「結華ちゃんってさ、なんだかトランプとかを武器にして戦いそうだよね」
そう言われたとき、三峰結華はどのような反応をするべきか悩んだ。
バラエティやインタビューなどのアイドルとしての反応ならば適当に謙遜するような声を出すだろう。「えー、そうですか? 智将キャラって思われてうれしいですねー」みたいな。
彼女が所有している裏垢などアイドルではなくオタクやイネット民として動くならば激怒するふりをしていただろう。「なんっ…でそこまで! 的確に人を傷つける台詞が言えるんだよお前ははあああああっ!!」みたいな。
きっと他のアンティーカのメンバーやアイドルに言われたら前者の反応をとる。
でも目の前にいる人間は黛冬優子だった。
(……………………さて、どうとるべきか)
これは宣戦布告、いや最後通牒だ。お前がオタクだと私は知っているぞ、という。
この反応ですべて……ではないにせよ、結華と冬優子の関係性が変化する。オタク友達になるか、それとも………
(シラを切るか?)
安パイを切れば少なくとも自分の立ち位置が変わることはない。ここで否定して見せれば冬優子はこれ以上の追及はやめてくれるはずだ。
ただこんな質問をされるということは既にほぼバレかけている。それはそれで冬優子との関係性が崩れる可能性がある。
それに……そんな質問をするということは冬優子も自身がオタバレすることを覚悟で言っているはずだ。
現実時間で2秒未満。結華は答えた。
「それは……えっと、揶揄うつもりで言ったのかな?」
「え、ふゆはそんなつもりは無かったんだけどなぁ」
「もう、そんな風に揶揄われると三峰ちょっと傷ついちゃうなぁ……どこかに押し付けないと」
直接的な表現を交わさない詰問というのは、簡単に主導権が入れ替わる。
普通の人間が今の会話を聞いても何も思わないだろう。
しかし……「トランプを武器に」云々の元ネタを知っている者ならば結華の言葉は聞き捨てならない。
「え、結華ちゃんそれって……?」
「うーん? 三峰、何のことかわかんないなぁ」
「――」
冬優子のアルカイックスマイルにヒビが入る。
冬優子が繰り出したのはミームであり、三峰が繰り出したのは元ネタのほうだ。ミームのほうを知っているものはさておき、元ネタを履修している者は少ない。なにせ元ネタのほうは10年以上前の漫画である。
19歳の少女が10年前の漫画を読むわけがないし、当時読んでいたとしても細かい内容まで覚えていること自体が異常である。
つまり、引っかかった時点で冬優子のオタバレはほぼ確定したようなものである。
(さぁ、どう出る――?)
次の一足一挙動に注目する結華に冬優子は言った。
「ご、ごめんね。ちょっと言い方間違えちゃったかなぁ……『不慮の事故』起こしちゃった」
「…………………………………へぇ」
直接的な表現を交わさない詰問というのは、簡単に主導権が入れ替わる。
普通の人間が今の会話を聞いてもちょっとおかしな表現だなとしか思わない。
しかし……「トランプを武器に」云々の元ネタを知っている者ならば冬優子の言葉は聞き捨てならない。
(返してきた……! そのまま、一発で……!)
なるほど、こちらが認めなければ自分も認めるつもりはないということか。
「……」
「………」
思考を回せ。どう返す? どう返せば相手に意表が突いたうえでうまい返しができる?
結華の脳内はもはやオタバレ回避の名目でどうすればうまい言葉遊びができるかにフォーカスしていた。
「いやいや! そんなこと気にしなくてもいいよ。――ただちょっとだけ『古傷が開く』だけで」
「それは処置しないと。はやく『冷やして冷静』に……」
「ううん、大丈夫。ちゃんと『自分を見つめなおし』たら大丈夫だよ」
「そっか……結華ちゃんが『大噓つき』でないことを祈るよ」
応酬、応酬。
これはだめだ。明らかにお互い譲る気がない。
*
二人の様子を傍観する者たちがいた。
「……なんかバチってない?」
「そうすっか? わたしはすごく楽しそうだと思うっすけど」
あさひの言葉にそうかな、と愛依が漏らす。
「三峰たのしそー」
「そうかな――そうかもしれない。あんなにウキウキしながら話す結華はあまり見ない」
咲耶がつぶやきながらコーヒーを飲む。よくブラックなんか飲めるねー、と摩美々が特段感情を乗せずに言った。
中学受験していたときに単行本にはまってました。
摩美々はブラック飲めないのだろうか