ちょっとだけですけど
「な、何だこれ……!?」
突然俺の後ろから現れた……
ど、どーなってんだ……!?
何で俺からスタープラチナが出てきてるんだ!?
ま、漫画の存在だろ! なんで現実に……
「あなた自身も知らないの? その……何なのかしら。幽霊?」
「いや、その……知ってはいるっつーか……。でも、あり得ないんスよ! 説明すると長くなるんで簡潔に言いますけど、この幽霊漫画の中の存在なんスよ!」
「漫画の?」
あ、勢いで漫画っつっちまったけど、アリスさん漫画のこと知ってんだ。この幻想郷とやらにも漫画は存在してるのか?
そ、それよりも、マジで理解が追いつかねぇよ!
俺、スタンド使いになっちまったのか!? しかもスタープラチナの! じょ、承太郎のスタンドを、俺が使えるのか!?
そんなことを思っていると、スタープラチナはカップを俺が持つソーサーの上に優しく降ろした。そしてどんどん薄く、透明になっていって、やがてスタープラチナは姿を消した。
スタンドを使う感覚ってのは全然よく分からないが、「やってほしいこと」ってのを遂行してくれる。そんな感じなのかもしれねぇ。
「……漫画に出てくる幽霊、ねぇ。そんなのが出てくるなんて。少なくとも、あなたにも何かしら『能力』があるのは確かよ」
「能力? まあ、スタープラチナはスタンド能力っスけど……。いや、ちょっと待ってください? 今「も」って言いました?」
「幻想郷にいる一部の人間や妖怪は、独自の能力を持ってるの。色々あるわ。空を飛ぶとか魔法を操るとか、ね。私の場合は『人形を操る程度の能力』よ」
「はえーー……。じゃあ俺はスタープラチナを操る能力? になるのか……?」
なんか……頭の整理が追いつかねぇよ。いきなり女の人の家で目を覚ましたと思ったら、そこは別世界で、しかもスタープラチナが俺から出てくるなんて……。夢じゃなかったらおかしいぐらいだ。
いや、当然ワクワク感はあるんだよ。実際めっちゃ興奮してはいる! でもな、あり得なさすぎる話のせいでイマイチ乗りきれないっつーかよォーー。夢なんだろーなーって冷めた感じもあるんだ。
それにしても、
……人形を操る、ねぇ。そういえばジョジョにもあったよな。スタープラチナと同じで、三部に出てくるアレ。ポルナレフに切り刻まれてたっけ……
「ね、ねぇ」
「ん? ああ……すんません。ちょっと考え込んでて……」
「また後ろから何か出てるんだけど」
「え?」
アリスさんが呆れたような顔で俺の後ろを指差した。「今度は何だ?」って言いたげな感じだ。
そんな顔で見られちゃ俺だってもちろん気になる。ゆっくり振り向くと、そこには今度はアレがいた。
「うおわっ!? エボニー・デビル!?」
剣と盾を持った、悪魔みたいな不気味な人形。
外見を言語化したらまさにそんな説明になるだろう。これが俺がさっき頭の中で考えてた、人形を操るスタンド能力だ。
「さっきのとは違うの? 今回はすごく不気味な見た目だけど……悪魔かなんかじゃないわよね」
「あながち間違いじゃないっつーか……悪魔って名前は付いてるんスけど……。つか、マジでどーなってんだァッ!!?」
「ちょっと! いきなり大声出さないでよ!」
すんませんアリスさん! だけど無理なものは無理なんですよッ!!
どーしてッ! エボニー・デビルが! 俺から! 出てくるんだ!!?
スタンド能力は一人につき一つのはずだろ!? 俺はとっくにスタープラチナのスタンド使いなはずじゃねぇか。同時にエボニー・デビルのスタンド使いでもあるってのか!? じゃあなんでエボニー・デビルなんだよ!? そこはハイエロファントとかチャリオッツとかじゃあねェーのかよッ!
「一体何にそんなに困惑してるのよ。あなたが知ってるものなんじゃないの? 漫画から出てきたってところは確かに驚くとは思うけど……。創作物を現実にする能力、とかじゃないのかしら」
「し、知ってはいますよ! でも……俺の知ってる限り、この幽霊……スタンドっつーんですけど、これは一人につき一つしか発現しないはずなんス!」
「え? でも、さっき二種類出してたわよね?」
「だからおかしいんスよ……。よし、アリスさん。理解が追いつかないかもしれないですけど、一旦俺から色々説明させてもらいますね。俺が今、どれだけ混乱してるのか!」
俺がエボニー・デビルに対して「元に戻れ」って念じると、デビルはすぐに姿を消した。飛び出したスタンドはこうやって戻すってことが分かると、俺はアリスさんに色んなことの説明を始める。
まずは俺とジョジョの関係。俺はただただジョジョが好きな普通の高校生だった。それ以上の関係はない。そして、ジョジョの大まかな話だ。流石に各部に触れて回るのはキツいんで、共通してるスタンドのルールとかだな。
スタンドの独自性、一人につき一つのルールなんかを理解してもらった辺りで、アリスさんも俺の置かれてる状況が分かってきたみたいだ。
「それは変な話ね……。あなたの好きな漫画の設定がそのままあなたに反映されてるわけじゃないみたい。あなたの記憶に基づいた能力なら、そのルールがあってもおかしくないと思うけれど……」
「…………」
「どうかしたの?」
「俺、今からちょっと試してみたいと思います」
「もし本当に俺がいくつもスタンドを出せるのであれば、じゃあどんだけのスタンドを使えるのか!」
「たしかに。それは気になるわ。私はその、ジョジョっていうのは知らないからスタンドも分からないけど」
「よし……」
俺はある仮説を立てている。俺がさっき出したスタンドはスタープラチナとエボニー・デビル。まさかこの二つしか使えないってことは……多分ない。と思いてぇ。
いやだってよ、スタプラとエボニー・デビルだぜ!? 前者はいいだろ!? なんだよエボニー・デビルって! よりによってスタープラチナの相方がこれなんてあって良いわけないだろ(全国のエボニー・デビルファンには謝罪しとくぜ)。
流石に他のスタンドも使えるよな……? せめて後数種類だけでも使ってみたいもんだ。スタープラチナだけでもお釣りがくるぐらい嬉しいんだが、やっぱ欲張っちまうのさ!
「まず最初は……
「あっ、緑色のが出たわ!」
よし……! やっぱ他も出せはするんだな……
ハイエロファントは出せて良かった。遠距離型も使えるんだったら欲しいもんな。
「じゃあ次は、そうだな……。やっぱりハイエロファントとスタプラときたら、
おおっ、こっちも出る!
アーマーも着脱可能なのか? あの高速攻撃を再現できるならぜひやってみたいもんだけど。
「次のにいきましょ。ちょっと剣が怖いわ。不意に動かさないでね」
「あ、すんません。お次はどうしような。三部以外のも出せるか試してみるか。
それから俺はめちゃくちゃスタンドを出しまくった。お陰で夜更けまでスタンドと睨めっこすることになっちまったけどな……。アリスさんにゃ申し訳ねぇ。
とりあえず、分かったことはいくつかある。俺が出せるスタンドについてなんだが、どうやらどの部のどのスタンドも使えるみたいだ。ただ制約もあってな。
というのも、名前が判明してなかったりスタンド能力かよく分からない(あるいは関係ない)能力は使えないらしい。だが四部の未起隆の変身能力は使えた。名前さえ分かってれば、って感じなのかもしれねぇな。柱の男の
さらにプラスで、原作と違って俺は一人でいくつもスタンド能力を持ってるが、それでも一度に使えるスタンドは一つみたいだ。だが、これはホワイトスネイクでDISCにしたスタンドは関係ないみたいでな。あらかじめDISC化したスタンドなら、他のスタンドと
そんな感じで、今日はもう寝るばっかりだ。アリスさんに風呂も入らしてもらって……。女の人の風呂使うのなんて初めてだったからちょっとアレだったんだがよ、洗剤めちゃくちゃ良い匂いしたぜ。
パジャマはアリスさんに借りた。アリスさんのじゃなくて、デッカい人形用のやつだけどな。女の子の人形しかないから、がっつりロングスカートのワンピース。アリスさんにちょっと笑われたりしたもんで、恥ずい。
さて。明日はいよいよ、博麗神社とやらに行くわけだな。結界を管理する巫女さんがいて、その人に元の世界に戻してもらうと……。元の世界ねぇ。俺がここに来てる間、向こうでは何がどうなってるのやら。戸籍上だと死んでる、みたいなことは流石にやめてほしいけどな……
それにしてもアリスさん家のベッド、やべーぐらい気持ちいいな。これでぐっすり熟睡できるぜ。寝る前にあたたかいミルク飲んだり、20分ストレッチするとかしなくても良さそうだ……
ちなみに今のは吉良吉影。
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「常治、そろそろ起きて」
「んぁ……? あぇ……ここどこ?」
「何言ってるのよ。私の家。忘れた? アリス・マーガトロイドよ。あなた幻想入りしたんだってば」
「あ、ああ! そうっしたそうっした……!」
朝8時にアリスさんに起こされた俺。冗談抜きで寝起き悪いからよーー、昨日の記憶が一瞬飛んでんだ。大丈夫、今はもう全部思い出した。
寝ても覚めてもアリスさん家。昨日試したみたいに念じてみると、俺の右腕からスタープラチナの腕がスゥッと出てくる。本当に夢でも何でもないんだな。
「それじゃあ、もう神社に向かうから。あなたの着てた服は洗濯してそこに置いておいたから、それに着替え直して来てね。私は外で待ってるわ」
「はい、了解っス。すぐ行きます」
アリスさんはもうとっくに身支度済ませてた。早起きしてたんだな。お待たせしないように俺も急いで着替えて、外に行かねぇと。
俺は着ていた人形の服を脱いでベッドの上に置くと、ベッド横の小さいテーブルに畳んであった自分の制服を手繰り寄せる。そしてちょうど着始めたところで、あることを思いついた。スタープラチナを発現させて、無造作に置いたワンピースに手を伸ばす。
「……スタープラチナで畳んだらきっと早いよな」
俺はスタープラチナがワンピースを畳むビジョンを想像する。
すると、ワンピースが一瞬で畳まれてベッドの上に置き直された。しわ一つもなく、まるでクリーニング屋から返されたばっかりの状態のようだった。
「俺が自分でやるより綺麗だよ……。すげーなスタンド。人類の夜明けだわこりゃ」
俺は徐倫のセリフを呟きつつスタープラチナを引っ込め、外に出てったアリスさんの元へ向かった。
「お待たせしました、アリスさん」
「ん、早かったわね。服、ちゃんと畳んだ?」
「当然! スタンドがあれば一瞬ですよ」
「ふーん。便利なものね」
ふふ……抜かりありませんよ、アリスさん。完璧な仕上がりっス。なんたって、スタープラチナが畳んだんですからねェーー。
だが、それにしても家の周りってこんな鬱蒼とした森だったのかよ。森ったってもうちょっと道とかちゃんとしてるかと思ったら、全然ねぇし……。獣道だ。そりゃあ、俺のいた世界とは違うとは聞いたけども。
「あの、アリスさん? 神社には何で行くんスか? 道とか、獣道程度しか開けてないじゃないっスか」
「神社はここから南の方に離れたところにあってね。でも歩いていくなんてことはないから安心して」
「え? じゃあ、尚更どうやって……」
「飛んで行くのよ」
「飛ぶ!?」
飛ぶ!?
俺飛べないが!?
飛べるスタンドも知ってる限り無いはずだが!?
「お、俺飛べないんスけど……」
「そうなの? 飛ぶスタンドとか無いの? あんなに種類があって?」
「いや、うーーん……」
ウェザーとかは確かに飛んでたような覚えあるけど、流石に持続時間の問題が出てくるからなぁ……。
「…………あ」
「どう? 良さそうなの思い出した?」
「スタンドっつーか……確かに飛んでたのは思い出しました。同じようにできるかは分かりませんけど……」
そーだよ。思い出した。
飛んでたわ。承太郎とDIO。
問題はあれを俺もできるかどうかだ。どーゆー原理で飛んでるのかサッパリな分、マジで自信ねぇ……。いや、スタンド自体原理もクソもねぇーんだけどさ。だが、挑戦あるのみよ!
「じゃあ……ちょっとやってみますね。
「よぅし……! 浮け!」
俺は脇を引き締め、グッと体に力を入れる。
こう……パワーを溜めるようなイメージで。
「…………」
「………………」
「………………」
「……浮かないわね」
「やっぱダメかぁぁ〜〜……」
無理だった。
諦めてアレで行くか。ウェザー&ザ・フール作戦。
……いや、ちょっと待てよ。アリスさんて、俺がスタンド使いじゃなかったらどうやって神社に連れてくつもりだったんだ……? まさか、俺だけ走ってとかじゃないよな?
「それじゃあ、仕方ないわ。私があなたをぶら下げて連れて行くから」
「ええぇぇっ!? そんな方法があるんじゃないっスか! なーんで先に言ってくれないんスかぁ!?」
「最初から考えてはいたのよ。でも、あんな能力があるって分かったし。飛べると思ったんだもん」
「だもんって……」
可愛い……。うん、まあ、ぶら下げて連れてってくれるならそれで良いや。許しちゃう俺も。つーかむしろ俺が感謝しなくちゃだもんな! ありがとう! アリスさん!
せっかくアリスさんがぶら下げてってくれるって言うんだからウェザー&砂作戦は黙っとこう。ああ。自信が無いことはやるもんじゃない。何よりなのは無事が一番……。ちょっと違うか?
ところで、アリスさんはぶら下げてくって言ってたけどどうやるんだ。マジでアリスさんが俺を掴んでぶら下げて飛んでいくって……こと?
「はい、じゃあピシッと立って。人形たちで運んで行くからね」
「あっ、そういう」
「え? 何だと思ったの?」
「てっきり、アリスさん自身が俺を引っ提げていくものかと……」
「私にそんなパワーは無いわよ……。それに絵面ひどいじゃないの。他の人に見られても恥ずかしいことは私しないのっ」
なるほどねぇ〜〜。心で理解した。見た目通りの清楚な女の人だ。他人からの目も気にする……。うーん、美人でいる秘訣かな。
アリスさんは指をクイクイっと動かすと、十体ぐらいの人形たちが俺の背後に集まってきた。彼らは俺の服の襟や背面の布を掴み上げると、一斉に、ゆっくり上昇を始める。すると、俺の体が浮き上がった!
「や、破れないよね……」
「破れても向こうで縫えるわ。さ、博麗神社に向かうわよ」
俺は人形で運んでもらう中、アリスさんはたった一人で浮き上がる。すげぇ。アレが魔法……。いいなぁ、俺もスタンドで十分贅沢だけど、魔法もやっぱりロマンあるよなぁ。承太郎やDIOがやってたみたいに飛んでみたいもんだぜ。
その辺に生えてる木よりも高く上昇すると、上空からの森の姿が目に入る。想像してたよりもずっとずっと広大な暗緑の森。しかも、変な色の霧まで発生している。
……マジに現実感無いな。
「ああ、気をつけてね。あの霧は瘴気って言って、普通の人間には毒なの。気分を悪くしたくなかったら、息止めたりしてね」
「マジすか!」
俺たちはゆっくりゆっくり南方にあるらしい神社に向かってった。たまに口元に手を当てて、アリスさんの助言通り瘴気を体に入れないようにしてな。今にして思えば、ウェザー・リポートの起こす風とかで吹っ飛ばせば良かったなって後悔してる。なんでかって?
俺たちが体感で数十分ぐらい飛び続けて、小高い丘っーか小山の頂上に神社の鳥居が見えてきた頃。俺は絶賛、瘴気の影響でグロッキーになってるからだ。何か食うものがあれば、パール・ジャム使って治せたかもしれないんだけどな……
「うぶッ……! おぇ……」
「……私の人形は汚さないでね」
「あっ、安心してください……うっ……」
うーーむ。地の分が、どうしても主人公目線で過去形になりがちな癖を直したい。