翌朝、私は父の研究室で目を覚ました。
私はスネイプ教授と寝食を忘れて魔法薬学について話をしていて、眠ってしまった事になっているそうだ。
私が寮に戻ると、寮は大変な騒ぎになっていた。
結局、ハリー達3人は石を守るために禁じられた廊下に忍び込んだようである。
そこで、石を狙う者…クィレルと『死喰い人の主』の魔の手から石を守ったらしい。
少なくとも、事情をある程度把握している私は飛び交う噂をそう解釈した。
「アイリス!ちょっと来て」
ハーマイオニーがやって来て私を連れ出した。
「心配したのよ、アイリス」
「ごめんなさい、ハーマイオニー。
スネイプ教授ったら私に眠り薬を盛って…朝まで眠らされていたわ。
ハーマイオニー、そっちはどうだった?」
ハーマイオニーは昨晩の事を語ってくれた。
私が帰ってこなかった事でわずかに残っていたスネイプ教授が犯人ではない可能性を捨てた三人は透明マントを使って禁じられた廊下に忍び込んだ。
三人はまず、三頭犬を笛の音色で、次の悪魔の罠を魔法火で突破した。
次は箒で翼の生えた鳥の群れから正しい鍵を捕まえた。
そして次はチェス…駒と交代して魔法使いのチェスをさせられ…ロンがハリーとハーマイオニーを進めるために犠牲になった。
さらにその次はトロールの間…は既に先行者がノックアウトしていた為素通り。
その次がスネイプ教授の理論パズルで、ハーマイオニーとハリーが力を合わせて解いた。
前進に必要な魔法薬は一人分しかなかったため、ハリーだけが前進した。
ハーマイオニーはハリーの頼みに従って後退し、チェスの間でロンを起こしてフクロウ小屋に向かった。
そして、フクロウを出した直後、玄関ホールでダンブルドアに出会った。そして、事情を説明しようとする二人に『ハリーはもう追いかけていってしまったんだね』とだけ言って禁じられた廊下に矢のように向かって行った、との事だ。
そして、ハリーは今、医務室にいる…面会謝絶だそうだが。
聖マンゴ送りになっていないのであれば、(魔法界の基準では)大したことはないのだろう。
私はハリーが目覚めるまでの時間をハリーと仕上げた母からの課題のチェックと読書にあてる事にした。
グリフィンドールとレイブンクローとのクィディッチの試合が行われてグリフィンドールは惨敗するという些細な事があったらしいが、ハリーの出ない試合に興味のなかった私は試合観戦に行かなかった。
三日後、ハリーが目を覚ました。
さっそく私たち三人は面会を願い出でたがマダム・ポンフリーは面会を許してくれなかった。
しかし、ハリーの説得で5分だけという約束で面会が叶った。
ハーマイオニーはハリーの顔を見るなり両手で抱き着かんばかりに駆け寄っていった。
「無事でよかったわ、ハリー…ごめんね、決戦に参加できなくて」
「アーうん、ダンブルドアから聞いたよ、スネイプ先生が君を危険から遠ざける為に眠らせていたって」
「そうね、眠り薬を盛られたわ。飲み下して効果が出るまで気づかない私に責任もあるけれどね」
「…その辺りがよくわからないんだけれども、スネイプがどうして貴女を危険から遠ざけようとするの?」
「…今はその話はいいじゃない、ハリーの話を聞きましょう?」
そう誤魔化して私達はハリーから何があったのかを聞いた。
炎の壁の向こうにみぞの鏡が安置されており、クィレルがそれを調べていた事。ヴォルデモート…ハリーは『死喰い人の主』の事をそう呼んだ…と対面した事、賢者の石を手に入れた事…そして目覚めてからのダンブルドアとの会話について。
「それじゃ『石』は無くなってしまったの?フラメルは…死んじゃうの?」
話し終わったハリーにロンが訪ねた。
「僕もそう言ったんだ。でも、ダンブルドア先生は…ええと、確か…『整理された心を持つ者にとっては、死は次の大いなる冒険にすぎない』って」
「だからいつも言っているだろう。ダンブルドアは狂っているって」
そう、ロンは感心した様子で言った。
その後、ハーマイオニーとロンが、ハリーと別れた後に自分たちが何をしたのか話した。
そして話はダンブルドアの行動についておよんだ。
ロンとハーマイオニーはダンブルドアがハリーが『死喰い人の主』と対決するように仕向けたのではないかと非難したが、ハリーはダンブルドアを庇っているような、庇っていないような事を言った。結局、ダンブルドアはハリーが望むなら『死喰い人の主』と対決させて良いと思っていたんだろう、と言ったのだから。
最後に、ロンが明日は学年末パーティーだから元気になって出てくるように言い、クィディッチの試合でグリフィンドールがレイブンクローに惨敗し、寮杯を逃したという些事について付け加えた。
そこでマダム・ポンフリーが入って来て面会終了を告げて、私達は医務室から追い出された。
翌日、ハリーが医務室から出てきたのは学年度末パーティーが始まる寸前だった。
医務室前で待っていた私はハリーがこぎれいな革表紙の本に気が付いた。
「どうしたの?それ」
「うん、ハグリッドがくれたんだ。僕、ほとんど両親の写真を持っていないじゃない?
おじいちゃんたちが持っている帰省時に取った母さんの動かない写真は見た事あるけれど…
だから、ハグリッドが父さん達の学友にフクロウを送って写真帳を作ってくれたんだ」
そう、ハリーは嬉しそうに言った。
私達が大広間に入ると皆がハリーを見てシーンとなり、その後大声でしゃべり始めた。
それを気にしない様子でハリーと私はグリフィンドールのテーブルに着いた。
席はロンとハーマイオニーが4人並んで座れるようにスペースを確保していてくれていた。
私達が席についた直後、ダンブルドアが現れた。
ダンブルドアはあいさつの後、寮対抗杯の点数について発表した。
4位 グリフィンドール 312点
3位 ハッフルパフ 352点
2位 レイブンクロー 426点
1位 スリザリン 472点
スリザリンのテーブルから歓声と足を踏み鳴らす音が上がった。
「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」
そう、ダンブルドアが言うとスリザリン席の笑いが少し消えた。
そして、ダンブルドアは咳払いをした後に加点を始めた。
まずはロンに最高のチェス・ゲームを見せてくれた事を称えて50点が与えられた。
次に、ハーマイオニーに火に囲まれながら冷静な理論を持って対処した事を称えて50点が与えられた。
また、ハリーに完璧な精神力と並外れた勇気を称えて60点が与えられた。
そうして、グリフィンドールとスリザリンとが同点になった。
最後に…ネビルに、あの夜にハリー達を止めようと立ち向かったネビルに、味方の友人に立ち向かった勇気を称えて10点が与えられた。
そして、大広間が歓声で爆発した。
私はとっさにテーブルを離れ、もみくちゃにされるハリー達を見ていた。
お腹空いたんだけどなぁ…と思いながら。
数日後、試験の結果が発表された。
当然のように、ハーマイオニーは学年トップを取っていた。
ロンも勉強に時間を費やした事もあり、良い成績だった。
私とハリーは全体的に優秀と呼べる成績を収めており、かつ魔法薬学はともに満点を取っていた。
なお、ネビルを含めて今年の一年生に進級できなかった生徒はいなかった。
『休暇中魔法を使わないように』と言う注意書きが配られ、夏季休暇が始まった。
洋服ダンスは空になり、旅行かばんは一杯になった。
私達4人はコンパートメント1つを占領し、ホグワーツ特急の旅を楽しんだ。
「まあ、彼だわ。ねえ、ママ、見て」
4人でキングス・クロス駅のマグル世界側に出た私達を指さす赤毛の女の子がいた。
それはロンの家族写真で見た、ジニー・ウィーズリーのようだった。
「ハリー・ポッターよ。ママ、見て!私、見えるわ」
そう、ジニーは金切り声を上げた。
「ジニー、お黙り。指さすなんて失礼ですよ」
ウィーズリーおばさんはジニーをたしなめ、私達に笑いかけた。
「忙しい一年だった?」
「ええ、とても。お菓子とセーター、ありがとうございました。ウィーズリーおばさん」
そう、ハリーが応えた。
「まあ、どういたしまして」
「お帰り、ハリー、アイリス」
人込みからすっとマグル服の母が現れた。
「ただいま、母さん」
「ただいま、ペチュニア伯母さん」
「…長話をするならば少し離れようか、ここは人が多すぎるし…次の子がスムーズに出られるようにね。よろしければウィーズリー家の皆さんも」
「あーありがとうございます。でも私達は他の子達を待たないといけないので」
ウィーズリーおばさんがそう答えたのでロンとはここで別れる事となった。
「じゃあ、夏休みに会おう」
「うん、また夏休みに」
「ええ、またね」
「手紙、必ず送るわね」
その後、少し話をした後にハーマイオニーも迎えに来た両親と合流し、お互いの住所と電話番号を交換した。
「それじゃあ、またね、ハリー、アイリス」
「うん、またね、ハーマイオニー」
「また会いましょう、できれば夏休み中に」
その後、私達は母のアトリエに移動し、母の付き添い姿現しでハリー、私の順でコークワースの家に移動した。
家では祖父母がごちそうを作って待ってくれていた。
翌日、コークワースの家のリビングで私とハリーは試験を受けていた。
試験と言っても、提出した課題に対するいくつかの口頭試問、質疑応答だが。
「よろしい、二人ともよく頑張った…まさか二人が一年でこの課題をこのレベルで仕上げてくるとは思っていなかったよ」
そう言って母は私達を褒め、私達を地下室に連れてきた。
そして物置と化している地下室を進み、行き止まりの壁にかけられた大鍋の絵の前にやってきた。
母が絵の前に立って何かしらの魔法を行使した…様な気がした。
すると、大鍋の絵が駆けられていた壁が扉に変わった。
「お前たちの為に魔法でちょっとした実験室を用意しておいたよ」
そう言って母が扉を開けるとそこにはちょっとした、と呼ぶには十分に広い実験室が広がっていた。
ホグワーツの魔法薬学教室の1/10以下の広さだが、それでも十分に広かった。
「当分は私の監督下で活動するようにする事、万一の際に備えて杖は携帯しておく事、そして調合した魔法薬類は勝手に使用しない事、がこの部屋を使う条件だ、良いね?」
母はそう言ってほほ笑んだ。
こうして、私達の楽しい夏休みが始まったのであった。