そして、一週間後、事態はさらに悪化した、それも致命的に。
ジニーが、ジニー・ウィーズリーが消えたのだ、継承者からのメッセージ、『彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう』と引き換えに。
その少し前、ジニーがハリーに何かを伝えようとして、パーシーに邪魔されたという事もあり、ジニーは何かを知っていたんだという説がホグワーツの閉鎖が告げられたグリフィンドール寮に広まった…しかし、私とハリーは少々、闇の魔術についての知識があったので、別の可能性が浮かんだ。
それは、ジニーがトム・M・リドルの日記に操られて今回の事件を起こしたのではないか、という事である。なぜなら、ジニーの失踪の寸前、グリフィンドール寮の調査が始まったからである、恐らく、例のリドル氏の日記を探して。
「…ねえ、ふと思ったんだけれど、ダンブルドア先生が50年前の事件についておっしゃったこと、覚えている?被害者全員の証言もアクロマンチュラというより、バジリスクによるものだったって…最後の一人は死んでいるのよね?どうやって証言を取ったのかしら」
ハーマイオニーが言った。
「普通に考えたら、生存者全員の、という意味だろうけれど…もしかしたら最後の被害者の女の子はゴーストになった?…って事は今もホグワーツにいるかもしれない」
「…ねえ、ハリー、50年前の最後の被害者が女性だって初めて知ったんだけれども。それはリドルの記憶情報?」
ハリーは頷いた。
「私の知る限り、ホグワーツにいるゴーストで、今のホグワーツの女生徒と同じ姿をしているのはマートルだけよ…ここ50年で制服のローブが変わっていないとすれば可能性は高いわ」
「なら!行ってみよう!『秘密の部屋』についてヒントが得られれば、ジニーを助けられるかもしれない」
ロンは私達にそう言った。
私達4人は覚悟を決めて、マートルのトイレに向かった。
私達の推測はビンゴだった。マートルが50年前の最後の被害者だったらしく、それはまぁ嬉しそうに、手洗い台の辺りで大きな黄色い目玉を見て死んだのだと証言してくれた。
4人で手洗い台を捜索すると手洗い台の一つの銅製の蛇口の横に小さく引っかいたように彫られた蛇が見つかった。
マートル曰く、この蛇口はずっと壊れたままらしい。
「ハリー、蛇語で何か…開けとか何とか言ってみて」
ハーマイオニーの指示に従ってハリーは蛇口に開けと言った。
一度目は普通の言葉で、二度目は蛇の鳴き声のような声で。
蛇口はまばゆい白い光を放ち、回り始め、次の瞬間には手洗い台自体が沈み始め、太い配管の丸い口がむき出しになった。
大人でも一人ずつなら滑り降りていける程の太さであった。
「行こう」
ハリーが言った。
「4人だけで?先生を呼んだ方が良いんじゃないかしら」
「なら、私とハリーが先に行くわ、ハーマイオニーとロンは先生を連れて追いかけてきて」
「僕も先に行く!一刻も早く、ジニーを助けたい!」
「その杖でバジリスクや継承者と戦うつもり?」
と、私がいうとロンは渋々納得し、私とハリーは先行してパイプを降りる事にした。
ハリー、私の順で長く曲がりくねったパイプの滑り台を滑り降りていくと、そこは暗くてじめじめした石のトンネルだった。
杖に光を灯し、何時バジリスクと遭遇しても良い様に構えながらトンネルを進んでいった。
床に小動物の骨が散らばっている辺りに巨大な蛇の抜け殻を見つけた。
眠っているバジリスクかもしれないと警戒しつつにじり寄ったそれは、毒々しい鮮やかな緑色の蛇の皮で、とぐろを巻いていた。
「…進みましょう」
それは非常に心惹かれる魔法薬の原料であったが、今はそれどころではないと進むことを決めた。
曲がりくねった長いトンネルをさらに進むと奥に硬い壁が見えた…行き止まりである。
しかし、その壁には二匹の蛇が絡み合った彫刻が施してあり、蛇の瞳には輝く大粒のエメラルドがはめ込んであった。
「ハリー、お願い」
「うん」
ハリーがシューシューという音を吐くと絡み合っていた蛇が分かれ、引き扉が開くように壁が裂けて道が開いた。
そこは回廊の様な細く奥に続く部屋だった。
蛇の彫刻が施された石柱の間を慎重に進むと最奥に石像が見えてきた。
最後の一対の石柱を超えた時、年老いたサルの様な顔をした魔法使いの石像の足元にジニーらしき姿がうつ伏せに横たわっているのを見つけた。
「ハリー」
「わかっている」
周囲を警戒しながら私達は慎重にジニーに近づいて行った。
そして、何事もなくジニーの元にたどり着いた私はハリーに警戒を任せてジニーを調べた。
結果は…ひどく衰弱しており、石にはなっておらず、失神呪文で失神しているわけではない(リナベイトが効かなかった)。
「…多分、まだ生きてはいるわ、でも目を覚まさないし急いで手当てが必要よ」
「その子は目を覚ましはしない」
ハリーが急いでその声がした方に向かって杖を向け、私もそれに続いた。
そこには背の高い黒髪の少年がすぐ傍の石柱にもたれていた…しかし、その輪郭は妙にぼやけていた。
「トム―トム・リドル?」
ハリーの呼びかけに私は立ち上がり、一層警戒心をあらわにした。
「目を覚まさない…とは?君がジニーを…殺したのかい?」
ハリーが絞り出すように問うた。
「そっちの子の見立て通り、その子はまだ生きているよ。しかし辛うじて、だ」
「…なるほど、ジニーの生命力を吸って実体化したのね、トム・リドルの記憶さん…いえ、日記さん?」
私がそう言うとハリーにリドルと呼ばれた少年はニヤリと笑った。
「ご名答…厳密には魂も、だけれどね。君がアイリス・エヴァンズか…噂通り、まあまあ聡い様だ」
「じゃあ、君が…君がジニーを操ってバジリスクをホグワーツに放ったのか」
「その通りだよ、ハリー・ポッター。手間が省けて助かる」
「…ジニーは貴方の、日記の虜になったのね」
「そうだよ。誰なのかわからない、目には見えない人物に心を開き、己が秘密を洗いざらい打ち明けるとは…実に愚かだ」
リドルが言った。
「それはきわめて高度な闇の魔術だ…それを自身が行使するどころか日記に仕込んだ人格に行使させるとは…君のオリジナルは一体何者だ?」
ハリーが殺気立った様子で問う。
「おや、まだ気づいていなかったのか。簡単なアナグラムだよ」
そう言ってリドルはポケットから杖…ジニーのモノだ…を取り出し、空中にこう書いた。
TOM MARVOLO RIDDLE
そして杖を一振りして、文字を並び替えた。
I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿)
「この名前はホグワーツ在学中に既に使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていないが。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい?母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が?」
「まって、貴方、混血なの?それも片親がマグルの?純血主義を掲げて暴れまわった貴方が!?」
私は思わず叫んでいた。
「忌々しい事にね、アイリス・エヴァンズ…だから、僕は自分で自分の名を付けた。僕が生まれる前に母が魔女だというだけで捨てたやつの名と血を捨てる為に!
ある日、必ずや、魔法界のすべてが口にする事を恐れる名前を付けた!
その日が来ることを僕はしっていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」
「いや、違う。確かに君は強大になった、魔法界の殆どの人が君の名を恐れるほどに!
だが、君がした事は欠片も偉大ではなかった!
『死喰い人の主』は…ヴォルデモートはただ、不和と恐怖をまき散らし、殺戮をしただけだった!
真に偉大な魔法使いというのはアルバス・ダンブルドアの様な人の事を言うんだ!
しかも、君が強大だった時でさえダンブルドアが守るホグワーツを乗っ取る事はおろか、手出しさえできなかった。君が在学中は君の事をお見通しだったし、すっかり衰弱した君は去年、ホグワーツに侵入しておきながらオメオメと逃げ出し、今もどこかに隠れている!ダンブルドアに怯えながら!」
リドルは恐ろしく醜悪な顔をして言い返してきた。
「ダンブルドアは僕に、ヴォルデモート卿の記憶に過ぎないモノによって追放され、この城からいなくなった!」
「だけど、それは永遠でも完全でもない!ダンブルドアは未だにホグワーツを、マクゴナガル先生を通して差配しておられるし、すぐに戻ってくるだろう!」
その時、どこからともなく音楽が聞こえてきた…その音楽は次第に大きくなっていき、そのこの世のものとは思えない美しくも妖しい旋律が最高潮になった時、すぐ傍の柱の上に炎が燃え上がり、不死鳥が現れた。
不死鳥はボロボロの何かを…組分け帽子を掴んでいて、それをハリーの足元に落とすとハリーの肩にとまった。
「フォークス?」
それは、ダンブルドア先生のペットのフォークスに違いなかった。
リドルは心強い援軍だな、と嘲り、笑った。
「さて、本題に入ろうか…二回も―君の過去に、僕にとっては未来にだが―僕達は出会った。そして二回とも僕は君を殺しそこねた。君はどうやって生き残った?全て聞かせてもらおうか」
「…君が僕を襲った時、どうして君が力を失ったのかは、誰にもわからない。僕自身にもわからない。でも、君が僕を殺せなかった理由なら簡単だ。母が、僕の母が僕を庇って死んだからだ!母は普通の、マグル生まれの母だ。君が僕を殺すのを母が食い止めたんだ」
ハリーの身体が恐らく怒りで震えた。
「僕は今の君の姿を見たぞ、去年の事だ。落ちぶれた残骸と化した君を!
まるで伝説に語られる『腐ったハーポ』の死に損なった姿の様に、汚らわしく、醜い姿だったぞ!」
リドルの顔が一層醜くゆがんだ後、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「そうか。母親が君を救う為に死んだ。なるほど。それは呪いに対する強力な対抗呪文だ。わかったぞ―結局君自身には特別なものは何もないわけだ。ふん、それだけわかれば十分だ」
「さて、ハリー、アイリス。少し揉んでやろう。サラザール・スリザリンの継承者ヴォルデモート卿とスリザリンの蛇にたった二人と一匹で勝負を挑んでくるといい」
そう言ってリドルは蛇語で何かを言った。
直後、猿のような顔の石像から気配が現れ、少し離れた位置にドスンと落ちた音がした。おそらく、バジリスクだ。
私はポケットから幾つかの音玉を取り出し、ソノーラスをかけて遠方に放り投げた。
途端に響き渡る大音量で雄鶏の鳴き声が響いた。
「面白い手だが、保存した声ではダメだ」
リドルがあざけるようにいた。
「なら…「エイビス、鳥よ!」」
私とハリーはバーンという音と共に合わせて十数羽の雄鶏を生み出した。
雄鶏たちは部屋中を走り回った。
「で、そいつらは何時鳴くんだい?こんな薄闇の中で?」
私達はリドルの放つ呪文の閃光を避けながら雄鶏の数を数十羽に増やした。
「ハリー!組分け帽子を使って!何か意味がある筈よ!エクスペリアームス!」
ここで私はリドルに対して初めて直接攻撃をした。
「おっと…危ない」
リドルはそう言いつつも危なげなく武装解除呪文を避け、反撃してきた。
後ろではフォークスがバジリスクの気を引いて戦ってくれているのを感じつつ、私とハリーはリドルから目を離せずにいた。
「アイリス!作戦B!」
「「ルーモス・マキシマ!」」
作戦B…Blind、要するに目つぶしである。
「ぐっ、小癪な!?」
リドルが怯んだ瞬間、私はリドルに対人戦の本命装備の一つ、煙幕玉(魔法薬を染み込ませてあり、催涙効果付き)を投げつけた。ハリーはその隙をついて組分け帽子をひっつかみ、中を探ったようである。
私は対バジリスク用の本命装備…ノックス・ポーション(暗闇薬)をフォークスが気を引いているバジリスクの頭部に投げつけ、レダクト(粉砕呪文)で中身をぶっかけた。暗闇がバジリスクの頭部に『張り付いた』。
気づけば、ハリーは気勢を上げてバジリスクに向けて突っ込んでいった…その手には見事な長剣が握られていた。
ハリーさんや、何しているんでしょうか。
事前の作戦ではバジリスクはノックス・ポーションで目を封じた後に、凶器がバジリスクであると推定した時点で用意したあった毒薬を口に放り込んで仕留める予定でしょうに。
「ぐっ、やってくれたな!小娘が!」
リドルがむせながら言う…無言呪文で煙幕を吹き飛ばしたようである。
途端に、蛇がのたうち、暴れる音が聞こえた。
おそらく、ハリーが剣をバジリスクに突き立てたのだろう。
「アバダ・ケダブラ」
リドルはキレたのか死の呪文を私に向けて唱えた。
それを私は柱の陰に隠れる事でかわした。
私は足元を走り回っている雄鶏の一羽をむずんと掴むと柱の陰から飛び出た。
「エクスペリアームス」
「アバダ・ケダブラ」
呪文の閃光は交差し、共に命中した。
武装解除呪文はリドル自身に、死の呪文は盾にした雄鶏に。
「ペトリフィカス トタルス 石になれ!」
勝ったという顔をしていたリドルに追撃で呪文をかけた私は死んだ雄鶏を投げ捨ててジニーの杖を回収し、バジリスクの方を見た。バジリスクの口内にハリーは腕を突っ込んでいる。
「ハリー!?」
私は思わず叫んだ。何をやっているんだ、あの従弟殿は。
直後、バジリスクが倒れ、ハリーもその場にうずくまった。
ハリーの元にフォークスが飛来し、足元に何かを落とした。
ハリーは自身の腕から何かを抜き取り、それに突き刺したように見えた。
「ハリー!」
そんな叫びを上げながら、ハリーに駆け寄った私が見たものは、バジリスクの牙が突き刺さったリドルの日記だった。
そして、今にも死にそうな、でもやり遂げたという顔のハリーとその腕にとまって涙を流すフォークスだった。
「ハリー…貴方、自分の命を軽んじすぎよ」
そう言って私はハリーを後ろから抱きしめた。
「アイリス…ごめんね、つい…作戦とか全部忘れてしまったよ」
「…フォークスが癒してくれているみたいだけれども一応飲む?バジリスクの毒に効く…かもしれない解毒剤」
そう言って私がとりだしたのは、文献と魔法理論から推定したバジリスクの毒成分に対抗してくみ上げた解毒剤の入った小瓶だった。
まあ、効果は試してみないとわからないうえに、クッソ不味いが。
「イヤ…大丈夫…意識もはっきりしてきた…ありがとう、アイリス、フォークス」
そう言って、ハリーはフォークスの背を軽く撫でた。
少しすると、部屋の隅でジニーが身じろぎした。
私達はぱっと離れてジニーの元に駆けていった。
ジニーは状況を把握すると泣きだして、自分のやった全てを告白した。
ハリーがジニーを慰めている間、私はバジリスクの死体から戦利品を集めていた。
折れた牙を毒ごと採集容器にしまったり、うろこをはぎとってポケットにしまったりなど。
諸々の物品をもって私達は来た道を戻った。
途中、私達は来た時とは違い、天井が崩落しており、そこにできた隙間をハーマイオニーが潜り抜けてきた所だった。
「ジニー!無事だったのね!アイリスとハリーも!」
ハーマイオニーがそう叫ぶと、崩落した岩の間に出来た通路の向こうでロンが歓声を上げたのを聞いた。
何があったのか、を私とハーマイオニーは互いに話そうとしたがハリーがそれを止め、まずはここを出よう、と言った。
崩れた通路を超えると、そこにはロンがいた。
5人と一羽で来た道を戻るとロックハートが一人で鼻歌を歌いながら座っていた。
「ホグワーツから逃げ出そうとしていたロックハートから杖を取り上げて連れて降りてきたんだけれども、僕の折れた杖を取られちゃってさ…で、忘却呪文を僕とハーマイオニーに使おうとして杖が爆発して記憶を失っちゃったみたい。後、こいつの著作は全部、旅先で出会った他人の業績を横取りしたモノだってさ」
私とハリーは想像よりもひどい現実というモノを知ってあきれ果てた。
そして、私達6人はフォークスに運ばれてマートルのトイレに戻った。
マートルはハリーが生きている事を残念がって、ゴーストになったらココ(マートルのトイレ)に一緒に住みたかったのだ、と言ってのけた。