重装備を担いで走る。クリアリングの訓練を行う。海兵歩兵に求められるのは高度な歩兵能力だ。簡単な職種に思えるが、歩兵はパイロットのような技術者である。歩兵にも技術は必要とされる。
「少尉、あんた本当に人間か??」
先任准尉が肩で息をしている。私には、全く疲労がない。どうも、彼が軟弱というより私が異常らしい。転生チートか何かだろう。宇宙恐怖症と閉所恐怖症があってMSには乗れないけど……
部隊の練成が一段落し、なんとか現場に出られるようになった時、事件が起こった。サイド3のコロニー群を構成するコロニーの一つで反乱が起きたのだ。
ゲールMAUは訓練のため本国にいなかったので、真っ先に鎮圧に向かうこととなった。
「アニミア少尉、出番だぞ。緊張してるか?」
「ゲール中佐こそ、ザクでの実戦なんてはじめてでしょう?」
人型機動兵器MS-05B。それが、海兵隊には導入されていた。ゲールMAUの幹部が集められブリーフィングが行われる。年功序列ということなのか、私に説明役が回ってきた。
「今回の海兵隊の任務目的は、キンツェム・コロニーを反乱軍から奪還することです。反乱軍の首魁はキンツェム基地司令、ロバート・ロウ大佐。
敵戦力は、機械化歩兵1個大隊。マゼラ・アイン空挺戦車も保持しているようです。
我々ゲールMAUはキンツェムのドッキング・ベイを攻略し、後続艦の橋頭堡を確保します。敵1個中隊が、ドッキング・ベイを占拠していることが予想されます。
詳細な手順ですが、まずコロニー点検口をザクが確保。その後、歩兵小隊による侵入が行われます。歩兵小隊はベイの管制室を占拠。その後、ザクによるベイの確保。後続と合流します」
「他の基地での反乱は今のところ無いんだよな?」
「ギレン親衛隊により、拘束された者は出ているらしいぞ。後続部隊はシーマだ。後から撃たれる心配はない」
勝手な私の予想だが、今回の反乱は戦争準備の兆候を捉えたダイクン派のクーデターの一部だったのだろう。
「よし、行くぞ。てめぇら、海兵魂を見せてやれ!」
ムサイ級二隻と、改造揚陸艦一隻がキンツェム・コロニーの宙域に入った。ゲール中佐率いるザク8機が先行する。
コロニーには一般市民もいるため、ムサイ級での事前砲撃などを行うことはできない。
キンツェム・コロニーの反乱は駐留艦隊の留守を見て行われたものだ。駐屯部隊は陸戦部隊であり、対宙戦闘の用意はないと推定されていた。
【警報! 高熱源体、複数捕捉! ミサイルです!】
「Shit!!」
ゲールMAUは、ミノフスキー粒子を散布していた。その上でスラスターを点火したザクにより威力偵察を行った。これは、確立されてきたモビルスーツ戦闘のセオリーを踏んだものだった。
「中佐、ミサイルを避けきれません!?」
「機動しろ! 避けられるはずだ!」
「ダメだぁぁぁあっ゙っ」
ミノフスキー粒子下のモビルスーツは無敵と勘違いされがちだ。しかし、それは正しくない。高価なスタンドアロンの赤外線誘導や画像誘導システムは、ミノフスキー粒子下でも機能する。
だが、熟練したパイロットは、それらを機動性で振り切ることが出来る。しかし、それは熟練したパイロットだけの話だ。ゲールの部下のパイロットは、未熟だった。
「ツーマンセルを徹底しろ! ミサイル如きに落とされるな!」
ミサイル攻撃は、すぐに止んだ。ザク一機が大破。搭乗員はこの戦闘でのはじめての死者となった。
「ゲールより、各機へ。揚陸艇の進入路は確保出来たか?」
「問題なく。確保完了であります」
エンタープライズより発艦した、四隻の揚陸艇。その一隻に私もいる。揚陸艦には、歩兵戦闘車などが積載されているが揚陸艇には、兵士しか乗っていない。今回の歩兵小隊の任務は、四方向からベイのコントロール室を確保することだ。
コロニーの点検口と、揚陸艇のハッチが繋がる。私を先頭に重装備の歩兵が乗り込む。
特殊部隊用の重装備をしているため、私達に機敏さはない。実質的な人質となっているコロニーの住民の生命。それを考えると機敏さよりも慎重さ。それが私達には求められるのだろう。
「アルファリーダーより分隊員へ。市民を救おう。私達ならそれが出来る」
短く、鼓舞とも激励ともつかないことを言ってしまった。分隊はすぐにクリアリングに移る。小隊長かつ分隊長の私が、ヘマをすることは許されない。
点検口から、ダクトへと下りる。そこから、通路へと進んでいく。私が敵の指揮官だったら、このあたりに警備の兵士を置くだろう。
予想は当たってしまい。そこには、二人の兵士がいた。
任務達成のため、サプレッサーを装着したサブマシンガンで、兵士を撃ち殺す。罪悪感を覚えるが、覚悟は出来ている。それでも、人の生命を奪う重さが嫌になる。
「クリア」
部下による索敵では、周辺に敵の姿はないらしい。
「よし」
死体に小さく十字を切って、コントロール室を目指す。それぞれの分隊も順調なようだ。このまま行けば、私の分隊が一番に到達するだろう。
「3、2、1、ゴー!!」
カウントと共に、管制室に雪崩込む。必死に拳銃に手を伸ばし抵抗しようとする者。コントロールパネルに手を伸ばす者。床に伏せていた軍属であろう少女を除き無力化する。
バイタルパートを確実に撃ち抜いたため、室内にいた敵全員が致命傷を負っている。
「アルファリーダーより、各分隊へ。目的は達成した。集結しろ」
軍属の少女は顔を上げずうつ伏せになって、震えていた。彼女の腰を中心に水溜りが広がっている。
「その子の武装解除を。あー、私がやる」
同性である私がやった方が良いだろうという、余計な配慮をしてしまった。
彼女は武器の類を持っていなかった。
「なんで? なんで殺したの? みんな良い人たちだった。ただ、私たちは平和に生きたかっただけなのに……」
気丈な少女だった。そんな健気な彼女の問いに、私は怒りを覚えた。確かに殺さずに制圧することも可能だったかもしれない。だが、確実性が必要だったのだ。
「なんで。なんでと言ったか? コロニーの住民を人質に取ったんだぞ。住民の中に犠牲者も出ている。私たちが知らないとでも思ったのか? 反乱など起こさなければ犠牲者は出なかったんだ」
気丈な少女もついに泣き出した。無性に腹が立った。彼女を泣かせた自分にも。こんな世界にも。