タフ外伝 OTON『宮沢静虎、ゴッサムに出張する。』 作:スローダンサー
『ペンギン』。その名前は静虎も聞いたことがあった。ゴッサム・シティでも指折りのヴィラン、街の大物フィクサーである
「JFK銀行は儂と手を切りたいってわけだ。今の時代ギャングとの黒い繋がりはいらない…………ってかんじかねぇ」
『総務部渉外担当特別調査員 宮沢静虎』と書かれた名刺を手の中にクルクルと回しつつ静虎に尋ねるペンギン
「ええ、それが伊集院頭取の意向です」
名の売れている悪党を目の前にしても落ち着き払っている静虎。その様子を鼻で笑い、ペンギンら名刺をバインダーにしまう
「儂の力が国外に及ばないとでも思ってるのかねぇ?」
ゾッとするほど黒い声である。小さな体躯から飛び出す殺気は常人を縮こまれせるものだ。しかし静虎の顔が変わることがない。悪人の脅しなどどこ吹く風である
「ふん! 脅したところで無駄か…………いいだろうJFK銀行から手を引こう」
「…………そうですか」
予想外の展開に少々面食らう静虎。この手の悪党が簡単に手を引くとは思えないからだ。
「ただし、一つ条件がある。Mr.セイコ! あんたには責任を果たしてもらうぜ」
「責任とは?」
「ああっあんたには儂に対して大きいものがあるんだぜ!」
おいっと首を振るペンギン。近くにいた部下が彼の座る席に近づき、何かを置いた。静虎にも見えるようテーブルに設置されたのはノートパソコンである
そこに写っていたのは昨日のキラー・クロックとの戦闘である。6つほどの分割された画面はあらゆる方向からキラー・クロックを締め上げる静虎を写していた
「東洋だとこういう時『棚から牡丹餅』っていうんだっけか?」
「この映像を私に見せてなんの意味が?」
「そうだな…………ここに映っているのはMr.セイコ、そしてうちが使おうと思ってた駒の二つだ」
ペンギンはニヤニヤ気味の悪い笑顔を浮かべ静虎を睨む。静虎は片目の運転手ウェイドが言っていた『顔を隠せ』『正体を偽れ』の意味を噛み締めていた。隠さなければこのような場に利用される。ウェイドはこの事を言っていたのだろうか?
「Mr.セイコ、あんたは儂が使うとしてた駒を壊しやがった。このツケはあんたが払うもんだぜ」
「私にどうしてほしいと?」
「キラー・クロックは今日、儂がケツモチしている地下格闘大会のメインとして出る予定だったんだ。あんたが代わりに出てもらうぜ! …………断らないよなぁ?」
断ればどうなるか? ペンギンの手下達が膨らんだ懐に手を入れている所から容易に想像がつくだろう。静虎に落ち度があるとするならただ一つ。この街に隙を見せてしまった事だ!!
「…………わかりました。その話受けましょう」
「よろしい! 言ってくれると思いましたよMr.セイコ!」
テーブルから立ち上がりヒョコヒョコと静虎に近づくペンギン。静虎の目の前に立つとペンギンは右手を差し出した。その手を取る静虎。ペンギンの手は見た目の小柄肥満から想像がつかないほどパワーがあり、年季の入った武術タコがあった
「よろしく頼みますよ?」
有無を言わさぬペンギンの圧力を静虎は黙って受ける他なかった
◇◇◇◇◇
数時間後 アイスバーグ・ラウンジ 地下闘技場
金網囲む闘技場の周りに仮面をつけた人々がヤジを飛ばす。聞くに耐えない台詞だ
「おいへばってるんじゃねーぞブルーカラー!」
「頭かち割れ! 殺すんだよ!」
「こっちは血が見たくて来てるんだぜぇ!」
「股間狙うんじゃねーぞ! 卑怯モンが!」
中の闘技者2人のうちの片方が、相手の頭をマットの上に叩きつける事で試合は終わる
「つまんねー試合しやがってっ」
「掛け金が全部吹き飛んだじゃないかっ」
「クソ選手が死ねっ」
罵倒を浴びせられながら選手達は外へはけていく。ペンギンはつまらなさそうにその様子を見ていた。すると彼の後ろから声がする
「『貴方はレースを走っていて、2位の人を抜かした。貴方は今何位?』」
「『2位』。くだらない謎々はまだ思いつくようだなリドラー!」
「呼んだのは貴方でしょうにペンギン」
そこにいたのは緑のスーツを着て? マークが入った帽子を被った紳士であった
| リドラー 本名エドワード・ナッシュトン。謎に執着しているヴィラン。何度もバットマンを追い詰め、大規模なテロを起こしたこともある。 |
「ふん! その目に悪い緑色は止めるつもりなんだなお前」
「貴方に言われてスタイルを変えると思いますか?」
「愚問だった。言うこと聞くお前じゃない」
「うふっ。あまり喧嘩は売らないでくださいよ? おデブなペンギンさん!」
リドラーの侮辱を聞き我慢できなかったのはペンギンの部下達である
「貴様ーッ、ボスを愚弄する気かぁっ」
銃を取り出したペンギンの部下達を牽制するのはリドラーの部下達だ
「おおーッ、弾けるもんなら弾いてみろよおおっ」
互いに銃を突きつける、一触即発の空気を収めたのはそれぞれのボス達
「馬鹿どもが、納めろ!」
「貴方達落ち着きなさい」
その一言にマネキンのような能面な顔に戻り銃をしまう部下達。勝手に弾きそうになった部下達の処分を考えつつペンギンが話を切り出した
「リドラー。わかってるよな?」
「そうだねぇ。今回の試合の結果で『ジョーカーのシマ』をどちらが取るか決める。シンプルで私は好きだよ」
ジョーカーは現在アーカム・アライサムにおり、彼のシマは当初複数の大物ヴィランが管理する取り決めがあった。だがバットマンの暗躍とヴィランの抗争により、管理がグズグズとなったのである。そこで現在勢力の勢いがあるペンギンとリドラー、どちらかが管理することに裏社会の権力者達は決定したのだ
ペンギンはこの決闘においてキラー・クロックを当てようと考えていた。リドラーが用意した相手の情報を聞き、自分の子飼いで一番勝率が高い駒がキラー・クロックである。しかし奴は先日負けてしまった
「ペンギンさん。大丈夫ですか? 顔色が悪いですね!」
リドラーのニヤケ面はペンギンの神経を逆撫でる。今すぐにその歯を叩き割りたいところを我慢して傘を握る
(Mr.セイコ。ハイパー・バトルのようにもし負けたら)
その先を考えぬようペンギンは金網の闘技場を見ることにした
◇◇◇◇◇
『みなさんアイスバーグ・ラウンジ・バトル・ラウンドへようこそ!!』
『血湧き肉踊り骨飛び散る血の池地獄も今宵メインイベントになります!!』
『今回のタイトルは【ダブル・タイガー・デュエル】!! 二匹、虎がいるとしたら殺さずにはいられない!! 虎は一匹でいいのです!!』
『まずはこの虎だぁっ!!』
右側からやってきたのは虎の首を模したマスクをつけた男である。全身を戦闘服で覆っているがグローブから少しだけ覗かせる皮膚は黒色だ
『世界最高峰の殺し屋にして武術家【ブロンズ・タイガー】っ!!』
| ブロンズ・タイガー 本名ベンジャミン・ターナー。気功を操るカンフーや拳法を収めたファイター。虎の爪の様な構えで敵と戦う |
「俺はお前にかけてるからなニガーッ!」
「敵をぶち殺せぇっ」
侮蔑的歓声を背にブロンズ・タイガーはリングイン。そのタイミングに合わせ実況の男が声を張り上げる
『対するはこの虎。今回が初登場!』
左側から現れた者に、観客は一様に絶句。そして爆笑の渦を呼んだ
赤い服、黄色のマント、緑の手袋、緑の短パン、そして黒マスクをつけ胸にRの文字を輝かせる、筋骨隆々な中年男性が入ってきたのだ
『新たなバット・ファミリーがここに誕生する!! 【タイガー・ロビン】っ!!』
| タイガー・ロビン 本名宮沢静虎。灘神影流の達人。用意されていた三つのコスチュームで一番マシなものを選んだ。 |
「なんだよあのイエローぴちぴちすぎるぜ服がっ」
「サイズあって無さすぎて笑えてしまう」
「おいバッツ!! お前こんな変態をサイドキックにしてたのかっ」
観客の嘲笑を意に返さず、タイガー・ロビン…………静虎はリングインした。ぴちぴちのスーツであるが動きを制限するほどのものではないのが幸いだ。戦闘前の柔軟も十分こなせる。静虎は先にリングインしていたブロンズ・タイガーに手を差し出す
ブロンズ・タイガーはその手を振り払った。軽く手のひらを撫でられた静虎だが、いつのまにか軽い裂傷ができている。ブロンズ・タイガーの指に切り裂かれたのだ!
『オっと、ブロンズ・タイガーはタイガー・ロビンの友好を拒否! 真の虎は俺だと言わんばかりにその目は殺意に溢れているっ』
「虎は一匹でいいっ」
「おお、ニガーとイエローの対決じゃないのよっ」
「SDGsだぁ!」
「馬鹿っ、多様性っうんだよ」
「ヤンヤンうるさいなぁタイガー・ロビン」
外で好き勝手言う観客に嫌気がさすような言い方をするブロンズ・タイガー。静虎はその言葉に反応せず戦闘開始位置に立つ。だがアイコンタクトで同意を促した
「やる気十分、沸るわけだ」
ブロンズ・タイガーは両指を曲げて爪のように見立てる。中国拳法で言うところの虎拳だ。その構えを見て静虎は右手をまっすぐ前に置き、少しばかり左足を前に出す。この構えは灘神影流・夜叉燕だ!
『ブロンズ・タイガー、タイガー・ロビンの奇妙な構えの前に動くことができないかぁ?!』
「ふざけんなニガーっ」
「テメェにいくらかけたと思ってやがるっ」
簡単に言ってくれるとブロンズ・タイガーは心の中で毒を吐く。タイガー・ロビンの周囲に、丸い気の幕が見える。ごく一部の強い格闘家は他人の間合いを視覚で見ることができるというが、ブロンズ・タイガーもその境地に入った1人だ
「しゃああああっ」
『動いたのはブロンズ・タイガー!! 突撃する虎のように飛び掛かる!』
ブロンズ・タイガーは意を決して飛び込む。夜叉燕の軌道など彼にはわからぬ。だがどのような技であれ対応できる自信が彼を後押ししたのだ!
気の幕が迫る。10cm、5cm、1cm、そして0。頭から突っ込んだブロンズ・タイガーを襲ったのは槍のような前蹴りである! 微かに前に出していた左足によるものだ。だがブロンズ・タイガーはこの技に反応する。突撃する方向を横から上へと変え飛び上がり、静虎の足に乗ったのだ!
『ミル・マスカラスもかくやと言う空中技炸裂だぁっ!』
だがブロンズ・タイガーの誤算は夜叉燕が二段蹴りの恐るべき必殺技であるのを知らなかったことである。静虎はブロンズ・タイガーが乗る脚を天に振り上げる!
「なにっ」
ブロンズ・タイガーは空中へと投げ出され、少しの間体勢を崩した。その隙は静虎にとって絶好のチャンスでもある。落ちゆくブロンズ・タイガーは静虎が黄色い竜巻に見えた。回転する静虎のマントが彼を包んでいるからだ!
「灘神影流・鷹鎌脚(おうれんきゃく)!!」
獲物を狩る鷹、その爪は鎌のように鋭く切り裂く。静虎の鋭い蹴りがブロンズ・タイガーの胴体を切り裂く!
「しゃああああっ」
だがブロンズ・タイガーはその技をただ見ているだけではない。切り裂かれたことにより生まれた反動を利用し自らを回転。蹴りを放った静虎の脳天に対して高高度回転蹴りを放ったのだ!
両者共に敵の蹴りにより地面に叩きつけられる。だがテンカウントの音はしない。この試合はどちらかが明確に気絶ないし死亡するまで続けられるのだ!
「ぐぅぅ…………!」
「ふぬぅ…………!」
「おおっ2人とも立ち上がったぞ」
「イエローにニガーのくせしての根性あるやんけ」
「うおおタイガー・ロビンっ、ブロンズ・タイガーを殺せぇっ」
「ブロンズ・タイガー! テメェに人生託してんや。きばれぇっ」
「勝手に人生背負わされて、好き放題言われて、コスプレした中年と戦う…………タイガー・ロビン、こんな闘い虚しくないか?」
「…………めっちゃおもろいわ、貴方との戦いはな」
「その台詞、心に沁みるぜっ」
ブロンズ・タイガーと静虎は全く同じタイミングで拳を繰り出した。2人の拳は相手の身体に当たることなく弾かれる。だがそれだけで手は終わらず、次々と互いに撃ちだす
『おおっ、手負いの虎達が怒濤のラッシュをかける!!』
ブロンズ・タイガーのラッシュは致命的人体急所を狙う超好戦的な物。静虎のラッシュは敵の殺気を的確に撃ち落とす防御に特化した物。そのどちらも素人目からすれば圧縮した宇宙のように広大で圧倒される美しさを持っていた。だが始まりがあれば終わりはあるもの。静虎はブロンズ・タイガーの蹴りのダメージにより動きがほんの少しだけ鈍る。その隙をブロンズ・タイガーは見逃さなかった
「しゃあっ、タイガー・ショック!!」
『ここでブロンズ・タイガーの必殺技ダァッ!!』
ブロンズ・タイガーは爪のような指を静虎の胸に突き立てる。その瞬間ブロンズ・タイガーの5本指から衝撃波が放たれ、体内へと浸透。五つの衝撃波が静虎の全身を駆け回り、痺れさせる!!
「俺のタイガー・ショックは二段構え。1度目の衝撃で行動を停止させ、2度目の衝撃で息の根を止めるっ」
ブロンズ・タイガーは右手を振りかぶり、静虎を殺すため5本指をぶつける
「あんたとの戦い楽しかったぜっ、あばよぉっタイガー・ロビン!!」
このまま静虎は死んでしまうのか!! 観客達は目を逸らす。人が死ぬ姿そのものは見たくないのだ。一つの衝撃音が聞こえると共にどさりと何かが倒れる音がした
『こ、これは……』
実況は試合の様子を見て絶句していた。倒れたのはブロンズ・タイガー!!
ざわざわと観客達が一体何があったのか騒然とする中、ペンギンは静虎の放った技を見て戦慄していた
静虎はブロンズ・タイガーの指がぶつかった途端、痺れていたはずの全身から右手が動き、ブロンズ・タイガーの身体につけていた。そして静虎の右手から10個の衝撃波の塊がブロンズ・タイガーの身体へと移動したのである
「灘神影流・波濤返しか?!」
ハイパー・バトル準決勝において使用した相手の衝撃波を軌道を変え、返す技。だがこれだけではタイガー・ショックで全身が痺れているはずなのに右手が動いた通りがない。ペンギンは何故動けたのか真相に辿り着くことはなかった
守りを得意とする静虎は波濤返しを応用したのだ。衝撃波が全身を回ることで身体を拘束する。ならば、動かしたい部位に衝撃波を行かないようにすればいい。静虎は暴れまわる衝撃波を右手に行かぬよう軌道を調整したのだ!
『winer…………タイガー・ロビン!!』
衝撃的な幕切れである。観客達は釈然としない想いがあるものの、新しく生まれたファイターに拍手を送り見送った
「おいマッチ。お前どこ行くんだよこれから金の引換あるのに」
「いやーっ氷のせいか腹が冷えてな」
「馬鹿だなぁ…………じゃあ先変えておくぜ」
試合の様子を見ていたギャングの1人、マッチマローンは席を立ち上がり、トイレへ向かう。彼はかけた眼鏡のテンプル(耳にかける棒の部分)をなぞると誰かと通信を始めた
「アルフレッド。タイガー・ロビンが向かった先をトレースしてくれ」
「承知しました。ウェイン様」
◇◇◇◇◇
「いやはやMr.セイコ。素晴らしいファイトでしたなぁ!」
アイスバーグ・ラウンジの2階。ゴッサム・シティの夜が映る窓を背景にペンギンは上機嫌な笑いをあげた
「…………」
一方正装に戻った静虎は無言である。悪党に使われた自分が許せなかったのだ。先ほど来ていたロビンスーツが入ったバックを見る。この格好を汚してしまったのではないか? そんな事さえ考えてしまう
「さて…………Mr.セイコ。一つ提案があるんだ」
「なんでしょう」
「わしの所で働かないか? 金もいい地位も用意してやるぞ」
「お断りします」
静虎の拒否を予想していたかのように聞くペンギン。彼は細いパイプからタバコを吸い煙を吐く。
「まあ…………そうだよなぁ。じゃあここで死ね」
ペンギンは傘をその部下達は一様に銃火器を構え静虎を取り囲む
「悪いなぁ。キラー・クロックにブロンズ・タイガーを倒せる実力。そしてコウモリ野郎みたいな正義性。この二つを持ってたのが運の尽きだな」
ペンギン達はトリガーを引き静虎を蜂の巣にしようとする…………その時!
バリンッ
窓が割れ、何か黒いものが入ってきた。全身黒の鎧のようなスーツに闇より真っ黒なマント、そして尖った耳のようなツノが二つ生えたマスク。ふと空を見ると丸い光の真ん中にコウモリのマークが浮かび上がっていた!!
「うわああっバットマン!?」
| バットマン 本名不明。ゴッサム・シティに潜む『世界一の探偵』。常人でありながらも卓越した頭脳と研ぎ澄まされた精神で怪物と渡り合う闇の騎士 |
◇何故現れた………!?