子守先生■ギま!?【凍結】   作:再buster

3 / 16
注意事項:視点がたまに一人称視点と三人称視点がごっちゃになる時があります。
お見苦しいかと思いますがどうかご勘弁を。



第2話:『顔見せ・狂・零距離』

 

 

 

 

 

 

 ウチは木乃香・K・スプリングフィールド。

 

 旧姓、近衛木乃香や。

 

 

 ウチの旦那のであるネギくんとその娘たちが過去に行ってまってから、こっちではもう一日が経ってもうた。

 と言うても、さすがに一日では得に進展は無いなあ。

 

 チャオリンでもあのカシオペアを修理するには相当な時間が必要らしいんよ。

 

 準備とかもあるし、結局何も進んでないのと一緒やな。

 

 

 でも、連絡の方は全員分を昨日の内に手分けしてなんとか終わらせたわ。

 海外に行ってたり魔法世界に行ってたりしてる人もおるから全員は本当に大変やったんよ。

 

 とにかく、数日中には一度帰宅してくるらしいで。

 

 

 全員集まるなんて正月くらいやもんなぁ……

 

 人数多すぎて数えるの大変やもんなぁ……

 

 

 とは言うても、あんま嬉しい事態では無いな。

 

 

 

 と、いつまでも暗い気持ちで考え事してる訳にはいかへん。

 ウチは今、麻帆良学園の学園長なんや。

 

 前任の学園長だった御爺ちゃんは会長として今は隠居生活をしとる。

 ウチに娘が出来て寿命が延びたとか言うてたわ。

 

 ……本気で何歳まで生きるんやろ?

 

 でな、御爺ちゃんの推薦と魔法世界からの推薦、関西呪術協会との協力体制の事もあってウチが学園長をすることになったんよ。

 最年少学園長とかで新聞にも載ったな。

 あれはさすがにちょい恥ずかしかったわ。

 

 なんや美人学園長のおかげで入学者増大とかほんま照れてまうやん。

 

 

 まぁ大半は元麻帆良のパパラッチが書いたんやけどな。

 おかげで入学者数と支持率はほんま高くて助かるわ。

 

 低いといろいろな連中が五月蠅いからあかん……

 

 

 とにかく今日も書類の整理からやな。

 ホンマ、確認しなあかん書類が多いわ。

 表だけやのうて裏の報告書類もあるからほんまに大変なんよ。

 

 普段はせっちゃんが秘書替わりで仕事手伝ってくれとるんやけど。

 さすがにあの状況やしなぁ。

 無理は言えへん。

 

 

 

「学園長はおりますか!?」

 

 ん?

 誰か来おったみたいやわ。

 

「入ってええよぉ」

 

「失礼します! 学園長、お話があります」

 

 勢いよく入って来たんは高音さんやった。

 

 ウチで高等部の学年主任やってもろうてる先生や。

 生真面目過ぎる所がちょい問題やけど、教え方も上手いし面倒見もいいて人気の先生なんよ。

 なにより美人さんやからな、男性の人気もそうやけど格好良いから女生徒かの人気もあるんやで。

 

 それに裏の警備主任も兼任してる凄腕やな。

 

 そないしても、やっぱり高音さんもすごい剣幕やな。

 

「ネギさんが過去へ行ってしまったというのは本当ですか!?」

「うん、本当やよ。電話でも説明したとおりや」

 

「そんな……」

 

 がくりと膝を付いてもうた。

 

 そりゃ悔しいやろな……本当なら一緒に行く筈やったんやから。

 突然の仕事で行けなくなってまったせいでこんな事になったって電話の時も散々言うてたもんなぁ。

 

「過ぎた事を気にしてもしょうがあらへんよ。

 とにかく今はちゃおりんに任せるしかあらへんわ」

 

 ほんまウチも何も出来ないのは一緒やな……

 

「……そ、そうですわね。

 それに過去なら私たちも居ます。きっと力になってくれるでしょう!」

「そうやな。

 ウチだったら絶対に力になってると思うわ。

 それに向こうのちゃおりんも味方に出来ればすぐに帰ってこれると思うんよ」

 

 自分で言うのもなんやけど、ウチも基本的にはお人好しやしな。

 はなし聞いたら絶対助けたいって思ってまう。

 

 もちろんそれはちゃおりんも同じや。

 なにより逆行者というカテゴリーがあるから尚更やろ。

 

「ええ、そうですわね。

 もちろん私も……私も?」

 

 ん? 止まってもうた……

 

 

「駄目ですわあああああ!!!

 不審者としか見そうにないですわああああああ!!!」

 

 そういえば高音さんは昔はさらに輪をかけた堅物さんやったな。

 因縁とか付けへんか心配やわ。

 

「敵対心抜群やな……って、そんなに叫んだらお腹の子に障るで!」

「え、ええ、そうですわね……ごめんね……」

 

 優しくお腹をさする高音さん。

 

 昔はけっこう慌ただしい人だった記憶があるんやけど、今は大分落ち着いてるな。

 旦那の事になると昔みたいに戻ってまうけど、それも愛あるからこそや。

 

「この子が生まれる前には、戻ってきて欲しいですわね」

「そやな。とりあえず……元気な子が生まれる事を祈るわ」

 

 人数は多すぎやけど、やっぱり家族が増えるんはいつになっても嬉しいことや。

 

「ありがとうございます、学園長」

「ええてええて」

 

 さ、ウチも仕事しよか。

 

 

 

 がんばってな……ウチの、旦那さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第2話  『 顔見せ・狂・零距離 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 世界樹前広場から人の気配が消えた。

 

 

 魔法による結界の効果である。

 

 無関係な人間はこの領域に入る気を無くし自然と遠ざかろうとするという効果。

 こちらの世界では頻繁に使われている類の結界だろう。

 

 そう、本日ここで魔法使い達による会合が行われる。

 麻帆良学園にいる魔法関係者のほぼ全員が集まるなんともウザったい集まり。

 むしろ初めてやってきた来訪者に対してのイジメにしか見えない。

 

 

 そこに、俺たちはやって来た。

 

 俺は濃い灰色のスーツ姿に縁の大きなサングラス。

 

 ローブだと親父にそっくりすぎるんだよなぁ。

 さすがは親子……

 

 絶望した!

 

 

 カティにトウヤ、明日香はローブ姿。フードを深くかぶって顔を隠している。

 

 こちらはオーソドックスな魔法使いの服装だな。

 

 特にカティは完全に顔が見えないようにしてある。

 容姿から気づかれると問題があるためだ。

 

 

 俺達四人が立ち止まるその前に、麻帆良学園に在住する魔法先生や魔法生徒が立ち並んでいた。

 威圧感バリバリ、それなりに警戒されているようだ。

 

 

「よく来てくれたのう……」

 

 学園長が出迎えの言葉をかける。

 演出っぽいのはご愛嬌で。

 

「さて、彼らは儂の知人でのう。

 儂の依頼で急遽麻帆良学園に来てもらったのじゃ。

 短い間になると思うがよろしく頼むのう」

 

 警戒はされているが、ここは普通にお辞儀で返す。

 

 学園長の話は前日の内に打ち合わせておいたモノだ。

 あまり詮索されないための配慮とも言う。

 

 名目上は学園の警備向上のための人材補充となっている。

 この世界のネギ・スプリングフィールドを警護するという意味でも重要な事だ。

 

 

 にしても、早いうちに学園長を味方に付けれたのは良かったな。

 裏工作は強いんだよなぁ爺さん。

 木乃香も頑張っているけどやっぱり年期が違うね、この狸爺!

 

「彼らには裏の警備にも参加してもらおうと思う。

 実力はワシも認めておるから安心してよいぞ」

 

 これも契約の一つ。

 住居を貸してもらう変わりに警備の手伝いをするということになった。

 もちろんこちらとしては最初から参加するつもりだったが。

 

 この世界がたとえ過去の麻帆良であっても、俺の守りたい場所には変わりは無いのだから。

 

「とは言っても、まだ納得のいかない者もおるじゃろう。

 そこでじゃ。

 ここで一つ彼らの実力を見せ貰おうと思う」

 

 さて、それはそうと。

 学園長の言う通り、ここで問題になるのは俺達の実力だ。

 わざわざ学園長が呼んだ事になっているのに弱ければ話にならないから当然の事。

 

 まぁ普通に見せれば早い事なんだが……

 

 だがここで実力を出し過ぎると逆に不審がられるし、どうしたもんか。

 

 

 魔法関係者一同からは碌な目で見られてないな……ムダにプライドだけは高いからなアイツら。

 

 パッと出の輩には負けませんってか?

 子供には負けるわけがないってのもあるようだな。

 あんな優男が。ガキじゃねえか。

 色々と聞こえてくるが、さすがに子供に対してのはちょっとカチンと来るね。

 

 ねぇお父さんちょっと本気だしてきていい?

 

「ダメです」

 

 あっさりとカティに却下されてしまった。

 

 ふとよく見ると子供たち全員からわずかに殺気が漏れている。

 

 ああ、俺と同じなのねお前らも。

 自分はいいけど家族の事は許せない、か。

 

 マジでお前ら俺の子供だわ。

 

 お父さん嬉しくて涙がでちゃう。

 

 

 とりあえず、実力確認をするが、誰を出すか?

 

「はいは~い、私がやる~!」

 

 勢いよく明日香が名乗り出た。

 

「まぁ妥当か」

 

 

 

 

 

 

 明日香が一同の真ん中へと進む。

 

 その間にエヴァと学園長が俺達のそばへとやって来た。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、明日香くんが出るのか」

「お前が出ないのは意外だな」

 

「俺が出て強い所見せても、子供達の実力は分からんだろう?」

 

 確かに俺が出ればここにいる全員を沈黙させられる。

 それくらいには実力があるつもりだ。

 というか多分余裕でできる。

 

 なにせあっちではとある人と毎日のように喧嘩してるし。

 マジ親子喧嘩。

 迷惑かけてごめんねマミー。

 

 そう、そのとある人とこいつらを比べても圧倒的にこいつらは雑魚なのだ。

 

 むしろ負ける気がしない。

 

 そして今後、俺に一切の危害を加える気にはなれないだろう、というくらいには痛めつけられる。

 

 

 だがそれでは子供達が狙われる可能性が残る。

 それどころか俺への怒りが子供へ向きかねない。

 

 そうなっては悪手でしかない。

 

 逆に子供の誰かが行き実力を見せれば、他の子供も近い実力だと勝手に想像するだろう。

 もちろん親である俺の実力も勝手に想像してくれる。

 

 

 とにかく子供達に今後危険が及ぶかどうかの判断だ。

 

 それに今回なら怪我をすることはそうないだろう。

 なにせ自称正義の味方な連中なのだから。

 

 怪我の一つでもさせたらヌッコロス。

 

 

 だが、この時点で既に俺は一つ選択ミスをしていた事に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと相手は私に決めさせてねぇ……弱いのと殺ったって面白くないしネ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん……

 

 完全にやっちゃったよマジコレ。

 

 なんで忘れてたかなぁ。

 

 明日香は戦いになると性格が変わるんだよなぁ。

 

 場の空気が完全に止まっちまったよ……

 

 

 

 彼女の魔法の師はエヴァであり、戦闘の師はタカミチだ。

 だが、修行の面倒を一番見ていたのはと聞かれればチャチャゼロの名が上がる。

 ある意味で明日香の育ての親であり姉替わりだったのがチャチャゼロなのだ。

 

 もちろん戦闘風景や修行の相手もチャチャゼロが一番多い。

 教育もチャチャゼロが一番していただろう。

 

 当然、それだけ一緒にいれば性格も似てくる。

 

 そう、戦闘時のみ明日香はチャチャゼロのデッドコピーと化すのだ。

 

 

 

 本気で育て方を間違えた結果がこれだよ! どチクショー!!

 

 

「たばになってないと吠える事も出来ない負け犬なんか相手にしたっておもしろくないじゃナイ?

 ま、半死半生になっても文句言わないってんなら遊んで上げてもいいけどぉ、ケッケッケッ」

 

 

 

 麻帆良のみなさんの表情がコワイデス。

 

 

 うん、どうしてこうなった!?

 

 ……俺が明日菜を連れまわし過ぎたのが原因だな。

 

 その間エヴァに預けたのも悪かったな。

 茶々丸が他の赤ん坊に付きっきりだったのもタイミングが悪かったな。

 エヴァが産婆の真似事して明日香をチャチャゼロに任せたのがマズかったな。

 

 

 よし、家に帰ったらチャチャゼロに説教だ。

 そしてゴメンナサイ。

 チャチャゼロさん、あなたに面倒を押し付ける結果になってしまってマジスマン。

 今度酒でも持って遊びに行くから子供達に悪影響を与えないでください。

 ちゃんと子供の面倒を見ますから……

 

 

「ケハハハハ、この程度でダンマリ?

 ホントつまんな~い。マジウケるんですけどぉヒャッハッハッハッ」

 

 

 言っておくとさ……俺も何度か性格改善とか考えたんだよ。

 

 でも本人はそれが普通だと思ってんだよ。

 

 『お父さん、こんな私は嫌いなの? いらない子なの?』

 

 なんて涙目で上目使いで言うんだぞ?

 

 

 どうしろと? 無理だろ? 可愛いだろ? 流石俺の娘だろ? 嫁になんてやらん!!

 

 

 

 

 とにかく……やばい、麻帆良組の敵対視度数の上がり方が半端じゃない!

 

 これじゃあ敵を作ってるだけだぞ。

 

 マジで選択ミスったかもしれん。

 というかミスった!!!

 

 

「あ、アレは本当に明日香なのか?」

 

 さすがのエヴァも頭を抱えてるな。

 昨日は明日香と話しもしてたし……普段の性格と違い過ぎるんだよな。

 

「戦闘時に性格が変わる者もいるにはいるが、アレでは……」

 

 エヴァよ、そんな目で見ないでくれ……

 

 そんなダメな親を見るような眼でみないでくれ……

 

 

 なんかマジで土下座したくなるから。

 

 

 エヴァの言う通り戦闘時に性格が好戦的なモノに変わったりする者は確かに存在する。

 二重人格とか、脳内麻薬だとかで表層の人格が変わるのだ。

 普段の性格は優しくとも、一度戦闘になれば相手をねじ伏せるのにも躊躇しない。

 そんな輩を俺も何人か見たことがある。

 

 

 だが明日香の場合は……

 

 きっと本質の部分が出ているのだろうと思う。

 

 昔、俺が使っていた闇の魔法。

 その影響で現れた強い破壊の衝動。

 

 その破壊の衝動の部分だけを、明日香は強く受け継いでしまったようだ。

 

 

 つまり他者を壊したいという欲求。

 踏みにじり、握り潰し、すべてを壊してなお足りない黒い情念。

 

 その塊が明日香の本質なのだ。

 

 

 とは言ってもな。

 

 アイツは優しい子なんだよ。

 

 妹や弟には絶対に手を出さないし、むしろ抱きしめて頬ずりしたいという。

 母親や家族には甘えたいと思ってるし。

 俺には同族からくる強い熱情があるとか。

 

 誰よりも家族を大切にしたいと思ってる。

 

 そんな娘なんだよ、あいつは。

 

 

「闇の塊でありながら、守る心を……愛する心を失わなかった存在。という事か」

 

 

 それは闇の側にいるエヴァにとって眩しい存在。

 闇に落ちてなお光の中を歩く存在。

 

 

「ま、不思議とああはなっていても、自分自身が壊れるって事を知らないみたいなんだよな。

 もしかすると、昔の俺より精神はタフかもな」

 

 例えどんなに壊れていたとしても、最後にはちゃんと戻ってくる。

 優しいいつもの明日香として帰ってくるのだ。

 

 ホントいらん所ばかり似てくれる子供たちだよ、まったく。

 

 

 

 

 

 

「はあ………じゃあさっさと指名するねぇ。

 ねぇタカミチ先生、相手してく・れ・る?」

 

「僕かい?」

 

 タカミチを指差す明日香。

 

 とにかく予想していた対戦相手になったな。

 

 

 明日香はタカミチの弟子だ。

 そしていつかは超えたいと思っている存在でもある。

 

 過去のタカミチとはいえ、倒したい相手には違いないというわけだな。

 

 

 

 タカミチはゆっくりと明日香の前へと歩み出る。

 

 その距離は20m程。

 

 二人が対峙する。

 

 

 緊張感が漂い始める中、俺は視線を流す。

 

 麻帆良組はタカミチの勝ちしか考えていないようだ。

 こんな子供がとか、確実に見下した表情をしている。

 当然の反応だろう。

 実力を知らなければただの子供なのだから。

 

 

 よし、顔は覚えた!

 あとで虐める!!

 

(お父様がなにか悪巧みをしていますね……ご愁傷様)

 

 ん?

 カティがため息ついてる。

 どうかしたんだろうか?

 

 

 

「せいやっ!!」

 

 その瞬間、勝負ははじまった。

 

 タカミチは流す感じで軽く無音拳を飛ばしていく。

 

 実力が分からないから大分手加減をしているようだ。

 それにやっぱり明日菜の娘っていう意識もあるのかな。

 さぞや手が出し辛い事だろうに。

 

 とは言っても、不可視の打撃が幾重にも飛んできているのだ。

 普通であればすでに意識を刈り取られていることだろう。

 

 

 だが、明日香はそんな視認出来ない攻撃を避ける、もしくは受け流しながら進んでいる。

 それも笑いながら、さも余裕といった表情で。

 

 

 麻帆良の連中もさすがにこれには驚いているな。

 

 アイツらに見えない攻撃を明日香は避け、受け流す。

 つまり明日香にはタカミチの攻撃が見えているということだ。

 

 とりあえず……ざまぁ!

 

 

「あの攻撃を掻い潜って進むとはな……」

 

 さすがのエヴァも明日香の実力までは計れなかったようだな。

 

 まぁ、無音拳の回避にかんしては慣れだけどな。

 未来でさんざん受けてたし。

 

 明日香曰く、ポケットから出た一瞬の方向と、伸ばし切った時に出来る空気の歪み。

 あとは途中で聞こえる風を貫く音で分かるわよ、と。

 

 無理です。

 それが出来るのはもはやあなただけです明日香さん。

 

 

 

 そして明日香は、タカミチの前……3メートルの所まで到達した。

 

「手加減しているとはいえ、この距離まで難なく来られるとはね……」

 

 タカミチは、少し驚きながらも、どこか喜びの混じった表情をしていた。

 まぁ、明日菜の娘がこれだけの実力を付けたと考えれば、感動もするのだろう。

 

 だが明日香にとってその台詞はアウトだ。

 

「……手加減し過ぎで萎えるんですけどぉ。

 本気でやらないと……マジで潰しちゃうよ?」

 

 明日香はなによりも手加減される事を嫌っている。

 

 たとえ格上の相手であろうと本気を出してもらわないと気がすまない。

 それもどんなに相手が強く、一瞬で自分が殺されるようなレベル差があってもだ。

 

 だから明日香との手合せとかイヤなんだよな……

 

 一瞬で意識を刈り取るくらいしないとマジで大変なんだよね。

 

 

 

 そして手加減をした相手には、本気で殺しにかかる。

 

 全力で……

 

 

「!」

 

 

 瞬間、明日香は瞬動術でタカミチの目の前へと踏み出す。

 

 

 

 零距離……

 

 ほぼ密着と言っていい状態になる二人。

 

 

「さすがの無音拳もあの距離では使えないな。

 だがタカミチは基本能力も高い。

 明日香が勝つのは無理だろう?」

 

 たしかに、今のところ明日香は避けてばかりだった。

 

 だけどな……

 

「それでも明日香が勝つ」

 

「はっきり言うな。

 明日香はインファイターなのか?」

 

 

 近接格闘が得意かだって?

 

 どちらかと言うとオールラウンダーだな。

 多少距離があっても近づけばいいな性格だし。

 遠距離用の攻撃を持ってないわけでもないし。

 むしろ突撃兵?

 

 結構単純な性格だし。

 

 

 それにな……

 

 

「アイツはタカミチを超えるためにずっと頑張っていたんだ。

 未来のタカミチならともかく、今の立ち止まったままのタカミチに負けるかよ」

 

 

 自分を許せない人間は前に進むなんて事は出来ない。

 

 強くなったように見えても、中身が鍛えられていなければいずれは負ける。

 

 ましてや、常に進み続ける明日香に……自身の師であるタカミチに勝つために進む明日香に、今のタカミチが勝てる筈がない。

 

 

 

 それに明日香はな、

 

 

「私はね……この距離でも使えるんだぁ……」

 

 

 明日香はポケットに両手をしまう。

 

 

 タカミチに勝つために明日香は考えた。

 

 離れた距離からの攻撃ではタカミチの無音拳に分がある。

 経験値の差だけならともかく、体格や骨格といった基本から違うのだから分が悪いのは当然。

 

 近接にしても、タカミチは経験値ではるかに上回る相手。

 離れられるか、別の策をもって破られるのが関の山。

 

 

 ならどうするか?

 

 

 それなら、タカミチに出来ない事を近接でやればいい。

 

 遠距離ではタカミチに分があっても、それと同じモノを近接で使えれば明日香に分がある。

 

 

 さらに言えば俺の娘なのだ。

 新たな技法を生み出す才能を確かに受け継いでいた。

 

 そして明日香は完成させた。

 

 

 

 

 明日香は……

 

 

「我流無音拳……『ゼロ撃』」

 

 

 密着状態でも無音拳を相手に叩き込める。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

 タカミチの脇腹を正確に貫く拳の一撃。

 

 あまりに予想外な一撃だったため、防御が完全に遅れていた。

 

 

 無音拳は居合に似た方法でパンチを高速で繰り出し拳圧を飛ばす技である。

 そして極限の速度と静けさで攻撃の瞬間を察知されず、なおかつ気配の読めない拳圧を飛ばす事で遠距離の相手に絶対的なアドバンテージを得るのがこの技の最大の利点だ。

 

 この技にはどうしてもポケットを鞘の代わりにして繰り出す動作が必要になる。

 そして伸びきった刹那に拳を引く事で拳圧を飛ばす。

 

 威力はどうあれ、この動作をするためには最低でも1、2メートルの距離が必要になるのだ。

 

 しかも放たれた拳圧は直線にしか進まないため、どうしても密着状態の相手には使えない。

 

 

 だから昔、俺と戦ったタカミチは近接では殴り合いをした。

 

 

 

 

 だが……

 

 明日香はその無音拳を零距離でも使える。

 

 

 方法は言うだけなら簡単だ。

 自身の横に向けて拳を出し、最大まで伸びきるその瞬間に拳の向きを変える、ただそれだけ。

 通常の無音拳を高速のストレートだとすれば、明日香のは高速のフックだ。

 

 威力は落ちるし、相手の横か斜め後からしか攻撃が出来ないのは難点だが……

 

 その攻撃は捕えられない。

 

 

 防御を意識した瞬間、明日香の攻撃を回避する術は無くなる。

 

 

 事実、タカミチがとっさに防御の姿勢に入ったのを確認した明日香は……

 

 にやりと不気味な笑みを浮かべた。

 

 

「無音拳……『千手合掌』!」

 

「ぐががががあああ!!!!」

 

 

 連続で零距離の無音拳を放つ技。

 

 防御をしても高速の攻撃は正確に防御していない部位を狙う。

 

 まるでその攻撃が千手観音が合掌をするかのように見えるために未来のエヴァが命名した。

 

 

 この技の攻略法は単純に、防御を無視して明日香を攻撃すればいいだけ。

 明日香は腕をポケットにしまっているので咄嗟の防御がどうしても遅れてしまうのだ。

 

 一撃でも明日香に当ててその隙に瞬動で逃げればいいだけの話。

 

 怪我をさせたくないと攻撃に手を抜いたタカミチのミスだ。

 

 

 

 そしてここでタカミチの勝ちは消えた。

 

 

「もう飽きた……死ね。

 無音拳ゼロ式……『豪天・巻』」

 

 

 その場で高速で一回転。

 回転時の遠心力と無音拳の威力を上乗せした強力な一撃がタカミチの脇をつらぬ……

 

 

「そこまでじゃ!!」

 

「!」

 

 

 学園長が止めた事で、明日香の一撃もギリギリで止まる。

 もし止めてなかったらタカミチの脇腹は軽く抉れる威力だったな……

 

 学園長の判断力に感謝、といった所か。

 

 

「実力見せはこれで十分でしょう?

 ね、学園長」

 

「そ、そうじゃな……この勝負、明日香くんの勝利とする」

 

 

 ざわめく一同。

 麻帆良学園でも最強と呼ばれたタカミチが、手加減していたとはいえ一人の少女に負けたのだ。

 そりゃ驚きだろう。

 

 

「異議は認めんぞい。

 油断もあるじゃろうが最後はほとんど一方的な試合になっておったしのう。

 あのまま行けば致命的なダメージを受けておったじゃろうしな」

 

 

 学園長が鎮めるが、それでもざわめきは収まりそうにない。

 

 明日香の最初の印象が悪かったのも問題だったか……

 

 これじゃあしばらくは問題が残りそうだな。

 

 

「では、明日からこの者達にも夜の警備に参加してもらう。

 仲良くしてやってくれのう……解散!」

 

 

 

 こうして魔法関係者との顔合わせはなんとか終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく、お前らしくないじゃないか。

 ここまで一方的になるとはな」

 

 エヴァは負けたタカミチをからかう。

 タカミチはダメージを受けた脇腹を治療しながら、ナギ達が去ったあとを見つめる。

 

「まさか明日香くんがあそこまで強いなんてね。予想外だったよ」

 

「あの性格もな」

 

「ははは」

 

 タカミチは思い出す。

 自身と対峙した時のあの明日香の姿を……

 

 彼女にそっくりだが、まるで質の違う強さを見せたあの少女を。

 

「……恐ろしいよ。

 二人の才能が合わさると、あそこまで脅威になるなんてね……

 止めて貰えなかったらきっと重症だったよ。

 それに、彼女はあれでも本気じゃない」

 

「なに?」

 

「彼女は咸卦法を使っていなかった」

 

「アイツも咸卦法が使えるというのか!?」

 

「彼女の師は未来の僕だと言っていたね。

 無音拳だけなら僕に師事する必要は無い。

 なら……」

 

 

「……まったく、とんでもない一家だな」

 

「そうだね」

 

 

 二人は自然と笑みをこぼしていた。

 

 

 未来とはいえ、あの娘を育てたのは自分たちなのだ。

 

 例えあのような性格でも、あれだけの逸材を育てられる事を……二人は喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなりギリギリでしたよ、明日香」

「うぅ、ゴメンなさい」

 

 俺は明日香はおんぶしながら帰宅していた。

 

 明日香はカティに注意を受けてしょんぼりとしてるな……

 

 

 会合が終わり一同から離れたその後に、明日香はその場に座り込んでしまったのだ。

 

 理由は単純に持久力不足。

 明日香は咸卦法を使わないと十分も体力が続かないのだ。

 

 といっても咸卦法の持続時間も大して長くは無いがな。

 

 

 総合的に見ても明日香は持久力が無い。

 体力的な意味と、能力的な意味での持久力が無いのだ。

 

「体力を付けるにしてもなぁ……」

 

 だが体力を向上させたくても明日香には別の問題がある。

 まぁ、それはまた別の機会にな。

 

「とにかく、今回は時間ギリギリだったぞ」

 

 もしあそこでタカミチに咸卦法を使われていたら……

 

 もしあそこでタカミチが正面に攻撃をしていたら……

 

 最初から明日香が咸卦法を使って短期決戦をしていれば楽勝だっただろう。

 だがタカミチを本気にさせるためにムダに時間を使ってしまったのだ。

 これは明日香の精神的な未熟もあるだろう。

 

 

 それに密着状態の無音拳だが。

 わざわざ無音拳ではなく、直接殴ったほうがいいのではと思うだろう。

 事実先ほどエヴァにもそう言われた。

 

 言葉を濁して流したが、確かにそうなのだ。

 だがそれは本来であればという話。

 

 明日香には残念ながら当てはまらなかった。

 

 明日香は、直接殴るよりも、無音拳の方が威力があるのだから。

 

 

 はあ、まだまだ問題があるな……

 

 

「お父様……明日香を出してよかったのですか?

 むしろ私やトウヤが出た方が」

 

 カティが俺に言う。

 やはり明日香の事は心配していたようだ。

 性格もあるがなにより弱点を。

 

「……それもどうだろうな」

 

 カティもトウヤも、明日香以上の実力を持っている。

 タカミチと戦ってもそれこそ何一つ問題なく勝てるだろう。

 

 だが二人ともそれぞれに問題があるのだ。

 

 おいそれと弱点をさらすのは愚か者のすること。

 

 明日香の弱点をさらすことよりも、二人の弱点の方がネックなのだから。

 

 

 ある意味では俺以上に問題がある二人なんだよな……

 

「とにかく、明日から学校だ。

 今日はさっさと帰って寝よう」

 

「そうですね……妹たちも待ってますし」

「お風呂入りたい……」

「私は疲れた~」

 

「はいはい」

 

 

 

 さて、明日からどうなるかな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




六話くらいまではある程度スムーズに投稿できるかと思います。
ただしその後は執筆スピードからして鈍足になるかと;

それでは設定一部公開。

名前:近衛木乃香
年齢:35
仕事:麻帆良学園学園長、関西呪術協会会長
子供:息子と娘一人(木乃葉10歳・木烏葉6歳)
備考:麻帆良学園の学園長と関西呪術協会の会長とを両立する。
   とは言っても関西の方は補佐の方に半ば任せている形。
   そのため基本的に麻帆良学園の学園長室で仕事をこなす。
   趣味は家事全般であり、家にいる茶々丸と共に家の家事を任されている。

   ネギに迫ったのは最後組。
   「他の子らみんなやっとることやし、うちらだけ仲間はずれもないやん」
   とは本人談。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。