なんかピカピカ光る雑魚   作:鮪比基尼

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3話です。TS転生がまともに働いていない今日この頃。


ホコリ×ト×イカリ

 

走る、走る、走る

闇の中を、わずかな月の明かりを導としてただひたすら走る。

背後からは足音が迫り、絶え間ない怒号が耳に響く。

 

「探せぇ!あのクソ女、必ず生け捕りにしろ!生きていればダルマでもかまわねぇ!絶対に逃すな!」

 

息が切れる。僕が殺されるのは別に構わない。だが、まだやるべきことがある。これを果たす前に、死ぬわけにはいかない。

焦りを押し殺し、夜闇に浸る獣道を、蹴り飛ばすようにして駆け抜ける。

一部が燃え落ちたロングスカートをひるがえして、夜の山中を跳ねるようにして進む。

木々がほとんど刈り取られた中腹ならともかく、気が生い茂るここは僕の縄張りだ。生い茂る木々と複雑な地形は、追手の足を阻めど、経験豊富な僕にとっては障害になりえない。地の利は明らかに僕にあり、追手はその姿をこの闇の中では見失うはずだった。

 

そう、その追手が並みの相手であれば。

 

「ふははははは!小癪な盗人よ!吾輩の剣からは逃れられんぞ!」

 

頭上に影が差した瞬間、反射的に横に飛びずさる。次の瞬間、元居た場所に、巨大な木々が倒れこんできた。

 

「おい、生け捕りにしろっつっただろ!てめえちゃんと話聞いてんのか!?」

 

「無論!我らが根城にて罪過を積みしその邪悪、我が剣のもとに天誅を下すのみ!」

 

「聞いてねえじゃねえかよ!」

 

次々と木々が倒されていく。そこにいたのは、夜闇に白刃を冷たく光らせる騎士風の甲冑姿の男と、コートをまとった白髪の青年。

木を軽々と切り裂き、この闇の中でも軽々と僕を追ってくる。この時点で、この男たちは並の人間ではない。

そして何よりも彼らの体に薄くまとわりつくオーラがすべてを語っている。

念能力者。

 

だがそんなことよりも。

 

「おまえたち…、今僕のことを邪悪といったか・・・?」

 

声が震える。しかし、彼らの言葉には許せないものがあった。彼らが犯してきたもの、それらを考えれば、どうして黙っていられるだろうか。

 

「はぁ?何言ってやがる?当たり前だろ。おまえは俺たちのアジトをぶっ壊して、リーダーも重傷だ。どうしてくれんだ、あぁ?」

 

「なにを・・・!そもそも土地を奪い、祖先から受け継いだ木々を切り倒していったのはおまえたちだ!確かに僕がしたことは悪かもしれない、しかし正義を語る資格はお前たちにない!」

 

「あぁ・・・。まあそうかもなぁ。だが、それは全部てめえらの頭領が間抜けだったのが悪いんだろぉ?そもそもどうでもいいんだよ正義だの悪だの。重要なのはどちらが力を持っているかだ。そして現実は、俺たちが強者で、てめえらは弱者。それだけのことだ」

 

彼らの言葉に、何かが胸の中ではじけた。屈辱と義憤が入り混じって、喉元までこみ上げる。

 

「ふざけるな・・・!」

そう叫び、足を踏み出した瞬間ーー

 

ずるり、と体が傾いた。

 

そして、視界がぐるりと回転し、気づけば僕は僕のつま先をみていた

 

「あ・・・?あぁ、ああああ!」

 

足を焼けるような痛みが襲う。何が起きた?片足が自分の体から離れている、足が、ない?思考がかきみだれ、痛みが体中を駆け巡り、全身が痙攣するように震える。倒れた?なぜ?相手との距離は相当離れている。それならば、こんなことができるのは・・・

 

「甘えんだよ、相手の言葉で感情が揺らいでる時点で。」

 

コートの男が冷ややかに言い放つ。その言葉を聞いた騎士甲冑男は、ため息をつきながら呟く。

 

「あまり淑女が苦しめられているさまは、騎士としては好ましいものではないが…。とりあえず手も落としておくか?」

 

「ああ、そうだな・・・。利き手は切り落としとけ。もう片方は、こいつの発を使わせるためにも必要だ。」

 

「ふむ、まあ吾輩は騎士であるからして。指揮官の命に従うのは絶対であろうよ」

 

攻撃、されたのか?だがどうやって?コートの青年と話している間も、凝を怠りはしなかった。コートの青年はずっと手をポケットに突っ込んでおり、何かを放ったふうには見えなかった。

 

 

コートの青年はあきれ顔でため息をつき、騎士風の男は僕の近くまで寄ると、右手を剣で両断した。

 

「ぐ、ぁあぁ、ぁあッ!」

 

痛みで思わず絶叫する。そしてそれと同時に断面から血が勢いよく噴き出す。

 

脂汗が肌からはにじみ、全身が、焼けるような暑さと、凍えるような寒さを交互に繰り返す。

 

血がじわじわと地面に広がって、体中の感覚がマヒしていく。だが、ここで意識を手放すわけにはいかない。彼らに「アレ」が渡ってしまうことだけは絶対に避けなければならない。もはや「アレ」だけが僕たちにのこされた、唯一の打開策なのだから。

 

「しょうがない、か・・・!」

 

賭けるしかない。これ以外の方法はもう残っていない。

 

僕は自身の手にオーラを集中させ、素早く強化した。そして、その手を、腹に勢いよく突き立てた。

 

「あぁ?・・・まさかてめえ!おい、早く腕を切り落とせ!」

 

コートの青年の言葉を聞きながら、、腹から取り出したグレネードを、ピンを歯で抜いて放り投げる。

 

甲冑の男が剣でグレネードを切ろうとする。しかし、一瞬早く球体が爆ぜた。

 

「・・・クッ!」

 

閃光が周囲を包む。そして、爆風が地面を揺るがし壊す。僕は光と音の渦にのまれ、全身が無重力のように感じた。

 

 

□■□■□■

 

 

探光(サーチライト)」を使い、洞窟内を慎重に進む。

念を掌に集中させ、いつでも放てるように準備する。

 

あと少し…。この壁沿いに少し進み、曲がった先に、人間がいる。息を殺してゆっくりと足音を立てないように進む。

 

「ちょこまか逃げやがって!てめえ!ふざけんなよ!」

 

骨と骨がぶつかる鈍い音がしたと同時に、なにかが倒れた。

驚いて息を吐きそうになり、唇をかむ。

なんだ?争いごとか?

 

「てめぇ…。いかれてるとは思ってたが、ここまでだとはなぁ!自爆するとか正気か!?」

 

「ははは、いやまあ敵ながらその覚悟、真にあっぱれである!その誉に免じ、一思いに切り伏せてくれよう!」

 

「切り伏せんなや、こいつには聞かなきゃならねぇことがある!」

 

洞窟内に、今度は何かを堅い地面に打ち付けるような音が響く。何度も。何度も。何度も何度も何度も。

 

「いい加減、よお!口を、割りやがれ!てめぇが隠したことは!わかってるんだよ!『インク』を!どこに!やった!」

 

骨が折れる音が響いて再び何かが倒れるような音がした。むせるような血の匂いが鼻につく。

 

「ふむ、多少落ち着きたまえ。どちらにせよ、上に問い合わせればすぐにその程度のこと、すぐ調べられる能力者が来るだろうとも!今ここで拷問をしたところで、そこではいた情報が真実である証拠などどこにもない!」

 

朗らかに聞こえるその声が、石壁に反響する。だが、その背後にある緊張感を俺は見逃せなかった。窒息しそうな圧力が、周囲に広がっていくのを感じた。

 

「あぁ・・・?上に問い合わせるだぁ…?おまえ本気で言ってんのか…?俺らはただでさえリーダーの護衛をミスってんだぞ…?そのうえ大事な『インク』さえ取り返せねぇ、そんな低能は組織の恥だ!ボスは絶対に許さねぇ、もしそんなことをしたら俺らは間違いなく処分されるだろうよ!」

 

言葉は震えており、明らかな恐怖と現状に対する苛立ちがにじみ出ていた。だが、朗らかな声の男はその言葉を一蹴した。

 

「ふむ。まあそれは吾輩には関係のない話だ。吾輩はあくまで『この鉱山』を守るために契約された身。リーダーの護衛は吾輩の契約内容には入っていない。した約束は、騎士として必ず守るが、同時にしていない約束を守る義理まではない。処分されるとしても代わりが効く君だけだろうよ!」

 

その瞬間、周囲の空気が揺らぐのがわかった。圧倒的な魔力が膨張し、喉を締め付けられる感覚が襲う。汗が知らずに頬を伝った。

 

しかしそんな思いを忘れるほど、次に放たれた言葉が俺の脳を揺らした。

 

 

「あぁ…?てめえ…、あたま空っぽの強化系が…。円もまともにできねえくせにほざいてんじゃあねえぞ…?」

 

は?

強化、系?

それに、円?

聞き覚えのある単語だった。いや、知っている。その言葉は、ここではない世界のもの。俺がかつてあの世界で、楽しんだ漫画の一用語。

 

なん、だ?は?待て、いやそうなのか?だがあり得るのか?現実にそんなことが。漫画の中に転生する、なんて…。

 

待て、いや待て、仮にそうだとしたら魔力は「念」か?だとしたら…まずいのではないか?仮に「光」が発だとすると …。俺は明らかに身寄りのない状況で、唯一戦えるカードを無駄に切ったことになるのでは?

 

 

「ふはは!それなら円を使える君が、彼女が『インク』を隠した場所を探し当てればいいんじゃないかね?『インク』は無論、念をはらんでいるのだろう?」

 

「あぁん…?てめぇ、本当に脳みそまで筋肉でできてんのか…?円ができるからって、そう簡単に見つけられるわきゃねえだろ…?俺ができんのは1,2mが限界だっつったろぉがよぉ」

 

―――チャンスだ。

 

俺の「探光 (サーチライト)」なら、軽く10〜20mくらいは目算だが可能だ。それに、物体の中まで把握できる可能性もある。ここでそれを売り出せば、少なくとも自分の命をつなぐ手段にはなるかもしれない。

 

ーーだがまて…、そもそもこいつらにつくのは合理的か?こんな危険すぎるやつらと組むよりも、外に出れば、もっと別の奴と組める可能性もあるのでは?

 

思考が渦を巻く。考えろ、考えろ、考えろ。最良の道を。自身が生き残るための道を。

 

その瞬間、目の前の壁に思い切り何かが跳ねて激突した。視界に飛び込んできたのは、赤と白の何かーーー血と皮膚のコントラストだった。

 

「ぇあ・・・ッ!」

 

思わず声が漏れ出る。壁に打ち付けられたそれは、ひとりの人間だった。血にそまった長髪。豪奢だったであろう服は破れ、ロングスカートは血と泥で汚れている。体中にある生々しい血の跡と、折れ曲がった四肢。そして、潰れてひしゃげた顔面から垂れ下がった眼球。

 

ーーー拷問どころか、完全に殺されているじゃないか…!

 

胃の奥からこみ上げる酸の味を必死で飲み込みながら、体はこわばる。いままで吐いてきた経験が、こんなことで役に立つとは思いもしなかった。息をのみ、固まっている俺を、つぶれていない片目が、ぎょろりと動き、見た。

 

まずい。まだ思考がまとまっていない。この状況で、俺はどうするべきだ?こいつらにつくしかないのか?いや、そもそも聞く耳を持ってくれるのか?たとえ念が使えたとしても、もし用が済めば秘密を知っている無力なガキひとり、簡単に消されるんじゃ?

 

待て、頼む、時間をくれ…!そんな俺の思考をよそに、目の前の半死体は口を開く。

 

だが、彼女の唯一残った片眼は、俺を一瞥し、そして――すぐに目をそらした。まるで俺など存在しないかのように。

 

 

――見ないふりを、した…!?

 

 

 

驚愕とともに、ゆっくりとある感情が胸にこみあげてくる。

 

 

 

彼女の眼に宿っていたのは諦観だった。自分にまつ運命をすべて知ったたうえで、それを受け入れたかのような、無言の絶望。自分がもう助からないと知って、理不尽を受け入れた目。

 

その目で彼女は、俺を無視した。

 

それは、俺がよく知っている目だった。俺に何の期待もしていない、そんな目。

 

彼女が俺を見ないふりをした瞬間、心の中で何かなにかずきりと痛むような感覚がした。彼女の目に映らない存在であることに、なにか妙に癇に障る。まるでここで殺される以上、俺のことはどうでもいいとでもいうような、その目。俺に、助けてほしいと思っていない。見たうえで、俺を見ていない。その事実が、俺の胸の中に落ちていく。

 

そして、俺は今抱いている感情を自覚した。

 

 

 

 

 

 

これは()()だ。

 

 

 

 

 

ああ、ここでもか。ふざけるなよ、なんでここでも同じように、ないものとして扱われなければならない?

 

 

俺は今怒っている、こいつが穏やかに、その身に起こる理不尽に支配され、抗おうとしていないことに。苛立ちと不快感を抱いている、こいつが死ぬことをなにも恐れていない目をしていることに。ただおれのことを無視して、こいつが人生を終えようとしていることが、耐え難いほどに腹立たしい。

 

 

――こいつを助けても何のメリットもない

 

理性の声が頭の中で響く。わかっている。ただどうしても許せないのだ。この虫を噛み潰したような不快感を、どうしても消せないのだ。わかっている、この世界では冷徹な行動が必要だと。だが、そんなこと関係なく、すでに体は動いていた。

 

 

今まで感じていた恐怖も危険もすべて忘れ、ただ腹の底からあふれ出す怒りや苛立ちが、体を支配していた。

 

 

 

 

 

 

「動くな。指先一つでも動かせば、おまえたちの頭を吹き飛ばす」

 

 




心理描写、初めてだと難しいね・・・。次話戦闘です。でっきるっかな~。
あ、あと、切れたはずの腕がくっついてるのにはちゃんと理由があります

後、主人公が突然切れ散らかしたのにも当然理由があります。そこについては後々やります

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