たち、ここで死ぬの?」
「いや、やりようはある」
私は、小銃を放り出し、対戦車ミサイルを担ぐ。ジェットパックを背負う。
「エジリ、援護してて」
「ちょっと、アミニア!?」
ジェットパックに点火し、61のハッチ目掛けて飛び込む。機銃手がギョッとしながら、火線をこちらへ向けようとするが、私の方が速かった。
爆発が、身体を転がす。対戦車ミサイルの発砲炎だ。
「やったわ。エジリ。やったぞ」
「…………」
「エジリ??」
無線機の故障だろうか。彼女の応答はない。味方のもとまで戻る。エジリの額にはぽっかりと黒い穴が空いていた。
「よくも! よくも、エジリを」
半狂乱になって、私は敵陣へと突っ込む。自分に当たる弾が何故かわかった。それを避けて、銃を撃つだけで、簡単に人を殺せた。味方が追いついたことで、敵の歩兵は全滅した。
連邦兵の死体から、幼い女の子の写真が出てきた。敵にも家族がいるなんて、当たり前のことがようやくわかった。
「どうして、わたくしは何も感じないのかしら? 人を殺したのに? 訓練通りやれたとかしか思わない」
罪の意識を感じなかった。この分だと夜も普通に眠れてしまうかもしれない。そんなこんなで、私の初陣は終わった。
その後、政治的な決着がつき。私たちの凱旋パレードが行われた。エジリは写真の中で笑っていた。
人を殺したのだ。私はもう戻れない。戦勝パレードでも、重いコートを羽織ったような陰鬱な気分は晴れなかった。