クィデッチ・ワールドカップ 前編
ハリーの誕生日から少しして、モーリー・ウィーズリーおばさんからフクロウ便が届いた。
ロンが言っていた、クィディッチ・ワールドカップの観戦のお誘いである。
「ほう、決勝戦…それも当日入りのチケットとは中々いいチケットを手に入れられたようだな」
手紙を読んだ母がそう言った。
「そうなの?」
「最安切符だと2週間前に現地入りのはずだ。日刊予言者新聞の広告欄にそう書いてあった」
その時、南国の鳥がやってきた。シリウスおじさんからハリーへの手紙である。
ハリーは嬉しそうだったが、母は苦笑いをしていた。目立つ鳥が手紙を運んでくると魔法省の詮索癖が刺激されるから、らしい。
そして、隠れ穴に行く前日の土曜日…ハリーが悍ましい夢を見た。そして傷がひどく痛んだ。
それはよくない兆候であった。
それは母の見立てでは呪いをかけた人物の…つまり、ヴォルデモートの、『死喰い人の主』の力が戻ってきている兆候なのだという。
夢については断言しかねるが、呪いで受けた傷跡が痛む、というのはそういう可能性が高いらしい。
母はダンブルドア先生に手紙を書き、自身でもいくつかのポーションを煎じてハリーに飲ませた。
翌日曜日、私たちはアーサー・ウィーズリーおじさんと17時に漏れ鍋で待ち合わせていた。
それに先立って、珍しく…普段は帳簿決済している…小遣いを現金で10ガリオンずつ受け取り書店で時間を潰して…母に帳簿決済で払ってもらって本も少し買った…待ち合わせ時間の5分前に漏れ鍋に戻ってきた。
「こんばんは、ペチュニア、ハリー、アイリス」
漏れ鍋に入るとアーサーおじさんがくつろいだ様子でロンとお茶を飲んでいた。
「こんばんは、アーサー、ロン」
母がアーサーおじさんに応えた。
「この度はアイリスとハリーを招待していただき、ありがとうございます。なかなか良いチケットのようで」
「いえいえ、勤め先の友人たちの好意のおかげですよ」
等と保護者が会話を交わしている間に私達もロンと夏休みの近状について…犠牲の石関係を除いて…話した。
「そう言えば、スネイプはどうなったの?大丈夫?」
スネイプ教授が私の父だと一連の騒動の流れで知ったロンは珍しくスネイプ教授の心配をした。
「無事よ。人狼にはならずにすんだわ。時々検査を受ける義務は生じたけれども、基本的には完治、人狼として扱われずにホグワーツの教壇に引き続き立つことになったわ」
「それは…うん、良かったね」
ロンは少し迷いながら、そう言った。
「さあ、そろそろ行こうか」
「数十年に一度のイギリスでのワールドカップ開催だ、楽しんでおいで」
という事で私達は煙突飛行で隠れ穴へと向かった。
漏れ鍋のキッチンにつくとそこにはパーシーを除くウィーズリー家の全員とハーマイオニーが集合していた。
初めましてである長男のビルと次男のチャーリーと握手をして、私達はまずジニーと共にロンの部屋に行く事になった。
「二人は夏休み、どう過ごしていたんだい?…って聞くまでもないか。魔法薬学と錬金術漬けだろう?」
「「もちろん」」
私とハリーはロンの問いに胸を張って答えた。
「まったく、ハーマイオニーといい、君達と言い、本当に勉強が好きなんだから…」
「そう言うロンは?楽しく過ごしているかい?」
「うん。最近…と言うか、昨日あった面白い事なんだけれど、ジョージとフレッドがさ」
ロンがそう言いかけた時、踊り場の扉が開いてパーシーが現れた。
「やあ、パーシー」
「こんにちは、パーシー」
「ああ、しばらく、ハリー、アイリス」
「誰がうるさく騒いでいるのかと思ってね。僕、ほら、ここで仕事中なんだ―役所の仕事で報告書を仕上げなくちゃならない。階段でドスンドスンされたんじゃ、集中しにくくってかなわない」
「ドスンドスンなんかしてないぞ。僕達、歩いているだけだ。すみませんね、魔法省極秘のお仕事のお邪魔をいたしまして」
「えっと、聞いてよければ、だけれども…なんの仕事なの?」
ハリーがそう問うた。
「『国際魔法協力部』の報告書でね。大鍋の厚さを標準化しようとしているんだ。輸入品にはわずかに薄いのがあってね―漏れ鍋率が年間約三パーセント増えているんだ」
それは一長一短だな、と思った。調薬用大鍋の分厚さは上級者程、個々人の好みがあるので標準化は難しいだろう。しかし、素人…一般家庭では薄すぎると事故の元であるし…料理用だと純粋に寿命が短い粗悪品である。
「それって調薬用の大鍋?それとも一般用途の大鍋?」
「どちらもだよ、ハリー。価格競争で輸入物の鍋は特に厚さが薄くなる傾向があってね…」
「使う大鍋の性質の見極めもポーションマスターには大事な技術だけれど、それを一般消費者に求めるのは酷だし…一般用途だと耐久性低下が心配になるのはよくわかるよ」
ハリーの言葉にパーシーの目が輝いた。
「わかってくれるのかい、ハリー!」
「今はまだ深刻化していないかもしれないけれど、大鍋の…いろんな物の品質が価格重視で低下していくのには何らかの歯止めが必要だし、特に大鍋は調薬中に穴が開くと大事故につながる。目立たないけれども大事な仕事だと思うよ。パーシー」
「うんうん、そうなんだ」
パーシーはまだハリーと話をしたそうだったが、ロンがそれを打ち切った。
「ほら、パーシー、仕事をしないといけないんだろう?ハリーも、僕の部屋に行こう」
ロンはそう言ってハリーを連れて階段を上がり、パーシーは少しだけハリーの背中を名残惜しそうに見ていたが、少しして扉を閉めた。
そして私たちは隠れ穴の一番上にあるロンの部屋にやってきた。
「まさか、君がパーシーの仕事の話題に共感するとは思わなかったよ」
「そう?新人が任されるにしては結構大事な報告書だと思うけれど」
「それはそれとして、昨日、何かあったの?」
「それがさ、フレッドとジョージったらとんでもない計画を立てていてさ…ウィーズリー・ウィザード・ウィーズって言うんだけれどね…ホグワーツ内で自作の悪戯グッズを販売しようとしたんだ…それがママにバレて大騒ぎだったのさ」
ジニーが笑いながらロンの言葉を補う。
「ママがね、二人の部屋を掃除していたら、注文書が束になって出てきたの。二人が発明した物の価格表で、長―いリストだったわ。悪戯おもちゃの。『だまし杖』とか、『ひっかけ菓子』だとか、いっぱいよ」
「本当にすごいよ。僕、あの二人があんなにいろいろ発明していたなんて知らなかった…まあ、発明品は殆ど…いや、全部がちょっと危険なものでさ。
それに、最初に言ったとおり、あの二人はそれをホグワーツで売って稼ごうとしていたんだ。ママがカンカンになっちゃってさ。
もう何も作っちゃいけません、って二人に言い渡して注文書を全部焼き捨てちゃった…ママったら、その前からあの二人には散々腹を立てていたんだ。二人がO.W.L.試験でママが期待していたような点を取らなかったからね」
「それから、大論争があったの。ママは、二人にパパみたいに魔法省に入って欲しかったの。でも二人はどうしても悪戯専門店を開きたいってママに言ったの」
それから暫く私達はお喋りをしていたが、外から何かがぶつかる音が聞こえてきた。
窓の外を見るとビルとチャーリーが魔法で浮かせた古いテーブルをぶつけ合って遊んでいた。
夕食の準備の手伝いの途中でふざけて遊んでいるのだと察した私達はウィーズリーおばさんの手伝いをすることにした。
私とハーマイオニーは一度ジニーの部屋によって私の荷物を置いてキッチンに向かった。
「あら、お嬢ちゃん達も手伝いに来てくれたの?お皿を運んでくれるかしら。ビルとチャーリーがテーブルを用意してくれている筈よ」
私達は指示に従って各自が使う皿を運んでいった。
前庭に出ると、テーブルは地面に据え付けられており、テーブルクロスがかけられるところだった。
私達はテーブルに皿を置くと、他に手伝う事がないか、ウィーズリーおばさんに聞きに行ったが、特に手伝う事はない様であったので、前庭でみんなとおしゃべりをしていた。
7時になると、楽しい夕食が始まった。
話題はテーブルのあちこちで違う話題が交わされていたが、最終的にはクィディッチ・ワールドカップの話題が大勢を占めていった。ハリーは日刊予言者新聞のスポーツ欄以上の情報を持ち合わせていなかったので楽しそうにそれを聞いていた。
翌朝、夜明け前にウィーズリーおばさんに起こされた私達は身支度を整えて、キッチンに降りていった。
「ジョージ!」
オートミールをよそってもらって塩コショウをして食べていると突然ウィーズリーおばさんが叫んだ。
「どうしたの?」
ジョージはしらばっくれたが、誰も信じなかった。
「ポケットにあるものはなに?」
「何にもないよ!」
「ウソおっしゃい!」
ウィーズリーおばさんは杖を抜くとジョージのポケットに向けて呼び寄せ呪文を行使した。
すると、いくつかの鮮やかな色の包み紙の飴が飛び出てきておばさんの手に収まった。
「これは…?」
「えっと…見ての通り飴だよ、ママ」
「そう…じゃあ、今、一つ食べてごらんなさいな」
「えっ…あっと…その…今は食べたくないかな?」
「また!だまし菓子なんでしょう!これも!」
ジョージとフレッドのゲッという顔が、おばさんの推測が正しい事を示していた。
出発する段になっても雰囲気は和やかとはいいがたいままだった。
ウィーズリーおばさんは家族に行ってらっしゃいのキスをする時もしかめ面のままだった。
双子の方も、おばさんが見送りの言葉をかけたのにもかかわらず、無言で歩を進めた。
目的地に向かう途中、アーサーおじさんが『移動キー』を使い、会場に行くのだと教えてくれた。
そして、その移動キーは隠れ穴から見てオッタリ―・セント・キャッチポール村の反対側にある丘の上に配置されているのだという。
必死の思いで丘を登りきるとアーサーおじさんは移動キーを探すように言った。移動キーは古いブーツの形状をしているらしい。
「ここだ、アーサー!息子や、こっちだ。見つけたぞ!」
分かれて移動キーを探していると静かな丘にそんな声が響いた。
「エイモス!」
アーサーおじさんはそう応えて、丘の頂の向こう側にいる長身の二つの影に近寄って行った。
それは、ハッフルパフ寮の6年生でクィディッチチームのキャプテンでシーカーのセドリック・ディゴリーとその父親だった。
おじさんは私達にエイモス・ディゴリー氏を紹介してくれた。
その後、移動キーが発動する時間まで雑談をしていたが、会話があまり愉快ではない…特にグリフィンドールのクィディッチチームの面々には…内容になってきた。
去年のクィディッチの試合でハリーがディメンターにやられて箒から落ちた試合の事を持ち出したのである。
アーサーおじさんは剣呑な雰囲気を感じ取り、そろそろ時間だと話題を変えた。
近くから他にともに会場に向かうべき魔法族がいない事を確認し、皆で移動キーに触れ…時間が来た。
私達は移動キーに吸い付けられるように引っ張られ、まるで十分な保護魔法なしに高空を飛んだかのように強い風に吹きさらされたかのような感覚に襲われた。
その感覚が収まった時、私はハーマイオニーの上に倒れこんでいた。
「5じ7ふ-ん。ストーツヘッド・ヒルからとうちゃーく」
そして、そんな気の抜けたアナウンスが聞こえた。
そこは移動キーの発着場の様であった。
係員らしい二人の魔法使い…マグルにしては、服装のルールがむちゃくちゃなので多分そうだろう…が疲れた顔で立っていた。
アーサーおじさんは係員の二人と話し、キャンプ地を聞くと私達についてくるように言った。
霧の立ち込めた荒れ地を20分ほど進むとキャンプ場らしきものが見えてきた。
そこで同行していたディゴリー親子…彼らはもう一つ先のキャンプ場らしい…と別れ、管理小屋に近づいて行った。
「アレでいいのね、テント」
「…取り締まる魔法省の人手不足か、認識不足か…その両方か…かしらね」
ハリーのアシスト付きでアーサーおじさんが管理人さんと話している間、私とハーマイオニーはキャンプ地を眺めていた。
霧の海に浮かぶテントは殆どどれも奇妙な物であった。その中にあっては煙突や呼び鈴、風見鶏が装着されている程度は可愛いモノである。
突如、ポンッという姿現しの音と共に気配が現れた。
私はとっさに杖をポケットの中で握ってそちらを向いた。
「オブリビエイト!忘れよ!」
姿現しで現れたニッカーボッカーズを履いた魔法使いは管理人さんに忘却呪文をかけたようであった。
「どうしたのかしら」
杖から手を放してポケットから手をだしながらハーマイオニーに問う。
「…多分、魔法に気付くか何かしてしまったんだと思うわ。
かわいそうに…このマグル対策のありさまじゃあ今まで何回忘却呪文をかけられた事やらわかったものじゃないわ」
ハーマイオニーはあきれたように言うとついてくるように合図しているアーサーおじさんの方へ寄って行った。
そして、ハーマイオニーの予想は当たっていた。
キャンプ場の門まで来るとニッカーボッカーズを履いた魔法使い…寝不足のようでクマが出来ている…がアーサーおじさんにボソボソと言った。
「あの男は中々厄介でね。忘却術を日に10回もかけないと機嫌が保てないんだ。しかも、ルード・バグマンがまた困りもので。あちこち飛び回ってはブラッジャーがどうの、クアッフルがどうのと大声でしゃべっている。マグル安全対策なんてどこ吹く風だ。まったく、これが終わったらどんなにほっとするか。それじゃあアーサー、またな」
それだけ言うとその魔法使いは姿くらましで消えた。
ジニーは、バグマン氏は『魔法ゲーム・スポーツ部』の部長…つまり魔法省の上級役人…なのにそんな事をするのか、と驚いたようにアーサーおじさんに言った。
アーサーおじさんは、バグマン氏は仕事熱心だが安全対策には少し甘いのだと言った。
「アーサーおじさん、このありさまならいっそ、キャンプ場にもマグル除けを施して管理人さんには出かけてもらって魔法省の人が管理人役をすればいいんじゃないんですか?」
ハリーがアーサーおじさんに言った。
「あーハリー、それはダメだ。まったくマグルがいないと…その、お祭り騒ぎが酷いことになる…過去に事例があってね…マグル安全対策という体で騒ぎを多少なりとも抑えているんだよ」
どうやら、あの管理人さん達はその為の生贄らしい。
「後、純粋にそれをするには人手が足りない…数人がマグルたちを遠隔監視して必要な時に駆けつければ、すべてのキャンプ場で雑用をする必要がなくなるからね」
そんな会話をしながら奇妙なテントの列を進んでいくとキャンプ場の一番奥に私たちがキャンプをするスペースが見つかった。
「最高のスポットだ!競技場はちょうどこの森の反対側だから、こんなに近い所はないよ」
アーサーおじさんは嬉しそうにそう言って肩にかけていたリュックを降ろした。
「魔法は、厳密に言うと、許されない」
アーサーおじさんはそう言うと、魔法なしでテントを立てる事を宣言した。
それは厳密には、正しいのだろうが半分くらいアーサーおじさんの趣味であるように私には思えた。
だが、問題はマグル育ちの三人…私、ハリー、ハーマイオニー…もテントを立てた事はなかった。
私達はテントの形とパーツを元に相談しながらポールをどこに立て、どこに杭を打ち、どのようにロープを張るべきか、解明していった。
そして実際に作業に移ったのだが…アーサーおじさんと来たら、マグル式でテントを立てる行為に興奮しきっており、役立たず所か足手まといであった。
それでも、暫く作業をするうちに、粗末な二人用テントに見えるものが二張り完成した。
これが本当にマグル式のテントであれば11人もこの中に泊まるのは不可能であるが、何かしらの魔法がかかっているんだろうと推測はしていたが、現実は想像を超えていた。
精々、空間拡張の魔法程度だと思っていたが、テントの中は古風なアパートになっており、寝室・バスルーム・キッチンの三部屋からなっていた。
少し大きい方のテントには2段ベッドが4つ、少し小さい方のテントには2段ベッドが2つ配置されていた。
その後、私達4人組(私、ハリー、ハーマイオニー、ロン)は水道まで水を汲みに行く事になった。他の面々は薪拾いらしい…テント内に竈があるのだから魔法火で簡単にやってしまえば?という提案はアーサーおじさんが拒絶した。
マグルが見れば奇妙に思うだろう光景…というかマグルが目撃したら通常であれば一発で忘却呪文のお世話になるような光景があちらこちらで繰り広げられているキャンプ地を進み、水道の場所までの道を進んでいくとアイルランドの魔法使い達のキャンプ地にたどり着いた。
「あれっ―僕の目がおかしいのかな。それとも何もかも緑になっちゃったのかな?」
ロンがそう言うのも無理はない。
そこは三つ葉のクローバーに覆われたテントの群れだった。それも、作り物ではなく本物のクローバーの。
「ハリー!ロン!アイリス!ハーマイオニー!」
背後から私達を呼ぶ声がした。
振り返るとそこには同寮で同学年のシェーマス、ディーン、それにシェーマスの母親らしき女性がテントの前に座っていた。
私達が近づいて挨拶をすると、シェーマスが言った。
「この飾り付け、どうだい?魔法省は気に入らないみたいだけれど」
「あら、国の紋章を出して何が悪いって言うの?ブルガリアなんか、あちらさんのテントになにをぶら下げているか見てごらんよ。あなたたちは、もちろん、アイルランドを応援するんでしょう?」
シェーマスの母親の言葉に、私達はイエスと言うしかなかった。
アイルランドのキャンプ地を後にした後、ロンは
「あの連中に取り囲まれていちゃ、他に何とも言いようがないよな」
と言っていたのが。
「ブルガリアのテントには、何がいっぱいぶら下がっているのかしら」
「見にいこうよ」
ハーマイオニーとハリーがそう言って、私達はブルガリア国旗が掲げられた大きなテント群に近づいてみる事にした。
確かに、そこと比べればクローバーの繁茂したテントはまだマシかも知れなかった。
ここのテント群にはあちこちに魔法界の人物ポスター…当然人物が動く…がそこかしこに無遠慮に張り付けられていた。
ロンが言うには、このポスターの気難し気な青年はブルガリアチームのシーカーのビクトール・クラムらしかった。
この様に多少の寄り道と滑稽な光景…花模様のネグリジェを着た年寄りの男性と魔法省の役人の服装に関する口論…があったが私達は無事に水を汲み、テントに戻ってきた。
帰り道は皆が動き出している事も有り、何人かの知り合いに出会ったが割愛する。
テントに戻ってくると、アーサーおじさんはマッチと遊んでいて火はまだついていなかった。
マグル式の着火具というオモチャに夢中になっているアーサーおじさんの様子を見ていると、マッチの持ち方が間違っていて、マッチを折るか、擦って火をつけてはそれを取り落としてしまっている様である。
ウィーズリー兄弟たちはその様子を笑ってみていたが、見かねたハーマイオニーがアーサーおじさんに正しいマッチの使い方をレクチャーした。
どうやらここはスタジアムへ向かう大通りにあたる道に面しているらしく、火を大きくしていく間、魔法省の役人たちが大勢テントの前を行きかった。
皆、アーサーおじさんに丁寧に挨拶を交わして通り過ぎていったが、その度にアーサーおじさんはその人がどの部署のだれなのか解説してくれた。
やっと火の準備ができて卵とソーセージを料理し始めた頃、ウィーズリー兄弟の姿現しができる組、ビル、チャーリー、パーシーが森の方からゆっくりと歩いてきた。
「パパ、ただいま姿現しました」
「ああ、丁度良かった。そろそろ昼食だ!」
昼食をとっていると、アーサーおじさんが急に立ち上がってニコニコと手を振った。
その視線の先には大股で近づいてくる男の魔法使いがいた。
「これは、これは!時のヒト!ルード!」
その人…ルード・バグマンはキャンプ地で見かけた誰よりも目立っていた。
たくましく鍛えられた体が少し緩んだ、という風体で潰れ鼻のバグマン氏は胸元に巨大なスズメバチが刺繍された黄色と黒の横縞のクィディッチ用のローブを纏っていた。
「よう、よう!わが友、アーサー」
興奮した様子でバグマン氏はアーサーおじさんに応えた。
バグマン氏は今晩の試合が楽しみでたまらないといった様子であった。
暫くは話をしていると、バグマン氏は賭けについて持ち出した。
アーサーおじさんはアイルランドの勝ちに1ガリオン、ジョージとフレッドが37ガリオン強…二人の全財産とだまし杖1本をアイルランドが勝利するが、ビクトール・クラムがスニッチをとる事に賭けた。
賭けの話が終わると、バグマン氏はバーティ・クラウチ氏…パーシーの上司で『国際魔法協力部』の部長…を探しているのだと言った。
ブルガリア側の責任者が何かを要求しているがその内容が理解できないらしかった。
パーシーがクラウチ氏の言語力について、バグマン氏は150の言語を話せると言ったがパーシーは魔法界の言葉…マーピープルのマーミッシュ語、ゴブリンのゴブルディグック語、トロールのトロール語などを含めて200言語以上話せると主張した。
それをフレッドが茶化した。トロール語など、指をさしてブーブーいうだけだ、と。
パーシーは不機嫌になり、焚火を乱暴にかき回した。
アーサーおじさんが話題を行方不明のバグマン氏の部下の魔女、パーサ・ジョーキンズの消息について変えた。
バグマン氏は一切心配した様子はなく、迷子になったのだろう、と気楽に言った。
それはアーサーおじさんが遠慮がちに捜索人を出したらどうだ、と提案しても変わらなかった。
クラウチ氏は常々そのように言っているらしいが、今はそんな余裕はないとバグマン氏は無視しているらしい。
そうこうしていると噂のクラウチ氏が姿現しでやってきた。
クラウチ氏はバグマン氏とは対照的に非の打ちどころのないスーツ姿の初老の男性だった。
短い銀髪の分け目は不自然なまでにまっすぐで、歯ブラシ上の口ひげはまるで定規を当てて刈り込んだようであった。靴もピカピカに磨き上げられており、ロンドン市内で見かけたならば銀行の頭取だと言われても疑わなかっただろう。
ただ、キャンプ地にはTPOがあっていない、マグルは魔法使いたちよりもTPOに気を遣うのだという1点においては、マグルを正しく理解できておらず、マグルになりきれていないと私は内心、評価した。もっとも、このクィディッチ・ワールドカップが外交の場でもある、という面からすればスーツ姿も間違ってはいないのだろうが。
「ちょっと座れよ、バーティ」
バグマン氏はそばの草むらをポンポン叩いて朗らかに言った。
「いや、ルード、遠慮する」
クラウチ氏は少しいら立っている様子で続けた。
「ずいぶん、あちらこちら君を探したのだ。ブルガリア側が、貴賓席をあと12席設けろと強く要求しているのだ」
「ああ、そういう事を言っていたのか。私はまた、あいつが毛抜きを貸してくれと頼んでいるのかと思った。訛りがきつくて」
2人の魔法省の部長の会話が一区切りついた時、パーシーがクラウチ氏にお茶をすすめた。
クラウチ氏はパーシーの誘いに乗ってお茶を貰うと返事した…ウェーザビー君、と呼ばれていたが。
その事にフレッドとジョージは飲みかけのお茶にむせてカップの中にゲホゲホとせき込んだ。
クラウチ氏はアーサーおじさんにアリ・バシールという魔法使いが空飛ぶ絨毯の英国への輸入禁止について話したがっていると言った。
アーサーおじさんはため息をついてつい先週、フクロウ便を送ったばかりであると言った。
貿易について色々ともめるのは魔法界もマグルたちも同じらしい。
空飛ぶ絨毯についての話題が終わると、バグマン氏がのどかに言った。
「ところで、バーティ、忙しくしているかね」
「かなり。五大陸にわたって移動キーを組織するのは並大抵の事ではありませんぞ、ルード」
クラウチ氏は愛想の無くそう答えた。
「二人とも、これが終わったらほっとするだろうね」
アーサーおじさんの言葉にバグマン氏は驚いた様子で言った。
「ほっとだって!こんなに楽しんだことはないのに…それに、その先も楽しい事が待ちかまえているじゃないか。え?バーティ、そうだろうが?まだまだやる事はたくさんある。だろう?」
だが、バグマン氏のその言葉は何らかの機密指定に接触する様で、クラウチ氏は眉を吊り上げて応えた。
「まだそのことは公にしないとの約束だろう。詳細がまだ―」
「ああ、詳細なんか!」
バグマン氏は煩い虫を追い払うかのように手を振った。
「みんな署名したんだ。そうだろう?みんな合意したんだ。そうだろう?ここにいる子供たちにも、どのみちまもなくわかることだ。賭けてもいい。だって事はホグワーツで起こるんだし―」
「ルード、さあ、ブルガリア側に会わないと」
クラウチ氏はバグマン氏の言葉を遮り、鋭く言った。
「お茶をごちそうさま、ウェーザビー君」
クラウチ氏は飲んでもいないお茶をパーシーに押し付けるように返し、バグマン氏が立ち上がるのを待った。
バグマン氏はお茶の残りをグイっと飲み干して立ち上がった。その際、ポケットの金貨がチャラチャラと楽しげに鳴った。
「じゃ、あとで!みんな、貴賓席でわたしと一緒になるよ―私が解説するんだ!」
手を振るバグマン氏と軽く頭を下げるクラウチ氏。二人とも同時に姿くらましで消えた。
「パパ、ホグワーツで何があるの?あの二人、なんのことを話していたの?」
フレッドがすかさず聞いた。
「すぐにわかるよ」
アーサーおじさんはそう言ってほほ笑んだ。
「魔法省が解禁する時までは機密情報だ。クラウチさんが明かさなかったのは正しいことなんだ」
パーシーが頑なに言った。
「おい、黙れよ、ウェーザビー」
フレッドが言った。
「…って事は今年の寮対抗クィディッチ杯が中止になる可能性がある、ってペチュニア伯母さんが言っていたのは本当になるかもしれないのか…」
ハリーがこの世の終わりかの様な様子で言った。
「「は?」」
ジョージとフレッドがあんぐりとした顔で言った。
「ど、どういう事だよ、ハリー」
「寮対抗クィディッチ杯が中止だなんて」
「母さん曰く、『ホグワーツでクィディッチよりも楽しい事が行われる計画があって、それが現実になればクィディッチの試合は全て中止になる。まあ、ハリーにとってはどちらが楽しいかは微妙かも知れないが』って」
「あー確かにそうなるかもしれないね、というか多分そうなる…が、とても楽しいイベントがホグワーツで実施される。それは保証しよう」
アーサーおじさんはそう言ってその話題を打ち切った。