妙に飲酒と四畳半が似合う女、かぐや姫。冬の屋台で日本酒飲みながらおでん食べる姿が似合う血式少女ランキング一位。
恋獄塔時空じゃない普通の現代パロかもしれない+ジャックたちは成人してます。
「かんぱい〜」
「乾杯!」
その夜。ワンルームマンションの一室で、一対の男女が杯をぶつけ合う。
間にあるちゃぶ台には、ジャックがスーパーで適当に買ってきた出来合いの料理やらお菓子がところ狭しと並んでいる。とはいってもひとり暮らしに適したサイズなので数えられる程度だが。
枝豆に唐揚げ、焼き鳥といった定番のものばかり。彼女の好みはよく知らないので、渡された予算内でハズレがなさそうな肴をチョイスしてきたつもりだ。
「これがビールとやらですか〜。苦いとは聞きますが、口に合いますかねぇ」
部屋の主であるかぐや姫は缶ビールを興味深そうに眺めながら呟いた。
「定番ってイメージあるかもだけどビールって結構好みが別れたりするんだよね。あと、大切なのは無理して飲まないこと。少しでも変な感じがしたらすぐやめてね」
ジャックも同じものを持っていたが、まだ口はつけない。
今日はかぐや姫のちょっと遅めの誕生日祝い──かつ、二十歳になった彼女の初めてのお酒解禁日。
まずは主役が飲むべきだと考え、その様子を眺めていたのだ。
高校卒業後、再びかぐや姫はジャックの後輩となった。
大学生になっても彼女の面倒癖と人をこき使う性根は治らず、偶然同じマンションに住んでいるのもあってちょくちょくパシリにされる日々が続いていた。
そんなある日、成人したかぐや姫は昔から気になっていたお酒を味わいたいと、年齢的にも学年的にも先輩のジャックに打診したのだ。
初めて飲むということで、自分の限界が分からないからやはり信頼できる人に付いてもらいたいらしい。
他にも同じ大学に通っている昔馴染みはいる。
しかし、赤ずきんは酒に慣れた人だがうるさそうという理由で却下。実際酔うと絡みが激しくなってジャックもたまに困らされる。
アリスとつうはすぐ酔ってしまう体質なのであまり適していないということで。人魚姫はかなり強いのだが今夜は別に用事があると言っていたし、グレーテルは酔いが回ると黙り込んだと思ったらすぐ寝てしまうため、これもまた適さないという判断。
その他の
なので、消去法でジャックが選ばれたのだ。しかも買い出しに行かせても文句一つ言わないとくる。
グウタラなかぐや姫にとってこれほど都合のいい男はいない。実際、今日飲むお酒もおつまみも全部用意してもらったのだから。
「分かってますよ〜。変に酔い潰れたら、目の前のケダモノにナニをされるか分かったもんじゃありませんからね〜」
ニヤニヤと笑いながら言う。
「な、なにもしないよ……僕がそんなことするように見えてるの?」
「どうでしょうねぇ〜。大学生ともなれば女の子を酔わせてはそのままお持ち帰りするなんてよくある話と聞きますが〜」
「無くはないんだろうけど、それってとんでもない偏見だよ、きっと……。と、とにかく、一口飲んでみたら?」
このまま自分が相手を酔わせて変態に及ぼうとする人種にされてしまいそうなので、話を変えるためにも取り敢えず口につけるよう促す。
流れ的に悪手に見えるが、かぐや姫は目の前の成人男性の反応を面白がって揶揄いで言っているだけで、ド偏見に染まっているわけではないことはジャックもなんとなく分かっていた。
かぐや姫としても彼がそんなことするとは思わないし、促されるまま、ほどよい温度の黄液を口へと運ぶ。
軽く含んだだけだが意外にもサラリ、という感じで喉を通り過ぎていった。
かぐや姫の予想ではもっと口の中に残ると思っていたのだが、一瞬苦味を感じたらそのまま抜けていくのだ。
初めてだからワクワクしていたのに拍子抜けに感じるほど。
かぐや姫の初体験は予想以上に素早いソフトランディングで終わった。
「へぇ〜結構飲みやすいんですねぇ〜。苦味は感じましたがそこまでではないですし、むしろ口の中がスッキリしたような気がします〜」
「美味しかった? アルコールの風味とかは大丈夫そう?」
「美味しいかと言われると分かりませんねぇ。不味くはありませんが……。でも、これで度数五パーセントですかぁ、まだ一口だけですが、キツさはあまり感じませんね〜」
「そっか。じゃあ、かぐや姫は結構お酒強いのかもね。アリスとおつうはこれが精一杯みたいな感じなんだけど」
「その様子だと、そなたは結構イケる口なんですかぁ〜?」
「うーんどうかな? まぁ強めのお酒もわりと飲めるし、たまに赤ずきんとサシ飲みしたりもするから、強いのかもね」
ジャックもそう言って一口飲む。グイッと大きくいった。
謙虚なのか自覚がないようだが、強いかもというより実際強い。
酒豪として大学でも有名な赤ずきんと付き合えるし、ジャックを酔わせようと画策した男友達を逆に酔い潰すくらいにはなかなかの飲み手である。
酔う自体は早いのだが、そこから限界までかなり距離があるタイプだ。しかも酔ってもあまり様子が変わらないので、相手はますますペースを乱していくことになる。
(“赤ずきん”ですかぁ。呼び捨てとは随分仲が良いことで……)
不意に出たジャックの言葉に傾注する。
高校時代ではさん付けをしていたはずだが、知らないうちにかなり距離が縮まったようだ。話を聞くに二人きりで飲むこともあるようだし、かぐや姫の予想以上に進展していてもおかしくない。
(より仲を深められれば、わらわのことも“かぐや”なんて呼んでくれるのでしょうか……)
ほんのちょっと、少しばかり、モヤモヤとしたものが胸の内に渦巻いていた。
実は、初飲酒の見守り役としてジャックを選んだのはテイのいいパシリとしても使えるから、というだけではない。
彼がお酒を嗜むのは主に赤ずきん経由で知っていた。楽しくやっているようで、たまに聞くその話にかぐや姫は憧れや羨ましさを感じていた。
──自分も、お酒を飲めるようになれば彼ともっと親しくなれるだろうか。
ある日、アリスと仲良く並んで歩く彼を後ろから見て、ふと、思ったのだ。
たまに雑用で呼び出しても、それが終わると彼はそのまま帰ってしまう。
女の子の部屋に長居しないのは当たり前といえばそうだが、最近になって、彼が去った後とても寂しく感じてしまうことが増えた。
理由は分からないふりをしているが、とにかくワガママな後輩以外の接点を持ちたかった。
簡単に彼を呼び出せて、さらに変な理由をつけずとも一緒に過ごせる方法となれば、やはり共通の趣味を見つけるしかない。
しかし、一体どうすれば?
あいにく自分はジャックと合う趣味を持っていない。
そもそも講義の日とどうしても必要な場合を除いて外に出ないかぐや姫では、アウトドア系の趣味にはまずついていけない。
そうなるとインドア系。ゲームは彼もやるが、かぐや姫と比べるとかなりカジュアルなスタイルで、プレイするジャンルやタイトルも相当異なる。
漫画やアニメもあまり好みが合わないし、その他凝っているものも特にないのだ。
その時小耳に挟んだのが、お酒に関するエピソードだった。
飲み会であれば自分の部屋でできるし、要は食事を楽しめばよいのだから苦ではない。
何より、彼と長い時間一緒にいれる。もしかしたら、酒の勢いというのも使えるかもしれない。
考えれば考えるほど今の自分にとって最良の選択肢に思えた。
懸念点はアルコールが苦手な体質かもしれないというところだったが、この感覚だと恐らくその心配はない。
嬉しかった。彼の笑顔が今までよりもずっと近くにあるような気がしたから。
「かぐや姫、大丈夫? ちょっとボーッとしてるような」
「問題ありません〜。でも、確かにフワフワとしてきましたねぇ……」
酔っているのやら、酔わされているのやら。
最初の一口から一時間以上も経過すると、ゆっくりとしたペースであっても流石に酔いが思考にまで影響してくる。とはいってもまだまだ意識ははっきりしている。自分でも意外なほど耐性があるらしい。
全身が暖かくて柔らかいものに包まれているみたいで、心地よい。初めて味わう酔いという感覚であるが、ハマってしまいそうになる。
程よい付き合いは必要そうだ、と思いつつ彼と半分こした日本酒を一口飲み込んだ。
透明なグラス越しに、料理を食べる彼を見ると普段通りというような様子だった。
ジャックはそこまで飲んでいない。かぐや姫を監視しなくてはならないのに変な酔い方をしたら本末転倒だと理解しているから。
いつもと違う彼を見れると思っていたのだが、これではつまらない。
「じゃあ、今回はそれ飲んだら終わりにしよう。ちょうど料理もなくなってきたし」
はっきりと受け答えできているし泥酔、というふうには見えない。だが、キャパシティが分からない以上、余裕のあるところで止めておきたいのだろう。
かぐや姫としても醜態を晒す気はさらさらない。しかしながら、このままお開きにするつもりもなかった。
「……なんだか少しクラクラしますねぇ、お水がほしいです〜」
「ちょっと飲み過ぎたかもね。待ってて、今持ってくるから」
わざとっぽい演技だったが、騙されたらしい、本当に人を疑うことの知らない愚かで優しい男だ。
台所から水の流れる音が聞こえてきた。たまに料理も作らせるので生活周りの道具を使わせるのに抵抗はない。
足音を聞いて、彼が自分の真後ろまで来たのを察知する。
「はい、どうぞ」
「一旦そこに置いておいてください〜」
「え? うん……気持ち悪くなってたりしない? なんだか顔が赤いし……」
顔が赤いのはアルコールだけのせいではない。
コップをちゃぶ台に置くため、座ろうと膝を折る。その瞬間を見逃さず、かぐや姫はジャックの腰に抱き着いた。
「うわっ!」
「なんだか頭が重いので、膝枕してください〜」
そのまま体を反転させて、ジャックの顔を見上げる。困惑していて、どうしていいか分からないように手を右往左往させていた。
「結構酔っぱらってるね、かぐや姫……」
「そうかもしれません〜。なのでそなたが責任取って介護してください〜」
「べ、別にいいけど責任取れってどういうことなの」
「わらわをこ〜んなふうにしたのはそなたのせいですから〜」
かぐや姫は蠱惑的に笑う。
血色の良いほんのり汗ばんだ顔でそんな表情をされると、改めてその美貌に気付かされる。
昔よりも大人びていて、状況的なのもあるだろうけど妖艶な雰囲気を纏うようになった気がする。
僅かな劣情を感じたあと、ジャックはかぐや姫の頭を持ち上げつつ姿勢を正す。
「いや、お酒飲むって言い出したのは君自身だよね? それなのに僕のせいにされても困るんだけど……」
意識が朦朧したり吐いてしまうほどだったらジャックにも非が出てくるだろう。が、傍目から見ても限界には見えない。むしろ酔いをめいいっぱい楽しんでいるフシすらある。
「言い訳は聞きません〜。責任から逃れようとするズルい人には、罰としてわらわが良いと言うまで膝枕の刑ですよ〜」
「か、勘弁してよ……」
「問答無用です〜」
とはいえかぐや姫は離してくれそうにはないし、ここで逃げて酔ったままの彼女を放置するのも憚れる。初めてゆえ許容値がよく分かってない以上、ここから急速に悪化する可能性もなくはないのだから。
それに、こうやって直接的に甘えてくるかぐや姫は珍しくて、このままにしておきたい気持ちもあった。
(ふふっ、酔いの勢い、というのは便利なものですね〜。これからも使わせてもらいますか〜)
そうほくそ笑むかぐや姫の心中を知る由もなく、ジャックは膝枕を続けるのであった。
───
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ほぼ同時刻。某カップルの住まいにて。
「ひーめー! 膝枕してくれないと泣くぞー!」
「ジャック……変なことしてないといいんだけど……。いえまさか疑ってるわけじゃ、あのジャックが……わたしにはしてくれていいのに……あぁジャック、ジャック……」
「なーんだもう潰れちゃったの? まだ一升も飲んでないでしょ。ねぇ、グレーテル? おーいグレーテルー、グレー、グレー、構ってよグーレーえー!」
「ゃ」
「……………………あはは、女子会って難しいね……」
コンビニから帰ってきた人魚姫が見たのは、悲惨な光景だった。