一昨日のフェニックスワンダーランドを包んだ歓声に引けを取らない大雨。
フェニックスステージの屋根を貫くような激しい雨の中、その言葉は舞台袖に消えた。
「……え?」
フェニックスワンダーランドーーーーいや、ワンダーステージのメンバーが起こした伝説の、奇跡の夜。
ショーの一部がSNSで拡散され、3ヵ月先まで予約が埋まり、ナイトチケットも完売した。取り壊し予定のステージやアトラクションだけでなく、経営難のフェニックスワンダーランドまでも救う結果に。そして、宣伝大使にまでも登り詰めた。
「ご、ごめんなさい。もう一度言って貰えるかしら?少し今日の稽古がハードで疲れてるのかもしれないわ」
俺の心が折れるには十分な光だった。
フェニックスステージで脚本家、演出家としてショーを見に来た人たちに届けた光の何百、何千、何万倍も強い光。あんなショーを見せつけられたら俺が今まで作ってきたショーがちっぽけに見えてくる。あんなもので満足していた俺に失望した。ましてや、それを作ったのは司と類だ。自分の無力さに悲嘆し、失望し、絶望した。そんな人間がこれからも夢を届けるこのステージに立つ者の隣に立てない。
だからこそ、もう一度この言葉を口にしなければならない。
「俺は今日でフェニックスステージを下りる」
何より、そんな人間が今までともにショーを作り上げてきた彼女ーーーー青龍院櫻子の隣に立っていていいはずがない。
「何の冗談を言っているの……?だって、私たちこれからでしょ……?」
「いや、もう俺たちの時代は終わったんだ。お前もあいつらと演じてみて分かったろ。どれだけあいつらが眩しいか……俺たちがどれだけくだらないショーをしていたのか」
「……くだらない?」
先ほどまで怪訝な顔をしていた櫻子の表情がだんだんと怒りに変わっていく。
「くだらないって何なのよ!たしかに彼らのステージは凄かったわ。正直私だって嫉妬したわ。私たちだけじゃあれほど素敵なショーは作れなかった……でも今まで作り上げてきたステージはくだらなくない!適当なこと言わないで!」
「……あぁ、そうだな。悪い、言葉を間違えた」
「くだらない」という言葉に腹を立てた櫻子。
彼女が俺を見放すにはもう一押しと言ったところだ。
「脚本、演出が俺だったから今までのショーは駄作だったんだ。お前たちは悪くない。悪いのはすべて俺だ」
その瞬間、小さな手が俺の胸倉をつかんできた。毎日欠かさずトレーニングを行っている結果だからか、女性にしては腕力もしっかりとついている。しかし、その力では足りなかったのか身体も押し付けて、フェニックスステージの一角に追いやってきた。
「取り消しなさい今の言葉!!!軽々しく私たちのショーを否定しないで!!!」
目に涙を浮かべこちらを睨んでいる。こちらが何も返せないでいると彼女はそのまま言葉をつづけた。
「……私は彼らとともに演じて、肌に感じたわ。私たちももっと素晴らしいショーを作れるんだって。もっとお客さんに感動を届けられるように頑張ろうって……!私はそう感じたのに……そう思ってたのに……あなたと一緒に作り上げようって思っていたのに……!なんであなたから、龍二の口からそんな言葉を聞かなきゃいけないのよ!!!」
言葉だけでなく、服越しからも怒りが伝わってくる。
覚悟はしていたが、俺は櫻子のショーを否定したんだ。ここまで怒りを露にするのも当然だろう。
申し訳ない気持ちを胸にとどめ、櫻子の腕を力づくで振りほどいた。
「……悪いな。俺はもう二度とショーを作る気はない」
「彼らはフェニックスワンダーランドに光を、希望を与えてくれたのよ!その希望から目を背けて逃げるというの!?」
俺は舞台を降り、客が使う出口へと向かう。
「……希望なんかねえよ。俺が感じたのは絶望だけだ」
そう言い残し、俺はフェニックスステージの扉を開いた。
その扉は今までの何倍も重く感じた。
「私から離れて行かないで、龍二……」