大抵の場合、人生の幕切れってのはあっけないものよ。そして、かなり唐突にやってくるものでもある。たとえ直前に、らしくなく人助けをしたところでね。
どんな人生を歩んだか、とか。何をしたか、とか、結構どうでもいいらしい。まあ、『厄災』はそういうものだよな。
俺の大好きな漫画作品でもそう言われてた。
「おいっ、大丈夫か!? 意識をしっかり保て!」
「きゅ、救急車……!!」
「ああっ、クソ……! マジでっ……なんでこんなことに…………!」
……それは俺のセリフなんだよなぁ。
良いことしたと思ったのによ、結局轢かれちまうか。ま、道路に飛び出たんだ。当然か。
何があったかって?
ああ……子ども、助けたんだよ。向こうの歩道で泣きじゃくってる小学生だ。あいつがいきなり道路に飛び出して、そしたら右から車。
半端に迷っちまって、子ども助けるために俺も飛び出したら……この通りってわけだ。怪我人は俺だけっぽいな。
はぁァ〜〜〜〜。クソ痛いし、体も動かねぇし……そして眠い。頭はあったけぇのに、クソ寒い…………まるで、手の先から凍ってくみたいだ。
救急車を呼んだっぽいけど、これは無理だな。死ぬわ、俺。
明日出る最新刊、読みたかったんだけどな…………
____________________
俺は
運動は好きだぜ。スポーツは好き嫌い分かれるけどな。勉強の方は……まあ、学校の中の上ぐらい? 多分それぐらいだ。うん……そうあってほしいな。
平均的ってなもんで、それまでの人生、特に変わったことも大きな盛り上がりも無かった。ただ普通に勉強して、ただ普通に部活やって……その毎日。あ、今は部活はやってないんだった。
だけど、そんな俺にも一つだけ。人生を彩ってくれた、かけがえのない"趣味"がある。
一言で言えば、それは漫画だ。
……ちゃっちぃって? 勝手に言ってろよな。
作品の名前は、『ジョジョの奇妙な冒険』。
俺が自慢することじゃないが、何十年も続く超人気・有名漫画作品の一つさ。
ハッキリ言うと、ファン歴はそう大した長さじゃない。ここ数年……まあ、五年ぐらいか? ハマったキッカケも、アニメでチラッと観たことだけだ。長年のファンの先パイ方から言わせりゃ、チンケな新入りって感じかもな。
だけどな、この漫画はとてつもない。何がって、パワーだよ。この作品の持つパワーさ。俺って結構色んな漫画読んできたんだが、ジョジョほどハマった作品は一つも無かった。
勘違いするなよ?
俺は他の作品を下げる意図は断じてないぜ。当然、他の作品も面白く読めたし、ハマってたのは事実だ。ジョジョがそれ以上の沼だったってわけさ。
キャラクターが描き出す人間讃歌、人情話、常に前を向いて進み続けようって姿勢がまず刺さる。話自体も良いんだよ。こう、希望に向かって進み続けてる気がしてな。そして絵も良い。漫画なのに芸術作品みたいな絵柄や構図で迫力満点だ。
ハマってから、本当に生活っつーか人生がガラッと変わった。
分かりやすく言うなら、そうだな……
日々の生活の中で、落とし穴がいくつか空いてるとしよう。たまにはそん中に落っこちることもあるが、俺の新しい人生はその落とし穴が極限まで減ったってイメージだ。分かりやすいか?
まあ、俺の愛はこんなもんか。
理性あるうちに区切らねぇと大変なことになるからな。止まらなくなっちまう。ああ……周囲にはあんまり読者がいなかったもんでね。ジョジョ経由で友だちが増える〜なんてことはなかった。
そう、そんなこんなで俺は高校生活の半分が過ぎようって時を迎えた。一年半後には大学生。どこの大学に行こうかってのも考えなきゃな時期だ。
相変わらずジョジョは追ってたが、過去の単行本を読み返す機会はほとんど失われてた。たまに読む、程度だな。
勉強にも追われて、明らかにQOLが下がっちまってたと思うぜ。何つーか、無気力ぎみになるっていうかな。色んなことが嫌になる。
そんなある日の朝だった。事件が起きたのはな。
「ポッテトLサイズが好き♪ ポッテトLサイズが好き♪ ポッテ……駄目だ、全然音程が分かんねぇや。ジャイロのチーズの歌はゲームのもあって分かるんだけどなぁ〜〜。定助のポテトの歌分かんねぇ……どんなんなんだ……?」
朝は一人で徒歩で学校まで行く。それが日課だ。
そして見ての通り、定助が作中で歌ってたポテトLサイズの歌の音程がどんなものか自分で試行錯誤しながら考えてたんだ。
……ちょっと独り言激し過ぎたな。
いや、仕方ない。これはその時の定助の心情を考えるためだったからな。うん……仕方ないんだ。
「Lサイズが好きィ〜〜、でも……でも…………何だったかな……? 最近ジョジョリオン読んでないせいで歌詞まで忘れてきたぞ……マジにヤバいかもしれん。はぁ、鬱気味だ……冗談抜きで」
「早く早く! 急げよ、こっちこっち!」
「あ! 待ってぇーーっ!」
俺が歩いてると、後ろから小学校低学年っぽい男の子二人が走ってきた。その時は「朝から元気だなぁ」って思って大して気にも留めなかったんだ。
そしたら、今度は反対側の歩道からそいつらを呼びかける別の小学生が来た。
「あ、おーーい! たけし君!」
「あ! ミナちゃん!」
女の子の……多分友だちかな。そいつが俺を追い抜かしてった男子のうち片方に声かけたんだ。これもまたデッケー声。
仲良いんだろーなー。羨ましいぜ。生まれてこのかた彼女とかも出来たことねぇし、仲良い異性も居なかったんでよ。
話が逸れたな。そしたらその女子が、声をあげながら男子の方に手招きするんだよ。こっち来いってな。んで、男子もそれに応じようとしてた。
「……ん?」
ふと、俺は自分の後ろを見た。そしたら自動車がこっち方面に走ってきてるのが目に入ったんだ。
目の前には道路を渡ろうっていう小学生。もう縁石越えて車道に出かけてた。
俺は、始めはそいつに声をかけて止めようとしたんだ。
「横から車来てるぞ! まだ行くな!」
「え?」
「あ、おい! 道で止まるな! こっちに来い!」
飛び出しかけた小学生、まさかの道路のど真ん中で立ち止まりやがった。ちょっと進んで、そしてこっちを振り返ったんだよ。
ヤバいと思ったさ。車はそこそこのスピードがついてたからな。そしたら、道の向こうの女子も車来てるのが見えたみたいでな。一気に顔真っ青にして甲高い悲鳴を上げた。
飛び出したやつもそれで気がついたらしく、だが動こうとはしなかった。俺は経験無いが、ああいう時こそ体がすくむらしいな。まさにそれだったんだろう。咄嗟の行動に移れなかったと見てる。
「うわ、ああっ…………!」
「逃げて! 早くぅ!」
男子は動かない。
女子は叫ぶ。
車はそこへスピードも落とさず突っ込んでくる。
多くを言うつもりはねぇ。
馬鹿だと思うやつもいるだろうし、カッコつけだと笑うやつもいるかもな。だがそれでも、俺は自分が間違ってたとは思わねぇ。放っておくことができなかったんだよ。見て見ぬふりはな……
俺は勢いよく飛び出して、あいつの服を掴んで歩道へ放った。身代わりになるみたいにな。そして俺は飛び出した勢いを殺せず――――
____________________
とまぁ、そんな感じだ。
……間違ってるとは思わねぇとは言ったな。でも死にたくはなかったよ。流石にな?
どーんと轢かれて、信じられねぇぐらいの痛みと寒さがやって来て、そんで意識が消えていく。まさか俺が……って感じよ。命と引き換えに他人を助けちまうなんて。まだ信じらんねぇ。
親はどう思うかな。誇りに思うか? どうだろうな。大切な時期に何を考えてんだ、とか思ってるかも? 思春期的なので最近関わってないから分からねぇけど。
でも、きっと悪い人生ではないと断言できる。
俺がカッコいいって思ったジョジョのキャラとかもよ、多分似たようなことしたんじゃねぇかな? 主人公とかあの辺りはな。まぁ、一部怪しいやつもいるけども……
俺がジョジョに出会ってなかったら、きっとああいう行動はできなかった。そう思うと、あの作品が俺の人生に与えた影響ってスゲーんだな。
…………まあ、そして俺は思うわけだ。
俺、えらくしぶといな。死んだんじゃなかったのか? 死んでも結構意識とか残ってるもんなのか?
なんかそういう話とかあるよな。聴覚は最後まで〜みたいなの。信じてなかったが。
それに、なんか体の下に柔らかい物があるような気が……。しかも今まで寒く感じてたのにちょっとあったけぇ。布団、被ってる……?
俺、今どうなってるんだ……?
「あ、目が覚めた?」
「……え、あ……え?」
「あなた、道端で倒れてたのよ。意識も無かったし、たまたま家が近かったから運んだの」
「…………???」
驚いたことに、俺は目を開けることが出来た。
いや、死んだと思ってたからな。死んだら目は開かないだろ?
そしたら、金髪の女の人がこっちを覗き込みながらあんなことを言ってきた。カチューシャみたいなのを頭に付けた、可愛い感じの……それこそ、人形みたいな人だ。
それよりも何だ、俺、倒れてたって?
「え、えっと……ここは? 病院……じゃない?」
「私の家よ。さっき言ったじゃない。倒れてたから運んだって」
「は、運んだって……俺は車に轢かれたんスよ? ここに傷が…………って、アレ?」
俺は体を起こして頭に手をやる。
轢かれて吹っ飛ばされた後、しばらく右側頭部ぐらいがドクドク鳴ってたのは覚えてる。きっとそこから出血してたんだろうなって思ってた。
だが、痛みも血も出てなかった。包帯が巻かれてたわけでもない。
それに、全身に痛みもないし普通に動かせる。どうなってるんだ?
病院かと思ったが……ここは一体? それに、この人は誰なんだ……?
「……全然飲み込めてない、って顔ね」
「そりゃあそうっスよ…………。俺、確かに小学生を助けて、車に轢かれたはずなのに。死んでてもおかしくなかったはずだ……」
「それじゃ、やっぱりあなた外来人ね」
「え?」
がいらい……じん?
漢字は外来、でいいのか? え? じゃあやっぱりここは病院……ってこと? いや、そんなわけないよな。部屋の中見回しても洋風な内装で、なんか日本じゃ珍しいメルヘンな感じだ。女の子が好きそうな、暖炉にテーブルに、たくさんの人形が棚に並んでたりする。
さらに目の前のこの人もだ。カチューシャだけじゃない。服装も、どこか外国の伝統衣装とかにありそうな……フリルがついた青いワンピースとケープを羽織ってて、まさにコスプレ。この人の格好といい、ここの内装といい病院にはとても見えない。
それに、窓の外は完全に森だ。まさか現代で森の中に病院は建てないだろ。
じゃあ、外来人って……何だ?
「あなたね、『幻想入り』っていうのをしたのよ。ここは幻想郷。外の世界とは隔絶されてる空間なの」
「げ、げんそうきょう……? げんそういり……?」
な、何だそりゃ……聞いたことないんだが?
それに隔絶された空間だって? あり得るわけないだろ、そんな話。オカルトなんて今やSFとか陰謀論ばっかだ。異世界なんて廃れてる話だろうによ。
あ、分かったぞ。つまりこういうことか。
「あー……つまり、死後の世界?」
「違うわよ。それは冥界とか地獄のこと。幻想郷は名前の通り、幻想になったものが流れ着いたり、存在してるだけ。死んだらここじゃなくて、閻魔さまのところに行くのよ」
「え? ええ……?」
さ、さっぱり飲み込めん……
死後の世界じゃない? それならここは何なんだよ……?
でも布団の感触とか、体を動かしてる感じはハッキリしてる。寝てる時に見る夢でもここまでじゃないはずだ。夢っぽくもない。
駄目だ、全然よく分かんねぇ……
「はい、これお茶」
「あ、ああ……ありがとうございま…………ん? ちょ、ちょっと待ってください?」
「どうかした?」
「あ、あのこれは……?」
お茶をいただいた。だけど、女の人の手渡しじゃない。俺に持ってきてくれた人が他にいたんだ。いや、人じゃなかったな。
にわかに信じられないんだが、その……人形がカップを持って俺のところに飛んできたんだ。女の子の、羽が生えた人形。妖精か何かみたいなやつだ。ソーサーとそれに乗せたカップを俺に渡してきた。
しれっとやるから思わず流しそうになったけど、これどうなってんだ? 女の人リモコンとか操作してないよな……
「見ての通り、人形よ?」
「いや、それは見れば分かりますよ。これ、どーやって動いてんスか? 電動? じゃないよな……。駆動音みたいなの全然しねぇや……」
「私が動かしてるのよ。魔法の糸でね」
「え?」
俺が疑問を呈すると、カップの中の飲み物を啜りながら答えてくれた。
ん? ちょっと待て。
今また何かしれっと言わなかったか……?
聞き逃すべきじゃない言葉を聞いた気がするんだが……
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はアリス・マーガトロイド。魔法使いよ」
「は? え……え? 魔法使い……?」
「そう」
「…………コスプレってわけでは……」
「ない。正真正銘の魔法使いよ」
え〜〜〜〜っ…………!?
マジで? マジに言ってるのか?
魔法使いって…………これ、あれか? もしかして異世界転生的なやつなのか?
人形は本当に電池無しで動いてるっぽいし、魔法使いって感じも……しなくない。これ、マジだな。
「ほら、私の番は終わったんだから今度はあなたの番じゃない?」
「あ、はい。俺の名前は星条常治。17っス。職業はァ……普通の高校生。よろしくお願いします」
「よろしく。17歳なのね。結構背が高いし、成人してるのかと思ったわ」
「ええ……まあ、よく言われます。アリス……さん? は、おいくつなんスか?」
「…………」
…………あれ? 黙っちまったぞ……?
も、もしかして聞いちゃマズかったか? そっか〜〜……! たしかに女の人に年齢聞くのはアレだってよく言うもんな……。ぬかったッ……!
ど、どうしような……。話題、別のに変えないと……
「あ〜〜……えっとぉ……アリスさん、すごい綺麗っスね! 中々見ないぐらい美人サンって感じで……そう! モテそう! なんつって……」
「……はぁ。分かりやすく話題変えたわね。別に怒らないわよ。そんなに私怖そう?」
「そ、そういうわけじゃ……なくもないっつーか……」
バレてた。
すぐバレちまったな。俺の反応も図星過ぎるだろ。
アリスさんはため息を吐いて立ち上がる。窓の外を眺めながら……いや、太陽を確認してまた口を開く。
「今日はもうそろそろ陽が沈むわ。明日博麗神社に連れて行ってあげる。そしたら、外の世界に戻れるわよ」
「へぇ……神社から戻れるんスね」
「幻想郷を取り囲む結界を管理する巫女がそこにいるの。迷い込んだ外来人は、彼女に元いた場所に帰してもらうことになるわ。私もそんな人たちを何回か送ってあげたことがあってね」
「へぇーー」
そうなんだ。元の世界に……
いや、でも待てよ。俺の体って結局生きてる……ってことで良いんだよな? 何でか外の世界からここにやって来たってのは分かったけど、向こうで俺はどういう扱いされてんだろーな。
アリスさんは、幻想郷は幻想になったものが〜とか言ってたけど……。まさか、俺が……? でも幻想になるって、具体的にどうなることなんだ……?
全然違う理解が追いつかねぇ……。これ、本当に現実なのか?
「あっ、ちょっと! カップのこと見て!」
「え?」
アリスさんがいきなり声を上げた。目線を顔から落とすと、アリスさんの右手の人差し指がこっちを指してる。目線の先には、俺が持つ下の皿から今まさに落っこちそうになるカップ。
中身は完全に飲み干してなかったんで、このままじゃまだあったかいお茶の残りが宙に飛び出す!
「うおおっ!? 危ねぇっ」
俺は急いでソーサーを真っ直ぐ平行に戻す。だがそれが良くなかった……
あんまりに焦っちまったもんで、ソーサーを平行にする時に勢いをつけすぎたんだ。そしたらカップは立て直すかと思いきや逆に吹っ飛んじまった。
人間、危ねぇって思うと周りがスローモーションみたいに見えるって本当だったんだな。マジでそれだ。だから俺は今も逆に冷静でいられてんのよ。実際は……マジでヤバい! 人の物壊すのだけはしたくねぇぞ!?
パシッ――――
「えっ」
結論から言うと、放り出されたカップが割れて、破片やお茶が床にぶち撒けられるなんてことはなかった。そもそも床に落ちることすらなかった。
何が起きたって? 俺にもさっぱり分からない。ただ目の前で起きてる事実を述べるとするなら、簡潔に言えばこうだ。
俺の後ろから腕が伸びてきて、それが落ちかけたカップをキャッチした。
「な、何だこれ……!? 腕……か!?」
「あなた……もしかして普通の人間じゃなかったの?」
「い、いや……! そんなことは…………! 待てよ。この腕、見たことがあるぞ……。これ、もしかして……!?」
俺の後ろから伸びてきてる腕は、平均的な俺のよりもずっとずっと太かった。筋骨隆々、その一言に尽きるぐらいに。そして肌は青や紫がかった色で、手には丸いガラス玉みたいな装飾がいくつも付いたグローブが嵌っている。
俺はその腕を見たことがあった。すぐに分かったんだ。それが何か。最近こそあまり触れられていなかったが、ずっとずっと長いこと、見てきた腕だ。
それでもまだ信じられない。俺は恐る恐る、その腕の付け根の方へと視線を送り……。そして、頭上を見上げた。
「す、
何気に一人称視点で進む小説は初めてですね……
新しいチャレンジなので、個人的にはまだ下手くそに見えちゃいます。
頑張って書いていきたいですね。