04 海兵隊お嬢様
士官学校に戻った後、待っていたのは教官からのお叱りだった。しかし、脱柵という大罪を犯したにしては、処分は軽かった。なんでもゼナが口添えしてくれたらしい。
私は、ゼナに感謝し、失礼な態度をとってしまったことを謝罪した。彼女は、私に対して、肩の荷が下りたみたいと言い、私の謝罪を快く受け入れてくれた。
そんなこんなで、時間は過ぎる。士官学校を卒業し、部隊配属の季節が巡ってきた。
私が配属されたのは海兵隊だ。一番槍を務める精鋭部隊である。ジオン軍は急速に拡大し、編成されている最中だ。海兵隊も人員を掻き集めているらしい。
ジオンには、移民が軍に入隊し、一定期間を過ごすことで市民権を得るシステムが存在する。貧乏で技能もなく能力もない移民は、そうやってジオンの市民権を得るしかないのだ。
そういった、歓迎できない移民が軍に入ると、大抵海兵隊に送られる。そして、危険な最前線への一番槍として鍛え上げられるのだ。
士官学校出はエリートである。そして、私は市民権も持っている。海兵隊という似つかわしくない職場に、私が配属されたのは脱柵の影響らしい。あれで私の評価は下がりに下がったようだ。暁の蜂起の戦果を加味しても海兵隊送りなのだから、人事部は私をボロクソに評価しているのだろう。
ジオン軍は、宇宙艦隊が主力の軍隊である。その中で歩兵や戦車といった陸上兵器が果たす役割は小さい。敵コロニーへの揚陸や、自コロニーの防衛といった任務を想定したドクトリンは旧来のジオン軍にはなかった。
何しろ、コロニーはミサイルで破壊できてしまう。戦車で敵戦力を待ち構えても、ミサイルでコロニーごと破壊されては意味がない。
しかし、海兵隊は一般的なジオン軍の艦隊とは役割が違う。想定される任務は敵コロニーに上陸し、橋頭堡を確保することだ。橋頭堡の確保には、陸戦部隊が必要となる。
ということで、歩兵将校としての能力だけしか期待されていない私は、海兵隊に配属されたのだ。
海兵隊のトップはアサクラ大佐だが、彼は、あまり表には出てこない。代わりに海兵隊の顔となっているのがシーマ・ガラハウ中佐だった。
「アミニア・アランス少尉。着任しました」
「ようこそ海兵隊へ。アタシがシーマ・ガラハウ。海兵隊の実質的な指揮官だ。期待してるよ」
シーマ中佐が、私の肩を軽く叩く。それだけで私は、かなり、好印象を持ってしまった。案外、私という人間はチョロいのかもしれない。
「揚陸艇とか揚陸艦って海兵隊に無いですよね?」
「なかった。だから改造艦が来た。そもそも俺のMAUの主戦力はMSだ。歩兵にはそこまで役目がない」
海兵上陸戦部隊長ゲール・ハント中佐。彼が私の直接的な上司になる。この人、顔が怖いんだよな……
「嬢ちゃん士官学校出のエリートだろ。俺たちのような移民とは違う。戸籍が無いなんてこともない」
「私、卒業間近に脱柵しちゃって。多分それで評価が下がったんでしょうね」
「ハッ。やるな嬢ちゃん。あんたの部下は荒くれ者共だ。呑まれるなよ」
私の背中をゲール中佐はバンバン叩く。桟橋にとまっているガガウル級駆逐艦を改造した揚陸艦エンタープライズ。それが、私の母艦になる。
格納庫に集められた兵隊は、御世辞にもガラが良いとは言えなかった。ゲール中佐と一緒だというのに、私を見る奴らの視線には、どいつもこいつも性欲が混じっている。
「総員傾注! アニミア・アランス少尉だ。お前らの上司になる。丁重に扱えよ」
「そんな、小便臭い餓鬼がか?」
「馬鹿言うなよ」
「帰って、ママのオッパイでも飲んでろよ嬢ちゃん」
「おいゲール、そいつのマンコは気持ちよかったか?」
私は、最後のヤツを引きずり出した。そして、そのまま鉄拳制裁を加える。重力が軽いこともあって、下ネタ男は綺麗に飛んでいった。
「上官への侮辱の罰ですわ! わたくしを舐めてると、ぶっ飛ばしますわよ! ああなりたい勇気ある殿方はいらっしゃいますか?」
荒くれ共は黙った。力こそパワーだ。
「ゲール中佐。皆様、紳士的な方ばかりですわね」
「そうだな……」
ゲール中佐は、額に皺を作っていた。何か言いたげだが、何も言わなかった。やはり暴力。暴力は全てを解決する。