そこから暫く、ハーマイオニーは準備期間に入った。
S.P.E.W.について世に出す前にもう一度練り直しが必要だと考えたらしかった。
しかし、その為に必要な時間は十二分に確保できたとはいいがたかった。
課題・宿題の類が昨年度を大きく超えて出されたからだ。
どうも、先生方は既に私達がO.W.L.(普通魔法レベル試験)の準備に入るべきであると考えているらしかった。
ハリーは諦めた様に昨年までクィディッチの猛練習に費やしていた時間の一部を割り当てて対応した。わたしも、同じくらいの時間を自主学習に充てていた時間を削ってそのようにした。
また、『闇の魔術に対する防衛術』では驚くべき実習が行われた。
それは『服従の呪文』に実際にかかってそれに抗う実習であった。
初回ではっきりと抵抗できたのはハリーだけであった。
ハリーは机に飛び乗るように命じられたが、跳躍する寸前に命令を拒絶する事に成功した。
私は抵抗してみたものの、大きな声で歌を歌いながら踊る羽目になった。
中途半端に抵抗した為、途中で足を絡ませこけた。
これでも、クラス全体から見れば割と上出来、であった。
尚、余談だが、折角なので、私達は常に身に着けている自作(錬金術の習作)の守護の呪いを込めたペンダントを直前に外して授業に臨んだのだが、ムーディ先生にそれを見とがめられ、作品を『悪くない品』と褒められた上に、警戒するのはよいことだと言われた。
「さて、今日の決闘クラブの締めに、少し話をしましょう」
ある日の決闘クラブの際、フリットウィック先生が話を始めた。
「皆さんも既にご存知の通り、本年度、ホグワーツで三大魔法学校対抗試合が開催されます。皆さんの中にもエントリーを考えている人もいるでしょう。あるいは友人や知人がエントリーする事になるでしょう。
その中で誰がただ一人のホグワーツ代表となるかはまだわかりません…そして、私達教師が代表選手に手助けをすることは禁じられています。
しかし、私から2つの言葉を皆さんに送ること位は許されます。
それは、『敵を知り、己を知れば百戦して危うからず』と『温故知新』です」
私達はフリットウィック先生の述べた聞いた事のない諺らしい言葉に顔を見合わせた。
「皆さんが知らないのも無理はありません。どちらも東洋の諺なのですが、『敵を知り、己を知れば百戦して危うからず』とは、戦う相手と自分の事を良く知っていれば100回戦っても危険な事にはならない、という意味です。
これは常々、皆さんに言っている様に自分の長所と短所を知ることが大切だ、という事に通じます。また、対戦相手の長所と短所も知っていればなおよい、という事もたまに付け加えていますね。
通例に従って、三大魔法学校対抗試合の課題は秘密ですから相手を知ることは無理だと思うかもしれません。
しかし、全く情報が無いわけではありません。それがもう一つの『温故知新』です。これは過去の事を調べて新しい発見をしたり、未来のことを予想したりするというような意味です。
皆さんも過去の試合について調べて今回の試合について予想を立ててみてはいかがでしょうか。
以上です。では、また次回の決闘クラブか授業の時間にお会いしましょう」
そうして、その日の決闘クラブは終わった。
10月も下旬に入り、少しした頃、あるお知らせが玄関ホールに張り出された。
それは、ボーバトンとダームストラングの代表団の到来を知らせる物であった。
曰く、10月30日の午後6時に両校の代表団は到着するらしい。
それは1週間後のことであった。
それから1週間の間、ホグワーツ中が三大魔法学校対抗試合の話題でもちきりだった。
そんなある日…ハーマイオニーがやらかした。
水曜日の夕食前、大広間でS.P.E.Wの演説をぶち上げた、ソノーラスまで使って。
ハーマイオニーは段階的アプローチを踏む事を決めたようで、まずは屋敷妖精への虐待の禁止についての活動を前面に押し出しつつ、魔法使いと屋敷妖精双方の意識改革を浸透させ、最終的には屋敷妖精を魔法使いと対等な立場にもっていくことを運動の目標とする事にした様子である。
少なくとも、演説では屋敷妖精たちがいかに虐げられていて、いかに不当な扱いを受けていて、しかもそれを双方が深刻にとらえていない事を問題視していた。
ハーマイオニーはぽかんとする生徒たちに向けて数分の演説を終えた後、騒ぎを聞きつけたマクゴナガル先生に連行されていった。
最終的に、マクゴナガル先生はハーマイオニーを無罪放免とし、S.P.E.W.の活動も『節度を持って』するように、という但し書きが付いたが認可された。
そう言う事件はあったが、遂に金曜日の18時になった。
私達は城の前に整列し、ボーバトンとダームストラングの代表団を待った。
少しして、ボーバトンの代表団が大きな館サイズの空飛ぶ馬車でやってきた。
それは空飛ぶ馬車で12頭のパロミノ種の天馬に引かれていた。
馬車が勢いよく着陸すると中からハグリッド程の身の丈の美女が十数名の生徒を連れて現れた。
皆、薄着で寒そうだ。
巨躯の美女…マダム・マクシームがダンブルドア先生とあいさつを交わし、ボーバトンの代表団が城に入った後、少しして湖に異変が起きた。
湖底からせり上がる様に幽霊船の様な船が現れ、浅瀬に投錨した。
その船からは厚着の生徒たちと銀色の毛皮を纏った男…カルカロフ校長が現れた。
そして…驚くべきことに、その代表団の中にはクラム…クィディッチのブルガリア代表チームのシーカーがいた。
それから、大広間で歓迎の宴が開かれた。
外国の…恐らくフランスと北欧の…料理がいくつか並んだ。
ごちそうを堪能していると、ちょっとした騒ぎがあった。
だれも手を付けていなかったブイヤベースというらしい貝のシチューを目当てにボーバトンの生徒がグリフィンドールのテーブルにやってきた。
その生徒は美少女と呼べる少女で、ロンが見惚れた。ヴィーラの血を引いていると言われても信じるほど美しかった…実際、ヴィーラは魔法使いと混血できる。
デザートが終わると、ダンブルドア先生がいつの間にか到着していたクラウチ氏とバグマン氏を紹介した。
そして、短く演説した後、フィルチが持ってきた木箱を杖で三回叩いた。
開いた箱の中から、ダンブルドア先生は粗末ともいえる荒削りの木のゴブレットを取り出した。
魔法火が杯の中で踊っていなければ歴史博物館で端っこの方に飾られているべき品に見えた。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をハッキリと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。
立候補の志のある者は、これから24時間の内に、その名を提出するがよい。
明日、ハロウィーンの夜にゴブレットは、各校を代表するに最もふさわしいと判断された三人の名前を返してよこすであろう。
このゴブレットは、今夜、玄関ホールに置かれる。我と思わん者は、自由に近づくがよい」
そう宣言したダンブルドア先生はその後、年齢線を持って17歳未満の生徒の立候補を妨げると続けた。
そして、代表選手は魔法契約で縛られる事を明言し、警告を発した。
「『年齢線』!ハリーの情報は正しかったな!なら、俺達は老け薬で挑戦するぜ。
一旦、名前をゴブレットに入れてしまえば、もうこっちのもんさ―17歳かどうかなんて、ゴブレットにはわかりゃしないさ!」
「…まあ、年齢線は予備審査みたいなものだと思うから、それを突破できるならば立候補できるんじゃない?ゴブレット自体の設定を弄られていたらお手上げだけれども、ダンブルドア先生の言い方はそうじゃない感じだったし」
私はフレッドの言葉にそう返した。
翌日、私達は土曜日にしては早起きして炎のゴブレットと年齢線の見学をしていた。
雑談や情報交換しながら見学しているとフレッド、ジョージ、リー・ジョーダン先輩の3人組がやってきた。
老け薬を服用して挑戦するらしい。
まず、フレッドが線の中に踏み込んだ…さて、どうなる?と思っているとジョージが後を追った。
途端に双子は年齢線の外にはじき出され、3メートルほど吹き飛んだ。
そして、ポンという音と共に白くて長いひげが生えた…ダンブルドア先生のお遊びだな。
「忠告したはずじゃ」
大爆笑の玄関ホールに深みのある声がした。ダンブルドア先生だ。
「二人とも、マダム・ポンフリーのところへ行くがよい。すでに、レイブンクローのミス・フォーセット、ハッフルパフのミスター・サマーズもお世話になっておる。
2人とも、少しばかり年を取る決心をしたのでな。もっとも、あの二人のひげは、君達程見事ではないがの」
ゲラゲラ笑っているリー先輩に付き添われて双子は医務室に向かった。
それを見送ってから、私達は朝食にする事にした。
大広間はハロウィーンの飾りつけに変わっており、会話の話題はだれが立候補したという噂一色だった。
「今日は何をする?」
ロンが言った。
「僕はしばらくは年齢線で遊ぶ予定だけれど」
「私も」
「年齢線『で』遊ぶ?どういうことだい?」
ハリーと私の言葉にロンが問うた。
「せっかく、ダンブルドア先生の魔法を検分するチャンスなんだし、僕らはしばらく年齢線の現物の魔法的構造を調べさせてもらうよ。
明らかにただの年齢線じゃない付与効果が付いていたし、ほかにどんなお遊びが仕込まれているのか気になる」
「…そう…私はどうしようかしら…ハグリッドの所にS.P.E.W.の勧誘に行きましょうかね」
ハーマイオニーが言った。
「…僕もハグリッドのところに遊びに行くよ。ハリーとアイリスも年齢線に飽きたら来ると言いよ」
ロンがそう言った時、玄関ホールにボーバトンの代表団が現れた。
マダム・マクシームに率いられた生徒の一団は、一人ずつ年齢線を越え、ゴブレットに羊皮紙を投じた。
「…なにをしている」
ハリーと二人で年齢線の周りで色々と試していると冷たい声が聞こえてきた。
「年齢線について、調べています。スネイプ教授」
ハリーが応えた。
「調べている?17歳未満の立候補は禁じられているぞ、ポッター、エヴァンズ」
「はい、ですが、ダンブルドア先生の敷いた年齢線の魔法を教材に学んではいけないとは言われていません」
今度は私が応えた。
「む…あーうむ…確かに、それは禁じられてはおらんが…よろしい、では吾輩直々に君達が立候補しないように、監視するとしよう。少し待っていなさい」
そして、大広間に入っていったスネイプ教授は少しして戻ってきた。教授は即席のサンドイッチを手にしていた。
「再開してよろしい」
私はハリーと少し笑い合うと年齢線の調査を再開した。
「んーなるほど…通常の年齢線とは完全に違う構成かと思ったけどそうでもないね」
「そうね、通常の年齢線を補強してある感じの構成だわ」
スネイプ教授が現れてから1時間ほど経った頃、わたしとハリーはダンブルドア先生の年齢線を調べた結論を話し合っていた。
「17歳未満の侵入阻止は当然として、魔法で羊皮紙だけを入れるのもできない様にしてあるし、一般的な年齢線の突破方法には専用の反応が組んである…単に弾き飛ばせばいいのに、手が凝っているね」
「そうなってくると、魔法で台になっている椅子を破壊するとか呼び寄せ呪文でゴブレットを引き寄せるとか、ゴブレットの方を年齢線の外に出す絡め手が考えられるけれど…」
「それは無理だね…ホグワーツの守りの呪文と同期させてあるから並大抵の呪文じゃあ突破できない…それこそ、死の呪文とか悪霊の火とか…とてもここじゃあ使えないし、ゴブレットも無事では済まない」
ハリーはそう言ってルーモスの応用の光球を飛ばすと光球は年齢線を越えた所でかき消えた。
「さすが、ダンブルドア先生だね、というか、目で見える線がその実、ただの識別魔法で、内側にそれとリンクした本命の守りを仕込むとか気づく迄時間がかかったよ」
「…もう満足したかね?」
私達が結論を出したのを聞いて、スネイプ教授が言った。
「「はい、ありがとうございました」」
「では、去りなさい」
その後はハグリッドの小屋を訪ね…近くにボーバトンの代表団が乗ってきた馬車と天馬がいた…ハーマイオニーとロンと合流した。
案の定、ハーマイオニーの勧誘は失敗した様子で、屋敷妖精の生態についてと社会平等についてハグリッドとハーマイオニーは議論をしていた。
少しして、ビーフシチューと称した何かのシチューの昼食を貰い、ロックケーキをお茶うけにお茶を楽しんだ。
そして夕食時…おめかししたハグリッドはオー・デ・コロンと称した悪臭のする液体を身に着け、やりすぎたかなと小屋の外に匂いを落としに出た。
ハグリッドの様子が変な理由はすぐにわかった…マダム・マクシームにお熱な様子だからである。
そして、ハグリッドと来たら、私達を待たせていたにも関わらず、ボーバトンの代表団と共に城に向かって歩いて行った。
私達はハグリッドに文句を言いながら、城に戻った。
二夜連続の宴が終わると遂に代表選手発表の時間となった。
カボチャランタン以外の灯りが消され、炎のゴブレットの火に皆が注目した。
そして発表された代表選手は…
ダームストラング、ビクトール・クラム
ボーバトン、フラー・デラクール…例の半ヴィーラ疑惑の少女
ホグワーツ、セドリック・ディゴリー
そして…ハリー・ポッター
なんと、エントリーしていない筈のハリーの名前が炎のゴブレットから吐き出された。
久しぶりに見たハリーが心底驚く顔を眺めつつ、今にも暴動になりそうな空気の中、私はまだ鈍い思考を巡らせる…
ハリーが名前を入れた?
否、それだけならばディゴリー先輩と競合するだけである。
そうなると、何者か…ゴブレットにハリーの名を入れた何者かがゴブレットに細工をしたとしか考えられない。
そこまで考えた時、ハリーがハーマイオニーに背中を押されて立ち上がったのが見えた。
直前の記憶を手繰るとダンブルドア先生がハリーを呼んだのを思い出した。
ハリーは戸惑い、何かを思考しながらゆっくりとダンブルドア先生の元へと歩を進めた。
そして、ダンブルドア先生に促されて代表選手が行くように言われた部屋に導かれ、扉をくぐった。
「ハリーが?まさか、君達、ダンブルドアの年齢線を出し抜いたのかい?」
「いいえ、まともな手段では確かに難攻不落、という事がわかっただけだったわ。
それに、単に年齢線を突破しただけではこんなことにならない…ディゴリー先輩と競合するだけだもの…4人目なんて、ゴブレット自体に細工をしなければ…」
「アイリス・エヴァンズ!こちらに来なさい!」
喧騒の中、ロンの問いに私が応えた時、マクゴナガル先生が私を呼んだ。
「え?ハ、ハイ!」
何事だろうと急ぎ足で教員テーブルまで行くと、マクゴナガル先生が言った。
「今朝、貴女はミスター・ポッターと年齢線を調べていましたね?」
「はい、調べました」
「よろしい、着いてきなさい」
そう言ってマクゴナガル先生はダンブルドア先生、クラウチ氏、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、スネイプ教授の後に続いて歩き出した。
私はその後を追い、代表選手が待つ小部屋に行く一向に続いた。
「マダム・マクシーム!この小さーい男の子も競技に出ると、みんな言っていまーす」
ハリーが怒りを覚えたのを見た。ハリーは案外、小柄なのを気にしている。
そこから、カルカロフ校長とマダム・マクシームの抗議が始まった。
なぜ、ホグワーツだけ二人、代表選手を出すのだ、と。
「ハリー、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
そしてハリーはダンブルドア先生に問われた。
「いいえ」
「上級生に頼んで、『炎のゴブレット』に君の名前を入れたのかね?」
「いいえ」
そう答えたハリーの顔には『もしかして、炎のゴブレットって他薦有りなの?』と考えていそうな表情が浮かんだ。
確かに、想定外の答えだが、それが事実であれば年齢線と『炎のゴブレット』の組み合わせにおける致命的な欠点であった。
「しかーし、このいとは『炎のゴブレット』の周りに1時間以上いたと聞いていまーす」
「さよう、確かにポッターは従姉のエヴァンズと共に年齢線を調べていた。そのうちの1時間程については、犯行は行われていないと保証しよう…その前後については保証しかねるが」
スネイプ教授がハリーを庇っているのか、庇っていないのか、よくわからない発言をした。
「あの、すいません、そもそもゴブレットにハリーの名前を入れただけでは足らない筈です」
私がおずおずと口を開くと皆の目線が私に集まった。
「ハリーが名前を入れた所で、ホグワーツ代表候補の一人として認識されるだけの筈です、違いますか?
少なくとも、他校の名義での立候補や校名の書き忘れなどをやらかした候補を弾く程度の機能はゴブレットには備わっていると推定します。
ですから、その機能を停止させ、かつ4つ目の参加校の代表選手としてハリーを誤認させる別の魔法が必要です、この結果を生み出すには」
「そうじゃな…ハリーの名前が書かれた羊皮紙には校名が書かれておらんかった。こう言う羊皮紙は、通常、ゴブレットは対象を候補として認知しない筈じゃ」
ダンブルドア先生が私の主張に同意してくれた。
「でしたら、ゴブレットに変な魔法がかけられていないか、調べてはいかがでしょう、議論が前に進むかはわかりませんが…それと、僕が全競技を棄権すると誓約すれば話は終わるのでは」
ハリーが言った。
「ゴブレットの調査はやってみても良いが…しかし、ハリー、君が他の三名と共に魔法契約に縛られているという事に違いはない…ベストを尽くさないことは許されん」
「で、あるならば、炎のゴブレットに我が校とボーバトンの代表選手を追加で1名ずつ選出させることを求める。それが公平というものだ。ダンブルドア」
「しかし、カルカロフ、『炎のゴブレット』は既に火が消えており、次の試合までもう火がつくことはない―」
「で、あれば一度終わらせればよいのでしょう?」
「炎のゴブレットにこだわる必要があるのでしょうか」
私とハリーが同時に口を開いた。
「…まずはハリーの話を聞こう、その後、アイリスに発言の機会を与える」
ダンブルドア先生が言った。
「はい。次の試合まで火が灯らないならば、まずはすぐに終わる様な短くて簡単な課題で今回の試合を終わらせてしまって、その後、あらためて火を灯し、選考をやり直して予定していた課題を実施するというのはどうでしょうか」
「ふむ、興味深い提案だ。しかし、残念な事に『炎のゴブレット』は課題を考慮して代表選手を選出する。そして、試合内容の変更は規則上認められない」
クラウチ氏がきっぱりと言った。
「ふむ、ではアイリスの意見は?」
「確かに、炎のゴブレットは伝統ある代表選手の選考方法ですが、代表選手の数を揃えたいのであれば、ボーバトン校とダームストラング校から校長の指名で一名ずつ選手を追加すれば話がまとまるのでは?」
「それはできない。炎のゴブレットの使用は単に伝統であるだけではなく、規則にのっとった正式な手順でもある…代表選手の追加、交代は認められない、と規則にはっきりと記されている」
またもや、クラウチ氏がきっぱりと言った。
その後、ムーディ先生が入室してきて、議論が明後日の方向に飛んで行ったりもしたが、最終的には4名の代表選手で競技を実施する、という以外選択肢がない事までは共有された。渋々ながらも。
「さあ、それでは、開始と行きますかな?」
バグマン氏はニコニコ顔で揉み手しながら部屋を見回し、言った。
「代表選手に指示を与えないといけませんな?バーティ、主催者としてのこの役目を務めてくれるか?」
「ふむ…指示ですな。よろしい…最初の課題は…」
そう言ってクラウチ氏が暖炉の灯りの中に進み出た。
その顔つきは何かあった様子で、明らかに体調がよろしくない、と書かれていた。
「最初の課題は、君達の勇気を試すものだ。
ここでは、どういうに内容なのかは教えないことにする。
未知のものに遭遇した時の勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である…非常に重要だ…
最初の競技は11月24日、全生徒、ならびに審査員の前で行われる。
選手は、競技の課題を完遂するにあたり、どのような形であれ、先生方からの援助を頼む事も受ける事も許されない。
選手は、杖だけを武器として、最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題についての情報が与えられる。
試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手たちは期末テストを免除される」
そこまで言い切ったクラウチ氏はダンブルドア先生に問うた。
「アルバス。これで全部だと思うが?」
「わしもそう思う」
その後、ダンブルドア先生はクラウチ氏にホグワーツに泊まるように勧めたが、役所に戻ると強く主張し、拒絶した。
ダンブルドア先生はカルカロフ校長と、マダム・マクシームに寝る前の一杯を誘ったが、彼らはそれに答えずに代表選手と共に部屋を出ていった。
「ハリー、セドリック、アイリス。三人とも、寮に戻って寝るがよい。グリフィンドールもハッフルパフも君達と一緒に祝いたくてまっておるじゃろう。せっかくお祭り騒ぎをする格好の口実があるのに、ダメにしてはもったいないじゃろう」
ダンブルドア先生は微笑みながらそう言った。
私たち三人は一緒に大広間を通って玄関ホールへ向かった。
「それじゃ、僕達、またお互いに戦うわけだ!」
「そうだね」
「…で、どうやったんだい?単純に年齢線を突破しただけじゃなくてゴブレットを誤魔化すなんて…」
「してないよ。理由はわからないけど、僕はだれかの他薦だと認識している…ムーディの言葉じゃないけど、悪意ある何者かの仕業だと思う」
「ふーん…そうか…それじゃあ…またな」
ディゴリー先輩は明らかにハリーの言葉を疑っていたが、お互いにそれ以上言わずに別れた。
「動機も犯人も想像がつかない」
寮への道を進む途中、ハリーが口を開いた・
「そうね、嫌がらせにしては度を過ぎているし…まさか本当に誰かがハリーを狙って?」
「かもしれない…でも、単に僕に危害を加えたいなら、あまりに回りくどすぎる…わざわざ炎のゴブレットに細工をするなんて…何か別の意図がある…のかな?」
「別の意図…例えば?」
「わからない…何者かの意図について、警戒はするけど…まずは競技の対策をしないと」
「対策…ね。でも何かできる事はある?」
「杖のみを武器として、って制限されてしまっているから難しいね…僕の強みは錬金術と魔法薬と箒だからね」
「フリットウィック先生の言う所の己の長所を知っても活用できない、という事ね」
「まあ、ドラゴン説がフェイク情報でなければ、それに向けて何か役に立つ戦闘用呪文を漁るしかないよ」
そんな会話をしていると寮の入り口までたどり着いた。
「まあ、まあ、まあ。バイオレットがいましがた全部話してくれたわ。学校代表に選ばれたのは、さあ、どなたさんですか?」
太ったレディがそう声をかけてきたが、ハリーは冷たく合言葉を述べた。
「ボールダーダーッシュ」
「絶対戯言じゃないわさ!」
いつの間にか太った婦人の定位置の額の中にいたしわしわ魔女が怒ったように言った。
「ううん、バイ、これ、合言葉なのよ」
そう言って太った婦人は談話室への道を開いてくれた…直後、大音響が談話室から聞こえてきて、無数の手がハリーを談話室に引っ張り上げた。
急いで後を追うとそこはダンブルドア先生が言った通り、お祭り騒ぎだった。
「名前を入れたなら、教えてくれりゃいいのに!」
「ひげもはやさずに、どうやってやった?すっげえなあ!」
フレッドとジョージが当惑と感心の混ざった様子で叫んだ。
「僕、やってない…多分、『炎のゴブレット』は他薦ができるんだ。誰がどういう意図でやったかはわからないけれど、何者かが『炎のゴブレット』に僕の名前を入れて細工をしたんだ…ゴブレットが4人目の代表選手を選び出すように」
ハリーの言葉に一瞬しんとなったが空気は変わらず、ハリーのファンの何者かがハリーに出場してほしくてやったんだろうとか、グリフィンドールの誰かに代表選手になって欲しくてやったんだろうとか、楽観論が場を覆っただけだった。
とにかく、皆は三大魔法学校対抗試合の代表選手がグリフィンドールから選出されたのが誇らしく、うれしい様子でハリーをもみくちゃにした。
多分、ハリーが選ばれたからには全力を尽くす義務があるらしいからそうする、というようなことを言ったのも悪かった。
気づけば、リー・ジョーダン先輩によって、寮旗がマントの様にハリーに括りつけられていた。
30分ほど熱狂に付き合った後、ハリーはそろそろ寝たい、と強硬に主張して寝室への階段を昇って行った。
主役のいなくなったパーティーはまだ続きそうであったので、わたしもとっとと寝室に引き上げる事にした。
「アイリス、遅かったわね」
寝室ではハーマイオニーが待ち受けていた。
「ハリーのことなんだけれども…大丈夫?」
「大丈夫じゃないかしら…ロンが味方してくれるなら、だけれども」
「それは…難しそうな様子だったけれども」
「そうなの?」
「ええ…面白くなさそうな顔をしていたし、多分嫉妬ね」
「嫉妬?トラブルに巻き込まれる事に対して?」
私の不思議そうな顔にハーマイオニーが呆れたように言った。
「あなた達は感情に疎い所があるものね…それがトラブルであれ何であれ、ハリーが注目される事に対して、自分が常に添え物扱いされる事に対して、よ」
「あー成程?」
コンプレックス、という奴だろうか。