怠惰主義のユースティティア 作:亜宇羅、慈涯死露
ありとあらゆる手段を用いてアウラは目の前の相手を殺さんとする。普段の怠惰な姿はいったいどこへ消えたのか、そこには情け容赦など一切ない。それに正面から相対するはゼーリエ、彼女は数々の豊富な魔法を駆使してその攻撃をさばいていく。
大魔族と大魔法使い。暴力の化身と魔法の極致。そんな両者の戦況は、当初こそアウラが優位に立っていたものの、今現在はゼーリエの方が圧倒していた。
なんということはない、確かにアウラは強いが、それ以上にゼーリエが強かった、ただそれだけの話である。強者がさらなる強者にかなわないのは当然だ。すでに彼女の全身には、ゼーリエの魔法の砲撃でできた無数の傷がある。
(それにしても、ドラートは本当にいい働きをしてくれたわ)
戦いの最中、アウラはそうひっそりと心の中で配下の一人を賞賛した。
ゼーリエの攻撃をくらったはずの彼女が未だに生きているのは、攻撃を受ける瞬間に魔力を集中させて防いだからだが、実はもう一つ要因があった。衣服である。彼女が身にまとうそれは、すべてドラートの魔法によって作られていた。繊維の一本一本が実質彼の魔力そのものであるため、かなりの耐久性がある。これがなければ傷はもっと深かっただろう。いざという時のための保険だったが、まさか本当にそんな日が訪れるとは。
(帰ったらほめてあげないと。もっとも、そのためにはとにかく――)
こいつをなんとかしなくちゃね。
「盾隊、強力な魔法がくるわよ。意地でも防ぎなさい。飛竜隊は火炎放射の用意、工作隊は投石機の準備を。魔法が終わり次第、いっせいに発射するわ」
依然として軍勢の数は減りつつある。しかし、それは同時に彼女のリソースに余裕ができることを意味する。つまり、兵たちのより綿密な操作が可能になるということ。
ゼーリエに対抗するべく、アウラはギアを一段と上げた。今までよりもさらに苛烈に、かつ巧妙に仕掛ける。すべては自身の安寧のために。
■
「これはいったい、なにが起こって……」
「リュグナー様……」
そう問いかけられても、自分には答えようがない。ただ一つだけ分かるのは、あの怠惰なはずのアウラが本気を出しているということだけである。
まったく知らなかった。彼女がこれほどまでの力を秘めていたなんて。先ほどから大気と地面の振動が収まらない。七崩賢最強の名は伊達ではなかったのだ。
過去、リュグナーはこのような発言をしている。
『魔族全体の士気って……。私は魔王様じゃないんだけど?』
『アウラ様のお力であれば、その名を襲名するに申し分ないと愚考いたします』
(正直、あれは単なる世辞のつもりだったのだが……)
彼女の本当の力を理解した今なら断言できる。他のどの魔族よりも、間違いなく彼女こそが次の魔王の座にふさわしい存在だと。
(しかしそれなら、アウラ様に本気を出させるあのエルフは何者だ? 自ら神話の時代から生きてきたなどとほざいていたが、はったりではないのか? ……いや、今さらそんなことを考えても無駄か。いずれにせよアウラ様が負けるとは思えん)
今までまともに力を見せる機会がなかった彼女のことだ。たとえどんな強敵が相手だろうと、おそらくはきちんと対抗手段を講じていることだろう。
「ドラート、お前はアウラ様のお召し物の準備をしておきなさい。リーニエは傷薬と清潔な布を。私は彼女の寝室にあるベッドを整えておく」
「え、お召し物、ですか?」
「なんのためにそれらを……」
「いちいち説明が必要か? そんなの決まっているだろう。ここへお戻りになったアウラ様を労るためだ。さあ、分かったのならさっさといけ」
かつての住居である古城にて、三人の配下は静かに主の帰還を待つ。
■
「はあ……。もういいわ、やめなさい」
戦いが始まってから七十二時間後、ついにアウラは軍勢の動きを止めた。といっても、もはやそれらは軍勢とは呼びがたい。翼を失った竜が二匹と死にかけの魔物が八匹、それからかろうじてまだ動かせる兵士が五体。ほんの少し前まで三万以上もいた兵士たちが、今ではその影も形もない。ゼーリエによってことごとく消し飛ばされた。
彼女の真価は軍勢がそろっていてこそ発揮されるものである。そのほとんどを失ってしまった以上、このまま戦闘を続行するのはかなり厳しい。
(それにもし奇跡的にこいつを倒せたとしても、次はこいつのお仲間と戦わなくちゃいけないのよね……。どう考えても限界の方が先にくるわよ……)
遠くからずっと自分たちを観察し続けている複数の人間の魂をアウラは知覚している。
まさしく絶望的な状況だ。完全に詰んでしまっている。一目散に逃げようにも、その逃げる隙をこの者らが与えてくれるとは到底思えない。
「どうした? 潔く死ぬ気にでもなったか?」
「まさか。そんな訳ないでしょう」
だが、初めてではない。絶体絶命の危機など、彼女は過去に何度も乗り越えてきた。
「とはいえ、この私が追いつめられているのは事実。そこはまあ認めてあげるわ。本当にたいした魔法使いよ、あなたは。……だから、お礼に私の切り札を見せてあげる」
アウラは強い。とてつもなく強い。七崩賢の中でも最強と言われる所以は圧倒的な物量を誇るからであり、それは同族に対しても非常に有効だ。
しかしながら、物量ではどうにもならない相手も存在する。その最たる例が黄金郷のマハトである。〈万物を黄金に変える魔法〉という強力な呪いを前に、かつての彼女は手も足も出なかった。次点で魔王。今はもういないが、当時すべての魔族を従えていた彼の魔力は本当にすさまじいもので、無様にも彼女はひざを折るしかなかった。
この時に彼女は悟ったのだった。たとえどれだけ力をつけようと、自身と相性の悪い者や理不尽な力をもつ者というのは必ずどこかにいて、そして自分はその者たちに決して勝てないのだと。
ゆえに、そういった者たち相手に絶対に負けない術を編み出したのだ。
「誇りなさい。これを見せるのはあなたが初めてよ」
ここにきてアウラは初めて
右手に剣を、そして左手に天秤を持つ彼女は、そのまま奥の手である魔法を発動する。
太古から生きる大魔法使い? 自身より格上? そんなの知ったことか。さあ、我が魔
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