月の出たとある晩のこと――
わずかに降りそそぐ月明かりすら届かないほどに深い深い森の中――
ここは言わずと知れた麻帆良学園の郊外にある森。
よく謎の忍者やらはた迷惑な侵入者などが現れる森としても有名な場所である。
都会に近いくせに何故か野生のクマまでいる謎の空間でもあるのだが……
そして深い森の中と文章が刻まれれば、そこで何かが起きるのはもはや必然――
事実――
闇が一瞬の間と共に閃光に飲まれ、爆音と轟音が夜の静けさを無常にも打ち消した。
隕石が落ちたのか、はたまた爆弾でも爆発したのか。
それ程の音と衝撃が突如として無人の森へと現れたのだ。
あまりの轟音と衝撃で木々が揺れ、葉が舞い散る。
しばらくすると、先ほどの出来事が嘘のように再び静寂と夜の闇が森へと戻ってきた。
だが、ただ一つだけその場には先ほどとは違った変化があった。
人の気配がまったく無かった森の中心に、数個の人影が倒れていたのである。
「いってぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!!」
その一人がガバッっと勢いよく起き上がる。
声や体格からして男のようではあるが、暗闇でよく見えない上にさらに深くまでフードをかぶっているためその顔つきまでは確認することはできない。
どうやら先ほどの光の際に頭を強く打った様子で、それはそれは痛そうに頭を抑えていた。
「くそ~、いったい何がどうなって「おぎゃあああぁぁぁぁぁぁ~~~~!!」ってうおわっ!!?」
男はいきなりの泣き声に驚き、危うくお腹の上に居たソレを落としそうになってしまった。
それがなんなのかすぐさま理解すると、壊れ物を扱うように大切に抱きかかえあやし始めた。
男の腕の中でうわんうわんと泣きじゃくるそれは、男の腕の中に小さく存在するそれは、まさに赤ん坊そのものだった。
髪はまだ赤子らしく産毛であり、すこし白みがかっていた。
そして涙で濡れたその瞳はまさに真紅。
肌は一般的な子供と比べて色素が若干薄く感じられる。
アルビノ……にしては違和感を覚える、そんな少々特徴的な赤子だ。
どうやら抱えていた男が突然起き上がった事と、先ほどの音に驚いて泣いてしまったようだ。
「ああ、はいはいもう大丈夫だからねぇ。ほら良い子だから泣き止んでおくれ」
「う、ううぅぅ…」
「ほ~らいい子いい子」
突然の事で男も焦るが、それなりにこんな状況には慣れている様子ですぐさま子供のご機嫌を取る。
赤子も赤子で聞き分けがいいらしく、すぐに泣きやんでくれた。
まったくもって良い子である。
すると泣き声に起こされたのか、はたまた男の声に起こされたのか、すぐ近くに倒れていた別の影がむくりと動きだす。
「……まったく、いったい何があったのですか?」
起き上がった影は隣にいる男の姿を見つけるとすぐさま現状を確認する。
影の人物は女性だった。
そして別段慌てた様子もなかった。
彼女も男と同じでこんな状況には呆れるほどに慣れてしまっているのだ。
ならば今更慌てたところで体力の無駄になるだけだと悟ってしまっていた。
彼女は綺麗な金色の髪をなびかせた、誰から見ても美少女だと言える容姿を持っていた。
西洋人形のように均整のとれた顔つきに高い鼻、唇は透きとおっており男ならば誰もが眼を離せない程だ。
その中でも特に切れ長で強い意思を持ったこれまた赤い眼が特徴的。
服装は男とは違い至って軽装でありシンプルなものだった。
「カティもいるのか?
とりあえず何人いるかわかるか? さすがに暗くてよく見えん……」
先ほども言ったがこの場は暗闇に飲まれた深い森の中なのだ。
月が出ているとはいえ、木々の枝によってほとんど遮られており、眼が慣れていない状態ではまともに見る事すら叶わない状態なのだ。
しかしカティと呼ばれた少女は苦も無くこの場にいる人数を言い当ててしまった。
「ちょっと待って下さい……私をいれて6人です、お父様」
「そうか……皆無事か?」
「い、痛いです……」
声を聞いてゆっくりと起き上がる黒髪の少年。
眼が隠れるくらいに伸ばした前髪が特徴的な大人しめな少年だ。
「トウヤか」
「あ、はい……」
「あ~んも~なんだっていうのよ!?」
バタバタと暴れながら起きるのはオレンジの髪の元気そうな少女。
母親譲りの長い髪をポニーにした活発的な少女である。
「アスカもいるのか」
「そうみたいね」
「イタイわぁ」
今度は間延びしたしゃべり方に特徴のある茶色で少し黒みがかった長髪の少女。
京都弁はこちらも母親譲り。
「この声はコノハだな」
「はいなぁ」
「です~」
そしてコノハが抱えている黒髪の小さな娘。
まだ口足らずでうまく喋れないが、こちらも母親の特徴が既に出ていた。
「ユクもいるのか。じゃあカティと今、俺が抱えているセイナをいれて6人だからちょうどだな」
最後に自身で抱えている白髪の赤子。
母親の特徴を色濃く持った可愛い娘だ。
さて、男の記憶違いでなければ異変が起きる以前とまったく同じ人数でありメンバーも変わりない。
どうやら彼を中心に周りにいた全員が巻き込まれてしまったということらしい。
誰一人欠ける事なく近くにいてくれたようで彼としてはとりあえずの一安心。
「それでいったい何があったのですか?」
カティが事情を確認する。
さすがに何が起こったのかわからないのではどうしようもない。
事件の内容を把握したいと思うのは当然な事である。
しかし……
「もういつもの事で慣れちまったよ……」
だが男にとっては本当にいつもの事らしく、理由もすでにわかりきっていた。
わかるくらいに事件が起きているというのも大分問題ではあるのだが。
「じゃあ犯人はあの人ですね」
男が慣れているというのであれば娘のカティにとっても慣れっこの話。
この一家にとって騒動の発端になりえる人物など限られているのだ。
「多分それ正解」
チャオリン♪ チャオリン♪ 助けてチャオリ~ン♪
タイミングでも図っていたかのように携帯の着信音が鳴る。
なんとも愉快な着信音であり、そして犯人自ら自首しているかのようでさえある。
「さて、当のご本人からだ」
「タイミングよすぎ……」
「いつも疑問だけど、その着信どうにかならない?」
「気にするな、仕様だから。というか変えたけどいつの間にか元に戻ってるから。……もしもし?」
とにもかくにも電話に出る。
『おお、大丈夫だたカ?』
相手の女性は心配そうな声で気遣ってきた。
「大丈夫だ、怪我とかは無い。
で、いったい何があったんだ?」
『子供達がいつの間にか倉庫から持ち出していたらしくてね、運悪くスイッチが入って起動したらしいネ。
しかも、談笑していたアナタ達のすぐ近くでネ。
いた場所も運が悪かたが……
反応を調べたらアナタと子供達6人の反応が消えていたヨ。
ちゃんと全員いるカ?』
「ああ、六人ともちゃんといる、心配はいらない」
『そうか。こっちにいる子たちは無事だから安心していいヨ』
「それを聞けただけで少し安心した……」
『それはよかタ。
さて、帰る方法だが……はっきり言うが、現時点では無いとしか言えないネ』
「そうか…………で、どれくらいで出来る?」
現時点では……という事は時間は掛かるが方法はあるという事だ。
そも男にしてみれば彼女が何も出来ないという選択肢そのものが無いのだ。
彼女なら、ミスやドジはあっても、最後には必ず成功すると信じているのである。
『アナタと一緒に飛ばされた一号機は無理に起動したから使い物にならない筈ネ』
確かによく見ると男の足元には見たことがある部品が散らばっている。
とはいっても原型もほとんど残っていない文字通りの残骸だが。
これを修復するくらいなら一から作り直した方がよっぽど早いだろう。
材料が手に入るかどうかは別としてだ。
『二号機はあの日に壊れてからそのまま。
とりあえず修理はしてみるが……最低でも一ヶ月は掛かるネ』
「じゃあ一ヶ月待てばいいのか?」
『それが……とにかく、そっちに到着してから電話までどれだけ掛かったカ?』
内容を聞いていたカティが左腕を差し出し、腕時計の文字盤を見せる。
彼女の腕時計も電話の主が制作した特注品であるため、先ほどのような衝撃があろうとも……
いや、例え核攻撃の中心にあろうとも耐えられるように設計されている。
時間は今も一切ずれなく刻まれ続けている。
ちなみに夜間対応ライト付き。
「10分くらいだな」
『こっちは観測してから5分弱……やはりずれが生じているようだナ』
「どういうことだ?」
『正確にはまだ分からないが、そっちの時間軸の流れと、こちらの時間軸の流れに差異が出来てしまっているという事ネ。
今ある方法だと時間軸を無視してそちらのすぐの時間に行くことは出来ない。
修理に使った時間と同じだけの時間がそちらでも流れる筈だたが……
時間軸の流れに違いがある以上は、こちらで一ヶ月でもそちらでは一ヶ月以上……最悪は一年を超える可能性もあるネ』
「つまり、どれだけ掛かるか現時点ではまったく予測不能という事か?」
『そうネ。出来るだけ早急に完成させるが……そちらでいったいどれだけの日数になるかは不明。
それまで、待っていて欲しいネ』
「わかった」
『悪いネ。ワタシのせいでこんな事になて……』
「気にするな。お前は悪くない。
……信じているからな」
彼女は何かと問題は起こすが、その全てをちゃんと解決もして来た。
心配はあってもそれ以上に信頼できる女性なのだ。
そも信頼していなければ彼女を頼りになんて出来やしない。
『ありがとうネ、頑張るヨ。
……この通信ももう限界ネ、伝えたい事はあるカ?』
「俺が絶対に子供達を守る、だから心配するな。
特に、彼女にはしっかりと伝えておいてくれ。彼女もセイナの事が心配だろうから」
子供達の中でもセイナが一番深い事情があるため、念を入れておく。
自身としても彼女をあまり泣かしたくは無かったから……
『わかてるヨ。
必ず、迎えにいくから』
「ああ、待ってる」
『……じゃあ、またネ』
「ああ、また……」
名残惜しそうに着信を切る。
「さて、これからどうするの……お父さん?」
「そうだな……とりあえずはここがどこだかわからないとなぁ」
とにかく場所を確認して急いで宿を探さないといけない。
そもそも事件が起きる前は確かに見晴らしのいい草原に居たはずなのに現状は森の中だ。
違う場所へ飛ばされている、そう思った方が確実だろう。
そもそもアレが見えないのが一番の問題だ。
つまり自分達が過去に来てしまっている可能性が高いことになる。
しかも知っている場所であればある程度の地理も分かるだろうが、そも何年分の時間を移動したのかすらも分からないのだ。
ありはしないだろうが、これがもし数百年単位で移動していれば目も当てられない。
手持ちの金すら使えないとなるとかなりまずい状況に陥ってしまうのだ。
赤子がいる都合上、せめて長期滞在出来る拠点を確保したい所ではあるのだが……
などと悩んでいると、
「大丈夫みたいですよ。ほらあれを」
カティが上空からやって来ている影を指差す。
先ほども言ったが暗闇でも難なく見渡せる目を持つ彼女だ。
例えそれが闇夜の空であろうとも見通すことが出来る。
「なに?」
だが男にとってはさすがに予想外だった。
思っていたよりも察知が早すぎるのだ。
確かにあれだけの閃光と轟音を考えれば何事かとやって来もするだろう。
だがここは深い森の中なのだ。
いくら遠くを見たところで人里の明かりなど見えやしない。
周囲十数キロ単位で離れているだろう。
だというのに10分足らずで適格に目的の場所へ来るなどおかしすぎる。
これは確実に自分たちの居場所を察知されていて把握されている可能性がある。
しかも相手は単独で空を飛んでいるとなると裏の関係者の可能性が高い。
魔法使いか科学サイドかは置いておいても。
念の為、全員がそれぞれ戦闘が出来る用に急いで体勢を整える。
「侵入者だな?」
そして空から舞い降りてきた人物を見て男は、
「……ぅわぁぁ……ってことはここ麻帆良かよ」
呆れていた。
それはもうとんでもなく呆れていた。
そして問題となっていた場所も確認出来てしまった。
ここは麻帆良学園だと。
なにせ降りてきた人物、彼女は確かに男たちを見て侵入者だと言ったのだ。
よく知る彼女であれば、自身のテリトリーに入って来た輩をわざわざ自分から出迎えに行くなんて面倒くさい事をする筈が無い。
しかも全盛期であれば尚更だ。
そも周囲の木々が日本原産な時点でここが日本であるのは既に確実だったのだ。
そして、彼女がわざわざ確認になんて来るという事はとある場所に居た時くらいだろう。
つまり麻帆良学園にて封印されていた時分のみ。
そう、相手は真祖の吸血鬼、闇の福音、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだった。
「そのようですね、残念ながら」
「でも相手があの人じゃあ今がいつか正確にはわからないよ」
「確かに……」
「見た目全然変わってへんからなぁ」
「です~」
「だぁ」
子供達はそれぞれ言いたい事を口々にしていく。
まったくもって緊張感も無い。
そして聞こえてくる内容に怒るエヴァ。
「うるさいぞ貴様等!! ゴチャゴチャとふざけた事を言いおって!
まったく……
さて、なんの用件でこの土地に侵入してきた!?」
とりあえず彼女は仕事を優先したようだ。
ぶっちゃけ彼女もさっさと帰りたいのだろうと推測する。
「事故で無理矢理に来てしまっただけだ。別に他意はない」
ここは素直に応える。
嘘を言った所であまり意味は無いし、戦う気なんてまったく無いのだから正直に答えた方が得だろう。
「ほう。ならそのフードを取って顔を出せ」
「え、フード……」
という事は顔を見せるということ。
さすがにそれは男も躊躇してしまう。
「敵でないと言うなら顔くらい出せるだろう。それとも……」
エヴァは魔法発動媒体用のビンを片手に脅す。
魔法が使えない時期か、と考えてみるが今にも投げつけてきそうなため諦めて承諾する。
「いや、わかった。出すよ」
戦闘を避けられるならと男はフードを取った。
「そうだ、言うとおりにすれば………なんだと!」
「これでどうだ?」
出てきた顔にエヴァは驚愕するしかなかった。
なにせ男の顔は、彼女にとって忘れることが出来なかった顔だったのだから。
「な、ナギ!!?」
ナギ・スプリングフィールド。
エヴァが長年待ち続けているサウザンドマスターと呼ばれる男の名だ。
しかし彼女には再会のうれしさよりも別の想いが湧き出ていた。
「いや、ちょっとまて! なんだその握りこぶしは!?」
「今頃のこのことやって来て! しかもどうみても子供を連れて!!」
確かに想い焦がれていた相手が何年も待たせてから現れてしかも子供を多数連れていたら怒りたくもなる。
約束を忘れていただけでなくどこぞの誰かとイチャコラされていたと思えば誰だって怒りたくなるものだろう。
だが男はなんとか止めようとする。
「話を聞け! 俺はナギじゃない!!」
そもそも別人なのだから。
「何を考えている~~~~!!! ってナギじゃないだと?」
エヴァもその言葉を聞いて止まる。
さすがにまったくの別人を殴るわけにもいかないから。
「そうだ。似ているが別人だ」
「だが、似すぎている……」
エヴァはまじまじと男の顔を確認する。
どこからどう見ても瓜二つなのだ。
まるで生き写し、双子と言われても納得しそうな程に。
「とりあえず詳しい話は学園長室に行ってからにしたい」
「そうか……わかった」
エヴァも若干混乱したまま男の提案を呑むことにした。
男と子供達はそのまま麻帆良学園の学園長室へと通された。
「さて、君がその侵入者かのう?」
「いちおうそうなるな」
男とその娘たちは部屋の中心に並んでいた。
赤ん坊のセイナは今はカティが代理で抱いている。
その正面には麻帆良のぬらりひょんこと学園長。
初対面の相手に頭の事を指摘されずふつうに挨拶されて驚いていたが。
学園長の傍らには高畑。
警護役として居るようだが、男たちの姿を見て少し挙動不審になっている。
そして最後に備え付けのソファーにふてぶてしく座るエヴァ。
男たちの、特に男とその隣に立っているカティが気になってしょうがない様子だ。
「それにしても、似ておるのう」
学園長は男の顔をマジマジと見る。
エヴァから事前に連絡を受けていたとはいえ、実物を見るまでは信じられなかったようだ。
だがこうして見てみるとまさに生き写し。
しかも魔法などによる変装の可能性も無いのだ。
疑いたくなってもしょうがない。
「まあ……ね」
そんな学園長を見て、男はもう苦笑いをするしかなかった。
自分たちを見ても誰かまったく分からないのだ。
つまりは自分たちが居た世界よりも過去の世界だと確定したのだ。
そしてこれから自分たちの説明をしなければならないと思うとどうしても頭が痛くなる。
「とりあえず自己紹介を頼めるかのう」
「わかった……が、まずは子供たちからでいいか?
そのほうが何かとわかりやすい」
「ふうむ。ワシは別にそれでもかまわんが……」
学園長は少し不信に思いながらも了承した。
男は了承を得ると子供達を紹介する。
「そうか。
じゃあまずこの金髪の娘が……」
「カティです。どうぞよろしくお願いします」
礼儀正しくお辞儀をするカティ。
「次にこの目の隠れた子が……」
「トウヤ……」
人見知りの激しそうな大人しいトウヤが軽くお辞儀をする。
「そしてこのオレンジの髪の娘が……」
「アスカで~す!」
元気よく自己紹介するアスカ。
「この長い髪の娘が……」
「はじめましてぇ、コノハです」
おっとりした雰囲気のコノハ。
「この抱えている子が」
「ユク~」
手を上げて名前を言うユク。
「で、最後にこの娘がセイナだ」
カティの胸の中ではしゃぐセイナ。
「ふ~む、全員似ておらんようじゃが……両親は誰じゃ?」
学園長の言うとおり子供達は全員髪の色も顔の作りも目の色もばらばらなのだ。
誰か一人くらいは男と血の繋がりがあるかもしれないが、どちらかというと彼女達の保護者、もしくは引率者に見えてしまう。
だが男は軽く言う。
「全員俺の子供ですが?」
「何!?」
さすがにそれは学園長にとっても予想外だったらしい。
なにせどう見たって母親が同じに見えないのだから……
すると高畑は一人の少女を見る。
「学園長、似ていませんか、彼女?」
「ふむ……確かに似ておる。そしてこの娘も……」
学園長ももう一人の少女に誰かの面影を見たようだ。
「それは当然でしょうね」
そんな二人を見て男はさも当然のように言う。
「何か知っているのか、お前は?」
エヴァが聞く。
それは当然の疑問だろう。
なにせさっきから彼女はカティという少女に言い知れぬ近心感を持ってしまっているのだ。
そして自分の学友に似た娘たち。
何も関係ないと言われても信じられないだろう。
ならば……
「そりゃあもちろん、俺の子供達の事だからね」
男は子供達の頭を撫でる。
「回りくどい事はさて置いて……
話してしまったほうがいいと思いますよ、お父様?」
「そうだな。
俺の名前はネギ……ネギ・スプリングフィールドだ」
「な、なんじゃと!?」
「そんな馬鹿な!」
ネギ・スプリングフィールド。
サウザンドマスターであるナギ・スプイリングフィールドの息子の名である。
だが彼らが知るネギ・スプリングフィールドとは年齢が違いすぎる。
「もちろん、あなた達の考えている人物ですよ」
「でも……」
「まあ確かに年齢が違いすぎてますよねぇ」
「それで、今現在のネギ・スプリングフィールドの年齢は?」
カティが念のため確認する。
「うむ、数えで10歳じゃが」
「なるほど」
「20年前ですか……」
カティが若干項垂れる。
予想よりも年数があった事に……
「おい貴様。その娘、人間ではないな?」
するとエヴァがカティから発せられている微弱な魔力に気付いた。
先ほどから感じていた近心感。
それはまさに吸血鬼の魔力だったのだ。
「あら、やっと気付いたのですか?
お母様?」
そしてまさかの問題発言!!
「そうか……ってお母様!!?」
さすがのエヴァでも聞き捨てなら無い言葉だった。
第一、生んだ覚えも育てた覚えも拾った覚えもないのだ。
そんなエヴァを可笑しそうに眺めながらカティは改まって自己紹介をする。
「あらためまして……カティ・A(アタナシア)・M(マクダウェル)・スプリングフィールドと申します」
「な、なんだと!!?」
「本当にお母様は昔から姿が変わらないのですね。娘としては年下に見えるお母様が羨ましくて同時に恨めしいですわ」
まくしたてるようにカティは話しを続ける。それはまるでエヴァをからかうかのように。
エヴァの娘であるカティとしては、自分よりも背が低く何処からどうみても子供なエヴァがコンプレックスだったりする。
やっぱり可愛いと思われたいのが乙女心。
だが一緒にいるとどう見ても年下に見えてしまうのはエヴァの方である。
ちなみにカティの容姿は大人ヴァージョンのエヴァに近いというとんでもプロポーションだ。
未来ではサイズの合う下着が少ないと言ってエヴァをからかっていたりもする。
逆に、母親は母親でスタイルのいい娘がコンプレックス。
それで何度か母娘喧嘩になったが……
「なななななななななっ!!」
さすがに思考が追いついていない様子のエヴァ。
「馴れ初め話が聞きたければ後でじっくりと教えて差し上げますよ、お・か・あ・さ・ま♪」
性格はエヴァ+ナギといったところだろうか……母親であるエヴァの扱いは誰よりも心得ていた。
ちなみに話せばネギにも大ダメージ。
ネギにとってもトラウマ事件なのだ。
「なんだとーーー!!!!!!」
さすがに爆発するエヴァ。
「ほ、本当なのかい?」
高畑もさすがに驚いている。
「嘘を付く理由はありませんよ、タカミチさん?」
カティは可笑しそうに微笑む。
確かにどこかエヴァの面影がある笑みだった。
「まあそういう事だ」
ネギもさすがに諦めてさっさと話す事にした。
「トウヤもアスカもコノハもユクもセイナも、母親は全員今2-Aの生徒ですよ。
俺は未来から来たんです」
「な、なんじゃと!!」
さすがに驚きは隠せない。
予想の斜め上を行っているのだから当然といえば当然である。
「アスカ……明日香は、明日菜……俺と神楽坂明日菜との間に生まれた娘です。
そしてコノハ……木乃葉は、近衛木乃香の娘です」
「な、な、な、なにいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
学園長室が揺れるほどの驚き。
似ているとは思っていたが本当に娘だとは思ってもいなかったのだ。
「もちろん20年後の未来での話です。
この世界でも同じになるかはわかりません」
「そ、そうか……」
「で、でも驚いたよ。本当にネギ君なのかい?」
「本当ですよ。ただし未来の事はあまり言えませんけどね。
禁則事項という奴です」
「うむ、わかった。気をつけよう」
「それにしても、こんなに沢山子供がいるなんてね……」
高畑はしみじみと言う。
だがここで他の子供達が爆弾発言。
「子供が全員で50人近くもいるんだよね」
「あ、アスカ~~!!!」
もはや固まるしかない高畑と学園長。
「奥さん30人……」
「トウヤ~~~!!!!」
絶句。
「1■歳で子持ちになったんやよなぁ」
「コノハ~~~~~~!!!!!」
ガチでアウトな年齢。
「ですぅ」
「だあ……」
「ユク~~~、セイナ~~~……ってお前たちは言って無いな」
そもまともにしゃべれません。
「す、凄すぎるのう……」
学園長はもうあきれ返っていた。
「千の女を落とした男って言われてます」
「カティまで……」
ネギは子供達に裏切られて打ちひしがれていた。
「会員番号で言うと万の単位で足りるかなあ」
「もう、それ以上はやめて……」
一気に暴露されて泣きの入るネギ。
これが嘘ならよかったのだが事実だから文句も言えない。
「も、もちろん全員を愛していますよ。
ただ、言い訳させてもらうと迫ったのは俺じゃありません!!
むしろ襲われました! しかも複数人で!!
俺の知らぬ間に結託されて外壁埋められて罠まで作って……
あの子がOKでなんで私はダメなのって……
既にいた子はあの子も一緒じゃなきゃ子供は下ろしますって……
俺だって頑張ったけどさ、周りの批判もあるしって、世間が許さないって……
法律まで変えやがったよあいつら……
魔法世界も現実世界もすべての世論を動かしやがったよ……
最終的には全世界から祝福されたよ、俺にどうしろっていうんだコンチクショーーーーーーーーーーーー!!!」
とりあえず他の子供達は元気かなぁと思いながら、やっぱり多いなと反省していた。
奥さんたくさん居てその中で子持ちで無いのは二人だけ(子持ちで無い理由はそも作れないからなんだが)。
しかも母親一人に付き子供一人というワケではないのでそれだけ多くてもおかしくはないが……
いや、そもそも奥さんがが多すぎるんであって……
追記しておくと……
カティが17歳。エヴァの一人娘。ネギ家長女。(ネギが何歳の時に生まれたかは考えてはいけません)
トウヤが15歳。宮崎のどかの長男。ネギ家長男。(この子もあまり考えてはいけない)
アスカも15歳。神楽坂明日菜の長女。ネギ家次女。(上と同じ)
コノハが10歳。近衛木乃香の長女(やっとまともな年齢に……)
ユクが6歳。綾瀬夕映の一人娘。(問題なし)
セイナが1歳。桜咲刹那の一人娘で全員の中で今の所一番最後に生まれたネギ家末っ子。
とりあえず子供全員の中で一番年上と年下がそろっていた。
ってよく考えたら上から三人が一緒……実家大丈夫か?
まあ奥さん'ズがそろってるから大丈夫か……
むしろこっちよりよっぽど安心。
「お父様。そろそろ戻ってきてください。説明がまだです」
「あ、わるい」
カティに呼び戻され説明に戻る。
「え~と、とりあえず事故で偶然タイムマシンが動いてしまい、俺達だけ此方の世界にやってきてしまったんです」
かなりはしょって説明。
もうどうにでもなれ状態である。
「いきなりじゃな。しかしタイムマシンじゃと!?」
「それは本当なのかい?」
さすがに信じられないといった顔だ。
そりゃどう考えたってオーバーテクノロジー。
魔法とか科学とかそんなの関係なく、ほぼありえない代物なのだから。
「本当です。それにでなければ俺達が今此処にいる理由も無くなりますしね」
「……わかった、信じよう。で、帰る方法はあるのかのう?」
「いちおう向こうの方で何とかしようと頑張ってくれてますけど……時間が掛かります。
最低でも一ヶ月以上は待たないと」
「そうか。ならその間の事はわし等でなんとかしよう。
その代わりと言ってはなんじゃが、教員を頼む。君なら知っていると思うが……」
どうやら学園長は引き込む方を選んだようだ。
さすがに子供たちまで使って嘘はつくまいと考えたのだろう。
ならば保護して自分たちの目の届くところに置いておくほうが安全と判断したという事。
ネギも長年の経験と勘でそれを把握し、お言葉に甘えておくことにした。
なにより衣食住が確保出来るというのは大きかった。
「この時代の俺が中等部で教師をやってるんですよね。
たしかこの時期ならそろそろ新学期?」
「そうじゃ。じゃから君にはそのサポートとして副担任をしてもらいたい。
君なら誰よりもうまく彼のサポートができるじゃろう?
もちろん名前や経歴が隠してもらうがのう」
そりゃあ本人であり、すでに経験してきた道なのだからどうとでもなる。
行動が読める相手のサポートなどやりやすいに決まっているのだから。
「ならそのままナギでいいですよ。それと最低限しかしませんからね。
手助けし過ぎると甘えてしまいますし」
甘えが悪いとは言わない。
だが甘えすぎて頼ることしか考えなくなっては困るのだ。
自立も促し程よく甘えも引き出す。
それが教育です!
「さすがに子供の扱いは慣れているようじゃのう」
「そりゃ50人もいますし、現在進行形ですから……」
ぶっちゃけこっちに来る時点であと二人程増える予定だったという事は内緒。
お父さんの顔覚えてもらえるかなぁ?
心境は単身赴任の父親だった。
「うむ、では任せたぞい。
それにしてもカワイイのう」
学園長はコノハにご満悦。
さすがに孫の子供時代にそっくりなためお爺ちゃん暴走気味。
事実ひ孫なのだから可愛がりたくなるのにも納得。
「明日菜君の娘か……」
タカミチはタカミチで明日菜の娘を見て泣き出しそうになり目頭を抑えてさえいる。
神楽坂明日菜をタカミチの娘とすればある意味孫なのだからこちらも納得。
「くそ、本当に私の娘だというのか……」
エヴァもカティを見つめながら一人ブツブツと何か呟いている。
こっちはこっちであまり納得は出来ていなかったようだが……
でもそろそろユクとセイナのお眠の時間なのでさっさと切り上げてもらう。
「すみませんが学園長。そろそろ何処か止る場所を紹介して欲しいのですが。
この子達もグズリそうですし……」
「おお、そうじゃった!
しかしすぐに用意は出来んからのう、今日はホテルに泊まってくれ」
「わかりました。色々とありがとうございます」
「なに、構わんよ」
こうしてネギ、改めてナギの子守兼副担任生活が始まる事となった。
魔法先生ネギま!
IFストーリー
『子守先生ナギま!?』
はじまります。
え~と、ハーメルンでの投稿は初なのでいろいろと拙いと思いますがご勘弁を;
更新遅めです。のんびりやります。