土曜日、私とハリーは空き教室で忍び地図をいじくりまわして遊んでいた。
が、忍び地図にかけられた呪文を解析することに夢中で周囲への警戒がおろそかであったのはいただけなかった。
「こんな所で何をしている」
「あ…スネイプ先生」
ハリーがスネイプ教授に反応して咄嗟に忍び地図を隠した。
「…何を隠した?見せなさい」
「…えっと…はい、これです」
ハリーは観念して何も表示されていない忍び地図を差し出した。
「これは?」
「羊皮紙です」
ハリーがしらじらしく答えた。
「それは見ればわかる…どういうモノだ、と聞いている」
「ええっと…ただの羊皮紙です」
しかし、ハリーの嘘は明らかに悪手であった。
「ポッター、君の目は節穴かね?極々簡単な走査呪文で何らかの魔法が詰まっている事はわかる…まだ無杖では難しかろうが、君達なら無言呪文で使えても良いくらい初歩的な…錬金術師としての基礎の基礎だ…エヴァンズ、コレは何だ」
「はい…その羊皮紙がどういう魔法が込められているかを調べていました」
私はあえて言葉を捻じ曲げて答えた。
「では、私も少し調べてみる事にしよう…かまわんな」
そう言ってスネイプ教授は杖を取り出し、答えを聞かずに何度か杖を振るった。
「ふむ…やはり無数の呪文が詰まっている…深層は複雑に絡まり過ぎて表層の秘密保持のための呪文しか読み取れん…これはどのように手に入れた?」
スネイプ教授は忍び地図に興味を持ったようでそう問うた。
「ええっと…先輩からシリウス・ブラックの件でホグズミード村に行けない僕の気晴らしになるだろう、と貰いました」
「なるほど…では正攻法でカギを解くのは君達の楽しみ、という事だね、ではスマートとは言えぬが力押しを試してみるとしよう…汝の秘密を顕せ!正体を現せ!」
スネイプ教授は単純だが強力な呪文を用いて秘密を暴露させようとした。しかし、それは…あまり良くない。
「あ、えっと…それは」
駄目です、とハリーが止めるより早く、スネイプ教授は三度呪文を唱えた。
「ホグワーツ校教師、セブルス・スネイプ教授が汝に命ず。汝の隠せし情報を差し出すべし!」
すると、忍び地図である羊皮紙に文字が現れた。
「私、ミスター・ムーニーからスネイプ教授にご挨拶申し上げる。他人事に対する異常なお節介はお控えくださるよう、切にお願いいたす次第」
私とハリーは頭を抱えた。忍び地図には短時間に三回連続で力押しで秘密を暴こうとするたびに相手を侮辱する機能が備えられているのだ。
「私、ミスター・プロングズもミスター・ムーニーに同意し、さらに、申し上げる。スネイプ教授はろくでもない、いやなやつだ」
「私、ミスター・パッドフットは、かくも愚かしき者が教授になれたことに、驚きの意を記すものである」
「私、ミスター・ワームテールがスネイプ教授にお別れを申し上げ、その薄汚いどろどろ頭を洗うようご忠告申し上げる」
「追伸 他者の秘技を権威で開示せしめようなどという者は教授という地位にふさわしくないと断言させて頂く ドクター・アッシュ」
私とハリーは目を丸くした。これは私達が知らないパターンである。教授の名乗りをして力押しをするとこんなパターンになるのか。
「フム…ついてきなさい」
そう言ってスネイプ教授は忍び地図を手に教室を出ていった。
スネイプ教授の後をついて行くと、そこはルーピン先生のオフィスだった。
「ルーピン、少し見て欲しいモノがある」
そう言ってスネイプ教授は忍び地図をルーピン先生に見せた。
「先ほど、吾輩が通りかかった教室でポッターとエヴァンズがコレで遊んでいた…他愛のない物だと思っていたが、考えが変わった…コレは君の管轄だ、違うかね?」
「…と言うと?」
「これと似た物が去年度、大変な事件を引き起こした。ポッターは先輩…恐らくウィーズリー家の双子辺りだろう…から手に入れたと言っていたがこう言ったものが学内に出回るのはよろしくない…違うかね?」
「…そうだね、この件は私が預かるよ、セブルス」
「そうしてくれたまえ」
そう言ってスネイプ教授は忍び地図をルーピン先生に引き渡し、なぜか怒りを隠しきれていない様に見える表情でルーピン先生のオフィスを出ていった。
「さて…君達はこの羊皮紙が本当は何なのか、知っているね?」
ルーピン先生は真剣な表情で私達にそう言った。
「…ハイ」
ハリーは圧力に負けてそう答えてしまった。
「当然、そうだろう。あの双子も君達も賢い…時間をかければ秘密を解き明かすことなど造作もないはずだ…もちろん、セブルスにとっても…ね」
「あの…それでソレが何なのか、先生はご存じなんですね?」
「私はこれが地図だという事を知っている。そして何年も前にフィルチさんが没収した物だという事も…ね。君達がこの地図をどのように扱っていたか…と言う事自体にあまり興味はない。が、この地図がホグワーツの警備体制にどんな影響を与えるか、考えた事があるかな?つい先日の侵入事件の際もこれがあればシリウス・ブラックの侵入は早期に気付けたはずだ」
「そう…ですね」
「ホグズミード休暇を大人しく城内で過ごしているのは、この地図を使わずに…と言うのは語弊があるけれど、隠し通路で抜け出さなかったのは褒めてあげられるが…この地図は預からせてもらうよ、ハリー、アイリス」
「ハイ」
「はい」
私達はそう答えた。
「よろしい、ではおもちゃを取り上げておいて悪いけれども、城内で週末を楽しんでおいで」
ルーピン先生に促されて、私達は退出した。
「さて…どうしようか」
「犠牲の石の研究材料でも受け取りに行かない?」
「そうだね、忍び地図で遊べなくて城内で、って事ならばそれが良いね」
という事で、私達は厨房を訪ねる事にした。
厨房の場所は前々からジョージとフレッドから聞いていたが訪ねたのはクリスマス休暇明けの事である。その際、厨房で働く屋敷しもべ妖精たちに研究の協力をお願いして、了承を得た。
そして、2月の中頃に完成した、魂を石に溜めておく装置を厨房に設置してある。そして2週間に1回程度、厨房を訪ねて出来上がった魂石を回収しているのである。
私達が厨房の扉…大きな果実皿の絵の緑の梨をくすぐってドアを開くと忙しく昼食を作る屋敷しもべ妖精たちが見えた。
「いらっしゃいませ、ハリー・ポッター様、アイリス・エヴァンズ様」
近くにいた屋敷しもべ妖精が挨拶をしてくれた。忙しい中でもその合間を縫って他の屋敷しもべ妖精たちも何らかの挨拶をしてくれる。
「こんにちは、ディーク、みんな」
「ごめんね、忙しい時間に…ちょっと予定が狂って」
「いいえ、問題ございません。お茶になさいますか」
「あーじゃあお願いしようかな」
ハリーがそう言うと、あっという間に二人分のお茶の用意が厨房の端っこに整えられた。
そして、最初に挨拶をしてくれた老屋敷しもべ妖精…ディークが魂石を持ってきてくれた。尚、中身は厨房で絞められた食材たちの魂である。
10時のお茶を楽しんだ後、屋敷しもべ妖精たちに礼を言って厨房を後にした。
寮に戻って他の機材をとって空き教室に行った。昼食を挟んで魂石をいじくり倒して幾つかの試作品の設計図を引いた。
そして…フクロウ便が来た。ハグリッドから…バックビークの弁護は失敗したとの事だ。
後で判明した事だが、一応、配布資料とハグリッド自身の弁護時に認定された事実関係からドラコ・マルフォイの非と賠償は認められたが、判例を覆す事は出来なかった様子である。
これがきっかけで、ハーマイオニーとロンは完全に仲直りした。
それから少しして…ハーマイオニーがやらかした。時間管理を間違えてハーマイオニーが呪文学の授業をすっぽかした。
更に、その次の占い学…水晶玉の読み方に変わった…で遂にキレて、占い学を止めた。
まあ、来るべき破綻がついに来たか、という感想だったが。
大量の課題をこなしつつ、イースター休暇を挟んで遂にクィディッチの試合の日が近づいてきた。
優勝杯奪回を目指すスリザリンと連覇を目指すグリフィンドールの間の緊張はすさまじいモノであった。クィディッチに興味のある面々からすれば。
ハーマイオニーもそわそわしていたし、ロンやハリーは言うまでもない状態であった。
私はため息をついて試合前日は一人、読書に耽っていた。
で、グリフィンドールはクィディッチの200点差をひっくり返した。グリフィンドールの2連覇である。
皆は大喜び…私も喜んで見せて楽しい楽しいパーティーを楽しんだ。