くらい…くらい…。ここはどこだ?
目の前にあるのはかすかな青白い燐光だけだ。その光が空気をなでるように照らしている。周囲は澄み渡るような静謐に包まれているが、頭の中では激しい痛みが波のように押し寄せてくる。
視界がぼやける。眼をすぼめ、何度かしばたかせる。ゆっくりと輪郭がはっきりとしてくる。
目の前には、青白く輝く無数の結晶。それが洞窟の岩壁から突き出しており、ひやりとした空気の中でぼんやりと発光していた。
一体ここは…何処だ?なぜ俺はこんなところにいる?
何も思い出せない…。確か、そう。最後にあるのは家をでた記憶だ。それ以降の記憶が全くない。
「ここは…どこだ?」
周囲に広がるのは陰鬱な暗闇のみ。洞窟の天井には大きな穴が空いているのが見えるが、その奥には全く外の世界の光は見えない。
訳が分からない。何とか体を動かそうとしたが、全身が痺れてうまく動かない。地面に接していた場所とそこに近い筋肉がジンジンと熱く痛み、少し動かすたびに体の中で針がさすような痛みが襲ってくる。
「もしかして・・・、マンホールにでも落ちた・・・のか?」
一瞬そうつぶやいたが、すぐに違うと頭の中で否定する。明らかにこの洞窟は現代の下水道というふうには見えない。そもそも下水道に鉱石が生えているという話なんて聞いたことがない。
苦しげに息を吐きながら、何とか体を起こして立ち上がろうと試みる。しかし、何か支えにした右手に違和感を覚えた。指先が、何か湿った感触に覆われていることに気づいた。
そして手を見下ろすと、そこには血がべったりとついていた。
驚いて、慌てて手を服で軽く拭きとる。恐怖で呼吸が荒くなり、心臓が跳ねる。「大丈夫だ」とそう自分に言い聞かせるが、一度芽生えた焦燥と恐怖はなかなか消えない。
再度手を確認すると、手に傷はほとんどついていなかった。思わず気が緩み、深く息を吐く。ならしかし、この血は誰のものだ?
ふと下を見てみると、血が地面にこぼれて、がれきの山から流れ出しているようだった。そしてよくみると、瓦礫の脇には何か…。そう、赤い棒のような何かが…。
それを確認した瞬間、日常ではありえない風景に、吐き気が込み上げてきた。闇の中凝らした目に映ったのは、ちぎれた右手だった。それもおそらく子どもの。
おそらく…、この瓦礫の下に もう一人…。自分は運よく生き残ったが、この下の彼はおそらく、運悪く…。
無意識に、手ががれきをかき分けていた。もしかしたら、そうきっと生きているはずだ。そんなあり得ない願望を頭の中に描いて。
そう…。
あっ。
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□月☓日
彼が持っていたメモ帳を借りた。いや、勝手に拝借したというべきか。しかし、出来る限りの事はやったつもりだ。きっと彼も許してくれると信じよう。
何もかもわけがわからないが ともかく運が良かったことを喜ぼう。
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まだ軽く痛む頭を押さえながら、手にしたメモ帳にゆっくりと文字を記す。こうやって書き込むことで、すこしでも頭の中を整理をし、平静を保つことが目的だ。
とりあえず、もとからメモ帳に書かれていることは正直よくわからなかった。カタカナ?のように見えるものもあったが正直全体的に字が汚い上、汚れていて判読が困難だったからだ。
続けて書き記す。
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幸い、鉱石の明かりのおかげで最低限の文字の判読はできた。
また、この道はおそらく人が手を加えたものであることもわかった。何かの坑道に近いものなのだろう。かなり古いが木で補強されていた箇所がポツポツ見受けられた。
しかしなぜ自分がそんなところにいるのかはとんとわからなかった。
そして、自分の体も記憶にあるものとは別物に変わってしまっていたことにも気づいた。
垢まみれの肌に、動くたびにフケまみれの長髪が絡みつく。体も変わっていた。 体は痩せこけ、背も子どもほどに変わってしまっていた。明らかに現実には起こり得ない異常事態だ。
もしかして自分は「転生」してしまったのか?
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「はは、うける」
不意に笑みが浮かぶが、そこに喜色はなく、ひたすら冷たかった。
ちなみについてなかった。TS転生ってやつか。流行りに敏感なことで。
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□月▲日
出口を探すしかない。
周囲の鉱石のおかげで多少の明るさは保たれていたが、それでもこの洞窟の中の雰囲気はやはり異質だ。
ふとした時にあまりの静寂に気が触れそうになる。
いまいち距離感も掴めないのもその不気味さを加速させている。
どれほどの時間が経ったのかはわからないが、腹が減ってきた。
かなり狭い道だったが子供の体であったせいか、かなり 簡単に進めた。しかし、疲れがたまると体力のなさが痛感させられる。
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「もしここが異世界のダンジョンだったら…、おれはどうするべきだ?」
そんな考えを誰に聞かせるでもなく呟く。転生なんてファンタジーな事象が起きている以上、ここもそういう世界だと考えるべきだ。
仮にダンジョンであった場合、モンスターがいる可能性が高い。この短期間で痛感したが、現実はゲームより甘くはない。チート能力も無論ない。子供の体では倒せる生き物などほとんど無いだろう。
着の身着のまま、それ以下の状態で、ここに放り込まれた。そう実感すると心細さで、手が震える。
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途中で、やたらと大きなコウモリを見た。衝撃だった。今の背丈の半分もあろうかという姿が、地面を掘り返していたのだ。
岩陰に隠れ、じっとしていたら飛び立っていったが、気づかれていたら襲われたかもしれない。そうなった場合を考えると恐ろしさで身震いがする。
掘り返していたあとを見ると、小さめのムカデのような虫が何匹かいた。これを食べるべきか?虫なんて食べたことがないし、第一腹の中がどうなるか分からない。
だが空腹と乾きが、考える余裕を奪っていく。
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□月
水 ない 死ぬ
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□月@日
虫を食べたあとの気分は最悪だった。虫に毒があったのか、はたまた処理が悪かったのか、やはり食べてすぐ体調が悪化した。高熱が出て、腹には激痛が走り、脱水症状で意識は朦朧としていた。ほとんど夢うつつの中で、何度も死を覚悟した。
曖昧な意識の中で、意識は何度も飛びかけた。しかし、ただ生きるために、俺は必死に持ちこたえた。
奇跡的に湧き水にたどり着けたのが救いだったが、その水もまた不潔で、飲むたびに何度も吐きなおした。胃酸のせいで、しばらくは息をするたびに喉に焼けるような痛みが走った。しかし、生きるためには飲むしかない
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足元にほそぼそと流れ、滴る水流を眺める。水は岩壁から少しずつ流れるが、今にもその流れは止まってしまいそうだ。
正直まともに飲める味ではなく、今までごく普通に飲んできた水がなんと素晴らしいものだったのかを実感した。
水を飲むたびに腹の痛みが蘇る。しかし、飲むしかない。
岩壁にもたれながら、俺はふと思い立ち、呟く。
「ステータスオープン」
言葉が闇の中に響いて、虚しく消える。やはりだめだ。何も起こらない。数度試したが、そのいずれも失敗だった。
お決まりの異世界転生シナリオでは、ステータスやアイテムボックス、もしくはスキルが与えられるものだ。だが、この世界にはそんな親切心はないらしい。
「クソが」
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□月∅日
やはり空腹だ。なんとか食ってはならない虫と食える虫の区別はつくようになってきた。何度このためにない吐瀉物を撒き散らしたことか。
しかし、虫程度では正直腹の足しにもならない。時々視界が霞む。鉱石を砕いてその欠片を舐めることで急場をしのいでいるが、正直腹の空腹感を多少も抑えはしてくれない。
とりあえずだが、水場を拠点として、周囲を散策していこうと思う。早めに出口を見つけなければ、体が栄養失調で動かなくなりかねない。
しかし、周囲の地形は入り組んでいて、そもそも構造自体を把握することが困難だ。一度道に迷って水場への帰り方がわからなくなりかけた時は本当に命の危険を感じた。
時間をかければ右手法でなんとかなるのかもしれないが、どれほどの広さかわからない以上、不用意には動けない。
魔力感知でもあったら少しは勝手も違うのだろうが。
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□月≦日
やったぜ
試行錯誤の末、微弱だが魔力?を感じ取れるようになったようだ。
なんとういか、体の外に感覚があるというか。もしくは、体を流体的な何かが覆っているような、そんな感覚がある。
なんとなく意識を向けると魔力が流れるのを感じるが、意識を集中しないと流れを制御するのは困難で、操るのに慣れるのには時間がかかりそうだ。
気を抜くと体からどんどんあふれ出ていこうとするので、意識してとどめなければならないのも難点だ
また、魔力が感じ取れたのだから、と片っ端から知っている呪文や技名を唱えたが、一切発動しなかった。
しかし、多少の光明が見えてきた感覚がある。
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ここまで書いて、書いている最中に右手に集めた魔力を、体からすこし遠くに伸ばしてみる。
少し力むと、魔力が体から多少遠くまで伸びる。そしてそのまま、風船に空気を入れるイメージで、ゆっくりと魔力の密度を減らし、魔力の大きな球体を作っていく。
「…ッ!」
一瞬視界が霞む。すぐに集中が途切れ、魔力が弾ける。
空腹のせいで集中がほとんど続かない。魔力をなんとか近くできても、これでは魔力感知など夢のまた夢だ。
そもそも魔力感知とはこれでいいのか…?やり方自体が間違っているかもしれないが、師がいない以上どうともならない。
魔力に触れたものの形をなんとなく理解することはできるようになってきた以上、魔力による感知は可能そうなのだが。
ともかく、洞窟内の地形を把握するには、魔力の総量が足りない。早く魔力量を増やす方法を考えないと、と1人嘆息した。
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□月‰日
最悪だ、今までで一二を争うレベルで最悪だ。水場が使えなくなった。
唐突に大きな揺れがあったかと思ったら、いきなり洞窟の壁が落ちてきた。反射的になんとか体を魔力で覆ってダメージを軽減したが、全身打撲傷と擦り傷だらけだ。特に左手が痛い。骨折もしているかもしれない。
少し水場から離れていたところを探索していたのだが、揺れで道が塞がって、そのせいで帰れなくなった。
このままだと早くに水が尽きて死にかねない。
なんとか魔力操作を極めれば、あのコウモリを倒して飯にできるかも、と考えていたがそののぞみも消え去った。腕がこれでは戦いにならないだろう。
空腹も限界に近い、視界がぼやけ、頭も上手く回らない。熱もあるのか、全身がだるい。
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「ぐ、ぁあぁあ…!」
肺から振り絞るようにして息を吐き、気合で体を立ち上がらせる。
限界だ。全身に力が入らない。もはやこのままでは死ぬしかない。
それでも諦められるものか。まだ何もわかっていない。なんでこんなことになったのか、こんな理不尽に巻き込まれたのか。それすら分からずこんなところで惨めに知るなんて、絶対に認められない。
「考えろ…、考えろ…!」
まともに動かない脳を振り絞り、思考を回す。魔力を増やす方法、何か見落としがあるはずだ。考えろ…!
主人公が魔力と言ってるのは念(体外オーラ)です