ほんの数時間眠った後に、私達は皆アーサーおじさんに起こされた。
おじさんが魔法でテントを畳み、急いでキャンプ場を後にした。
途中、管理小屋の戸口にいた管理人さんは奇妙にどろんとした目で皆に手を振り、ぼんやりと「メリー・クリスマス」と挨拶をしたのにはギョッとした。
「大丈夫だよ」
移動キーポートに向けてせかせかと歩きながらアーサーおじさんは言った。
「記憶修正されると、しばらくの間はちょっとボケる事がある…それに、今度は随分大変なことを忘れてもらわなきゃならなかったしね」
移動キーポートに近づくとそこは大混雑していた。皆、一刻も早くこの場を離れたいのだろう。
アーサーおじさんは移動キーを管理している魔法省の役人に話をつけて、皆で列に並んだ。
そして、古タイヤ型の移動キーによって、私達は太陽が完全に昇り切る前には隠れ穴から出発した丘に戻ってきた。
そして、疲労困憊の身体を引きずって村を通り抜け、隠れ穴に戻ってきた。
そこには意外な人物がいた…母である。
どうやら、クィディッチ・ワールドカップでの事件を知って心配して来てくれたらしかった。
本来の予定では私とハリーはあと数日隠れ穴に滞在するだったが、保護者達の話し合いの結果、私達は母と共にコークワースの自宅に帰ることになった。
母曰く、アーサーおじさんが忙しくなるので、お邪魔しては悪い、という事だった。
そして、コークワースの自宅に帰る途中、漏れ鍋の個室で朝食を取ったのだが、父が同席した。
「アイリス、ハリー、無事でよかった…『闇の印』が打ち上げられたと知った時は気が気ではなかったぞ。それも犯人とニアミスしたとか」
情報がやけに早かった。
「情報の流れは魔法省の友人から私、私からセブルスだ。一応、魔法省の役人たちが『闇の印』の打ち上げ地点を包囲してからの一部始終は知っているが、お前たち視点で何があったのか、教えてほしい」
という事で、私達は昨晩のアーサーおじさんに夜中に起こされてからの事を話した。
「まったく…ドラコは…露骨な差別的発言をして見せる事は全くもって狡猾ではないと何度も指導したのだがな…」
全てを聞き終わった後、そう言って父は紅茶を飲んだ。
「まあ、アンタも内心、似たような思想を抱えている事が伝わっているんじゃないかい?」
母が言った。
「…一応、昔より、学生の頃よりは寛容になったつもりだがね?
特に、教員生活をしていて出来の悪い純血生徒を見るたびにそうなっていくよ」
そんな感じで両親の会話が弾む中、私は質問をぶつける事とした。
「ねえ、母さん、父さん。今年、ホグワーツで何があるの?魔法省の人たちは殆どみんな知っているみたいだったけれど」
その問に両親は顔を見合わせ、母は楽しそうに、父は苦々しく笑った。
「アレの事か」
「…まさかとは思うけれど、三大魔法学校対抗試合でも復活するとかいう訳じゃないよね?ペチュニア伯母さん、セブルス伯父さん?」
ハリーは状況に符合する中でなるべくありえなさそうな事を言ってみたつもりのようだった…が。
「そのまさか、だよ、ハリー」
それを母は肯定して見せた。
「…本気で言っている?あんな危険な競技を本気で再開させるつもり?」
「魔法省は本気の様だぞ。噂レベルではあるが英国魔法省はルーマニア魔法省に頼んでドラゴンを取り寄せる手配まで済ませている…伝統通りなら、三大魔法学校対抗試合の第一課題は怪物との対峙、だからね。おそらくそれに使うつもりだろう」
面白そうに母が言うのを父はむすっとして聞いていた。
「ドラゴンとの対決って…そんな無茶な」
ハリーが言った。
「でもないよ?ドラゴンは5X分類の生物の割には攻撃力がなく、かといって防御力は侮れない。よって、ドラゴンを番人に据えて宝物を奪取させる、くらいならば学生でもなんとかなるよ」
「ペチュニア、推測とは言え話過ぎだ。アイリスやハリーが出場したがったらどうする」
父が面白そうに話す母をたしなめた。
「今回は成人のみの参加だろう?それを望んでもアイリスたちは立候補できない…ダンブルドアが適切な場所に年齢線を敷いてその中にゴブレットを置けばそれでもう立候補は無理だ」
「まあ、それはそうだが…年齢線と炎のゴブレットの組み合わせには致命的弱点があるだろうが」
父が心配そうに言った。
「ああ、アレか」
母が応える。
「「致命的弱点?」」
「それは秘密だ。まあ、選手の選定が終わった後ならば教えてやってもいいけれどね」
母はそう言ってこの話題を終わらせた。
それから、学期が始まるまでの一週間、私達はロンドンの母のアトリエの地下に通った。
目的は母からの魔法レッスンだった。
「いいかい、アイリス、ハリー。情報の流れを統合すると、ハリーが聞いたという予言の時…『死喰い人の主』の復活の時は近いだろう。よって、お前たちは強くならなくてはいけない。備えなくてはならない」
「でも、僕達、まだホグワーツの外で魔法を使えないよ?魔法省が監視しているんでしょう?」
「ああ、それは問題ない。近くに成人した魔法使いがいれば、実質、やりたい放題だからね」
母はそう言って苦笑した。
「幾つかの速成教育と、それとは別にハリーには特別な盾の呪文を、アイリスには悪霊の火の使役をそれぞれ覚えてもらう。
この夏、閉心術の訓練も重ねて、秘密を守れるようになってきたからね」
「悪霊の火って…母さん、本気?」
「本気だとも。まあ、今年は初歩だけで、本格的なレッスンは来年の夏休みにするつもりだ…ああ、悪霊の火を活用した錬金術の技法もあるから来年の夏休みに一緒に教えよう…悪いがハリーはあまり闇の魔術への適性が高くない様だからもう少し成長した後に時間をかけて、だね」
「それは良いけれど、僕はなにを教えてもらえるの?」
「私が何年か前からちまちまと開発していたプロテゴ・エンジェリカという盾の呪文の改造呪文だ。こっちは、難易度は兎も角、危険ではないからホグワーツでも練習すると良い。何ならお友達にも教えても良い」
「プロテゴ・エンジェリカ?どういう呪文なの?」
「プロテゴに盾貫通呪文耐性を持たせて正統アップデートした上で、生きたいという気持ちを込めて死の呪文に対抗できるようにしたものだよ」
「…え?何それ、怖い。というかどうやったの」
「死の呪文を徹底的に解析して編み出した。
まあ、その為に、死の呪文で実験動物の死体の山をいくつも築くほど、死の呪文を使い慣れないといけなかったがね」
「…犠牲の石、いらなくない?」
「いや、犠牲の石は重要だ。複数回防ぐのは指数関数的に調整の難易度が上がるが、奇襲を防げる。そしてこの天使の盾の呪文は…熟練した闇の魔法使いの死の呪文に対して実用的な強度を得るのは有体守護霊習得並に難しい」
「「成程…」」
私とハリーは母の言葉に唸るようにそう言った。
「では、納得してもらった所で、早速レッスンだ」
と、いう事で私は母のどぎつい速成教育を受け、さらに悪霊の火の初級を、ハリーは母の開発したプロテゴ・エンジェリカという銀色の盾を出現させる呪文の初歩を、それぞれ習得した。
とは言え、私達はずっと母の魔術レッスンを受けていたわけではなく、ダイアゴン横丁に買い物にも行った。
そこで、私達はダンスロープを1着ずつ仕立てた…それは学用品リストに書いてあった。
三大魔法学校対抗試合をするならば必要なのはわかるが、あまり隠す気はないようだ。
現に、ダンスローブを仕立ててもらったマダム・マルキンの店のマダム・マルキンも今年、ホグワーツで何があるのか、噂レベルではあるようだが、知っていた。
そして休暇が終わっていつものようにキングズ・クロス駅の9と3/4番線にやってきた私とハリーは列車の中頃のコンパートメントを確保してロン達を待った。
少しして、ロンとハーマイオニーがホームにやってきたのでハリーが列車を降りて二人をコンパートメントに誘い入れた。
2人が荷物を置いた後、私たちはホームに降りた。アーサーおじさんとパーシーは仕事らしく来ていなかったが、モリーおばさんとビルとチャーリーが見送りに来ていた。
挨拶を交わした後、チャーリーがジニーを抱きしめながら言った。
「僕は、みんなが考えているより早く、また会えるかもしれないよ」
「どうして?」
フレッドが突っ込んだ。
「いまにわかるよ。僕がそう言ったって事、パーシーには内緒だぜ…なにしろ、『魔法省が解禁するまでは機密情報』なんだから」
まあ、正直、機密情報の割には管理がガバガバである。
「ああ、僕もなんだか、今年はホグワーツに戻りたい気分だ」
ビルはそう言って羨ましそうにホグワーツ特急を見た。
「どうしてさ?」
ジョージは知りたくてたまらない様子だった。
「今年はおもしろくなるぞ。いっそ休暇でも取って、僕もちょっと見物に行くか…」
ビルが目をキラキラさせてそう言った。
「だからなにをなんだよ?」
ロンが聞いた。
しかし、その時、ホグワーツ特急の汽笛が鳴り、モリーおばさんが皆を汽車のデッキに追い立てた。
「おばさん、泊めてくださってありがとうございました」
ホグワーツ特急の窓から身を乗り出してハーマイオニーが言った。
「私も楽しかったわ、娘が増えたみたいで…クリスマスにもハリーとアイリスを含め、お招きしたいけど、でも…ま、きっとみんな、ホグワーツに残りたいと思うでしょう。
なにしろ…色々あるから」
「ママ!」
ロンがいら立って言った。
「三人とも知っていて、僕達が知らない事って、なんなの?」
「今晩わかるわ。たぶん」
モリーおばさんが微笑んだ。
「とっても面白くなるわ―それに、規則が変わって、本当によかったわ―」
「「「何の規則?」」」
ロン、ジョージ、フレッドが一斉に聞いた。
「ダンブルドア先生がきっと話してくださいます…さあ、お行儀よくするのよ。ね?わかったの?フレッド?ジョージ、あなたもよ」
遂にホグワーツ特急が動き出した。
「ホグワーツで何が起こるのか、教えてよ!」
フレッドが窓から身を乗り出して叫んだ。
「何の規則が変わるのぉ?」
モリーおばさんはただ微笑んで手を振っていた。そして、ホグワーツ特急がカーブを曲がる前に姿くらまししてしまった。
私達はコンパートメントに入った。外は豪雨で殆ど景色は見えない、
ロンはトランクを開けて栗色のフリルのついたドレスローブを引っ張り出し、ピッグウィジョンの籠にかけて鳴き声を和らげた。
私は窓際の進行方向側を向く席につき、ハリーはその向かい、ハーマイオニーは私の隣、ロンはハリーの隣に座った。
「バグマンがホグワーツで何が起こるのか話したがっていた」
ロンが不満そうに口を開いた。
「ワールドカップのときにさ。覚えている?でも母親でさえ言わない事って、いったい何だと―」
「しっ!」
ハーマイオニーが突然唇に指をあてて、隣のコンパートメントを指さした。
耳を澄ますと聞き覚えのある気取った声…ドラコ・マルフォイの声が開け放したドアを通して流れてきた。
それは、本当はドラコの父は自身をダームストラングスに入れようとしていたが、母親の意向でホグワーツに来た、という話だった。
ハーマイオニーが忍び足で進んでいき、コンパートメントの扉を閉めた。
暫く、ダームストラング校について…闇の魔術に力を入れているとか…話した後に、魔法学校の情報隠蔽についての話になった。
その後は、今朝のウィーズリー家での出来事…マッド・アイ・ムーディが起こした騒動とそれに関する後処理についての密談…について聞いて、私達は皆が秘密にしている事、について明かした。
「三大魔法学校対抗試合?なんだい、それは」
「私も聞いた事がないわ…いいえ、どこかで読んだかも…ああ、そうよ、『ホグワーツの歴史』に少しだけ記述があったわ。確か、1792年の試合で審査員だったホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校の校長が三人とも課題のコカトリスに襲われて負傷したとか」
私はその本の記述についてそこまで詳しく覚えてはいなかったが、ハーマイオニーが言うならば、そう言う記述が載っていたのだろう。
「へぇ…それは危険で面白そうだ…どういう競技が行われるんだろう」
「ペチュニア伯母さんが言うには、伝統通りなら第一戦は怪物との対峙らしいよ」
「怪物との対峙…そりゃあ大変だ。もしかしてチャーリーが言っていたのはそれか?ドラゴンと戦わされるのか!?」
ロンが驚いた様子で言った。
「母さんはその可能性が高いと推測しているわ」
それからあれこれどんな課題が出るのだろうかとか、どのように代表を選考するのだろうか、とかいう話を昼食時までしていた。
車内販売でおやつと飲み物を買って昼食を取ってのんびり読書をしていると同級生たちが何人か尋ねてきた。
永延と続くクィディッチの話に私とハーマイオニーは早々に離脱して読書を再開した。
途中、ドラコ・マルフォイが手下二人を連れてやってきた。
「これを見ろよ!」
ロンがピッグウィジョンの籠にかけていたローブを取り上げて言った。
「ウィーズリー、こんなのを本当に着るつもりじゃないだろうな?言っとくけど―1890年代に流行した代物だ…」
「糞食らえ!」
ロンはマルフォイからドレスローブをひったくった。マルフォイは高々と嘲笑い、手下たちは馬鹿笑いした。
「それで…エントリーするのか、ウィーズリー?頑張って少しは家名を上げてみるか?賞金もかかっているしねぇ…勝てば少しはマシなローブも買えるだろうよ…」
私達は顔を見合わせた。おそらく、三大魔法学校対抗試合の事を言っているのだろうが、年齢制限の事を知らないのか?それとも単にそれを無視して嫌味を言いに来たのか?
「エントリーするのかい?君はするだろうねぇ、ポッター。見せびらかすチャンスは逃がさない君のことだし?」
「…マルフォイ、もしかして知らないのか?」
「何をだ、ポッター」
「今回のアレは規則が変わってエントリー資格があるのは成人の生徒…7年生と6年生の一部だけだぞ?どうせ、君のパパから対抗試合の事を聞いたんだろうけど、話をちゃんと聞いていなかったのかい?ダメじゃないか、話はちゃんと聞かないと…またケガするぞ?」
そう言ってハリーはマルフォイが去年バックビークに負傷させられた腕の辺りをさすって見せた。
マルフォイは真っ赤になったかと思うと、手下二人を引き連れてコンパートメントを出ていった。
夕方を過ぎて、私達は嵐のホームに降り立った。
「やあ、ハグリッド!」
ホームの向こう端に立つシルエットを見つけてハリーが叫んだ。
「ハリー、元気かぁ―?」
ハグリッドも手を振って叫び返した。
「歓迎会で会おう。みんな溺れっちまわなかったらの話だがなぁ!」
そう言ってハグリッドは一年生を引率して湖の方へ向かって行った。
「うぅぅぅ、こんなお天気のときに湖を渡るのはごめんだわ」
ハーマイオニーは身震いをしながらそう言って、私達は人波に乗って馬車乗り場に向かった。
馬車でホグワーツ城までやってきて、玄関ホールに入った。
その際、ピーブズの水風船攻撃があったが、まあ大して被害はない…元々皆、濡れ鼠なので。
びしょびしょのまま大広間に入って私達は席に着いた。
「素敵な夕べだね」
グリフィンドールのゴーストであるニックがそう笑いかけてきた。
「すてきかなぁ?早く組分け式にしてくれると良いな。僕、腹ペコだ」
靴の中の水を捨てながらハリーが言った。
その後、三年生のコリン・クリーピーが、弟が今年入学なのだと言い、ハリーに弟がグリフィンドールに入れるように祈ってくれるように頼んだ。
雑談をしながら暫く待っていると私達よりもひどく濡れた一年生の一団がマクゴナガル先生に率いられて大広間に入ってきた。
そして、教員席の方に進み…組分け帽子が置かれた。
組分け帽子が歌い、組分けが行われた…コリン・クリーピーの弟はグリフィンドールの後輩となった。
「いよいよだ」
ロンがカトラリーを握り、皿を見つめながら言った。
「みなに言う言葉は二つだけじゃ」
ダンブルドア先生が言った。
「思いっ切り、かき込め」
「いいぞ、いいぞ」
ロンをはじめ、何人かの生徒が大声で囃した。目の前の空っぽの皿が魔法で一杯になった。
私達が大皿から自身の皿に食事をとりわけるのをニックは恨めしそうに見ていた。
「あふ、ひゃっと、落ち着いラ」
ロンが口いっぱいにマッシュポテトを頬張ったまま、行儀悪く言った。
食事をしていると、ニックが厨房で問題を起こして危うく、御馳走が出ない所だったと言った。
私は温かいスープを飲みながらそれを聞いていた。
どうやら、ピーブズが厨房で暴れて屋敷しもべ妖精たちがとても怖い思いをしたそうだ。
それを聞いてハーマイオニーはピクリとした。
ハーマイオニーはウィンキーの一件以来、屋敷しもべ妖精の権利拡大について熱を上げていた。
ホグワーツ特急でもその話題が出た。ハーマイオニーに私とハリーは、屋敷しもべ妖精たちの権利拡大運動は構わないが、あまり過激にやらない様にとやんわり諭しながら厨房で働く屋敷しもべ妖精たちの事を話していた。
「そう言えば、ホグワーツの厨房では屋敷しもべ妖精が働いているって聞いたけれど、どれくらいいるの?私、一人も見た事がないわ」
「100名以上いるはずです。日中は厨房で働き、夜になると掃除をしたり火の始末をしたり…つまり姿を見られないように働くのです。実に良い屋敷しもべである証拠です、存在を気づかれないようにするのは」
ハーマイオニーは食事の手を止め、なにやらブツブツとつぶやき始めた。どうやら、ホグワーツで屋敷しもべ妖精たちの作ったごちそうを食べる事は、奴隷労働に対する賛同にあたるのか否か、考えている様子だった。
「ハーマイオニー、そんなに彼らの事が気になるなら、明日の放課後、一緒に厨房に行きましょう。
彼らと話をしてみるといいわ。少なくとも、ダンブルドア先生は彼らのよき主人であり、ドビーやウィンキーの様に理不尽な扱いは受けていないわ」
「本当?でも、お給料も、お休みもないし、病欠とか、年金とか色々もないんでしょう?それが正当と言えるのかしら」
「貴女が何を持って彼らの扱いが正当であるとみなすか、にもよるけれど…これだけは言える。マグル社会における奴隷制や社会保障の問題を参考にするのは構わないけれど、それとは別種の問題として認識するべきよ、ハーマイオニー。彼らはヒトとは異なる文化・価値観を持った別種の生物なのだから」
「でも…それは…他者を、感情と知性を持つほかの生き物を虐げていい理由にならない」
ハーマイオニーが絞り出すように言った。
「そうね、ハーマイオニー。そこは賛同するわ。でも、まずは彼らの文化と価値観と向き合いましょう、それから、彼らと一緒に考えるべきよ。何が彼らにとって本当に必要であるかを」
ふとハリーの方を見ると心配そうに食事の手を止めて私とハーマイオニーの話を聞いているのがわかった。
「ハリー、食事を続けていいわよ。ほら、ハーマイオニーも食べましょう?お腹空いているでしょう?せっかく厨房のみんなが作ってくれたんだから、感謝していただきましょう?」
「…そうね、アイリス。貴女と話していてアイデアが浮かんできたわ…図書館で調べ物をして、実際に彼らと話して…そしてそれからそのアイデアを形にするわ」
ハーマイオニーはそう言って食事を再開した。
食事とデザートが終わり…いつものようにハリーは糖蜜パイをたらふく食べた…ダンブルドア先生が立ち上がった。
「さて!みなよく食べ、よく飲んだことじゃろう」
ダンブルドア先生はそう言った後に連絡事項の告知を始めた。
まず、校内持ち込み禁止品について、いくつか追加がある事を告げた。
次に、校内の森への生徒の立ち入り禁止の確認とホグズミード村への3年生までの外出禁止が告げられた。
その次はクィディッチの寮対抗試合の取りやめを宣言した。
その詳細について説明を始めた時、耳をつんざく雷鳴とともに、大広間の扉が開いた。
戸口には一人の年配の魔法使いが立っていた。長いステッキに寄りかかり、黒い旅行マントを纏っていた。
その男性は教職員テーブルに向けて歩を進めた。その顔中傷だらけで鼻の大きく削がれた男の目は片方が魔法の義眼の様だった。
その男はダンブルドア先生の所まで進むと握手をして何か言葉を交わした。
男は残っていたソーセージの皿を引き寄せると顔の高さまで持ち上げて匂いを嗅いだ。そして、マントのポケットからナイフを取り出してソーセージを突き刺し、食べ始めた。
「『闇の魔術に対する防衛術』の新しい先生をご紹介しよう。ムーディ先生です」
ダンブルドア先生がそう言うと、ダンブルドア先生とハグリッドだけが拍手をした。
「ムーディ?マッド・アイ・ムーディ?今朝、アーサーおじさんが助けに行ったって言う、元闇祓いの?」
ハリーがロンに言った。
「そうだろうな」
ロンが応えた。
「あの人、いったいどうしたのかしら?あの顔、いったい何があったの?」
ハーマイオニーがささやくようにいった。
「多分、全部、呪いの傷よ。ただの傷跡なら魔法で簡単に治るもの…呪いで負った傷は治りが悪いし、丁寧に手当てしないと長く残るというわ」
私はそう囁き返した。
ダンブルドアが咳払いをして、クィディッチの寮対抗試合の中止の詳細説明を再開し…ホグワーツで三大魔法学校対抗試合が開催されると宣言した。
「ご冗談でしょう!」
フレッドが大声を上げた。ムーディの登場以来、大広間に満ちていた緊張感が急に解けた。
ほとんど全員が笑いだし、ダンブルドア先生も絶妙の掛け声を楽しむように、フォッフォッと笑った。
「ミスター・ウィーズリー、わしはけっして冗談など言っておらんよ」
その後、ダンブルドア先生は何かしらのジョークを披露しようとして、マクゴナガル先生に止められ、三大魔法学校対抗試合の説明に入った。
その内容を列挙すると以下の通り。
三大魔法学校対抗試合とは、約700年前にヨーロッパの三大魔法学校…ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの3校…の間で始まった親善試合の事である。
各校1名の代表選手が3つの競技を競う。
5年毎に各校が持ち回りで開催。
但し、その危険な競技ゆえにおびただしい死者が出て協議が中止された。
何世紀かの間、何度も再開が試みられてきたが、今まで成功しなかった。
しかし、遂に、英国魔法省の『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』が主体となって動いた結果、安全対策を実施する条件で再開が決まった。
10月に他の2校の校長が校内選考で選ばれた候補を連れて来校し、ハロウィーンの日に選考が実施される。
優勝賞金は1000ガリオン。
「立候補するぞ!」
フレッドがそこでそう宣言したが、ダンブルドア先生は続けた。
今大会は年齢制限が設けられ、17歳以上の生徒だけが代表候補として名乗りを上げる事が許される。
年齢制限に満たない者が立候補しないように、ダンブルドア先生自身が目を光らせる。
そして最後に客人たちに礼儀と厚情を尽くすようにと述べてダンブルドア先生は私達に就寝するように言って着席した。
フレッドとジョージは教職員席を睨みつけて文句を言ったがハーマイオニーにせかされて玄関ホールに出た。
そこから寮に向かう途中、ジョージとフレッドを含む私達は審査員について議論を始めた…が、ハリーが早々に炎のゴブレットという魔法具が審査員で、母はダンブルドア先生が直々に年齢線を敷くだろう、と推定していることをばらしたので議論は年齢線の超え方になった。
途中、ネビルが合流して悪戯階段にハマるというアクシデントもあったが、私達は寮にたどり着き、解散した。
「ねえ、アイリス、大広間で話していた事なんだけれども」
部屋への階段をのぼりながらハーマイオニーが言った。
「ああ、屋敷妖精の権利問題についての事?」
「ええ。まずは調べ物をして、彼らの事を知って、話してみて、それからマグル社会の社会運動を参考にできる事を考えたいの」
「うん、いいことだと思うわ」
「それで…もちろん、マダム・ピンスにも聞くけれど…おすすめの本とか、あるかしら」
「そうね…古典をあたるならまずはヘルガ・ハッフルパフの伝記にある記述かな。
彼女の慈悲深さを現わすエピソードの一つに多くの虐待されていた屋敷妖精をホグワーツに保護した事が挙げられていたはず。
他は家政学の本を読めば魔法族の上流階級向けの本には屋敷妖精の扱い方について記述があると思う。
あとは…魔法生物に関する本で『存在』について扱った本を調べるとか?
あ、それとアーサーおじさんも屋敷妖精の扱いについては思う所がある様な感じだったから、屋敷妖精の扱いについて聞く手紙を書いてみるのもいいかもね」
そう答えながら私は部屋の扉を開いた。
「ありがとう、アイリス。明日早速調べてみるわ」
という事になり、私達は寝間着に着替えてベッドにもぐりこんだ。