タフ外伝 OTON『宮沢静虎、ゴッサムに出張する。』 作:スローダンサー
「このコウモリ野郎っ」
ペンギンの部下の1人がターゲットをバットマンへ変える。不倶戴天の敵が現れたのだ。優先度はそちらの方が高い
ヒュン、カカッ
「うあああああ」
ペンギンの部下は銃を弾くことなくその場にうずくまる。その胸に鋭利な道具が突き刺さったのだ。バット・ラング!!バットマンが使う恐るべきコウモリ型手裏剣だ
ヒュン、ヒュンヒュンヒュン、カカカカッ
広い会議室を縦横無尽に飛び回り次々とペンギンの部下に突き刺さるバット・ラング。だが、ペンギンの部下の中でもバット・ラングを叩き落とす技巧者がいた
「バットマンっっ」
バット・ラングを受けずにバットマンへ突撃する残ったペンギンの部下達。だがバットマンは腰のベルトに手を伸ばすと銃を構えた!
いや銃ではない。腰ためで構えたそれはリモート・エレクトリカル・チャージ。ショットガンの形をした電気の塊を発射する。不殺のバットマンが扱うべきガジェットだ
「あああああっ」
悲鳴を上げながら痺れるペンギンの部下達。残りはペンギン1人!わなわな震えるペンギン。気持ちよく始末しようとしたのにいい所でバットマンが全てを壊滅させたからだ
「貴様らぁ!!墓に入れる骨も残さねぇっ」
ペンギンは手に持っていた傘の側面にあるスイッチを押し込んだ。傘に亀裂が入り、徐々に変形していく。現れたのはガトリング・ガンだ!!
ヴィィィィィ
ペンギンのガトリングが火を吹く。その数1分間に4000発!!ペンギンはバットマンと静虎が射線に入るようトリガーを引いた。バットマンが避ければ静虎に当たる
「これが『漁夫の利』よっ!!」
弾丸が落ちる。煙が舞う。辺りに穴が開く。バットマンと静虎はどこにいる?
バットマンは天井にぶら下がっている。コウモリのように頭は下だ。では静虎は?ペンギンの目の前だ!
「馬鹿な、このガトリングの弾をどう避けたっ?!」
「灘神影流には短距離走のスピードで匍匐前進する技がある。怖いと思ったとしても後退せず前進する訓練を積んでいるんです」
「『虻蜂取らず』だな、ペンギン」
ペンギンは激昂し、ガトリング・ガンを振り上げる。だが彼の手にバット・ラングが突き刺さり、ガトリング・ガンは地面に落ちる。その隙にバットマンは静虎とペンギンの間に降り立ち、ペンギンを右ストレート殴りで吹き飛ばす
そのまま馬乗りして何度も何度もペンギンにバットマンは拳を振り下ろす。ゴスッゴスッと骨と骨がぶつかる音が響き、血も飛び散る
「落ち着いてくださいっ!」
見かねた静虎はバットマンの肩を強く掴み、ペンギンから大きく引き剥がす。鼻のひしゃげたペンギンは息がか細くなっていた
「………ゴッサム市警は呼んだ。今のうちにこの場をさるぞ」
我に帰ったバットマンはスーツケースを持った静虎の腰を掴むとグラッネル・ガンを取り出し、自分で割った窓に向かって放つ。ガチっと固定された音がすると同時にバットマンは静虎を抱えたまま空に飛び出し、ゴッサム・シティの夜空を舞った
◇◇◇◇◇
「酔わなかったか?」
「鍛えてますのでヘーキですよ」
あるマンションの屋上。アイスバーグ・ラウンジから空を飛び、着地したのがこの場所だ。周りは高いビル群に囲まれており、空は少しばかり見える程度である。
「先程は助けてくれてありがとうございます」
「礼には及ばん。私も未熟を晒した、ミヤザワ・セイコ」
静虎は自分の名前を呼ぶバットマンに驚く
「私を知っていたのですか?」
「この街に来訪者は珍しい。しかもかのハイパー・バトルでその名を晒したものだしな」
「あなたも見ていたのですか」
「そこは秘密だ。………私としてはもう一つの懸念の方が大きかったが」
「懸念」
「君の兄のことだ」
兄。静虎はその言葉を聞き、天を仰ぎ、合点がいく。宮沢静虎の兄の名前は宮沢鬼龍という
宮沢鬼龍
別名悪魔を超えた悪魔。宮沢静虎の一卵性双子の兄。IQ200、常人を遥かに凌駕した戦闘能力を持つ。その性は傲岸不遜
「君が彼ならなぜ来たのか?余計に警戒するところだったが………やつは今刑務所にいるようでな、杞憂で助かった」
「あはは………」
あまりの言い方に笑うしかない静虎。鬼龍とは一言では言い表せない因縁がある。その中にバットマンが巻き込まれるところを想像すると関わらないのが良い
「ではさらばだセイコ。すぐにこの街から出るがいい」
グラップネル・ガンを取り出し、夜空へ消えようとするバットマン。だがその姿を静虎は
「待ってください、バットマン」
呼び止めた。怪訝な顔をしているバットマンに静虎は軽く謝罪の礼をしたのち、気になっていたことを聞いた
「なぜ貴方はこの街を守っているのですか?」
◇◇◇◇◇
数十年前
クライム・アレイと呼ばれる路地をブルース一家は歩いていた。ブルース夫婦は8歳の息子、ブルース・ウェインを映画に連れて行き、楽しんだのだが、映画前では帰りのタクシーを捕まえることはできなかった。ブルースは早く帰りたいと駄々をこねる。そのためクライム・アレイを通ることで反対側の道に出てタクシーを捕まえようとしたのだ
だがその道には強盗がいた。銃を持った強盗だ。彼は裕福そうなブルース一家を狙ったのだ。ブルース夫人が首にかけた真珠のネックレスを無理やり取ろうとする強盗。息子を遠くへ避難させ、それを阻止しようとするブルース夫妻。その様子を離れたところで聞くしかないブルース。真珠のネックレスが散らばる音と銃声が2発、ブルースの幼い耳に響く。バタバタと走る音が聞こえなくなる。ブルースは両親の元へ行く。そこには物言わぬ死体になった両親がいた
◇◇◇◇◇
「この街は私の街だ。私はこの街の犯罪者に恐怖される存在にならなきゃならない」
「………だからペンギンをあそこまで殴ったのですか?」
「………ああそうだ」
バットマンは何かを後悔するかのように声を絞り出す。静虎はその様子を見て、何かを言おうとした口を閉じた。バットマンから感じた怒りと復讐心、そして一欠片の悲しみの前に自分が口出せることはないと思ったのだ
『ブルース様。楽しいおしゃべりのところ悪いですが………空を見てください』
アルフレッド・ペニーワース
ウェイン家筆頭執事。あらゆるサポートサービスが可能な天才。毒舌
バットマンが空を見上げる。そして見たものにバットマンは驚愕の表情を浮かべていた。静虎もその顔に釣られ、ゴッサム・シティの夜空を見る。そこには赤いバット・シグナルが灯っていた
バット・シグナル。バットマンの力を求める人々が彼を呼び覚ます希望の灯。そして悪人に対する警笛。だがその色は白ないし黄色であることが常だ。静虎は少ない知識から何か異常が起きていることを察する。
その時、ゴッサム・シティが昼になった。一瞬の光ののち爆音と炎の臭いが鼻を突き抜ける
「セイコ。貴方はここまでだ。この街から速やかに脱出しろ」
そういうと静虎の返事を待たずにビルの屋上から身を投げ出すバットマン。慌ててその跡を静虎が追うと、彼は地面に激突する寸前にしたからやってきた黒い車に飛び乗り、走り去っていった
バットマンが去った後、静虎は彼の後を追うことにした。マンションの屋上から飛び降りる静虎。そしてビル群の壁を蹴り続け、徐々に高度を落とし、無傷で着地する。大通りに出た静虎が見たのは阿鼻叫喚の地獄だった
逃げ惑うゴッサム市民。崩れるビル群。燃える街。そして蛇のマスクをつけ銃を乱射する武装集団。非道な光景だ。静虎のうちに潜む虎が吠える
『これを許していいのか!!』
静虎はふと自分が持っているスーツケースに目を落とした。先ほどの闘技場で使ったものが入ったケースである。そして静虎の目線の先には、もはや誰も使っていない公衆電話ボックスがあった
きらりとメガネの奥の目が光る。飛びまくる銃弾を簡単に避け、公衆電話ボックスの中に入った!!
◇◇◇◇◇
『ブルース様、静虎様を誘わなくて良かったのですか?』
黒い車、『バット・モービル』を運転するバットマンに話しかけるアルフレッド
『彼の腕は抜群ですし、正義感もある。強力な味方になるはずですよ。彼のロビン姿も中々似合ってました』
「冗談はよせアルフレッド。私は彼を巻き込むつもりはない」
バットマンは静虎のことを知っている。彼がアイアン木場とライバルであること、彼が鬼龍との戦いで破壊されたこと、見事回復し息子宮沢喜一と戦ったこと、闇の大統領ジョゼフィーノの逮捕に一役買ったこと、世界的殺し屋山田一郎に勝ったこと………
だが、バットマンは彼を蚊帳の外にしたかった。腕の立つ武術家とはいえ、人間である。この街のヴィランの凶悪さを考えると死ぬ可能性が高い。そんなことに自分から誘うことはできなかった
『そうですかブルース様、貴方様の判断がそうであるなら私も従います』
「すまないな、アルフレッド」
『別に気にしてませんよ。ではブルース様、ゴードン様にお繋ぎしましょうか?』
「頼む」
送信音が少しばかり流れ、ガチャリと誰かがバットマンの電話を出た
『おおバットマンか!?』
「そうだジム。一体何があった?」
ジェームズ・ゴードン
ゴッサム市警本部長。腐敗し切った行政の中の数少ない美点。バットマンの良き理解者にして法の体現者。
『まずはテレビをつけてくれ!そうすればすぐにわかる!』
バット・モービルは多機能だ。もちろんテレビもつく。その画面には椅子に座った壮年の男が写っていた。その胸には大きな蛇のタトゥーが入っている
『goodnight、GOTHAM・CITY!!キング・スネーク様が今戻ったぞ!』
キング・スネーク
本名エドマンド・ドランス。貴族にして元王立砲兵連隊司令官。莫大な財産を利用して格闘技を習得し達人に、そしてアジアを拠点とするヘロイン密売組織ゴースト・ドラゴンズの頭領となる。バットマンとロビンの活躍により叩きのめされた
『キング・スネーク様は思ったんだ。この街にはもう薬なんてやらねぇー。全て燃やして叩き潰すってな!!』
握り拳を見せたのちキング・スネークは思いっきり開く
『KABOON!!これで三棟は吹っ飛んだかなぁビル!!だがキング・スネーク様は執念深い。この街を壊してバットマンを殺すまで!!終わることはないヨォ!!』
そしてキング・スネークは画面の前に顔を近づけ、宣言した
『HEY、バットマン!!尻尾巻いて逃げるなんてしないよなお前!!あっでもキング・スネーク様は気づいちゃった。もうお前は今1人ってことをねぇ!!!!あひゃ、アヒャヒャヒャ!!』
そして冒頭の映像に戻る
『この1分ほどの映像がループしている。いい加減こいつの声にも飽きたところだ!!』
「ジム、ゴッナム市警の方はどうなってる?」
『はっきり言って手が足りん。爆発処理だけでも程いっぱいだが銃乱射事件に雇われヴィランも大暴れ。このままじゃこの街は滅ぶ、冗談抜きでだ!』
「そうか、ジム。情報感謝する。これ以上奴らの好きにはさせない。叩き潰してやる!!」
『よしバットマン!俺たちもてんやわんやだ!すまないな………』
「いいんだジム。私は私がやることをやるだけだ。武運を祈る」
『そちらの幸運も祈るぞ!』
ブチっと切られる電話。バットマンはアルフレッドに繋げなおす
『ではブルース様どこから行きますか?』
「いやまずは目の前の障害を片付ける」
バット・モービルに乗ったバットマンの前には蛇のマスクをつけた武装集団が武器を構え待っていた
「バットマンはあの中だ!殺せぇぇっ!」
突撃してくるゴースト・ドラゴンズのギャングたち。だがバットマンは不敵に笑う。左膝近くにあるレバーを倒し、『CAR』から『TANK』に動かす
キュインッ
バット・モービルはヒビが入り、装甲があらゆる方向へ移動する。そして隠された5つの砲台が飛び出して戦車に変形したのだ!
「バット・モービル・タンク。まさか試す時が来るとは思わなかったっ!」
砲台から大量の電磁エネルギー弾が発射されていく!
◇◇◇◇◇
『ブルース様、弾のエネルギーが切れました。撃ちすぎですな』
「チャージに要する時間は短い。だから平気だ」
数分後、ドラゴン・ゴーストのギャングたちは痺れ倒れていた。あっという間に制圧が完了したのである
「よし次の場所へ向かうぞ」
『おや?ブルース様。速やかに脱出を、何か大きな塊が近づいてきます』
アルフレッドの警告は遅かった。バット・モービルの横に強い衝撃が加えられ、バットマンはクルクルと回る。このままではまずい。強制脱出ボタンを押し、バット・モービルから飛び出したバットマン。バット・モービルを弾き飛ばした敵を見たバットマン。その姿は彼も見覚えがあった
白い肌を持った筋肉質の男である。彼は歌を口ずさんでいた
「ソロモン・グランディ
月曜日に生まれた
火曜日に洗礼を受け
水曜日に嫁をもらい
木曜日に病気になった
金曜日に病気が悪くなり
土曜日に死んだ
日曜日には埋められて
ソロモン・グランディは
一巻の終わり」
ソロモン・グランディ
死体に何かが取り憑いた怪力持つ怪物。口ずさむマザー・グースの童話とその性質からこの名前が付けられた
「まさかソロモン・グランディを呼ぶとは」
バットマンは笑う。キング・スネークの本気を感じていた。だがたかが怪力の化け物、バットマンの歩みを止めることなど出来ない!
ヒュン、カカッ
突撃するソロモン・グランディにバット・ラングを投げつける。だがソロモン・グランディを止めることはできない。彼は死体だ。痛覚など当然なく、刺さっても意に返すことはない!
だがバットマンは織り込み済みだ。複数突き刺さったバット・ラングは爆弾も搭載されているのだ!バットマンは爆弾を起動しようとリモコンを手に持ったその時、銃撃が響き、リモコンを落としてしまう!
そこには屈強な肉体を持ったゴースト・ドラゴンズのギャングが1人立っていた!どうやら電気ショックを奇跡的に耐えきり、隙をうかがっていたのである!バットマンはリモコンを拾うとしたが、その前にソロモン・グランディのベアハッグを受けてしまう。落ちたリモコンは屈強なギャングが拾い上げ、手に持った
「ひゃはははっ!!バットマンの死因はソロモン・グランディによる圧殺だぁ!!」
ギャングの叫び声と共にソロモン・グランディの力が強まりバットマンの背骨が悲鳴を上げていく!
「ソロモン・グランディ
月曜日に生まれた
火曜日に洗礼を受け
水曜日に嫁をもらい
木曜日に病気になった
金曜日に病気が悪くなり
土曜日に死んだ
日曜日には埋められて
ソロモン・グランディは
一巻の終わり」
ソロモン・グランディの不気味な童話がバットマンの耳に響く。脱出しようとも身体を完全に押さえ込まれて全く動けない。バットマンはこのまま背骨をへし折られ負けてしまうのか?
その時、屈強なギャングは上空に気配を感じた。夜空を見上げる屈強なギャング。その空には黄色のマントが光を反射し煌めいていた
「虎腿蹴(タイガーシュート)!!」
その叫びと共に放たれた脚は屈強なギャングはおろか監視カメラにも映らなかった。気づくと振り払われた脚は屈強なギャングの意識を一瞬で刈り取り、地面に叩きつける!!
「真ん中のボタンを押せ………っ」
バットマンの消え入る声を捉えてボタンを押す。ソロモン・グランディに刺さったバット・ラングは爆発、ソロモン・グランディの四肢を吹き飛ばし、奴を芋虫にした!
モゾモゾ動くソロモン・グランディを縛り上げ固定するバットマン。そして自分を助けてくれた者の方へ向く
彼は赤い服、黄色のマント、緑の手袋、緑の短パン、そして黒マスクをつけ胸にRの文字を輝かせる、筋骨隆々な中年男性だった
「君の名前は?」
バットマンの問いに自信満々に答えた
「我が名はタイガー・ロビン!」
◇勝負の行方は……!?