ではどうぞ~
昨夜の麻帆良大停電の折、麻帆良大橋で行われたネギ・スプリングフェールドとエヴァとの魔法バトル。
終始エヴァの優勢で進んだそのバトルも、要らぬ横入のおかげでエヴァの敗北という形で幕を閉じた。
だが、ナギ達が来たからか、それとも別の因果が組み合わさってか、敗者に最悪の結末を叩き付けようとしていた。
停電が終わった事で学園結界が復活し、同時に登校地獄の呪いもまた復活してしまった。
それまでだまし続けた呪いも完全なモノへと戻り、エヴァを再び魔法の使えない少女へと変貌させる。
そう、最悪のタイミングで彼女は飛行する手段を失ってしまったのだ。
麻帆良大橋から離れた上空でそのタイミングはやってきていた。
足場の無い上空だ、当然あとは落下するのみ。
しかも下に流れていた筈の川原は魔法攻撃の余波で凍り付いてしまっていた。
落ちてくるモノを無常にも貫き切り裂こうと連なる氷の刃が、落ちてきたモノをただ叩き付けようと佇む氷の壁が。
今か今かと落下してくるエヴァンジェリンを待ち続けていた。
咄嗟に気づいたネギ・スプリングフィールドは杖を呼び橋を飛び出すが、エヴァの姿は遠く決して届かない距離で。
同じく気が付いた絡繰茶々丸でさえ、全力でブースターを点火させ飛行し腕のワイヤーを伸ばしてもわずかに届かない。
本来であればどちらかが救えた筈の運命は、無常にも閉ざされてしまった。
これが過去を変えるという代償なのだろうか。
これが過去を変えてしまった代償だというのであろうか。
今だ諦めんとなりふり構わず手を伸ばすナギをあざ笑うかのように、運命という名の死神の鎌は、落下していくエヴァへと振り下ろされた。
振り下ろされる筈だったのだ。
そこに居る筈の無い彼女が存在していなければ――
スイ。
氷の海へと落下するエヴァを救出した女性の名だ。
そしてナギの、未来のネギ・スプリングフィールドの奥さんの一人である。
本名を、スイ・Ⅵ・S・セクストゥム。
かつて悪の組織『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』との決戦において登場し、自らを水のアーウェルンクスと名乗った女だ。
一度はエヴァのオリジナル魔法で完全に氷漬けにされ封印された。
だが和解し、以降はフェイトを代表に魔法世界で生活をすることとなる。
その後なぜかネギに惚れ込みしばらくストーカーをしていた問題児である。
きっかけは裸を見た責任を取って下さい、だそうな。
彼女は自分の体組織を水に変えられるなんていうチート能力まで身に着けて、どこにでも侵入しストーカー行為をし続けた。
たとえ鍵を掛けようとも問答無用で鍵穴や扉の隙間から侵入し、トイレだろうが寝室だろうが風呂だろうが所構わずストーカーし続けたのだ。
液体になれるからといって風呂の水にまで化けて堂々と待ち伏せまでしてきた馬鹿でもある。
未来のネギ曰く「マジで迷惑だったわぁ」との事。
「何度消滅させようかと思ったか……」
とも呟いていたと後に家族は証言している。
まぁさすがに消滅は拙いと本人も思い至ったらしく、何度か説得を試みるが最終的には無駄に終わる。
なにせ説得をしてもストーカー行為をやめるどころかよりひどくなるだけだったのだ。
さすがにこれは被害者のネギも心が折れる思いだったそうな。
結局フェイトとデュナミスの説得をネギが受けて断念。
彼女の求婚を受ける結果と相成った。
その後、他の奥さんたちの許可をなんとか取って正式に奥さんの一人となった。
結婚後はストーカー行為が緩和されるたが、気を抜くと先回りをしているという姿がよく見かけられたという。
あまりに頻繁に繰り返されるがために魔法薬(超謹製)を使って半強制的に妊娠し大人しくさせるという事が2度あったそうだ。
その後しばらくは子育てで大人しくなったらしいが、子育ても一段落するとストーカー行為が再発するという悪循環。
さすがにどうしたもんかと悩むのが日課になっていた。
そして件の事件が起きる。
そう、ネギ達が過去へ飛ばされるほんの数日前まで、スイのストーカー行為は行われていたのだ。
第9話 『 嫁・ど忘れ・依頼 』
「それにしても、どうやって来たよ?」
「はい?」
翌朝、ナギはスイと面と向かって話していた。
とにかく、ナギにとっての目下一番の問題なのはコレである。
何日か前にデュナミスが過去の世界へと来てから新しい転移と思われる大きな魔力の反応は一切なかったのだ。
これは事前に茶々丸やエヴァ、学園長にも確認したため確実である。
もちろんそれ以前にもだ。
ならば彼女はいつ来たというのか。
彼女、スイもまた当然未来の存在である。
直接こちらの世界で発生なんてしないだろうし、そもバクテリアじゃあるまいし。
『造物主の掟』を使ったとしても、そもそもこの時期に彼女はまだ稼働すらしてないとデュナミスは証言している。
第一それでは記憶があるのもおかしい。
ということはタイムトリップしてきたのは確実の筈なのだ。
だがいつ来たのかがまったく分からない。
ならナギたちよりももっと以前に来ていたのか。
可能性は高いだろうがそれなら少なからず学園長やエヴァがまったく気づかないという事は無い筈である。
大小少なからず魔力反応が発生するため、隠蔽するのは非常に困難だからだ。
もちろん、未来人である超が使った完璧な時空跳躍なら話は別だが……
だが、そもそんな完璧な移動が出来るならわざわざナギたちより前に送る理由が無い。
未来が変わってしまって世界が分岐する以前に送る必要があった?
確かにそれも考えられるが、あの超鈴音がそんな分かりやすいミスをするとも思えない。
ならいつどうやって……
水になれる?
体組織を水に変化させる事が出来ると言った。
まさかコイツ!?
「はい、デュナミス様の体に付着して来ました。
ぶっちゃけ死ぬかと思いました」
「は、はは……マジか……
デュナミスの野郎は一人で来たつもりだったようだが、いつの間にか紛れ込んでいたと?
水になって一緒に飛ばされてきたと?
もしかしなくともデュナミスがボロボロになっていたのとかあのクレーターってお前がいたせいで余計に負荷がかかったからか?」
「そのようですね。
さすがの超さまも二人分の移動は考慮していなかったようで、魔力を大幅に使用してしまい運転が安定しなかったようです」
「まったく無茶するなお前も。
昔の俺みたいに変な時代に飛ばされるか、最悪は次元の狭間に置き去りに……なんでそうならなかった!!」
テーブルをこれでもかと叩いて悔やむナギ。
それほどストーカー行為が嫌だったのだろうか。
そして一緒に葬り去ろうとされているデュナミスが哀れでしょうがない。
「とにかく、自分の体を水に変えられるからってなんちゅうチートだよまったく。
お前ははまさかデュナミスが過去へと送り込まれると予想していたとでもいうのか!?」
デュナミスの話を思い出してみれば、ネカネに無理やりに直接転移させられたと言っていた。
それまでは家に居て、一緒に居たの当のネカネと娘二人としか聞いていない事も思い出した。
そこにはスイが居なかった筈なのだ。
ならスイはいつデュナミスが過去へ行くと知ることが出来たのか。
そもそもどのタイミングで付着したのか。
「いいえ、正確にはこちら側のメンバー全員の体に付着させておきました。
誰かを使って転移が行われたら、その瞬間に付着させていた分体に意識が移るように」
「おい身内になにしてやがるコイツ。しかも分体に意識を移せるって、意識を移した分体が本体になるってか?
いつからそんな技能身に着けやがったマジで不死身じゃねえかよ!
どこのUQホルダーだテメェ、今の所あっちとのクロスは考えて無いんだぞ?
まったくそこまでするかおい?」
彼女はナギの事件後、自分の身内全員の身体に自分の分体を付着させて潜ませていたという。
いずれ高確率で身内の誰かが過去へ送られるであろうと超の行動を予測してだ。
そこまでしてナギのそばに居たいのだろうか……
「というかフェイトとかよく気が付かなかったな。
あいつならお前の分体くらい気付けそうなもんだが」
「旦那様を追いかけ続けて切磋琢磨し続けた今の私に死角などありはしません」
「というかストーカーしながら技能磨くなよバカ!
そんな理由で出し抜かれたとかフェイトマジ泣きするぞおい!
というか待てもしかして俺にまで付着とかしてないよな!?」
「残念ながら……茶々丸様のサーチを騙す事は出来ず……
不甲斐ない事に旦那様の転移に反応できませんでした」
「マジ茶々丸グッジョブ、ナイスファインプレイ。
帰ったらいくらでもなでなでしてやる!
もちろんゼンマイだって巻いたる!
なんだったら(自主規制)!」
「落ち着いてください旦那様。
さすがの私も引けるレベルでぶっちゃけてます」
「う、さすがにそれはキツイな。
ちょっとヒートアップしちまったよ、なんか俺も溜ってんのかねぇ?」
「私が癒しましょうか?」
「それはマジ勘弁。
とにかくだ……
こっちの世界はこっちの世界で色々と問題があるからな。
出来るだけおとなしくしていてくれ頼むから!」
こちらの世界、つまり過去の世界でトラブルなんて起こせば大変だなんて事ではすまないことが多々ある。
最悪は誰かが死ぬという事だってありえるのだ。
例えて言えば……
修学旅行で価値を無くした木乃香が殺される――
石化した朝倉や宮崎が邪魔だからという理由で砕かれる――
過度に反応したフェイトによりネギ少年が石の槍に貫かれる――
魔族の襲撃で人質になった生徒を問答無用で窒息死――
悪魔が雪広や那波を容赦なく殺す――
など……考えただけで虫唾が走るような事態さえ起きかねないのだ。
「運命が変われば救えた筈の人や出来事が失われる可能性だってある。
たとえば、お前とかな……」
「それはもちろん分かっています。
事の重大さは十二分に理解しておりますので。
ストーカーなんてボケはゴミ箱にでも捨てておいて真面目にお手伝いさせて頂きます」
「おいちょっとまて今聞き捨てならないこと言わなかったかお前?」
「はて? なんのことでしょうか?」
「ストーカーをボケって……まさかあれ全部わざとか?」
「もちろんです旦那様。
私は知識経験の少ないアーウェルンクスシリーズなのですから、これくらいの事をしないと感情を表現できません。
ましてや旦那様へ愛を伝えるなどそんな高等技能、出来ようはずがあるでしょうか!
ですから、嫌われるのを覚悟の上でストーカー行為を行っておりました!」
「あれ全部フェイクだったのかよ!?
だからか~だからフェイトやデュナミスは俺を説得したのか……コイツの心情を理解してるから」
スイのストーカー行為はすべて、愛情をどう表現すればいいか分からないが故の行動だったのだ。
体格は大人のモノでも実質的な稼働年数は10年にも満たないまさに子供そのもの。
好きですと言いたくてもどう伝えればいいか分からない。
愛していると示したくても何を言えばいいのかすら理解できない。
そんな状態だったのだという。
ならば行動で伝えるしかない訳で、だがどう行動すればいいか分からないから常に傍にいるという事しか思いつかない。
だから行く先々で待ち伏せし常に傍に居ようとする。
別にその先でなにかする訳ではない。
そもそも何をしたらいいかなんて分からないし何をすれば解消されるかなんて本人にすらも理解できないのだ。
だから延々とそばに居続けようとする。
解消されない想いを抱き続けて、それが間違いだと分かっていてもそれ以外に出来ることなんて無くて。
嫌われる事も承知の上で、好きだからそばに居たくて、もっと近くに居たくて、だけどそれがどういう事なのか表現できなくて。
それを見かねたフェイトとデュナミスはナギを説得すると決めたのだという。
可愛い末の妹のために、未熟な娘のために。
ナギに何も言わなかったのはスイの事を思ってか……
「はい、お兄様やデュナミス様には大変ご迷惑をおかけしました」
「いや、俺も迷惑は受けてるからな?
で、俺はまんまと騙されて、お前の思惑にハマっちまったのか……」
最終的には結婚し子供まで作ったのだ。
はっきり言ってスイの完全勝利という結果だろう。
嫌われる事無く、望んでいた結婚もして、しかも子供を二人も作ったのだ。
これが勝利と言わずして何を勝利と言うか。
「まったく、さすがだよお前は……」
「いいえ、きっと旦那様は私の心をどこかで分かっていたのだと思います。
だからこそ、私の事を迎えてくれたと。
でなければ他の皆様を説得など……」
本当に嫌っているなら結婚なんて考えはしないだろう。
しかも他の奥さん全員の説得などという重労働までしているのだ。
少なからず何かなければ決して出来はしない行為である。
きっとナギ自身にも気づかない内にスイに好意を抱いていたのかもしれない。
ふとスイの顔を覗き込むナギ。
その顔は、今まで彼が見続けてきたストーカーとしての彼女の表情とはまったく違うモノになっていた。
優しく微笑む彼女の顔は、今まで見た事が無いほどに優しいモノだった。
さすがのナギも照れしまう。
「ホント、苦手だよお前は……」
「フフ……」
「なんだ、ナギか……」
と、気が付けばいつの間にかエヴァと茶々丸がやって来ていた。
ぶっちゃけわざとらしくスイとナギの二人で喫茶店で待ち伏せをしていたのだ。
わざわざ周囲の他のお客様方に気づかれないように認識阻害の結界まで張ってである。
「お前もお茶を飲みに来ていたのか」
「ああ、コイツとちょっと話す事があったからな」
エヴァに会う理由は、今後のためにもスイの事を説明する必要があると思ったためだ。
本来であれば修学旅行で出会う事となるフェイトの事を考えて秘密にしておくべき事情だろう。
敵と同じ顔など勘違いの原因にしかならないのだから。
要らぬ誤解など無いに越したことはない。
だが、昨夜エヴァを助けた際にはっきりと顔を見られてしまっている。
今更隠せるわけも無いため、ならば先に説明して後に起きるであろう問題を最小限に食い止めようというのだ。
「お前は、確か……礼を言い忘れていたな。
ありがとう、お前のおかげで助かった」
エヴァはスイの顔を見ると、本当に珍しくも素直に礼を述べた。
さすがのナギでも、こんなに素直なエヴァはそうそうお目にかかれない。
横を見れば茶々丸も同じような反応をしていた。
「いいえ、私はただタイミング良くあの場にいたというだけです。
きっと貴方の運が良かったからでしょう」
「スイ、礼くらいは受け取っとけよ。
あのエヴァが珍しく言ってるんだから」
「ナギ、貴様は……」
「そうですね。
どういたしまして、これでよろしいですか?」
「ふん……ああ……」
純粋な相手は地味に苦手なのがエヴァである。
そっぽを向いて隠そうとしているが、頬が赤いのはバレバレだった。
(茶々丸、録画はちゃんと出来てるかい?
YESと、よろしいならば後で俺のパソコンにデータ送っといてくれ。
お礼は何がいい?
撫でてほしいと……ハイガンバリマス)
などと心の声同士で会話するなどという高等テクニックを使ってまでボケをするナギと茶々丸であった。
わりかし茶々丸のお礼発言はガチであるとここに明言しておく。
「紹介が遅れました。
スイ・Ⅵ・S(スプリングフィールド)・セクストゥムと申します。
以後お見知りおきを」
「私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。
まぁ命の恩人だ、よろしくしてやろう」
そう言って二人は握手を交わした。
未来を知るモノからすればなにかおかしな光景のような気がしなくもないがきっと気のせいだろう。
そういえば、
「茶々丸は大丈夫か?
昨夜は明日菜からけっこう良い一撃貰ってたけど」
デコピンとはいえ額にかなりの衝撃があった。
記憶回路など損傷していないか心配な所である。
なにせこの作品内で数少ない癒しキャラなのだ。
ここで消えられては作者的に困る。
「はい、大丈夫です。
驚きはしましたが、動作等特に問題はありません」
「それならよかった」
「はい」
「そっか、なら良かった。
さすがに壊れましたとか言われたらマジでどうしようかと」
「あ、ナギ先生にエヴァンジェリンさん」
「なによ、あんた達もお茶してたの?」
そしてネギ少年と神楽坂も合流した。
こちらは偶然だが、知っているナギとしては狙ってやったという事になる。
未来を知っているのは本当にアドバンテージになるのだ。
いつまで使えるか分からないが。
「昨日ぶりだな。体調は大丈夫かい?」
「はいナギ先生。
それにしても驚きました、ナギ先生も魔法使いだったんですね」
「まぁな、とは言っても別に隠していたわけではないけどな」
実際にナギはヒントをいくつか出していた。
この時期の副担任就任。
エヴァの休みの話。
明日香とエヴァの関係。
それに魔力だって、一般の魔法使い程度には感じられるようにしてあったのだ。
これで気が付かないなら気が付かない方が悪い。
「だったら最初から手伝ってくれてもよかったじゃないですか」
「神楽坂は既に知っているだろうが、ネギくんはこの学園に魔法の修行として来ているんだ。
簡単に手を貸しては意味が無いだろう?」
「う……確かにそうですけど」
ネギ少年は日本で教師をするという修行を課せられている。
ぶっちゃけ教師でいいのだから家庭教師でも良かろうモノを……
何故に女子中の教師なんてやっているのだろうかと疑問に思う。
ともかく修行には困難がなにかと付き物だ。
簡単にクリアしてしまっては修行させる意味が無い。
今回は不登校の不良生徒をどうやって授業に参加させるかという修行になる。
不良ってレベルじゃないし参加させる方法が決闘の時点で間違っている気がするけど。
「そうだな。
それにコイツの力を借りて勝ったとして、貴様らは納得いくのか?」
「べつにいいじゃない。ナギ先生の一人や二人仲間にしたって」
「言っておくが、ソイツは私よりも強いぞ。
それも全盛期の私でも歯が立たないくらいにな」
「へ?」
「ゲームで言えば、レベル50で倒せるラスボス相手に、レベル100のキャラを連れていくようなものだ」
エヴァの言ってることを否定したいが当たっているため何も言えないナギである。
「うそ!? そんなに強いんですか先生?」
「多少は盛られてるが、いちおうエヴァよりも強い自信はあるぞ」
「そんな奴を連れて勝ったところでどうだ?
負けるはずの無い戦いをして勝った所でおもしろみなど無いだろう?」
「それもそうだけど」
これにはさすがの神楽坂も戸惑ってしまう。
神楽坂にしてみれば、テストの点数が悪いからと他人に代わりにテストを受けてもらうようなものなのだ。
これでは文句を言えない。
「ナギ先生はエヴァンジェリンさんよりも強いんですか!?」
「ネギくん、近いって」
「凄いです! まるであのサウザンドマスターみたいです!!」
ネギ少年はネギ少年で強さの方に食いついてきた。
あのエヴァに対する映像を見ているであろうネギ少年なら、まるで理想のサウザンドマスターを見ているような感覚なのだろう。
強くてみんなの憧れで、まさに英雄といったその存在に。
それに実際にナギはサウザンドマスターの称号を持っているのだ。
ハルナのバカが付けた『千の女を落とした男』という不名誉極まりない称号だけどな!!
「まったくはしゃぎおって……だからガキは……」
「ははは、まあそう言ってやるなよエヴァ。
むしろ俺としては年相応の姿が見れてうれしいけどな」
修行で教師をやっているとはいえ、ネギ少年はまだ10歳なのだ。
本来であれば小学校に通って友達と馬鹿騒ぎをしていていい歳である。
ガキなんだからと誰かが言うが、事実まだガキなのだ。
むしろ、そうあるべきだとナギは思っていた。
自分の子供たちにも似た感覚を持つため、どうしても子供らしくあって欲しいと願ってしまうのだ。
「そういえば聞いたわよ~。エヴァンジェリン、あんたネギのお父さんのこと好きだったんだってね」
すると神楽坂は突然エヴァに爆弾発言。
どうやらやり返す気らしい。
「……そうだな。
そんなこともあったな……」
と思ったが肝心のエヴァは予想外の軽い反応である。
どうやら未来でネギと結婚した事を知ったせいで、かつての想い人であるナギ・スプリングフィールドの事を忘れようとしているらしい。
さすがにそれは早計すぎるだろうと思うナギだが……
ってあれ?
また何か忘れてるような……
「アイツは死んだんだ……十年も前にな……」
その発言でナギは思い出す。
まだエヴァに父親が生きているという事を話していないと。
「私の呪いも解くとかほざいときながら勝手に死んだんだよアイツはな。
まったく、あのバカは……」
「エヴァンジェリン……」
「マスター……」
神楽坂と茶々丸もエヴァの様子を見て悲しげな表情をしてしまっている。
これは早く訂正しないとマズい事になると悟ったナギは急いでエヴァに話しかける。
「あ、あのさぁエヴァ……そのことなんだが……」
「ナギ・スプリングフィールド様でしたら生きておられますよ、エヴァさま」
ってお前が言うのかよスイ!
「は?」
「アナタは昨日の……はい、エヴァンジェリンさん。
僕は父さんと、サンザンドマスターと会った事があるんです!!」
「何だと?
だがアイツは確かに十年前に……っておい、ちょっと待て。
坊やはいいとしてスイ、貴様が言うという事は」
「はい、しっかりガッチリちゃっかり生きてますよ」
「……」
(そんな顔で見ないでくれよエヴァ。
マジで言うの忘れてたんだって。
あのバカ親父が生きてるって……しかもお袋とイチャイチャしてるとかさぁ。
むしろ妹の教育で忙しいとか言えるわけないだろ?
あ、言っちゃった。
まぁとにかく悪かったって、あとで説明するからとにかく口裏合わせろ)
ネギ少年たちに気づかれないようにこっそりと謝り倒す。
実は以前にもましてやんちゃをしているだなんて口が裂けても言えないが。
とにかく生きてることだけははっきり言っておかないとかなり不味いことになる。
「(ふん、後でしっかり説明してもらうぞこの戯け)」
「はい……」
あとスイにはちょっと自重してもらう事にした。
これ以上いらぬ事を言われると色々と説明が面倒くさくなるためだ。
「それにしてもネギくん。君はどこでお父さんと会ったんだい?」
とりあえず話題を少し変えようと試みる。
このまま同じ話題だとネギ少年にまで未来の事を話さなくてはならなくなりそうだからだ。
「はい、6年前のあの雪の降る夜に。
確かに僕は父さんと会ったんです……その時にこの杖を貰ったんです」
「ちょと貸してもらえるか坊や」
「はい、どうぞ」
エヴァはネギ少年から杖を借り受けると入念に杖を確認する。
記憶の中にあるナギの杖を思い出しながら。
「そうだな、これは確かにあの男のモノだ。
一時期行方不明になっていたと聞くが、これがお前の手にあるということはそうなのだろうな」
「はい、きっと父さんは生きてます。
だから、僕は父さんを探すために、父さんと同じ立派な魔法使いになりたいんです」
そして未来のネギはそれはそれはキレイに道を踏み外しました。
むしろ嫁さんの方が称号もらってたりします。
孤児院建てまくった真名とか火星を救済した鈴音とか明日菜とか……
「くくっ、まったく殺しても死ななそうな奴だとは思っていたが生きているとはな」
「うれしそーねホント」
「はい」
エヴァは高笑いをしながら手をバシバシとナギの背中に叩き付けている。
言わなかった事への嫌がらせか、普通にうれしいのかが判断の難しい所だ。
「でも、手がかりはこの杖一つしかなくて……」
「そうか、ならば京都に行ってみろ。
どこかに奴が一時期住んでいた隠れ家がある筈だ。
きっと奴の手がかりもあるだろうさ」
京都にある隠れ家。
日本にしばらく滞在していた時に使っていた家であり。
何を隠そう、ネギの母親であるアリカが隠れ住んでいた家でもある。
つまり二人にとっては新婚時代の思い出の家なのである。
「京都ってあの有名な京都ですか!?
どうしよう、旅費も休みもないし……」
そんな手がかりを教えてもらったネギはというとこれでもかとアタフタしていた。
旅費があれば休み関係なく行きそうな勢いである。
最悪は魔法を使ってでも行きそうだ。
さすがに修行を忘れて行かれては困るので助け舟を出しておく。
「心配するなネギくん。な、神楽坂に茶々丸」
「あ、そうね」
「はい、ベストタイミングです」
「え?」
そう、修学旅行だ!
麻帆良学園は学園数や人数が多いという理由から修学旅行の行先はクラス毎の選択式となっている。
人気はハワイやヨーロッパなどの海外だ。
アメリカの本場のネバーランドとかも人気コースの一つである。
国内だと北海道や沖縄が定番で人気どころだろうか。
そして3-Aは留学生が多くネギ少年も日本は初めてという配慮から京都奈良が目的地となった。
つまりネギ少年が目的とするナギの家がある場所だ。
若干作為的なモノも感じはするが、これでハワイに行ってトラブルでもあったらそれはそれで困る。
3-Aの教室でそれはそれは嬉しくてはしゃぎまくるネギ少年を、ナギは遠目で眺めつつ。
自身の背後にいるソイツが気になってしょうがなかった。
「スイ……いつまで引っ付いて居やがる」
「帰るタイミングを逃しました……」
スイがナギの背中に水に化けて張り付いていたのだ。
あのままエヴァやネギ少年らと共に学校に来たのがそもそものい間違いだっただろう。
スイの紹介もあったとはいえ一緒に行動してたは失敗だった。
おかげで他の魔法先生方の監視範囲に入ったためにスイを隠さなければならなくなった。
フェイトの顔を知っている可能性のあるタカミチにでもバレたらマジで面倒事になるからだ。
どう説明しろと?
未来じゃ和解しましたとかか?
じゃあなんで女なんだよとか聞かれたらさらに説明する量が増えるし、余計に未来の事を話さなければならないのだ。
結局そのまま離れるタイミングを逃して水に化けてもらうしかなくなったわけだ。
そして隠れる場所はナギの背中。
まったく面倒事ばかりである。
「だからといって気を使って水温上げても気持ち悪いもんは気持ち悪いんだぞ?」
「申し訳ありません旦那様」
(水になってもお前の心音とかはっきり聞こえるんだよ……
まるでテメェに抱きしめられてるのと同じ感覚になっちまう。
マジで恥ずい……)
「先生大丈夫か?
なんか顔が赤いけど……風邪でも引いたか?」
「いやいや大丈夫だからな長谷川。
体調は万全だ」
「……ならいいんですけど」
顔が赤くなっていないか終始気が気ではないナギであった。
その後は学園長に呼び出されていたので、とりあえずスイを明日香に押し付けて学園長室へ。
「すまんのう、急に呼び出して」
「いやいや、なんとなく呼ばれるとは思っていたからな」
「そうか……関西呪術協会の事は知っておるな?」
「当然な」
「それでじゃ、今年の修学旅行先が京都奈良なのじゃが、先方が渋っておってのう」
「そりゃ向うじゃ魔法使いは嫌われてるからな」
昔の事とはいえ、悲劇というのはなにかと根強く残るモノだ。
謝罪などもあったかもしれないが、そう簡単に心の傷が癒えるとも思えない。
なにせ未来でもしつこく残っている案件なのだ。
おかげで未来で学園長をしている木乃香は非常に大変そうである。
そういった経緯もあって魔法使いが関西に入るのはちょっと難しいのが現状。
だというのに修学旅行とはいえ魔法使いが堂々と関西に行くのだ。
互いに緊張し合うのは当然のこと。
旅行に関しては行事の一環だからと押し通しはしたが、それも悪印象の一つだろう。
「しかたないのじゃよ。
こうでもしないとお互いの関係はずっと緊張したままになる」
「今回の修学旅行を利用して関係改善か?
最悪は生徒を巻き込むことになるぞ」
「そ、それは……確かにそうじゃのう、君が言うのならそうなのじゃろうな。
じゃが、こうでもせんと両側の関係は永遠に変わらんかもしれんのじゃ」
だからネギ少年や生徒を巻き込んででも借りを作りたいという事だろうか。
犠牲は最小限に出来ればいいとでも言うつもりなのだろうかこの狸爺は。
「イイ死に方しないぞ爺さん」
「分かっておるよ。
きっとワシは地獄に行くじゃろう。
ならば汚名などいくらでも受け入れよう……」
どうやら学園長は、自分が生きている間に問題の修復をする覚悟が出来てしまっているようだ。
木乃葉の事を教えるべきではなかったと思い直す。
仮にもひ孫に、そんな汚い世界を見せたくないと思ってしまったと。
生き急ぐなよな爺さん。
「頼まれてはくれんかの?」
「向こう側に知られていないから動きやすいしな」
「引き受けてくれるか!」
そこまでされたらナギも協力するしかないだろ?
これでも少なからず恩は感じているのだから。
あとはナギの存在が西側にばれていないというのがなによりも大きい。
裏方としてネギ少年のサポートをするには適任なのだ。
しかも経験しているだけあって何事にも対処しやすいというのもある。
まぁ副担任としての仕事もあるから当然ではあるのだが。
「引き受けるよ。
ただし、何かあった場合は追加報酬を頼む」
「まぁそれくらいはのう」
娘達のためにも何かと必要なのである。
ちなみに報酬の大半は学費免除とかだ。
なにせこっちに来てから持ち合わせがちょっと危うい。
まぁとにかく。
修学旅行での護衛が決定した。
そして自宅。
未来組全員をリビングに集めて今後について話し合う。
「というわけで今度の修学旅行のメンバーについて話し合っておこうと思う」
なにせ全員を連れていくわけにもいかないのだ。
隠れて行動するにしてもまだ小さいユクやセイナまでも連れていくわけにはいかないからだ。
確実に何人かは留守番である。
「え~と、3-Aの生徒が奈良や京都に旅行するという事でしたね」
「私も行くよ~。
でもせっかくハワイに投票したのになぁ、残念」
明日香はハワイに行きたかったようだ。
……なんか勝負水着がどうたらこうたらとか聞こえたがきっと気のせいである。
「まず俺は副担任、明日香は生徒なので強制だな。
あとは情報が欲しいからカティは来てほしい」
旅行先で不慮の事態が起きた時のためにもカティは絶対に欲しい戦力だ。
情報戦ともなれば現時点で戦えるのなんてカティか茶々丸くらいしか今いないから当然の選択になる。
そもそも茶々丸はエヴァと一緒に留守番が決定している。
後でおみやげの要望でも聞いておこう。
あとは写真と、夜には電話も入れないとな。
なんだかんだで寂しがるからな、二人とも。
「それとトウヤを連れていくかな……となるとデュナミスとスイは留守番か」
木乃葉は夕暮と聖那の面倒を見ないといけないため当然のお留守番。
さすがにこれでは心配なのでデュナミスとスイを置いていくことに。
というかこの二人を連れていくとなぁ。
「いきなり置いてけぼりですか?」
スイがつまらなそうにふて腐れている。
しょうがないだろ?
お前が行くとめんどいんだよ、向うにフェイトいるんだぞ?
顔が一緒なんだぞ?
柔らかい表情になって大分可愛くなったけど基本的に同じ顔だしな。
行っても完全に隠密行動で表になんて出れんぞ?
「それでも構いません。
それに私の能力があれば影ながら守ることは容易いかと」
だがそうなると麻帆良側の戦力にはデュナミスだけが残ることになる。
そうなるといざ何かあった時の対処が困ってしまう。
堂々と顔を出せないモノを置いていくのは……
「なら僕が残るよ。
僕の方は修学旅行はハワイになるらしいし、時期が少しずれてるからね」
「……ならそうするか?」
トウヤは万能だからいれば色々と助かるのだが、スイから目を離すというのもなにかと怖い。
というわけで修学旅行のメンバーは決定した。
役割はナギと明日香は直接3-Aに同行し護衛。
カティとスイは裏からサポートだ。
「というわけでデュナミスは木乃葉たちの事を頼んだ」
「うむ。護衛くらしか出来ぬが、しっかりと守らせてもらおう」
実力の心配はしないが性格の問題は心配したいのが本音である。
なんだかんだではっちゃけオジサンだからだ。
あとは、暇があればエヴァや茶々丸も来るだろうと思い出す。
子供たちもいることだから甲斐甲斐しく面倒を見に来る事だろう。
「ユクとセイナはお兄ちゃんとお姉ちゃんのいう事を聞くんだぞ」
「う~!」
「だ~」
よし、いい子だ。
とにかく、こちらで大きな事でもなければ大丈夫だろう。
ナギの記憶でも特になにも無かった筈だし。
これがフラグにならなければいいのだが……
ただでさえ低い評価が最近さらに低くなっている気がする作者です。
なので今回はちょっと書き方を変えてみました。
評価はどうなるか分からんけど、しばらくはこれで行こうと思います。
それと、今まで二日に一話更新で何とかやって来ましたが、最近は内容が雑になる一方。
しかもこの後の話がほとんど書けていないため、ちょっと日を置こうと思います。
具体的には1週間から2週間程。
ある程度貯めておかないと怖いんです。
逆にあまり日を置くと私がダレそうなので出来るだけ早めには投稿できるようにしたいと思っています。
ではしばらくの間ばっはは~いノシシ
PS:余裕があれば前話までの部分も修正入れます。