それではどうぞ。
「なっ!? なぜここに闇の福音が!!?」
「高音さんいらっしゃ~い、それに佐倉さんも来たんやねぇ」
「お、お世話になります……」
放課後。
ナギの家には何故か高音・D・グッドマンと佐倉愛衣が来ていた。
「高音さん、エヴァさんは修学旅行の間、ウチに泊まりに来ているんですよ」
「ななななな、なんですって!?」
「で、エヴァさん。二人はさっき会って、夕飯をどうですかと誘いました」
「そうか」
トウヤが家に帰ろうとしていた途中、偶然にも高音と佐倉の二人と出会った。
防衛戦の際など色々と共闘していたこともあって話が弾み、ならウチに来ませんかとなったそうだ。
高音としても、以前からカティとは面識もあったし、夜の仕事など助けてもらっているため一度お礼を言いたかったそうな。
というわけで二人をナギ宅にお招きしたのだが、どうも高音はエヴァンジェリンの事を警戒している様子。
「まぁまぁ高音さん。
エヴァさんなら取って食いやしませんから、ほら席に付いて一先ずお茶でもどうですか?」
「うっ、そ、そうですわね……」
「私は虎かライオンか……」
「向うじゃナマハゲみたいなモノだから似たようなモノだと思いますよ?
はい、佐倉さんもどうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
一先ず二人をテーブルへとご案内。
「それにしてもトウヤ、人見知りのするお前が二人を誘うなど珍しいな」
「まぁ、半分は家族と接しているようなものなので」
「……広い身内だな」
「まったくです」
今のトウヤの発言で高音と佐倉がトウヤにとって未来の家族であるとエヴァは察したようだ。
ナギは人数を明確にしていなかったが、まさか3-A以外の者にも手を出しているとは……
「あ、ちなみに佐倉さんはお父さんのお嫁さんじゃないですよ」
「そうなのか?」
「はい、僕の武術の師匠の奥さんです」
「どちらにせよ狭いは!!」
遠い関係かと思えば結局近い範囲に居た。
「いい加減未来のお前の家族がどうなっているのか本当に疑問になってくるぞ」
色々と聞いてきたがどうにも普通な内容を聞いた気がしない。
何故か予想外な事ばかりだったり予想の斜め上だったり、もう驚かす気しか無いのかと。
「そうですねぇ、例えばお母さん達は色々な職場に居ますね」
「ほう、あいつらがどんな仕事に付いているかか、少し興味があるな」
現在3-Aの生徒が未来でどのような職業に就いているか。
多少なりにもエヴァにも興味が出たようだ。
「スポーツのインストラクターをしている人が何人かいますね」
「ほう、所謂コーチという奴か」
例えば水泳、新体操、バスケ。
それぞれの専門の分野で活躍する選手を育成する仕事だ。
「次回のオリンピックに出場する選手の調整のためにヨーロッパに行ってましたねそういえば」
「……普通のコーチじゃないのか!?」
元3-Aの生徒がそこらの場末のスポーツセンターで働いている訳が無い。
そもそもが規格外な面子なのだ。
普通などありえない!!
とはいえ普段は麻帆良内のスポーツクラブでコーチしているし体育の先生も兼任したりしている。
「あとは歌手になった人もいますね」
「ほ、ほう、歌が上手い奴もいるのか」
コンサートをしてからその分野で活躍し始めた人達がいた。
歌も応援の一つとして、誰もが元気になるように歌い続け、曲を奏でる人がいた。
「はい、全米ツアーの真っ最中でしたよ」
「……規模がデカい!?」
なんだかんだで有名になって世界規模でツアーをしている大人気のアーティストグループだ。
そのため日本に帰ってくる頻度の少ない面子である。
身内としては少し寂しい。
でも毎日のように電話やメールは来るのでそんなに離れているという感覚は薄い。
「絵描きになった人もいますよ」
「ど、どんな絵を描くのだろうな」
元々は腐り切っていた上に戦争まで起こしかけた張本人も最近では大分、だーいぶ大人しくなったそうな。
家族の絵などは評判も高いらしい。
「展覧会のために一緒にアメリカに行ってましたね」
「……お前もか!?」
売れすぎて一枚数十万で売れるらしい。
ドルで。
一度家族全員の絵を描いたら億を超えたとか言っていた。
ドルで。
「マタニティショップとか子供用品の店を経営している人もいますよ」
「企業家か、さすがにこれはまともそうだな」
子供好きか過ぎて店を買い占めたのが始まり。
その後も子供が増えて、ならばこそなによりも子供に優しいモノをと服からおもちゃから食べ物まで拘りだして。
しまいには自社ブランドを立ち上げていくつも店を持つ社長になっていた。
「この前総理大臣になりました」
「……なぜにそうなった!?」
最終的には国をもっと子供に優しいモノにしようと思い至ったそうな。
行くときはどこまでも突き抜けて行く人なのだ。
突き抜けすぎて魔法世界でまで発言権持っているけど。
「まぁ他の人達は普通に教師とか主婦ですから安心してくださいって」
「……今までの発言で何を安心しろと?」
職業を聞いただけで何故かどっと疲れた気のするエヴァであった。
第12話 『 京都・露天・桜咲 』
「「「「「3-A修学旅行in京都~~~!!!」」」」」
新幹線内で起きたカエル事件と親書強奪事件の二つの事件。
カエルの方は生徒達にも手伝ってもらい早々に片付け終了。
集めた蛙も気が付けばただの紙に戻っていた。
盗まれた親書の方はネギ少年が追いかけ、その先で桜咲刹那と鉢合わせする。
彼女のおかげで親書も無事ネギ少年の手元へと戻った。
ただ、少々ネギ少年が桜咲刹那の事を不信に思ってしまったようだ。
神楽坂明日菜と長瀬楓は事の理由を聞き、以降はナギと共に行動することに。
娘の明日香はネギ少年の警護に付くこととなった。
別働隊として隣の車両に待機していたカティとスイは京都に到着してからは姿を見せていない。
どうやら完全に隠密行動に切り替えたようだ。
とにもかくにも3-A一同は無事に京都へと到着することが出来た。
そして舞台は名所の一つ、清水寺へと移る。
修学旅行で京都といえば定番中の定番のコースである。
「うわ高っ!?」
「これが噂の飛び降りるってアレ?」
「ああ、清水の舞台から飛び降りるって奴ですね」
「誰か飛び降りれっ!」
「では拙者が」
「おやめなさい!!」
はっきり言って実に賑やかである。
女子が集まればとにかく騒がしくなるのは分かりきっている事ではあるのだが。
いちおうのまとめ役となっている雪広は本当に大変そうだ。
……まぁ、本人も羽目を外すととんでもないのだが。
とにかくやれ高いなどやれ景色がいいだの、楽しそうでなにより。
「人様の迷惑になるような事はやめとけよ」
「そうですね、ですが江戸時代の頃には実際に234件もの飛び降り事件が記録されているです」
「生存率が85%くらいだったって話だろ? それでも30人以上は死んでるからなぁ」
「……先生もなかなか詳しいようですね」
「まあな」
昔に綾瀬本人から聞いたとは口が裂けても言えないけどな。
ちなみに創建されたのは778年と平安京より前とされている。
もしかすると京への都移設に一役買ったのかもしれない。
あくまでかもしれないだが。
清水寺といえば近年で有名な所だと『今年の一字』だろうか。
その歳の世相を漢字一字で表現するといった行事をこの清水の舞台で行っているのだ。
ナギの心境からすれば『奇』だろうか。
まさに奇想天外な事に巻き込まれているし……
清水寺、日本人ならば東大寺と並んで知らぬモノはいないと称される建築物。
ナギは手すりに寄りかかり京の街を眺める。
五月の上旬故に木々の葉は濃い緑に覆われ、肌に心地いい風が通り抜けていく。
記憶からすればいくつかの建物が見当たらないがそれは当然未来の事。
変わって当然な時間の流れを微かに感じる。
少し遠くで綾瀬達が地主神社へ行こうという声が聞こえるが、まぁ特に問題も無いだろうとそのまま眺めを楽しむことにする。
何かあれば明日香や長瀬もいるし大丈夫だろう。
この場所へはよく木乃香や刹那を伴ってやって来ていた。
彼女らの帰郷に連れ立っての事だ。
人気の無くなった夜にお酒を持ち込んで、月を見ながら乾杯をしたなと思いに耽る。
そう思い出すと、この場所も妙に懐かしく思えてしまう。
ああそうだ。
日本好きなエヴァがここへ来た時にはあまりのテンションで大変だったななどと、
「そういえばさっきから姿が見えないんだが……」
思い出し、先ほどからとある彼女の姿を見ていない事に気づき、辺りを見まわしてみると――
彼女は珍しくカメラを構えて写真を撮っていた。
「茶々丸は写真か? でも確かお前ってカメラ機能搭載してたよな?」
記憶では茶々丸のカメラアイには写真はおろか動画すら撮れる機能が備え付けられていた筈だが。
しかも旅行に際して容量も増加させていた。
それでも足りないのか?
「はい。ですが、こうして直接手を使って撮るのもいいものだとお嬢様が」
「なるほどな」
どうやらカティに勧められての行動だったようだ。
カメラの方は朝倉から事前に借りたらしい。
「それに……」
「それに?」
「瞳のレンズだけでは無く、別のレンズを通して見た景色というものが、どこかまったく違うものに見えるのです」
「そっか」
極論を言ってしまえばどちらも同じレンズであり機械的なモノに変わりは無い。
だがそれらが違うと感じるという事は、彼女自身の心の成長によるものだろう。
娘の成長を見守っているような錯覚を覚え、そしてその成長をどこか嬉しく思ってしまう。
「私はもうしばらく撮影の方をして行きたいと思います。
マスターのためにも色々なモノを撮っておきたいので、それでは……」
そう言って茶々丸は別の撮影へと。
一人にしても彼女なら問題は無いだろう。
それよりも心配なのは、
「さて、そろそろ下が騒がしくなる頃かな?」
と、先にネギ少年達が向かった音羽の滝へと足を運んでみれば……
そこには、酔いつぶれてぶっ倒れている複数の生徒の姿が。
雪広や佐々木に宮崎はネギ少年辺りか。
明石は父親、和泉は想い人。
地味に長瀬もいるな。
娘の明日香はああ見えて酒豪だから大丈夫だったりする。ただし後でチャチャゼロにはお仕置きを検討。あれだけ酒は飲ますなと言ったのに……
恋愛にばかり感けていないで学生なら少しは学業の滝の水を飲めというのに。
「で、これはどういうことだいネギくん?」
「そ、その! 滝の上にお酒が仕込んであって……」
「滝の水だと思って酒を飲んだと」
「あ、はい……」
誰か気づけよ。
雪広くらいなら気付きもしそうなものだが。
社交界でお酒など匂いくらい知っているだろうに……
テンションが上がり過ぎていて察知出来なかったか?
というか他にも観光客が居るだろうによくもまぁバレずに設置出来たモノだと犯人には感心する。
まぁ未成年に酒を飲ませた事についてはしっかりと抗議するつもりだが。
「とにかく、酔った生徒はバスへ押し込もう。こんな所に寝かせておく訳にもいかないしな」
「分かりました」
他の先生方にでもバレれば一大事だ。
最悪は停学もありえるか……いや、誰かが仕掛けたとなれば事件沙汰だな。
新聞の見出しには『音羽の滝にお酒を流し女子中学生泥酔事件』か?
冗談はさておき、一同はそのまま嵐山の旅館へと早々に移動していった。
「すごいですね、これが露天風呂なんですね~」
「空が広く見えるから何より開放感が気持ちいいんだよな~」
「ですね~」
酔いつぶれた生徒達を部屋へと押し込みさっさと寝かしつけた。
今日一日は酔いつぶれて起きはしないだろう。
念のため数人には濡れたタオルを額に、あとは気分が悪くなった時のために洗面器も用意。
水も取りやすい所に数本置いておいた。
夕食の方は旅館内で生徒全員そろって食べる予定だったが、一部の生徒ははしゃぎ過ぎて先に眠ってしまったと新田先生達には伝えてある。
心配はされたが、明日になればいつも通りですよと言ったら一応納得はしてくれたようだ。
さらにはもし食事が必要だったら宿の人に言えば用意してもらえるように伝えてくれるそうな。
本当に新田先生には頭が上がらない。
そしてナギとネギ少年、そしてカモは疲れを癒すために露天風呂へ。
「あ、カモは悪いが桶で我慢してくれ」
「……しゃあないっすね」
旅館の仲居さんに確認してみたがこの露天風呂、ペットOKでは無かった。
なんとか入場は許可してもらったが、入浴まではさすがに許可が出ず。
そのためカモは桶にお湯を入れて入ってもらっている。
「風が流れてて気持ちいいですね~」
「露天の醍醐味だよな~」
「そうっすね~」
ちなみにナギとカモはお猪口で酒を飲んでいたりする。
日本人として露天風呂でお酒を一杯は、大人になったらちょっとはやってみたい事の一つだろう。
とはいってもナギもカモも日本人ではないが。
というかカモは人ですらないが。
「これで桜咲刹那の件が無ければなぁ」
「ん? どういう事だカモ?」
「ああ、あいついつも木刀みたいの持ってるし魔法使いの兄貴じゃヤバいぜ」
「なんで敵対が前提なんだよ」
「いやだって新幹線の中とか色々と怪しかったし、京都の出身なんだぜ」
どうやらネギ少年とカモは所々で彼女から怪しい視線を感じていたらしい。
旅行中だというのに怪しい包みも持っているし、京都出身だからきっとスパイかなにかに違いないと。
「アホか」
「うべっち!?」
とりあえずカモにタオルを投げつけて黙らせる。
「ちょっとナギ先生!?」
「京都出身だから怪しいってそんなこと言ったら学園長だって他の京都出身の生徒だって怪しいだろ?」
「いやそうっすけど……」
「じゃあ桜咲さんは敵じゃないってことですか?」
「わざわざあの学園長が刺客を孫と同じクラスになんてするか?
しかも三年もだぞ」
「う」
「そういえば……」
そもそもネギ少年にバレる程度の怪しさであれば学園長が気付かない訳が無い。
あのタヌキ爺を甘く見てると後で痛い目を見るぞ。
しかも京都出身ともなれば多少なりに身辺調査もしている筈だ。
なにせ近衛木乃香は……なぁ?
「普通に考えれば影ながら護衛してるって気付くだろうに。
自分に都合良く考えすぎだぞ」
傍から見ればナギの言っていることも都合の良い考えだったりする。
何も知らなければ、護衛だなんてそれこそ安易な考えなのだ。
だがナギは以前の夜の集会の際や襲撃戦の時に桜咲の姿を確認している。
つまり修学旅行の前から彼女が麻帆良側の人間だと知っていて当然なのだ。
それ以前に未来から逆行してきた上に、彼女は奥さんの一人でもあるのだから味方だと知っていて当たり前。
疑う余地すらそもそも無いのだが……
なにせ怪しい視線も、ネギの傍にいた近衛に向けられたものなのだから。
「そうですね。もうちょっと考えないとダメですね」
「それとそこのオコジョ。
助言をするならもっと考えて助言しろよ。
この少年はまだ単純なんだから簡単に信じちまうぞ」
「ちょっ、ナギ先生!?」
「それはさすがにいいすぎじゃないっすか?」
「言いたくもなるって。
成績が良ければなんでも出来るってわけじゃないんだぞ」
天才だと呼ばれようが、この先生はまだ経験の浅い子供なのだ。
まだ、自身の物差しすら出来ていない子供だ。
だから物事を測り間違えるし加減も効かない。
「とにかくお前はまだ経験が足りない。
この状況ならこうする、などの判断材料がそもそも足りてないんだ。
だからミスした時に対処が出来ない」
失敗しても失敗の経験が無いからどうすればいいか分からない。
だからエヴァの一件で一度は逃げ出した。
判断材料が少ないから茶々丸によって結界が破壊されてしまった。
茶々丸を撃った時も、撃てばどうなるか理解が足りていなかった。
全て経験が足りていないのだ。
「とりあえずは行動の結果を全て最悪な方向に予測しておくことだ。
そうすればある程度悪い結果が出てもそこまで動じずにすむ」
常に最悪を想定しておけば、次に起きた事が多少自身にとって不都合な事であったとしても動けない、という状況は格段に少なくなる。
隣に立つ者が死ぬと想定しておけば、例え傷ついたとしても大きな動揺にはならない。
動揺なんてしている暇があるならさっさと敵を倒すか眼くらましでもして救助に戻った方がいいに決まっている。
そこで立ち止まれば被害が増えるかもしれないのだから。
「ネガティブに思うかもしれないが、そう身構えていた方が意外と現実に起きる事が陳腐に思えてくるもんだ」
事実、準備を怠っていなければそこまで不測の事態になんてなることは無い。
最悪な事が起きる時は大抵が準備不足と心構え不足によるものだから。
常に身構えておけば慌てるなんて事は無く、ああいつもの事か、と呆れさえできる。
とはいえ、過去になんて飛ばされるとはさすがに思いもしなかったが。
「とにかくお前さんはまだ頭が固い。
そして常識が足りていない。
しばらくは周りの奴に流されながら色々と経験してみろ。
お前はまだ十歳なんだから、時間はいくらでもあるしな」
ナギの歳は三十。
つまりネギ少年はあと二十年でナギと同等の場所に来れる可能性があるのだ。
二十年。
今のネギ少年が生きてきた年数の倍、それだけの時間があるという事になる。
確かに、考え学ぶには十分な時間だろう。
「ん?」
すると入口の扉が開く音が聞こえた。
誰か入って来たのだろうか?
「男の先生方ですかね?」
この時間帯は教師陣の入浴時間になっている。
だから別段問題はない筈だが……
「あ、いやこの気配は……」
覗いてみれば案の定、そこには桜咲刹那がいた。
噂をすれば影とはこのことか……
とっさにカモも岩場に姿を隠す。
(せ、刹那さん!?)
(あ、やばい鼻血が……)
(ナギ先生どうしたんですか!?)
(いや、ちょっとセイナを仕込んゲフンゲフン……を思い出してな)
未来の刹那との行為を思い出してしまい頭に血が上ったようだ。
風呂場だけあってなおの事。
(そ、それより入口は男女別だったのに、なんで桜咲さんが?)
(混浴だったんだな兄貴)
(……背はちっちゃいけど綺麗な人だね、肌も白いし)
(こうゆうのを大和撫子ってんだな)
(悠長に覗いてないで離れるぞ)
(あ、そうですね)
(見つかると面倒だしな)
(混浴とはいえ相手は生徒だからな、見つかっても碌なことにならん)
彼女なら見つかっても騒ぎはしないだろうが、他の生徒や先生に見つかれば説明が面倒くさい。
湯船から首だけだしてそそくさと端っこの岩場の影へと移動する。
「ふう……」
(ん?)
「困ったな……魔法使いであるネギ先生なら何とかしてくれると思ったんだが……
ナギ先生に頼るしか……」
(え!? な、なぜ僕が魔法使いだと!?)
(護衛だってんならそれくらい知ってるんじゃねえか?)
(で、でも!)
「殺気? 誰だっ!?」
小石で明かりを壊され視界を奪われる。
とはいっても旅館からの明かりがあるためそこまでではないが。
(見つかっちゃいました!)
「逃げる気かっ! 神鳴流奥義……斬岩拳!!」
「よっと」
刹那の斬撃をナギとネギ少年は身を屈めて避ける。
背後の岩と髪の毛の数本が切れたが気にしてもしょうがない。
「ラス・テル マ・スキるがっ!?」
反撃で魔法を使おうとするネギ少年に軽く掌底を当てて詠唱をキャンセルしておく。
「近接の出来ない魔法使いが作無く戦闘を挑むのは下策だ、減点モノだぞネギくん。
逃げるなり潜むなりそちらを優先させろよ」
敵は態々詠唱を待っていてくれなどしない。
無詠唱すら出来ないのであれば、魔法使いなら一先ず距離を取ることを優先すべきである。
まぁ敵がそれすら許してくれるとは限らないが。
「斬空せっ!!?」
そのまま追撃をしかける刹那の腕を取りお湯の中へと倒す。
「がっ!?」
腕と背中を抑えて首と頭が出る形に。
体重を軽くかけて捕縛する。
「そしてお前も減点だ。
護衛を謳うなら気配で誰がいるのかくらい分かって見せろよ半人前」
「え? ナギ先生……まさかアナタが」
「ちげーよ、学園長から連絡言ってないか?
木乃香嬢ちゃんの護衛の依頼が来たって」
「しょ、証拠は!」
どうやら学園長から彼女に連絡は行っていないようである。
職務怠慢で後々に訴えてやろうと誓うナギであった。
「お前を殺さない事。
邪魔にしかならない護衛をわざわざ生かしておく理由があるか?」
「情報を聞き出すために生かしておくという可能性も」
確かに、護衛の人数や配置箇所、要人の場所といった情報は欲しい所だろう。
だけどな……
「お前が何の情報を持ってるよ?」
単独で動いて、護衛対象の傍にも居れず、誰にも心を打ち明けようとしないお前が――
自分を卑下して日の当たる場所に出ようとしない寂しがり屋なお前が――
一体なんの情報を持っているというんだ?
「なあ、ハクヨクキ?」
「!?」
「ハクヨクキ?」
ネギ少年がお湯から顔を出して疑問の表情を浮かべる。
「まぁ気にすんな、暗号みたいなもんだから」
桜咲から手を離し、風の魔法でバスタオルを持って来て渡す。
ナギの事を睨みつつも、恥ずかしさもあってそそくさとバスタオルを巻いた。
「それと今はまだ教員組の時間だ。
俺たちで良かったが、他の先生方が入っていたらどうするつもりだったんだ?」
「その時は……その……気絶させて……」
「何も考えてなかったと……」
「いえ! 既に新田先生達は入浴を終えていたので、ナギ先生達も出たものと思い……。
それにまさか混浴だとは」
「ああ、なるほどな」
そもそも女子中学生の修学旅行先に混浴のある旅館を選ぶのはどうなのだろうか?
他に誰も泊まっていないとはいえ教師には男もいるのだ。
……学園長の趣味か?
「そうそう、ネギくんは大丈夫か?
結構勢いよく打っちまったけど……」
「あ、はい、大丈夫です。
でもすみませんでした、ナギ先生に言われていたのに桜咲さんの事を疑ってしまって」
「い、いえ、私の方も最初の内に言っておけば……」
「はいはい、お見合いしてないで二人とも。
なんかおかしな気配があるからな」
「おかしな気配ですか?」
「ああ、なんか女子側の」
『ひゃあああああああああああああああ~~~~~~っ!』
突然、風呂場に女性の悲鳴が木霊した。
「この悲鳴は!?」
「このかお嬢さま!?」
「いつの間にか侵入されていたみたいだな」
「まさか奴ら、お嬢さまに手を……」
「お嬢さまって?」
「まぁ疑問は後だ。一先ず桜咲、護衛頼んだ!
女子側じゃ俺らが行くのはマズいんでね」
桜咲が入って来た方の扉から声は聞こえた。
つまりそっちは女子更衣室ということになる。
十歳のネギ少年ならともかくナギが行っては最悪通報されてしまう。
「分かりましたナギ先生!」
「ネギくんは外に敵がいないか注意だ。
この場所で近衛を襲ったという事は近くに潜んでるかもしれないしな」
「はい!」
更衣室へと走る桜咲を見送りつつナギは外の索敵を行う。
ネギ少年も辺りに不審な影が無いか見ている。
「ナギ先生、あそこの木で何か動きましたよ!」
「風か動物かは確認出来ないな……ネギくん、ちょっと様子を見ておいてくれ」
「はい分かりました!」
「お嬢さま!? ナギ先生! お嬢さまが連れて行かれてしまいます!!」
「このかーっ!?」
桜咲とどうやら一緒にいた明日菜の声に反応してみれば集団の猿が裸の近衛を担いで移動しているところだった。
疑問なんだが何故に裸?
「まぁいい……外に逃げるとは間抜けだな敵さんも。
俺の事が見えてるだろうに……点数で言えば0点だな」
要人誘拐を伴う襲撃戦というのは実を言うとかなり難易度が高い。
一度でも失敗をすれば警戒され安全な所で保護され手が出せなくなるからだ。
進行戦と防衛戦なら防衛戦が有利になるように敵施設に乗り込んでの作戦など本来であれば悪手以外のなんでもない。
ましてや自陣の手札が限られていれば尚更だ。
故の0点。
さらに言えば護衛している人間の実力を測れていない事も問題だ。
意図的に隠しているとはいえそこに気付かなければ死すらありえる。
これでは点数などあげられない。
とはいえこちらにも問題がある。
本来ならば旅行を中止し木乃香の保護のためにもさっさと麻帆良に帰るべきなのだ。
むしろそうした方が彼女のためにもなる。
ネックになっているのは木乃香の教育方針だ。
彼女に裏の事を知らせない事。
連れ帰るにはどうしても彼女に裏の事情を知らせる必要がどうしてもあるのだ。
はっきり言って馬鹿なことだと思う。
裏の世界に関わらせたくないなら何故麻帆良を選んだ?
何故膨大な魔力を封印しようと思わなかった?
疑問は尽きない。
だけど……
「平和な世界で生きて欲しいって気持ちは……痛いほど分かるんだよな」
ナギの横を近衛を担いだサルたちが通り過ぎていく。
何もせず動かない事を不信に思いつつもそのまま走り去ろうとしたその瞬間。
サルたちは細切れに切り裂かれただの紙へと戻っていった。
「え?」
「なっ!? いったい何を……」
「風の魔法を網状に這わせただけだ。
視認出来ないから暗殺や奇襲向けだな」
もちろん近衛に当たらないように調節してある。
「威力を上げれば音や気流の乱れで気づかれる。
なら威力は極限にまで下げ、音も無くせばいい。
真空を作ればいいのさ。
それだけで、触れた相手は勝手に死ぬ」
風の魔法はうまく使えば視認不可能な武器となる。
ナギは左手を振るい先ほどネギ少年が見ていた木の先へと風の魔法を放った。
着弾と同時に命中した木の先端は消え去り、わずかに下の方で女性の悲鳴らしき声が微かに聞こえた。
「風の魔法を甘く見てると、痛い目にあうぞ」
いちおう聞こえるように忠告しておいたが、敵はそのまま逃げたようだ。
「ナギ先生、敵は……」
「逃げたな。追跡防止もされてるしここまでだな」
「このかさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫このか?」
「ネギくん、明日菜……それにナギ先生に、せっちゃんも……」
「……」
桜咲は近衛の無事を確認すると、そのまま逃げるように露天風呂から出ていった。
「あ、せっちゃん!?」
近衛は寂しそうに手を伸ばす。
だが桜咲に追いつくわけも無く。
意味の分からないネギ少年と明日菜はただ茫然と見ているしかなかった。
「とりあえずタオルだ。そのまま風呂に入って温まっていろ、このままじゃ風邪をひく」
ナギはそういってタオルを近衛の肩にかける。
「あ、ありがとなナギ先生……」
「俺は先に出るよ、明日菜は近衛の事を任せた」
「うん、分かったわ……」
敵はいちおう退けはした。
だが今のはただの小手調べ。
そしてこちらの戦力を多少なりに知られてしまった。
まぁ知られたのはナギの魔法と桜咲の剣技程度だが……
だが……
「さて、どうなることやら……」
何故か嫌な予感がしてしょうがない――
実はこのナギ、原作のネギとはちょっと得意魔法が違ったりします。
雷よりも風に比重があります。
え? 風の方が弱そうだって? さぁどうでしょうね?
では次回もあまり遅れないように頑張ります。
読了感謝でした~ノシ