11月から12月に代わる頃、母から私達宛に手紙が届いた。
雑談的な内容を除き、用件を要約すると、魔法界のクリスマスに興味があるならば休暇はホグワーツで過ごしても良いがどうする?という事であった。
また、同じ便箋に祖父母からの手紙も同封されており、帰って来てくれるならば歓迎するが、好奇心旺盛な私達の事だから魔法界のクリスマスを体験してみたいだろう?と言うような事が書かれてあった。
従って私とハリーはクリスマス休暇をどう過ごすかについて相談する事にした。
私もハリーも家に帰るつもりではあったが、言われてみれば、魔法使いのクリスマスパーティーというモノにも興味がわいてきた。だが、久しぶりに母や祖父母に会いたい気持ちもあった。そんな葛藤の天秤を傾けたのはロンだった。
ウィーズリー家の兄弟は両親が既にホグワーツを卒業した兄に会いに行く為、クリスマスはホグワーツに残るとの事で、ロンと過ごすクリスマス休暇と言う要素が加わってハリーはホグワーツ残留を決めた。
私もハリーが残るのならば、とホグワーツ残留を決めたのであった。
ハーマイオニーも少し魔法使いのクリスマスに興味があるようだったが、両親の元に帰る事にした。
それから私とハリーは地元の(マグルの)友人を含めてクリスマスカードとプレゼントの手配を母に頼む事になった。当然、地元の友人たちには魔法界の品は遅れないので祖父母に頼んでマグルの店で買ったクリスマスカードを送ってもらい、返送してお菓子を添えて代理で郵便を出してもらうという手を使った。
家族と魔法界の友人にはお菓子とクリスマスカードを送る事とした。その費用は母がクリスマスショッピング用にとダイアゴン横丁の菓子店の通販リストと一緒に送ってくれた商品券で賄った。
そうこうしていると、クリスマス休暇が始まった。
ハリーと二人で図書館に行ったり、ウィーズリー兄弟を交えて雪遊びをしたり、談話室で読書をしたりして過ごした。
そして迎えたクリスマスの朝…ハーマイオニーを含めて同室の子達は皆、帰省してしまった為、私は一人でプレゼントの山と対面する事になった。
「メリークリスマス」
そう一人で呟いてから明らかに本である包みは後の楽しみに、と脇によけてプレゼントを開け始める。
大体の包みは菓子であった。その中で特筆するべきものは祖母特製の焼き菓子詰め合わせくらいで他はすべて市販品だった。ハリーからは蛙チョコレート、ハーマイオニーからは杖型甘草飴、ロンからはハエ型ヌガーが送られて来ていた。
なお、母からは母が常用しているマグル製のとても甘い紅茶味(ストレートティー味、ミルクティー味、レモンティー味が混ざっている)の飴が大瓶で一つ届いていた。
そしてお楽しみである本だが、まず祖父母からは科学関係の読み物が1冊ずつ届いた。また、母からは錬金術の近代史に関する本が届いた。そして父からは魔法薬学の理論書が届いた、N.E.W.Tレベル(6,7年生の授業向け参考書)のが。いや、まあこの前のお茶会の際にハリーとN.E.W.Tレベルの魔法薬の調合法について考察しているとは言ったが…
母からの飴を一粒、口に放り込んでから着替えを済ませるとパーティーに出席する為に大広間に向かった。
クリスマスの御馳走は素晴らしい質の物が供されたがマグルも食べるような七面鳥ディナーとその付け合わせ、そしてクリスマスプディングで特に珍しいものはなかった。
目を引いたのは、パーティーグッズのクリスマスクラッカーだった。
発想としてはマグルのパーティークラッカーと同じではあるのだが、音と中身がすごかった。
ハリーがジョージと先陣を切って引いたソレは大砲のような音を立てて炸裂し、青い煙と共に海軍少将の帽子と生きたハツカネズミが何匹も飛び出してきた。
他に面白かったものは教員席の様子であった。いつもとは違い、教員席も浮かれた様子でクリスマスを楽しんでいた。そこにスネイプ教授の姿はなかったが。
食事を終えた後、雪合戦の誘いを断ってスネイプ教授の部屋を訪ねる事にした私は地下牢へとやってきた。
「誰だね」
扉をノックするとスネイプ教授が誰何をしてくる。
「グリフィンドール寮の一年生、アイリス・エヴァンズです」
「入室を許可する」
「失礼します」
扉を開くと、一人でクリスマスの正餐を食べた後に何かを検分していたらしい様子がうかがえた。
完全に入室し、扉を閉めると何時もの様にスネイプ教授が施錠と防音の呪文を施した。
「メリークリスマス、父さん」
「メリークリスマス、アイリス。クリスマスパーティーは楽しめたか」
「うん、まあまあ楽しかった。先生方も楽しそうだったよ、父さんも来ればよかったのに」
「ああいう賑やかなのは好かん…教員の義務として参加させられるならば我慢もするが、な」
父はそう言って鼻を鳴らした。
私が机に近づくとその様子をより詳しく認識できるようになった。
まず、父と相対するように、二つの写真立てが置いてあった。
その一方はホグワーツ入学寸前に私の両親とリリー叔母さんの三人の古い写真であり、もう一方は祖父母と母とハリーと私でホグワーツ入学記念に撮影した写真であった。どちらもマグル式である。
また、検分していたのは脳みそ飴(ブレイン・ドロップ)と書かれた瓶に入った人間の脳を模した大粒で色とりどりのハード・キャンディであった。
「…父さん、その趣味の悪いドロップ、どうしたの?」
「ああ、これか。ペチュニアが何時ものマグルの飴と一緒にクリスマスプレゼントと称して送って来た。ペチュニアが彼女の出資している新興菓子メーカーと共に開発した新商品の飴だそうだ。
一粒で濃く入れた砂糖たっぷりの紅茶をティーカップ一杯飲むのと同等の効果があるように調整してあるらしい」
「…要するにカフェイン入りの飴?」
「効果の程は似たようなモノだが、ドラゴンの爪を使用した魔法薬を使ったので依存性も副作用もない筈だと手紙には書いてあった。
ハニーデュークスに売り込んだ後にホグワーツで禁止されても困るので私に検分してほしいとの事だ…ああ、ダンブルドアにもクリスマスプレゼントにこの脳みそ飴とやらを送ったとも書いてあったな」
「母さん…何やっているの…ダンブルドア校長に学生向けのお菓子を送るなんて…」
「…まあ、ダンブルドアは菓子類が好きだから怒りはせんだろう、気に入るかは別にして…な」
「で、父さんの判定は?」
「ペチュニアが何を心配しているのか分からんが、この程度の効能で持ち込み禁止品になる訳がない…まあ、私の授業中に舐めていたら減点の上、没収するがな」
父さんはそう言ってまた鼻を鳴らした。
「そう言えば、その足はちゃんと治療しなくて大丈夫なの?」
最近の学生生活について少し話した後に私は父にそう問うた。
「…なぜ気づいた…いや、ああ、ハリーか。そう言えば彼に見られていたな」
そう言って父は続けた。
「一応、いくつかの薬を煎じて使用している…諸事情で医務室にはかかれんのでな」
「あーって事はやっぱり4階の禁じられた廊下の三頭犬なのね…三頭犬の毒は強力だもの」
「なぜそれを知っている!?」
「あるグリフィンドール生が四階の禁じられた廊下の向こう側に行ってしまって…三頭犬が扉を守っているのを見てしまったの。その情報は大して広まってはいないけれど。
で、ハリーもそれを知っていて、父さんとフィルチさんの会話を聞いてしまったから…」
「…なるほど…確かにその情報だけでは私が扉の守りを破ろうとしている様に見えるな」
父は忌々し気にそう言った。
「ハリーは扉の向こう側について興味を持っているのか?それとも私を疑っているのか?」
「どちらもね…この前に箒の件で父さんが箒に何かの呪文をかけている様子を目撃したとハリーが聞いたから…ハリーはそれだけでは呪いかその反対呪文かわからないとは言っていたけれど」
「…やはりあの日私のマントを燃やしたのはグリフィンドール生か…まあ今は良い。
アイリス、すまないがハリーがこの件に首を突っ込まない様に別の何かで気を引いてくれないか?
最近のハリーの様子からして彼の父親の血が目覚めつつある」
「やっては見るけれど、期待はしないでね?」
そうして、私は父からの依頼を受けた。
その後も暫し父と会話を楽しんだ後、私は寮に戻った。
談話室でクリスマスプレゼントに貰った本を読んでいるとハリーとウィーズリー兄弟が戻って来た。彼らに暖炉の近くの良い席を譲り、沸かしておいたお湯で温かい紅茶を入れてあげた。
クリスマスプレゼントに送られてきたお菓子の一部を持ち寄ってお茶の時間を楽しんだ後、ハリーがロンとチェスをした。結果はハリーの惨敗であった。
その後、ハリーとプレゼントに貰った本を見せ合い、読み終わったら互いに見せ合う約束をした。
その場にいたパーシーは私達がN.E.W.T.課程向けの本を読めることに驚いていた。
ちなみにハリーは祖父母からは私とは別の科学関係の読み物の本を一冊ずつ、母からは『箒スポーツの世界史』、父からは『魔法薬学における失敗集』という本を貰っていた。
夕食では正餐の七面鳥の残りを使ったと思われるサンドイッチと、クリスマスケーキやトライフルを含む甘味類を堪能した。
食べ過ぎで眠くなり、ハリーと私は就寝時間まで祖父母から送られた科学系の読み物の本を楽しんでいた。
「楽しかった?ハリー」
「そうだね、アイリス…でもロン達がいないなら、来年は僕は家に帰ろうかなと思う」
「そうね、楽しかったけれど、私も特に事情が無ければ家に帰りたいわ…おやすみなさい、ハリー」
「うん、おやすみ、アイリス」
そうして、私のクリスマスは終わった…が、ハリーのクリスマスはそこで終わらなかったらしい。
翌日、私とロンはハリーからその話を聞いた…曰く、誰かからジェームズ叔父さんの遺産として受け取った透明マントをハリーは試しに真夜中のホグワーツ探検をしたらしい。
そして、ハリーは禁書棚に行ってみたくなり…本が叫び声をあげた為、逃げだした。
その後、迷い込んだ部屋で不思議な鏡を見つけたらしい。
その鏡は透明マントに隠れたハリーを映し出し…さらにはリリー叔母さんとジェームズ叔父さん、さらにはジェームズ叔父さん側の祖父母と思わしき老夫婦…つまりポッター家とエヴァンズ家の親戚(祖父母と母と私と父)が映っていたらしい。
ロンは不満げに真夜中の探検に連れ出してくれなかったことを不満げに言い、ハリーは今晩は一緒に行こうと言った。
「…私は夜の探検は遠慮しておくわ。でも鏡は気になるわね…朝食を食べたら探しに行かない?」
という事で朝食後、私達はホグワーツを彷徨った。結果、昼食の時間の少し前にその部屋は見つかった。
「あの鏡だよ」
ハリーがさす先には金色の装飾豊かな枠の天井まで届くような高い鏡があった。
まず、ハリーが鏡の前に立つ…鏡にはただハリーが映るだけだった。
「ほら、みて!」
しかし、ハリーは嬉しそうに鏡を指さす。
「もしかして、鏡に映っている本人だけがその光景を見られるのかも…ハリー、ちょっと換わってもらっていい?」
「うん、わかった」
そして、ハリーに換わって私が鏡の正面に立つ…そこには成人した私らしい姿が映っていた。場所はいかにも魔法薬師又は錬金術師のアトリエのような場所で、色とりどりの石をフヨフヨと従えるように浮かせながら大鍋を混ぜていた。
「…成人した私が何かを調合している様子が見えるわ…多分、錬金術師になった私の姿ね」
そして、色とりどりの石は賢者の石やそれに類するナニカなのだろうと推定できたが黙っておいた。
「アレ…って事はこれ、家族を映す鏡じゃないんだね…ロンは何が見えるんだろう」
「そうね、ロン、換わりましょう」
「うん…ええっと…僕も大人になった僕らしい姿が見える…アレは主席のバッチ…かな?
うん、ビルが付けていたようなバッチを付けた僕が、最優秀寮杯とクィディッチ優勝カップを持っている…僕、クィディッチのキャプテンもやっているんだ」
てんこ盛りである。まあ、賢者の石のみならず前代未聞の他の法則に干渉する錬金術の触媒らしき物を複数創造する未来に比べたらまだおとなしいが。
「んーこの鏡は何なんだろうね、望む未来を見せてくれる鏡…にしては僕が家族といる姿が映ったのがおかしいし」
ハリーの言葉に改めて鏡を観察していると枠の上の方に何やら言葉が彫られているのに気が付いた。
「枠の上に何か書いてあるわ」
「ほんとだ…ええっと…『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』…だって」
「無茶苦茶なスペルね…って逆さ読みじゃない?」
「あ、そっか。じゃあ『私は貴方の顔ではなく貴方の心の望みを映す』…だって」
「あーじゃあこれは願望を投影する鏡ね」
「…なるほどね、確かに僕、時々両親が生きていたら、って思う事はあるし、ペチュニア伯母さんがもっと家にいてくれたら…って思う事もあるよ」
ハリーがそう言った時、ハリーのお腹が鳴った。
「アイリス、ロン、そろそろお昼に行こう」
「そうね、ロン、いきましょう」
「えーもうちょっと見させてよ…」
「もう…昼食後にまたくればいいじゃないか」
ハリーはそう言ってロンを引っ張って行った。
そして、昼食の場で鏡の事が他のウィーズリー兄弟にバレてみんなで鏡をのぞきに行った。
ジョージとフレッドは二人とも悪戯グッズ専門店をダイアゴン横丁に構える未来が見えたと言い、パーシーは魔法大臣になった自分の姿が見えると言った。
色々と実験…映し出される願望の内容が操作できるのか等…をしたかったのだがパーシーが鏡の前からどかないのでそれはできなかった。
諦めてパーシーが飽きるまで時間を潰そうとハリーと二人で…ロンとジョージとフレッドは飽きて遊びに行った…読書をしているとダンブルドア先生がやってきた。
「楽しそうじゃな」
「「「ダンブルドア先生!」」」
「気に入ったかね、パーシー」
「はい!」
「しかし、その未来を掴みたいならばここで鏡に溺れていてはいかん。わかるね」
「…ハイ」
ダンブルドアの言葉にパーシーはしょんぼりとする。
「では、行きなさい、パーシー。校庭で君の弟たちが雪遊びをしておるよ」
「はい、ダンブルドア先生。でも、寮の談話室で読書でもしようと思います…行くと多分雪合戦に巻き込まれてへとへとになるので」
そう言ってパーシーは去っていった。
「さて、ハリー、アイリス…この鏡で遊ぶつもりだった様だね」
「あ…はい、その通りです、ダンブルドア先生」
「いけなかったでしょうか」
「いいや、鏡の虜にならない君達はむしろ評価に値する。
しかし、パーシーのように虜になる人も多い…いや、むしろ彼でさえ症状としては軽い方だと言える」
「そうなのですか?」
「そうじゃな…例えばハリー、君が孤児院で育ったとして、写真ですらも見た事のない家族が自分に微笑みかけてくれる光景を見せられて虜になったりしないと断言できるかな?」
「…いいえ」
「例えば、アイリス、君は賢いし環境にも恵まれておる。故に凄腕の錬金術師になる程度の夢は自力で叶えられると知っている…しかし、そうでなかった時、理想の自分にどうしてもなれないと知ってしまった時…それでも鏡が理想の自分を映すとしたら?」
「…きっと溺れてしまうでしょうね。ダンブルドア先生」
「ハリー。アイリス。この鏡は近いうちに別の場所に移し、もっと厳重に隠す事にする。もうこの鏡を探したり存在を言いふらしたりしてはいけないよ」
「はい、ダンブルドア先生…でも、他にロンと…ジョージとフレッドが知っています」
「ああ、その三人には先ほど、既にわしから口止めしてある。パーシーには二人から伝えてくれるかな?」
「「はい」」
「よろしい」
ダンブルドア先生はそう言って満足げに頷いた。
その後、私達はダンブルドア先生と共に部屋を出た。
ダンブルドア先生はその後、部屋を魔法で施錠し、私達をグリフィンドール寮の近くまで送ってくれた。
「そう言えば、アイリス、君のお母さん…ペチュニアからはクリスマスプレゼントに良いモノを貰った」
「あー『脳みそ飴』の事ですか?」
「その通り。わしにプレゼントを贈ってくれる人は本を送ってくれる事が多いのじゃが、わしは甘い物も大好きでな」
「えっと、ダンブルドア先生、アイリス…『脳みそ飴』ですか?紅茶味のキャンディーではなくて」
ハリーが少し引き気味に言った。
「そうじゃとも。味は普通のドロップじゃが、脳みその形をした大粒のドロップでの…舐めると濃い紅茶や珈琲を飲んだように頭がさえてくるのじゃ。勉強や書類仕事のお供にぴったりじゃからホグズミードやダイアゴン横丁の菓子店に入荷したらすぐに人気商品になる事じゃろうて」
そう、ダンブルドア先生は微笑んだ。