例えばこんな従姉殿   作:紅シズク

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組分けと初めての魔法薬学

「エヴァンズ、アイリス!」

直接の知り合いの中で最初に名前を呼ばれた私は前に進み出て組分け帽子をかぶった。

「フーム…難しい。非常に難しい。」

低く小さな声が私の頭の中に直接響いた。

『フム、勇気はある。頭も良く、才能に満ちておる。優しさは…なくはない。そして目的を達する為の狡猾さも持ち合せている…か。いや、面白い…さて、どこに入れたものかな」

『貴方は組分け帽子に宿る意志?』

『そうとも』

『なら、帽子さん、希望が通るのならばスリザリンは嫌かな…父さんには悪いけれど』

『なぜだね? 闇の魔術を伸ばすならば向いていると思うがね?』

『そこに蔓延る純血主義と貴族主義が私と相いれないから』

『フム…君がそう確信しているならばスリザリンはやめておこう…ほう、しかし闇の魔術自体は興味があると』

『知識に色はない、思想がそれに色を付ける…母さんの言葉よ。闇の魔術に傾倒して何がいけないの?。邪悪になるつもりはないけれど…闇の魔術に限らず、いろんな知識を身に着けて母さんみたいな魔女になりたいわ』

『ほう…錬金術師を目指しているのか。その夢の為ならばレイブンクローに行くのが近道じゃが…』

『いいわね、レイブンクロー。両親もきっと私はレイブンクローだって言っていたわ。母の寮でもあるし』

『…じゃが君に宿る勇気はそれに勝る』

『え?ちょっと?』

『よって』「グリフィンドール!」

そう、組分け帽子は叫んだ。教員席に向かってお辞儀をする振りをして父の様子を盗み見たが…苦虫を嚙みつぶしたような表情をしていた。

私も、夢への最短ルートを否定された事にぶぜんとしながら精一杯取り繕った笑顔でグリフィンドールの席に着いた。

その後も組分けは続き、ハーマイオニーとネビルがグリフィンドール、ドラコ・マルフォイはスリザリン、ハリーとロンもグリフィンドールに組分けされた。

ハリーの組分けには3分くらいかかったが。

組分けが終わるとダンブルドア校長が立ち上がり挨拶をした。内容は…短い祝辞とジョークだったので割愛する。

 

食事と会話を楽しみながら色々と聞き耳を立てて情報収集をしていると、心配していた通り、父の悪評が聞こえてきた。

詳しくは効いていないが、学生時代、スリザリン生だった父はグリフィンドール生だったライバル(敵?)とバチバチにやり合っていた為かグリフィンドールを嫌っている。さらに、闇の魔術に詳しいという点でスリザリン以外から嫌われ、母曰く厳格さで取り繕っている隠れた人間らしい感情…まあ要するに好意には好意を、悪意には悪意を返す性格もあって結果的にスリザリン贔屓をしてさらに嫌われているとか。

そうこうしていると食事が片付けられてデザートタイムとなった。私はアップルパイを食べながらハーマイオニーに気になっていたことを聞いた。

「そう言えば、ハーマイオニー、列車で教科書は全部暗記したって言っていたけれども本当?」

「ええ、もちろん本当よ、アイリス。貴女は違うの?」

「内容はだいたい覚えているけれど…魔法史以外は。正直あの科目に時間を割く位なら独学で先に進みたいわ…ってそうじゃなくって、ハーマイオニーって案内の手紙を貰って1月強くらいでしょう?よくそこまで独学で勉強できたわね」

「ええ、私、興味がある事を覚えるのは得意なの!理解が簡単な内容なら1回じっくり読めば覚えられるわ!」

「…すごいね。しかも実践もできたんでしょう?うちの母は実践はホグワーツに入るまでダメって言って幼いころから理論の勉強しか許してくれなかったのよ、私にもハリーにも」

「へぇ…そうなんだ。本に書いてある魔法族の教育についての印象とはちょっと違うわね」

そんな感じで会話をしているとデザートが消える…デザートタイムも終了のようである。

ダンブルドア校長が立ち上がり、締めの挨拶と告知を始めた。

曰く、構内にある森に入ってはいけない

曰く、授業の合間に廊下で魔法を使ってはいけない

曰く、クィディッチの予選は二週目に実施される。

曰く、とても痛い死に方をしたくなければ今年いっぱいは四階右側の廊下に入ってはいけない。

最後の告知に上級生が顔をしかめる…曰く、普通は立ち入り禁止の場所はその理由を合わせて告知するのが通例らしい。

そして校歌斉唱をダンブルドア校長が宣言する…それも各自好きなメロディーで、と。

私は歓喜の歌っぽく歌ってみた。

そしてバラバラに校歌を歌い終わった…ウィーズリー家の双子が非常にゆっくりとしたメロディーで最後まで歌っていた…後、私達、グリフィンドールの一年生は監督生のパーシー・ウィーズリーに引率されて寮に向かった。

途中、ピーブズと言うポルターガイストに絡まれるというトラブルもあったが何とか寮の前にたどり着いた。

パーシーが合言葉…『カプート ドラコニス』…を唱えると寮の談話室へつながる穴が開いた。

そして、私達は男女別に男子寮と女子寮に入り、螺旋階段を上る…遂に部屋が見つかった。

ハーマイオニーと同室だった。

部屋に入ると深紅のビロードのカーテンがかかった、四本柱の天蓋付きベッドが並んでいた。

そして、各自のベッドのわきには列車に残してきたトランクが置いてあった。

軽く同室の皆と自己紹介をした後、寝支度を整え、ベッドにもぐりこむとあっという間に眠りに落ちた。

 

 

 

翌日から授業が始まった。

…正直、ペットを連れてこなかったのは正解だったと思うほど忙しかった。

散々予習していたので今の所、座学の方は問題ないし、実技の方もまださほど難しくなかった。

例えば、変身術のクラスで最初の実技課題…マッチ棒を針に変える事を少しでも成し遂げたのは私とハリーとハーマイオニーだけだった。まあ、私とハリーは明らかに木製のあまり尖っていない針のようなモノを作っただけなのに対し、ハーマイオニーはきっちりと金属光沢の針と呼べるものを作り出したのだが。

むしろ、授業と宿題よりホグワーツ内の移動には大変な努力が必要だった…まさに迷宮と呼ぶにふさわしい構造だけでなく、それが毎日のように変化する…先輩たち曰く、周期性はあるらしいが…のだからたまったものではない。

おかげで、既にもう金曜日の朝だというのに図書室には一度行ったきり、それも先輩に案内してもらって司書のマダム・ピンスに挨拶をし、『ホグワーツの歴史』…校内移動のヒントがあるかもしれないと思って…を借りただけである。

「今日はアイリスが楽しみにしていた魔法薬学ね」

朝食の席でハーマイオニーが言った時、大量のフクロウが大広間になだれ込んできた。

ちなみに、月曜日の内に私とハリーは母に…私は父にも…組分けの結果についての短い手紙を出した。

母からは組分けされたからにはグリフィンドールでやっていくしかないが、まあ父は複雑だろうから気を使ってやれ、という手紙が届いた。

一方、父からは『金曜日の午後3時に私の部屋を訪ねるように』と言う短い手紙がイニシャルだけのサインと共に届いた。

「…魔法族って食事時に羽毛や埃が舞うのを気にしないのかしら。場合によっては別の落とし物も考えられるのだけれども」

ハーマイオニーはトーストをかじりながらそう呟いた。

 

 

 

魔法薬学の授業はよく言えば雰囲気のある、悪く言えば気味が悪い地下牢で行われた。

出席を取った後、セブルス・スネイプ教授は演説を始めた。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

そう始まった魔法薬学の魅力を語る短い演説は次のような言葉で締めくくられた。

「ただし、吾輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

教室を沈黙が満たす…

「ポッター!」

「ハ、ハイッ!」

教授が突然叫び、ハリーがそれに応えて立ち上がった。

「まずは簡単な質問だ。モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

ハリーは困惑した表情でこちらをちらりと見た。そりゃあそうだ。その二つは同じモノなのだから。少なくとも、私達の知識の範囲では。

「植物としてはどちらもアコナイト(トリカブト)の事を指しますが…その違いは…モンクスフードがその花の形に由来する名で、ウルフスベーンがオオカミ殺しの歴史からくる呼び名で…」

ハリーはほんの少し考えた後に諦めた。

「スイマセン、それ以上はわかりません」

「成程…それでは次の質問だ、ポッター」

教授は目を細めて続ける。

「ベゾアール石を採取してこいと言われたら、どこを探すかね?」

「…屠畜場の臓物置き場を漁ります」

少し考えた後にハリーが出した回答にスリザリンの席から笑いが漏れた。ハーマイオニーも困惑した様子である。

「ほう、それは何故だね?ポッター」

猫なで声で教授が重ねて問うた。まあ、ハリーの意図はわかるが教科書的ではない。

「たくさんの草食動物の消化器官の中身を調べられるからです、先生」

ハリーは大まじめに答え、続けた。

「もし、そのまま解毒剤に使えるような高品質なベゾアール石を探すのであれば山羊狩りをしてその胃袋を探るしかありませんが…仕留めた山羊を売ってダイアゴン横丁辺りの薬問屋を訪ねた方が早いでしょう、ベゾアール石はなかなか見つからない希少なモノと書いてあったので」

ああ、ハリー、わざとやっているな、コレ。

「…ではもう一つ、アスフォルデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になると思う?」

「教科書の序論によれば、その後適切な手順を踏めば生ける屍の水薬と呼ばれる強力な眠り薬になると記載がありますが…その…」

ハリーが言いよどむ。さすがに二人して母から教えてもらった知識を元に回答するのは躊躇うか。

「どうした、ポッター、続きを答えたまえ」

「…ええっと、恐らく、回答すべき内容では…一年生が知るべき事ではありません」

ハリーは躊躇いがちに、そう答えた。

「かまわん、君の知っている事を全て述べたまえ」

「…はい。私も正しい答えは存じ上げないですが、生ける屍の水薬を調合するにあたって、教科書的なレシピでは他に数種類の薬草とある種の魔法植物から得られる汁が必要です」

これは半分嘘である。6年生の教科書に載っている答えを私とハリーは知っているのだから…まあ、そのレベルになるとレシピを鵜呑みにして調合すればまともな品質の薬にはならないと母から忠告を受けており、理論的なレシピの解析と改良案の提出(母から出されたいくつかの宿題の一つ。これらを合格できれば長期休暇の際は母立ち合いの元、魔法薬学の実験をしても良いと言われている)は済んでいない為、完全な嘘ではないが。

「一方、アスフォルデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えた段階では薬効自体は単純にアスフォルデルの球根とニガヨモギを足した物にすぎない筈で、まだ調整が効きます。

よって、何になるかと問われれば、判断材料が足りない、が回答としてより適切と考えます、先生」

ハリーが遠慮がちに、しかしハッキリと言い切った。

尚、母は本当にこんなに簡単に、それも薬問屋で無造作に売られている材料からそんなに強力な魔法薬を作れるのか、と教科書の該当の記述について尋ねた際

 

卵をボールに割って適切な手順で調理すればベーコンチーズオムレツができる、と書かれている様なものだ

 

と、吐き捨てたと言っておく。

地下牢に沈黙が流れる…

「クックック…よろしい、座りたまえ、ポッター」

やっと教授が沈黙を破り、ハリーを着席させる。

「ポッターが回答したとおり、モンクスフードとウルフスベーンはどちらもアコライト(トリカブト)の事である。その語句の使い分けは花の薬効に期待する場合、モンクスフードと呼び、魔術的なオオカミ殺しの薬効に期待する場合、ウルフスベーンと呼ぶことがある。

次に、ベゾアール石は草食動物の胃腸から取り出される石で、解毒作用を持ち、しばしば解毒剤の効果を高める為に用いられる。特に山羊の胃から取れるものは高品質でそのままでも大抵の薬に対する解毒剤となる。確かに見つかる確率が高いわけではないので、屠畜場を漁るというのも間違いではないが家畜の牛や羊から取れる物は一般に質が悪い事には留意せねばならない。

また、アスフォルデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物は鎮痛剤・睡眠薬の基剤としてよく用いられ、適切な材料と適切な手順で調合すれば、強力な眠り薬を作る事も可能だ。この眠り薬は生ける屍の水薬と呼ばれる事もある。これは諸君らがN.E.W.T.レベルの魔法薬学を学ぶ資格を得たならば調合する可能性がある。

どうだ?諸君、なぜいまのを全部ノートに書き取らんのだ?当然知っている、という事かね?」

クラスの皆が一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出し、教授の解説を書き取り始めた。

 

その後、教授は私達生徒を二人ずつ組にし、おできを治す簡単な薬を調合する実習を始めた。

私はハーマイオニーとペアになり、ハリーはロンとペアになった。

ハーマイオニーと手分けして、干イラクサを計量してハーマイオニーの鍋で煮出しながら、ヘビの牙を砕いてダマにならない様に加え、火から降ろして沸騰が収まってから山嵐の針を加えた。

それらを脇に置いて冷ましている間に私の鍋で角ナメクジを茹でていると地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、シューシューと言う大きな音が広がった。

そちらを見ると調合に失敗した結果らしい大惨事が広がっていた。

容疑者兼被害者はネビルだった。

教授は無言で杖を一振りしてこぼれて近くの生徒の靴に穴をあけていた薬の出来損ないを処分し、続けて透明の液体…恐らく水…でネビルの全身を洗った。

「何をした?」

静かに、教授はネビルに問うたが、おできだらけのネビルはシクシク泣きだし、答えなかった。

「状況から察するに、鍋を火にかけたままで山嵐の針をいれたのだな?」

そこまで言われて、やっとネビルは頷く事で教授の問いに答えた。

「ロングボトム、フィネガン。君達は吾輩が調合を始める前に何と言ったか覚えているかね?」

教授が失望を隠そうともせず、ネビルとシェーマスに問うた。

「は、はい。山嵐の針は鍋を火から降ろし、沸騰が収まってから加える事…です」

泣き止まないネビルの隣でシェーマスが震えながら答える。

「その通り。吾輩の記憶が確かならば、他の何をおいてもそれだけは絶対に守れ、と吾輩はそう言った筈だな?」

「ハイ…おっしゃいました」

「二人からそれぞれ1点ずつ、グリフィンドールから計2点減点とする。

フィネガン、ロングボトムを医務室へ連れていきなさい」

2人を見送った後、教授は隣で作業をしていたハリーとロンの方を向いた。

「ポッター、君は比較的マシな部類のウスノロだと思っていたのだがな。

なぜロングボトムの暴挙を止めなかった?」

「は、はい!実技は初めてなので、自分たちの鍋に集中していて気づきませんでした」

教授はそのハリーの回答を聞いて目を丸くした…ように見えた。

「初めて…?あのペチュニア・エヴァンズに養育されているのに、か?」

「その、普段は祖父母と暮らしていて、ペチュニア伯母さんのアトリエの作業場へ入る事は固く禁じられていたので…」

「…嘘はついておらんようだな。だが次はないぞ、ポッター。

さあ、諸君、調合を再開したまえ!」

教授にそう言われて皆はとまっていた手を動かし始めた。

 

 

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