翌日の最初の授業は『薬草学』で、ニキビ取りの薬に使用するブボチューバー、腫れ草の膿絞りだった。
その次の授業は『魔法生物飼育学』で…ハグリッドがどこかから手に入れた…創り出したのではないと思いたい…珍種、『尻尾爆発スクリュート』が好む餌を調べる作業だった。
速やかに殺処分しておく事が好ましい様に思ったが、授業なので仕方なく、餌探しをする事にした。
私とハリーは常に持ち歩いている自前のドラゴンの皮の手袋をつけて…羨ましそうにしていたので、ハーマイオニーとロンに片方ずつ貸した…色々な餌を与えてみたがどれもこれも食いつきが悪い。というか、こいつら、口があるのだろうか。
しかし、生徒の多数は保護手袋など持ち歩いておらず、素手でその作業をしていた。
結果、火傷した生徒が続出した。
そして、この奇形の生物はハリか吸盤を持っており、それらは血を吸う為じゃないか、とハグリッドは言った。
「おやおや。僕達がこいつらを生かしておこうとしているのか、これで僕にはよくわかったよ。火傷させて、刺して、噛みつく。これが一度にできるペットだもの、だれだって欲しがるだろ?」
マルフォイがそう皮肉った。
ハーマイオニーが可愛くないから役に立たないとは限らない、ドラゴンの血は素晴らしい魔力があるが、だれもドラゴンをペットにしたいとは思わない、と言い返しはしたがマルフォイを黙らせるための理論である事は明らかであった。
昼食のメインはラムチョップだったが、ハーマイオニーはそれを何日も食べていなかったかのようにかきこむように食べた。
図書室に行くと言って早々に大広間を出ていったハーマイオニーを見送った後、ゆっくり食事をとった私達は占い学の授業に向かった。
で、今学期は占星術について学ぶ事になった様子である。
ハリーがまた、トレローニー先生に恐れている事は必ず、想定より早く起こる、と言われた。
ハリーが恐れている事を強いてあげれば、『死喰い人の主』の復活なのだが。
その後、自分が生まれた時の星座図の作成をして、その日の授業は終わった…が、恐らくロンの下品な言葉遊びがトレローニー先生の耳に入ったのが原因で大量の宿題が出た。
この時の先生の雰囲気と言ったら、いつもの雰囲気とは打って変わって、マクゴナガル先生の様なきっぱりとした言い方だった。
夕食に向かう途中、ハーマイオニーが合流した…数占いでは宿題が出なかったらしい。
そして…玄関ホールでマルフォイとその手下が声をかけてきた、ロンに。
どうやら、今朝の新聞記事について絡んできたようである…情報が遅い。いや、実家から送られてきたと思えばこんなものか。あるいは人目の集まる時間を選んだか。
マルフォイは演説原稿でも読むかのような調子で記事を読み上げた。
記事をアーサーおじさんの名前の誤記…アーノルド・ウィーズリーと書かれている…を揶揄するアーサーおじさんを馬鹿にする発言を挟んでマルフォイは記事全文を読み上げた。
要するに、マッド・アイ・ムーディが起こした騒動にアーサーおじさん…と言うか魔法省がかかわったことを非難する記事だった…いや、放置したら耄碌した魔法使いのやらかしを放置して大規模な記憶修正が必要になる事態になったという非難記事を書くだろう、と私は心の中でツッコミを入れた。
で、それはマッド・アイ・ムーディを非難する事でダンブルドア先生を非難したいのかと思ったがマルフォイの様子が違った。
マルフォイときたら、ウィーズリー夫妻が隠れ穴の前で写真に写っているのが掲載されているといい、モリーおばさんをデブだと馬鹿にした。
「マルフォイ、君の母親はどうなんだ?」
ロンが飛び掛かって行かないように抑えながらハリーが言った。
「あの顔つきはなんだい?鼻の下に糞でもぶら下げているみたいだ。いつも、あんな顔しているのかい?それとも単に君がぶら下がっていたからなのかい?」
それはマルフォイの母親のクィディッチ・ワールドカップ会場貴賓席での表情を皮肉りつつ、ドラコ・マルフォイが糞の様な悪臭を放っていると言っているに等しかった。というか、英国人なら確実にそう理解する。
「僕の母上を侮辱するな、ポッター」
「それなら、その減らず口を閉じとけ」
そう言ってハリーは私だけにわかる程度の目配せで合図をするとマルフォイに背を向けた。
直後、マルフォイが杖を抜いてハリーに向けて呪文を行使した。
その照準はハリーにかするかどうかという程度の甘い物ではあったが、私はそれを盾の呪文で防いだ。
ハリーがしてやった、といった表情で杖を抜いて再びマルフォイに向き直った瞬間、別方向から飛んできた呪文がマルフォイを捉えてケナガイタチに変身させた。
「若造、卑怯な事をするな!」
そう吠えるように言う声の主はムーディ先生で、杖を震えるケナガイタチと化したマルフォイにつきつけながら階段を降りてきていた。
「フム…油断大敵、といいたい所だが謀ったのか?」
「あーえっと…」
ハリーが言いよどんでいるとムーディ先生が叫んだ。
「触るな!」
「触るな、とは…何にでしょうか?」
「お前ではない―あいつだ!」
ムーディ先生は親指でぐいと背後を指した…その先にはケナガイタチを拾い上げようとするマルフォイの手下がいた。ああ、あの魔法の義眼が白目をむくのは視界を切っているのではなくて背後を透視しているのか…ローブに対抗呪文を施しておくとしよう。
それはさておき、ムーディ先生がマルフォイたち三人に向かって歩きだすとマルフォイはキーキーと怯えた鳴き声を上げながら地下牢の方にさっと逃げ出した。
「そうはさせんぞ!」
ムーディ先生はマルフォイを魔法で空中に2,3メートル跳ね上げた…そしてマルフォイが床に落ちた反動で跳ねる。
「謀られた、とは言え敵が後ろを見せた時に襲う奴は気にくわん。鼻持ちならない、臆病で、下劣な行為だ…二度と―こんな―ことは―するな―」
ムーディ先生は何度もマルフォイを跳ね上げては落下させ、痛みで覚えさせるようにマルフォイに刻みつけた。
その有り様に、わたしも、ハリーも、玄関ホールの他の皆も呆然としていた。
「ムーディ先生!」
腕いっぱいに本を抱えたマクゴナガル先生が階段を降りてきて、その光景を目撃した。
ショックを受けている様子である。
「やあ、マクゴナガル先生」
ムーディ先生は体罰を続けながら落ち着いた声で挨拶した。
「な―なにをなさっているのですか?」
「教育だ」
「教―ムーディ、それは生徒なのですか?」
叫ぶような声と共にマクゴナガル先生の腕から本がボロボロこぼれ落ちた。
「さよう!」
「そんな!」
マクゴナガル先生はそう叫ぶと階段を駆け下りながら杖を抜き、マルフォイを人間に戻した。
まあ、当然といえば当然だが、マルフォイは無様に床に這いつくばっていた。
「ムーディ、本校では、懲罰に変身術を使う事は絶対ありません!ダンブルドア校長が、そうあなたにお話ししたはずですが?」
マルフォイがひきつった顔で立ち上がるのと同時に、マクゴナガル先生は困り果てたようにそう言った。
「そんな話をされたかもしれん、ふむ」
ムーディ先生はそんな事はどうでもよい、と言いたげに顎を掻いた。
「しかし、わしの考えでは、一発厳しいショックで―」
「ムーディ!本校では居残り罰をあたえるだけです!さもなければ、規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」
「それでは、そうするとしよう」
ムーディはマルフォイを嫌悪の眼差しで睨んだ。
マルフォイは気丈にも何か…父上に言いつけてやる、というような事を言ったようだった。
「ふん、そうかね?」
ムーディ先生は数歩前に進み出ていった。
「いいか、わしはお前の親父殿を昔から知っているぞ…親父に言っておけ。ムーディが息子から目を離さんぞ、とな…わしがそう言ったと伝えろ…さて、お前の寮監は、たしか、スネイプだったな?」
「そうです」
マルフォイは悔しそうにそう答えた。
「奴も古い知り合いだ…懐かしのスネイプ殿と口を利くチャンスをずっと待っていた…こい。さあ…」
そうしてムーディ先生はマルフォイの腕をつかみ、地下牢に向けて引っ立てていった。
その様子をマクゴナガル先生はしばらくの間、心配そうに見ていたが、やがて杖を一振りして本をうかせて回収した。
玄関ホールでの出来事について話ながら夕食のビーフシチューを食べていると…ハーマイオニーはまたかき込むように食べて図書室に向かった…フレッドとジョージとジョーダン先輩がやってきた。
「ムーディ!なんとクールじゃないか?」
「クールを超えているぜ」
「超クールだ」
三人はそう言いながら席につき、ビーフシチューを取り分け始めた。
「午後にムーディの授業があったんだ」
ジョーダン先輩がそう話しかけてきた。
「どうだった?」
ハリーが返すと三人組はたっぷりと意味ありげな目つきで顔を見合わせた。
「あんな授業は受けたことがないね」
「参った。わかっているぜ、あいつは」
「わかっているって、なにが?」
ロンが身を乗り出して聞き返す。
「現実にやるってことがなんなのか、わかっているのさ」
「やるって、なにを?」
ハリーも興味津々で聞いた。
「『闇の魔術』と戦うってことさ」
「あいつは、すべてを見てきたな」
「すっげえぞ」
そう三人組が言うのを聞きながら私はパンを口に運んだ。
「あの人の授業、木曜までないじゃないか!」
ロンはそう、がっかりしたような声を上げた。
それから、木曜日まで、特に何事もなく過ぎていった…しいて言えば、いつもより機嫌の悪いスネイプ教授がまた魔法薬学の授業で失態をやらかしたネビルにお説教をしたくらいか。
そしてついにムーディ先生の授業の時間がやってきた。
私達、グリフィンドールの4年生は、相変わらず屋敷妖精関係の調べ物で図書室通いをしているハーマイオニー以外は、昼食が終わると始業のベルが鳴る前に教室前に列を作っていた。
ハーマイオニーも始業のベルが鳴るより早くやってきて、私達と共に列に加わった。
私達4人はさっと最前列の席を取った。皆、神妙な様子で先生を待っているとムーディ先生の特徴的な義足の足音が聞こえてきた。
「そんな物、しまってしまえ」
少しして、ムーディ先生がぬっと教室に入ってくるなり、そう言った。
そして、机に向かい、腰を下ろすと続けていった。
「教科書だ。そんなものは必要ない」
ムーディ先生は皆が教科書を鞄にしまったのを確認すると、普通の目と魔法の義眼を器用に使い分けて出席を取った。
そして、魔法使い達の呪い合いについて、私達が非常に遅れており、最低線まで引き上げる事を1年の持ち時間で行う、と宣言した。
ロンが思わず、ずっといる訳ではないのか、というようなことを口走った。
どうなることかと緊張が走ったが、ムーディ先生は(おそらく)微笑んだ。
そして、アーサーおじさんのおかげで数日前に窮地を脱したといい、1年で隠遁生活に戻る、と言った。
そして演説を再開…まあ要するに、私達に『闇の魔術』についての実物をみせて対抗できるようにする…と言うような事を云った。そして最後に、机の下でパーバティに天宮図見せていたらしいラベンダーに注意をした。
「さて…魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文はなにか、知っている者はいるか?」
パラパラと中途半端に手が上がる…3つの許されざる呪文の事だと踏んで私とハリーも挙手しようとしたが、ロンが珍しく挙手しているのを見てやめた。
ムーディ先生がロンを指名すると、ロンは自信なげに答えた。
「ええと、パパが1つ話してくれたんですけど…たしか『服従の呪文』とかなんとか?」
「ああ、そのとおりだ」
ムーディ先生が褒めるように言った。
「お前の父親なら、たしかにそいつを知っているはずだ。一時期、魔法省をてこずらせたことがある。『服従の呪文』はな」
ムーディ先生は立ち上がり、机の引き出しを開け、ガラス瓶を取り出した。
その中には生きた黒い大蜘蛛が閉じ込められていた。
ムーディ先生はその中の一匹を取り出すと掌に載せて皆に見えるようにして、杖を蜘蛛に向けた。
「インペリオ!服従せよ!」
蜘蛛はムーディ先生の掌から糸をだしながら飛び降りると空中ブランコの様に揺れて机にダイブして、踊り始めた。
その様子を皆は笑った…私とハリーとムーディ先生以外、皆が。
私とハリーは夏休みにネズミで似たショーを見せられていたので無感動に見ていた…と言うか、そのネズミのショーの最後が焼身自殺だったので、趣味が悪い出し物を見せられている気分だった。
「おもしろいと思うか?」
ムーディ先生は低くうなった。
「わしがお前たちに同じ事をしたら、喜ぶか?」
笑い声が一瞬にして消えた。
「完全な支配だ」
知っている。母の合法魔法薬…疑似的に服従の呪文にかかったかのような状態になる新種の魔法薬…で体験しているのでこの呪文の支配の強烈さは知っている。なお、そんな物が合法な理由は、魔法省がその存在を知らない新発明な為、規制されていないからである。
「わしはこいつを、思いのままにできる。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、だれかの喉に飛び込ませることも…
何年も前になるが、多くの魔法使い達がこの『服従の呪文』に支配された。
だれがむりに動かされているのか、だれが自らの意志で動いているのか、それを見分けるのが魔法省にとってひと仕事だった。
『服従の呪文』と戦うことはできる。これからそのやり方を教えていこう。しかし、これには個人の持つ真の力が必要で、だれにでもできるわけではない。できれば呪文にかけられぬようにするほうがよい。油断大敵!」
突然のムーディ先生の大声に皆、跳び上がった。
ムーディ先生は蜘蛛をガラス瓶に戻すとまた質問をした。
「ほかの呪文を知っている者はいるか?なにか禁じられた呪文を?」
ハーマイオニーの手が高く上がり、ネビルの手も上がった。
ネビルの勇気に敬意を表して再び私達は上げかけた手を下げた。
「なにかね?」
ムーディ先生はネビルを指名した。
「一つだけ―『磔の呪文』」
ネビルは、小さな、しかしハッキリと聞こえる声で答えた。
「おまえはロングボトムという名だな?」
ムーディ先生の問いに、ネビルはおずおずと頷いた。
ムーディ先生は二匹目の蜘蛛を取り出すと机の上に置いた。
「『磔の呪文』…それがどんなものかわかるように、少し大きくする必要がある」
そう言ってムーディ先生は蜘蛛に杖を向けた。
「エンゴージオ!肥大せよ!」
大きく膨れ上がった蜘蛛にロンは恥も外聞もかなぐり捨てて椅子を引き、距離を取った。
「クルーシオ!苦しめ!」
すると蜘蛛が七転八倒し、痙攣し始めた。蜘蛛の気持ちがすごくわかる。磔の呪文はすごく苦しい。これも母の魔法薬で体験済みである。
「やめて!」
ハーマイオニーが金切り声をあげた。
ハーマイオニーの視線をたどると、ネビルが机の上で指の関節が白く見える程ぎゅっと拳を握りしめて、恐怖に満ちた目を大きく見開いていた。
「レデュシオ!縮め!」
ムーディ先生は蜘蛛を縮めると瓶に戻した。
「苦痛…『磔の呪文』が使えれば、拷問に『親指締め』もナイフも必要ない…これも、かつてさかんに使われた。
よろしい…ほかの呪文をなにか知っている者はいるか?」
三度、ハーマイオニーは挙手をしたが、ハーマイオニーの手は少し震えていた。
それを見て、わたしとハリーは大きく手を上げた。
「フム…ではエヴァンズ」
「はい。『アバダ・ケダブラ』、死の呪文です」
私のいつもの授業と全く変わらない様子の回答に何人かの生徒がギョッとした様子であった。
「その通り…最後にして最悪の呪文。『アバダ・ケダブラ』…死の呪いだ」
ムーディ先生は3匹目の蜘蛛を取り出すと机に置いた。
蜘蛛は必死に逃げようとしたが無駄だった。
「アバダ・ケダブラ!」
ムーディ先生の声が轟き、蜘蛛が死んだ。
それは見慣れた光景だった…犠牲の石の実験で、母が何ダースもの…いやグロスを超えるネズミをこの呪文で殺すか、魂を毀損させたのを見てきた。
「よくない。気持ちのよいものではない。しかも、反対呪文は存在しない。防ぎようがない。
これを受けて生き残った者は、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている」
そう言ってムーディ先生は両目でハリーを見据えた。皆の目もハリーを見た。
暫くして、ムーディ先生が口を開いた。
「『アバダ・ケダブラ』の呪いの裏には、強力な魔力が必要だ―お前たちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱えた所で、わしに鼻血すら出させることなどできるものか。しかし、そんなことはどうでもよい。わしは、おまえたちにそのやり方を教えにきているわけではない」
そう言うムーディ先生の言葉には大事な要素が抜けていた。
『アバダ・ケダブラ』の本質は相手に対する殺意を魔力に込めて魂を破壊する事だと母は言っていた。
つまり、『アバダ・ケダブラ』の行使には強い魔力だけではなく、強い殺意も必要である。
「さて、反対呪文がないなら、なぜおまえたちに見せたりするのか?
それは、お前たちが知っておかなければならないからだ。
最悪の事態がどういう物か、おまえたちは味わっておかなければならない。
せいぜい、そんなものと向き合うような目に合わぬようにするんだな。
油断大敵!」
ムーディ先生の声が轟き、またみな跳び上がった。
「さて…この3つの呪文だが―『アバダ・ケダブラ』、『服従の呪文』、『磔の呪文』―これらは『許されざる呪文』と呼ばれる。同類であるヒトに対してこのうちどれか一つの呪いをかけるだけで、アズカバンで終身刑を受けるに値する。
おまえたちが立ち向かうのはそう言う物なのだ」
これが母がわざわざ新魔法薬を即興で開発して私達に服用させた理由である。
万一、事が露見しても魔法省が母を捕縛する理由を与えないように、という事であった。
「そう言うものに対しての戦い方を、わしはお前たちに教えなければならない。
備えが必要だ。武装が必要だ。
しかし、何よりもまず、常に、絶えず警戒する事の訓練が必要だ。
羽ペンを出せ…これを書き取れ」
そこからの授業は、『許されざる呪文』についてとそれにどのように警戒するべきか、という事についてノートを取ることに終始した。
授業が終わり、ムーディ先生の監督下から解放されると皆がわっと話し出した。
皆、まるで素晴らしいホラーショーか何かの感想であるかのような調子で言葉を紡いでいた。
まあ、体験させられたわけでもなく、安全に『許されざる呪文』を見られた事に対してはそう言う反応でも仕方ないのかな、と思った。
そうこうしていると、ハーマイオニーに促されて私達は様子のおかしなネビルを見つけた。
明らかに挙動不審なネビルは…最終的にムーディ先生にお茶を飲みに、と連れ去られて行った。
途中、ハリーがお前は大丈夫だな、と言われた事でネビルの両親も許されざる呪文の餌食になったのであろう、と推定できた…彼は祖母に育てられている。
夕食に向かう途中、ロンが多数派と同じ様な今日の授業をショーか何かと認識している様な言動を発したが、ハリーの顔を見て黙り、私達はほぼ無言で大広間に向かった。
そしていつものようにハーマイオニーが食事をかき込んで食べるのを見送ってから他愛のない会話をしながら夕食をとった。
私が図書室に寄って寮に戻ると談話室ではハリーとロンが占い学の宿題を始めていた。
私は寝室に戻って教科書を取るとそれに加わった。
約一時間後、宿題はあまり進んでいなかった。
「うーん…一応理論的な計算はなんとなくできてきたけれどこれからどう落とし込んでいこう」
「ここからは感性の問題なんだけれど…私はあんまり得意ではない分野ね」
「二人がそうなら、『まさかのときの占い学』に走るしかないな」
そう言ったロンの髪はイライラで何度も搔きむしっていたせいで逆立っていた。
「えっと…つまり?」
「でっちあげるのさ」
そう言うなり、ロンは今までの成果が記されているであろうメモの山を払いのけて羽ペンにたっぷりのインクを吸わせて羊皮紙に向かった。
「来週の月曜日…火星と木星の『合』という凶事により、僕は咳が出始めるであろう」
ロンは羊皮紙に書きなぐりながらその内容を読み上げた。
「あの先生のことだ、とにかく惨めな事をたくさん書けば喜ぶだろ、それで十分さ」
「…まあ、それはそうだろうね。計算結果からの連想ゲームで不幸を書き連ねていくとしよう」
ハリーはロンの提案に半分乗り、計算結果をもとに連想ゲームで宿題をでっち上げ始めた。
私はしばらくその様子を呆れて見ていたが、結局は似た事を始めざるを得なかった…目立つ運命の兆候を記し、それからもしかしたらこうなるかも、程度の事を連想ゲームででっちあげていった…初めて見ると案外これが楽しかった。
さらに1時間ほど経過した頃、クルックシャンクスがどこからともなく現れた。
そして、私達が宿題で遊んでいるのを一瞥すると、それをハーマイオニーが知ったらするであろう様な顔をした。
「クルックシャンクス、占い学って才能が無ければこう言うものよ。仕方ないじゃない」
私がそう言うとクルックシャンクスはあきれたようにニャーと鳴いた。
それから15分程度たった頃、ハーマイオニーが帰ってきた。
「こんばんは、遂にできたわ!」
「僕もだ!」
ハーマイオニーがやり遂げたという顔をして言ったのに対して、ロンも同じようにやり遂げたという顔をして羽根ペンを放り出した。
ハーマイオニーはロンの隣、私の向かいに座ると持っていた物を隣の肘掛椅子に置き、ロンの宿題を引き寄せた。
「すばらしい一か月とはいかないみたいですこと」
ハーマイオニーは皮肉たっぷりに言った。
「アイリスとハリーも似たようなモノ?」
「まあ、最終的にはね。天宮の運航計算結果にこじつけながら連想ゲームをするのは結構楽しかったよ」
「まあ、意外と楽しくはあったわね。本物の占い師ならもっと上手い事できるんでしょうけれど」
ハリーの言葉に私も同意した。
ハーマイオニーは先ほどクルックシャンクスがしたような顔をして私達を非難するように見た。
「で、ハーマイオニーの方は?できたって事は屋敷妖精の件で一定の成果が上がったんでしょう?」
私はそう言って話題を変えた。
「その通りよ!大まかな活動方針と組織名を決めてそのバッチを作ったの、見て」
そう言ってハーマイオニーは談話室にもって入ってきた箱を開け、中身を見せた。
中身は50個ほどのバッヂであった。それはどれも黄色地に黒文字でS.P.E.W.と書かれていた。
「SPEW(反吐)…じゃないよね?」
ハリーがバッチを1つ取って観察しながら言った。
「もちろん。Society for the Promotion of Elfish Welfare(しもべ妖精福祉振興協会)の頭文字よ」
「聞いたことないなあ」
「当然よ、私が始めたばかりです」
「へぇ?メンバーは何人いるんだい?」
「そうね―3人が入会すれば―4人」
「それじゃあ、僕達が『反吐』なんて書いたバッチを付けて歩き回ると思っているわけ?」
私とハリーはハーマイオニーとロンの会話を黙って聞いていたが、そこは同意したかった。
まあ、ハーマイオニーとしては吐瀉物ではなく怒りの噴出的な意味合いを込めたのだと思うが。
「エス、ピー、イー、ダブリュー!」
ハーマイオニーは熱くなって言った。
「本当は『魔法生物仲間の目に余る虐待を阻止し、その法的立場を変えるためのキャンペーン』とするつもりだったの。でも入り切らないでしょ。だから、そっちの方は、我らが宣言文の見出しに持ってきたわ」
「アイリス…君、ハーマイオニーについていてあげるべきだったんじゃ」
「寝室では色々と相談に乗ったし、穏健化はさせたわよ。最初のハーマイオニーの想いを素直に吐き出させたらだったらしもべ妖精解放戦線位ぶち上げてもおかしくなかったわ」
「あ…うん」
ハーマイオニーにロンが耳を覚ませとか、あいつらはそれが幸せなんだとか言っている脇で私とハリーはそう囁き合った。
「私たちの短期的目標は屋敷妖精の正当な報酬と適切な労働条件について定義し、確保する事である」
ロンの言葉を打ち消すような大声でハーマイオニーが叫んだ。熱量の割には穏健な内容にまとまったらしかった…まあ、ハーマイオニーが考えている正当と適切の水準にもよるが。
「私たちの長期的目標は法的にも社会的にも屋敷妖精を魔法使い社会を構成する尊厳ある一員たらしめる事である。その為に、最低限達せられるべき目標は屋敷妖精の代表または代表団を魔法省に参画させ、『ヒトたる存在』の一員としてその意思を適切に表明し、交渉する機会を与えることである」
「…まあ、基本的には抽象的な表現ね」
「彼ら自身と対話する前にあんまりガチガチに決めてもしょうがないわ。既に法的にはもっている筈の権利については具体例として盛り込ませてもらったけれども」
「だったら、協会の立ち上げ自体をホグワーツの屋敷妖精たちと話す前に決めたのはどうして?」
「だって、私が本気だって彼らに思ってほしいから。ただの生徒としてではなくて、彼らの権利拡充について活動する組織の一員として話すべきだと思ったから」
「そう。ならばそれでもいいわ。ただし、わたしが参加するかは貴女と彼らの最初の対話を見届けた後に決めさせてもらうわ」
「悪いけど、僕もそうする。ハーマイオニーが彼らと話し合う姿を見てから決めたい」
「…じゃあ僕も」
「そう…わかったわ。明日の朝食後にでも厨房を訪ねて、最初の話し合いをお願いする日時を決めましょう」
ハーマイオニーはおもしろくなさそうにそう言った。
だが、自身がきちんと屋敷妖精たちの都合を考えて日時を決めるべき、と考えている事で私は多分、ハーマイオニーは大丈夫だろう、と思った。