タフ外伝 OTON『宮沢静虎、ゴッサムに出張する。』 作:スローダンサー
「何やら因縁があるようだなタイガー・ロビン」
驚愕する静虎を起こし、耳元で囁くバットマン
「ええ…………まさかこんな形になるとは思ってなかったです」
「そうか。タイガー・ロビン、デス・ストロークの剣術は『藤沢流』という古流派。知っているか?」
静虎は藤沢流に聞き覚えがあった。南北朝時代の動乱の隙をつき発展していった剣術。歴史は古いが今の時代の傭兵にも使われる実用性は加味するべきだ
「素手で平気か?」
「大丈夫ですよ。灘神影流は対武器戦も得意ですから」
「そうか。ならば私はキング・スネークと戦う。二手に分かれるぞ」
「承知しました」
バットマンと静虎はアイコンタクトを互いに交わす。必ず生きて帰り、この事態を収束させる。無言の約定を胸に隠しダイナミック・デュオは最後の戦いへ赴いた
◇◇◇◇◇
「キング・スネーク様の相手はお前か、バットマン」
黒く塗られたコウモリのコスチューム男と対面し、キング・スネークは満面の笑みだ。その顔は蛇の牙のように尖った犬歯がぎらりと光り殺気が溢れる。笑顔は人間の歯を全て見せる。威嚇だ
「もう一度刑務所へ入ってもらうぞキング・スネーク。罪を償え」
「面白いことを抜かすなぁ!」
バットマンの警告を一蹴し、キング・スネークは突撃する。その突進はバッファローのように獰猛なパワーだ!
バットマンが使うは十八番のバット・ラング。突進するキング・スネークの関節を狙った精密な投擲だ!
しかし、キング・スネークの皮膚にバット・ラングは刺さらなかった
「なにっ」
たまげたバットマンの顔目掛けてキング・スネークの強烈なパンチ! 壁に打ち付けられるほど吹っ飛ばされる
「この痛み…………硬気功か」
「さすがバットマン! 知らないことはないのか! その澄まし顔、キング・スネーク様はムカつくぜっ!」
硬気功。自らのうちに気を練り上げ、鋼鉄の肉体へと変貌させる術だ。バット・ラングが刺さらず、普通の殴りよりも火力がでる!
「随分と鍛え直したなキング・スネーク…………」
「違うね。キング・スネーク様の真の実力が目覚めただけさ!」
まだ倒れているままのバットマンに飛び乗りグラインドポジションに移行。そのままバットマンの顔面目掛けて何度もパンチを繰り出す
そのパンチを首や手を使い軌道を逸らしてなんとか交わしいてくバットマン。キング・スネークのパンチが床を叩くたびにヒビが入る。そして何度もヒビが入った床はキング・スネークの渾身のパンチをバットマンが交わしたことで崩壊。2人揃って48階の床に叩きつけられることとなる
「ぬぅふ」
「ぐぅぅ」
よろよろと立ち上がるバットマンとキング・スネーク。一個下の階に落ちた際、両者の距離はかなり離れていた。一歩一歩確実に距離を近づけるバットマンとキング・スネーク
足を進めるたびに両者は息を整え、身体をほぐし、歩きは次第に走りに変わる。勢いをつけたバットマンとキング・スネークは互いに拳を交差させた
「「しゃあっ」」
両者の顔に拳が突き刺さる。キング・スネークは殴った感覚に驚愕した。まさかバットマンも自分と同じ硬気功の使いなのか?!
「驚いたなキング・スネーク!」
心の隙をバットマンは逃さず追撃に蹴りを入れ込む! だがキング・スネークの硬気功はバットマンのそれよりも硬い。大したダメージが入らなかったキング・スネークは余裕が出てくる
「はっ! 買い被りでよかったバットマン! キング・スネーク様はお前のチャチな気功じゃ貫けねぇ!」
ボボパン
ボボパン
ボボパン
バットマンとキング・スネークの殴り合いだ! バットマンのストレートをキング・スネークは弾く。キング・スネークのボディブローをバットマンは掴んで軌道をずらす。お互い決定打を防ぐため、状況は膠着していた。痺れを切らしたのはキング・スネークである。バットマンから距離を取り、口を開いた
「知ってるかバットマン。手足の生えた蛇は東洋だと龍と呼ばれるらしいぜ。キング・スネーク様は手足がある蛇、即ち龍なんだ。この技でバットマン、お前みたいなコウモリは龍に食われるんだぁ!」
キング・スネークは飛び上がった。壊れた天井も超え、高高度に到達したキング・スネークは49階の天井を踏み台にし、48階のバットマンへ突撃。左足を使った前蹴りを防御するバットマンだったが、それは罠だった! 前蹴りでバットマンの意識を下に集中させたキング・スネークはバットマンの死角から入るように上からの変則的膝蹴りを入れ込む
「しゃあっ、ドラゴン・ソード!」
バットマンは倒れ込む。キング・スネークはその態勢を笑った
「おお、哀れだなぁバットマン! このキング・スネーク様の龍の蹴りはお前の行持を喰った!」
声高く下品に笑うキング・スネーク。その笑いを聞きバットマンは上品に笑った。その様子はキング・スネークは気に食わない
「何がおかしい!」
「そりゃおかしいさ。私の行持を喰った? 私はまだ生きているぞ」
よろよろと再び立ち上がるバットマン。血が垂れる口を拭う。その顔はタフな笑顔だ
「そういや思い出したキング・スネーク。蛇に手足が生えるのは東洋だと蛇足って言う。蛇に手足をつけるのは余計なことなのさ。お前の人生も組織も技術も全て余計なものだ!」
「バットマン!!」
キング・スネークの激昂を引き出したバットマン。怒り、その感情は行動の原動力になるが、同時に周りの視野を狭める諸刃の剣。憤怒の突撃を行うキング・スネークを見ながらふと自分を顧みる
(私も最近怒りに身を任せてなかったか?)
ペンギンに対する仕打ち。もし静虎が止めてくれなかったら一体どうなったか? ジョーカーとの闘いの後自分はまた1人になった。バット・ファミリーの壊滅を知ったヴィラン達は今まで以上に暴れる。それを退治する。しかしこの街がよくなるのは先も先も先。だから怒りを徐々に抱いていたのだろう。もっと恐怖を! 悪人達の心にトラウマを! …………しかしそれにより過ぎていた
バットマンは静かに息を吐いた。冷静な心こそキング・スネークの硬気功を突破するために必要だ。バットマンはエレベーター内で静虎に教わった技を思い出す
静虎曰く、バットマンは才能があるらしい。だがこの技は暗殺拳。下手したら人を殺す。だが静虎はバットマンに言った
『バットマン。考えて技を使ってください。人間の素晴らしい機能です。特に貴方なら、この技でも人を殺すことはないです。考えれば!』
バットマンは気を右手に貯める。突撃してきたキング・スネークはドラゴン・ソードの構えだ。だが先ほどと違うのは技のセットアップが雑であること!
「しゃあっ 徹貫掌」
飛び上がったキング・スネークの胸に目掛けて気の籠った掌底をぶつけた。大砲から発射された砲丸のように吹き飛ぶキング・スネーク。その肉体が部屋の壁にぶつかると、壁は吹き飛び、2つの部屋が繋がってしまった!
『徹貫掌』、正確には灘神影流の技ではないが、そのエッセンスは組み込まれている。その術理は気や衝撃波を対象の内部に浸透させることで皮膚や筋肉を傷つけることなく内部を破壊させるというもの。気が残り続けるのを防ぐためバットマンはキング・スネークを部屋の壁にぶつけた。キング・スネークの身体から気が逃げ、壁を破壊したのだ!
「本当の蛇足は無闇な怒り。私も勉強になったよ」
失神しているキング・スネークは言葉を投げかける。崩れた壁から発生した粉塵は少しずつ収まり隣の部屋が見えるようになっていた
バットマンはその部屋の様子を見て驚く。そこには静虎とデス・ストロークがいたからだ!
◇◇◇◇◇
時間は十数分前に遡る。静虎と相対するのはデス・ストローク。日本刀を構えるその姿に一片の隙はない。静虎は構えから目の前の男が先ほどのキング・スネークよりも高い実力があることを悟る
「なぜ貴方がこんなことを」
静虎の質問を自嘲気味に回答するデス・ストローク
「金がなぁ、いるんですよお客さん。俺の息子の手術代でさぁ」
「…………そうですか」
最初に行動したのは静虎である。密林から獲物に飛び掛かる虎の如く跳躍。一気に距離を詰め、拳を前に出した
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
静虎はデス・ストロークの日本刀を恐れず拳を振るう。だが振るわれる静虎の攻撃はデス・ストロークの日本刀によって何度も何度も弾かれていく
しかも時間が経つごとにその守備は粘りと堅牢さを見せ、攻めきれない。静虎はデス・ストロークがその場から一歩も動いていないのに気がついた
「藤沢流・松風」
松の枝が風を受けて鳴るように、相手の剣気を受けて冴えを増す藤沢流の技だ。その性質を見破った静虎は後ろへ下がる
「隙ありダァ!」
ターン
防御構えから一転して攻勢に出るデス・ストローク。深い踏み込みから右斜め下から上に日本刀を振りあげる。紙一重で交わす静虎。日本刀の通った軌道は黒い光の線が走ったようにしか見えない。それほどまでに速い一撃だった
「今の交わすとは…………流石は守りの静虎ですなぁ…………おっと今はタイガー・ロビンでしたっけ?」
「やはり私を知ってたんですね」
「タクシーに乗ってきた時にピンときたんでさぁ。ハイパー・バトルの闘い見てましたし」
デス・ストロークは構えを上段に変えた。日本刀を振り下ろすだけで斬ることができる攻撃的なもの。静虎はその構えに恐ろしいものを本能的に感じ取りさらに15メートルほど距離を取る
その判断は正解だった。デス・ストロークは走る。緩やかに稲妻を描くような走りにより前へ後ろへ右へ左へ、時には壁や天井も蹴り、縦横無尽に走り回る。静虎は動き回るデス・ストロークへその都度狙いを定めていたが、あまりの速さに一瞬彼の姿を捉え損なった。デス・ストロークはそこを突く。突如静虎に向かって全力疾走。その日本刀は宙を舞っていた
「藤沢流・鬼走り」
地面に稲妻を描くかのような緩やかな走りから始まるその技は、縦横無尽変幻自在な走りから相手の構えの隙を誘い、一瞬の隙を付いた疾走で距離を詰め、相手の頭上を飛び過ぎながら顔面を切り割る戦場での必殺剣だ! だが灘神影流にはこの技がある
「灘神影流・弾丸滑り」
静虎の頭はデス・ストロークの日本刀を滑らせる。デス・ストロークは自分の日本刀が突如柔らかくなり、壊れたかのように錯覚させた
「鬼走りも攻略されるとは驚きでさぁ!」
「…………スレイドさん、まだやるんですか?」
「藤沢流は変幻自在。まだまだ出せる技はあるよ。お客さん、あんたこそ、俺に金を稼がせてもらえませんかねぇ?」
「事情はわかりますが、それでも私は貴方を許すことはないです」
「竹を割ったようにわかりやすいでさぁ。俺も止まることはできませんからね」
デス・ストロークは大きくその場で踏み込む。震脚とも呼ばれるその踏み込みは床を揺らし、ついに破壊した
「さっきの鬼走りで周りにヒビを入れたんですよ!」
落下し、48階へ落ちる静虎とデス・ストローク。その部屋の床についた時、デス・ストロークは49階に備え付けられた電球を銃を使って全て破壊した
最後の電球が割れた時、静虎の前には闇しかない。48階は窓にシャッターが閉められており、ゴッサム・シティのビル光が入らないのだ
だがデス・ストロークにはこの闇が昼のように見える。藤沢流・虎ノ眼。特殊な訓練により、身につけた眼術だ
「もう銃に弾はない。だが、確実にお客さんあんたを殺す」
2度3度4度、闇の中で振るわれる斬撃を避けていく。何故静虎は闇の中で斬撃を避けることができるのか? デス・ストロークの特徴的な鋭い殺気をなんとか読むことでギリギリ交わしていたのだ
「これはすごい。達人技? 東洋の神秘? やりますなぁタイガー・ロビン!」
だがギリギリの交わしは徐々に静虎の皮膚を傷つける。スーツを切り、皮膚を裂き、血が出ていく
だが苛烈なデス・ストロークの攻めは突如停止した。日本刀が振るわれることもなく、デス・ストロークの殺気が皆無になったのだ。静虎は闇を見ることができない。だがデス・ストロークがこの部屋を急に出たとも思えない。何が来るか? 身体を構えようとした時、一瞬だけ横に殺気を感じた
◇◇◇◇◇
『藤沢流・竜尾返し』
突き刺すような殺気を常に出している場合のみ使用可能な奥義だ。その術理は自らの隙を見せると同時に殺気を唐突に消すことで、相手の気を削いで油断させる。その虚をついて必殺の一撃を振るう正道とは程遠い邪剣ともいうべき奥義だ
この闇の中、静虎が自らの殺気を読むことで躱していることをデス・ストロークは理解していた。だからこそ、この奥義が有効である。心を凪ぎ、自らの存在感を無とする。キョロキョロ周りを見る静虎を無感情のまま見てゆっくり近づく
音を立てず、思いを立てず、殺気を立てず。全てを押し殺し、静虎を自らの間合いに収めるデス・ストローク。そして彼は日本刀を横に薙ぎはらった
(これで手術代が足りる!)
デス・ストロークは冷徹な傭兵である。だが彼はこの時、人間性が少しだけ出てしまった
静虎は横薙ぎされた日本刀をしゃがんで避ける。デス・ストロークの驚愕をよそに静虎は手を合わせた
「菩薩は慈悲の心…………」
デス・ストロークの懐に飛び込む静虎
「捨て身の拳は"死地に陥れて 然るのち 生く"」
合わせた手を握ることで拳に変える
「防御を捨てても…………恐れず 怯まず たじろがず」
合わせた拳をデス・ストロークの胸へ打ち込む
「死と直面しても心乱してならない…………慈しみ 祈り…………全身全霊で受け止める」
デス・ストロークの胸には瞑想した菩薩の形が浮き上がっていた
「これ 菩薩の境地…………!!」
デス・ストロークは倒れゆく中、静虎の姿に慈悲の神の姿を見た
「灘神影流奥義・菩薩拳!!!」
静虎は拳を合わせた手に戻す。デス・ストローク。動機はわかるが、行ったことを許す理由にはならない。だからこそこの先の人生に慈悲があるよう静虎は祈った
静虎の背後の壁が壊れる。舞った粉塵が徐々に収まるとそこにはキング・スネークを倒したバットマンの姿があった
お互い傷だらけで満身創痍である。だが2人は街を守ったことを互いに祝い、握手を交わすのだった
◇◇◇◇◇
「只今戻りました」
「おお、オトンお疲れ様やで」
数日後、静虎は神戸へと帰っていた。家に帰ると息子熹一が自分の帰りを喜ぶ
| 宮沢熹一 タフシリーズの主役。灘神影流の後継者 |
「おお、喜一お前、道場の方はどうや?」
「今立地を探しているところやで。オトンの方もえらい大変だったって聞いたで」
「まあなぁ…………」
静虎はゴッサム・シティで自分のしたことは言わないことにした。喜一に余計な心配をかけたくなかったのだ
静虎は向こうから持ってきた新聞を読む
『ダイナミック・デュオ復活!』
大きな見出しとは裏腹に写真は一枚もない。誰かの配慮が働いているのだろうか。そこを静虎の知る由はない。だがあの1日を静虎は今後忘れることはないだろう
「おーい、オトン。なんやこれ?! やけに汚れてるやないかい!」
お土産がないかスーツケースを漁った喜一は何かを発見した。それはなんかのコスチュームのようだ
「熹一?! 人の荷物勝手に開けんな!」
「あいたっ?! すまんでオトン!」
「全く」
静虎はタイガー・ロビンのスーツを大事そうに箪笥へしまう。その顔はちょっと笑っていた
タフ外伝OTON 『宮沢静虎、ゴッサムに主張する』(完)
◇◇◇◇◇
とある刑務所
「灘神影流、その実用性はこちらも把握済みよ」
黒人の女性だ。恰幅の良さをスーツに隠すが、そこに親しみは一つもない
「貴方にはタスクフォースX、『スーサイド・スクワッド』に入ってもらうわ」
女の反対側にいるのは本を読んでいる男だ。『1984年』を閉じ、顔を上げる。その姿は顔に入った横一線の生傷以外は静虎と瓜二つ。
彼は悪魔を超えた悪魔、その名を宮沢鬼龍と言った
Devils×Devil『宮沢鬼龍、スーサイド・スクワッドに入る』に続く