俺とアリスさんが博麗神社を訪れてから一週間が経った。霊夢に気絶させられた俺は、あれからすぐに目を覚まして霊夢と和解。言葉選びを間違えたってことで謝られたけど、博麗大結界を越えようとは思うなって釘も刺された。まあ、俺も妖怪に殺されるのは嫌だしな……。八雲紫、ね。そのうち会ってみたいもんだな。うんと文句をつけてやる。
それはそれとして、俺はその後のことをアリスさんと一緒に話し合った。アリスさんはしばらく家にいてもいいって言ってくれたけど、人里があるって話を聞いたんでその提案を拒否させてもらった。長いこと迷惑はかけたくなかったからな。
そんで、人里に家を借りてそこで暮らしていくことになった。最初はアリスさんに家の金を払ってもらって、それからは俺が働いて自分で払ってくって感じ。ああ、もちろんアリスさんにもおいおい返してくぜ。あの人は気にするなって言ってくれたけどな。
「常治、収穫したやつは向こうの牛車に乗せてけ! 後はこっちの人参と大根だけで終わる!」
「はい! よし、スタープラチナ」
働くったって大体は日雇いの仕事だ。
今はでっけー畑で農作物の収穫中。俺がやることといえばそれと、大量の野菜が入った籠を運ぶぐらいのことしかしねぇ。この後は野菜洗ったりもするけど。まあ、ほぼアルバイトだ。そんな仕事もスタープラチナがあれば楽ちんだけどな。
それと最近分かったんだが、スタンドは里の人間には見えないらしい。アリスさんや霊夢は、多分能力があるから? なのかもな。俺も詳しくはないが、霊力とか魔力とか、そんな概念もあるらしくてアリスさんは「潜在する魔力量によって見えるかどうか変わるんじゃないか」って予想してた。俺にゃサッパリだ。
「すげーな、あの常治とかいう奴。俺らでもあんなポイポイ荷物を動かせんぞ」
「特別ガタイが良いってわけでもないのになぁ。最近の外来人はそんなもんなんかね」
「…………」
(外来人……人里の人たちも知ってるのか。探せば俺以外にもいたりするのか?)
俺が外来人だってのは、俺からはあの人たちには言ってない。だけど分かっちまうもんなんだなぁーー。外の世界でもよ、田舎だと自己紹介もしてないのに「ここの人じゃないね」って言われたりするし、案外そういうもんなのかもな。服とかも新しく買って、結構馴染んでると思ったんだけどよ。
だが、もし外来人が俺以外に里にいるってならぜひ会ってみたいもんだな。後輩として色々話を聞いてみたいぜ。
「あ〜〜〜〜っ……!! マジかぁ、やられちまった! ちくしょおめっ」
「え、どうかしたんスか?」
「これ見ろこれェ!」
畑の主のおっちゃんが人参持って俺のところにやってきた。なんかすげぇ喧しくしながらこっち来たけど、持ってる人参がその理由らしい。
おっちゃんが掲げて見せたその人参は、下の方が齧られてるように欠けてた。いや、マジで齧られてんな。歯型がついてる。しかも……何だろうなコレ……。黄色い汁みたいなのがこびりついてる……。人参の汁じゃねぇのは分かるけど、歯型もやけに人間のっぽいし、どーなってんだ?
「こいつぁ妖怪の仕業だ。あいつら、里の中には踏み込んでこねぇが畑にゃ荒らしにやって来る。向こうの端っこの方のは大体掘り返されてやがった……」
「え、じゃあこのばっちい汁は妖怪の……」
「唾だな」
きったねぇなおい! そんな俺の顔に近づけんなよ!
つーか、妖怪って野菜食うんだな……。てっきり、人間しか喰わないもんかと思ってたぜ。今度本屋さんに行って妖怪図鑑なの買ってこようかな。あ、もしかして妖怪退治とか儲かるんじゃねぇか? 霊夢と被っちまうか……
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「ほい、直ったぜ」
「わあっ、ありがとう!」
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、俺もお金貰ってるんでね。また壊れたら来てください」
畑のバイトが終わったら、今度は俺が自分の家でやってる仕事だ。家の前でお手製の看板立て掛けといて、何か壊れた物があったら直しますよ〜って商売をしてる。
お客さんは……そうだな。日に3人ぐらいか? どんなもんであれ、クレイジー・ダイヤモンドで簡単に直せるからな。失敗しないし体力も使わねぇから一番楽だ。来る人や直すもんがまばらだから収入は安定しねぇけど。ちゃんと物によって値段変えてるんだよ。
しっかしさっきの親子の持ってきたもんにはビックリしたな。ハンドスピナーだっけ? あれ。
たしかに外の世界じゃ流行りは廃れてたけどよ……。あんなのも幻想入りするんだな。ちょっと懐かしい気分になったぜ。
コンコン!
「ん? はーい。どぞぉ〜〜」
親子が帰って、俺は家の中に戻る。
するとすぐ、誰かに戸をノックされた。他のお客さんが順番待ちしてたのか? 全然気づかなかったな。それっぽい人影が見当たらなかったもんで。
俺が返事をすると、帽子を目深に被った人が入ってきた。なんて言うんだ……探偵みたいっつーか、一昔前の記者みたいな服装のやつだった。
他の里の住人と比べると明らかに浮いてる……。和服じゃねぇからだ。何もんだ……?
「いやぁ、突然すいませんねぇ。"壊れた物は何でも"って看板に書いてあったもので。ちょっと直してもらいたいものがあるんですよ」
「ええ、いいっスよ。どれです?」
「これです、これ。カメラ」
声からして、この客は女だった。
俺に見せてきたのは、ちょっと古いタイプのカメラ。俺が外の世界にいた時だと、滅多にこういうちっこいのは見なくなってたな。名前とかサッパリ分かんねぇ……。一眼レフとかいうのじゃないのは確かだ。
幻想郷って、意外に文明的なんだな。
「大丈夫っスよ。機械でも。直してみせますんで、貸してみてください」
「それじゃ、お願いしますっと」
俺はカメラをもらうと、客に背中を向ける。なんでこうするかっていうと、まあ、浅ましいが混乱させないためだな。目の前でクレD使おうもんなら、ちょっと騒ぎになりそうだし。スタプラ? パワーぐらいなら……力持ちなんだなぁ、で済むさ。多分。
クレイジー・ダイヤモンドを背後に出現させて、俺の手の中にあるカメラに手を触れさせる。これでカメラの機能は元通りになるはずだ。
……だがこのカメラ、特別壊れた感じはしないんだけどな。
「……先週、博麗神社に変わった外来人が現れたって話があるんですよ。あなたのことですか?」
「……えっ」
「変わった力をお持ちなんですねぇ」
……こいつ、何でそのことを……? 里の人間にはアリスさんも霊夢も、俺だって先週のことは言ってないぞ……!?
それに、まさかスタンドが見えてるってことは…………あるな。クレイジー・ダイヤモンドを出した瞬間、間髪入れずに口に出した。ほぼ間違い無い……!
「……見えるんスか。
「バ〜ッチリ見えてますよぉ。式神……いえ、守護霊の類なのでしょうか? でもこんな姿の霊は今まで見たことがない……」
「何者です? 霊夢と同じで何かしら力がある人間なのか。それともアリスさんみたいに、人間そっくりの実は人外でしたってタイプなのか」
「さあ? どちらでしょ〜〜?」
何だこいつ……
飄々してるっつーか、真面目に相手したらダメなやつに見えるんだが……。そもそも何の目的があってここに来たんだ? このカメラ、多分マジに壊れてねぇぞ。俺と話をしに来た……のか?
「とりあえず、これ返します」
「ふふっ、ありがとうございます。ま、本当は壊れてなかったんですけどねぇ〜」
(やっぱ壊れてなかったんじゃねぇか)
「……壊れてなかったんなら、何の用でここに来たんです? まさか冷やかしに来ただけ?」
「違いますよーー。実は私、ジャーナリストでして! 外の世界から来たなら、どういうのかは分かりますよね? 私は記者で、新聞も出してるんです。『文々。新聞』っていうんですけどね」
そいつは俺に名刺を差し出す。紙切れに書いてある文言によると、どうやら記者なのは本当みたいだ。『文々。新聞』、『ライター』、『あや』。最後の二文字、それが名前か?
一応クレDはしまっておくか。何か変なことされても困るからな。
「どうです? 幻想郷には慣れましたか?」
「まあまあかな……。いや、取材するんだったら許可取るでしょ。なに勝手に始めてんスか」
「あややや……今のは世間話じゃないですか〜。これからお願いするところだったんですよ。で、どうですか? 新聞の一面にどどんと載れますよ!」
「そんなんで釣られるわけないだろ……。大体俺のことを載せてどうするんです」
「どうするって……載せるのが私の仕事ですからねぇ。何か、幻想郷の住人に伝えたいこととか無いです? 私の新聞を通じて、そういうのを広めたりできますよ。たとえば、このお店の宣伝とか……」
店の宣伝か……。まあ、できるならやりたいことではあるけどよ。つーか、取材したいなら客のフリして来るとかしなくてもよかったんじゃねぇか? イマイチ胡散臭いんだよな〜〜……
しかし、新聞か。バイト先のおっちゃんも見てたような……。もしかして、結構有名な新聞なのか?
「幻想郷にやって来たばかりの外来人が、お金に困らないなんてことはないでしょう? 繁盛に繋がるなら、今このチャンスは見逃せないんじゃないですかね〜〜。それに私も最近ネタが見当たらなくて……。どうか恵んでくださらないかなぁ〜〜っ」
嫌なニヤケ顔だな……。大方、宣伝してほしいって言ったらその代わり取材をって魂胆なんだろうさ。
まあ、言ってることは正しい。生活が困窮してるわけじゃないけど、アリスさんに返す金は早めに貯めたいもんな。それに……この新聞で俺のことを書いてもらったら、もしかして他の外来人とコンタクトも取れるかも……?
しゃーない……ノるか。
「分かりましたよ。取材と宣伝のギブアンドテイク、ってことっスよね。俺はちゃんと答えるんで、あなたもちゃんと宣伝してくださいよ」
「えへへ、もちろん分かってますよ。この清く正しい
射命丸……あや、か。多分これがフルネームだな。
あんまり隙を見せないように答えないと……。やっぱちょっとだが、こいつは油断できないオーラがある。ひょっとしたら、こんなナリで妖怪……なんてこともあるかもな……
俺は座布団を引っ張り出して射命丸に渡す。そしてちゃぶ台を挟んで、彼女と向き合いながら座った。そして、取材が始まった。
「それじゃあまずは、お名前と幻想入りしてから博麗神社に行くまでの経緯をお聞かせください。大体どの辺りで目覚めて〜とか」
「名前は星条常治。……外の世界で事故にあって、気づいた時は魔法の森でした。多分、その事故が幻想入りのキッカケだと思いますね」
「ほうほう、魔法の森ですか……。あそこは一日中瘴気が舞ってると思いますが、よく無事でしたね。白黒の魔法使いか誰かに拾われたんですか?」
(白黒……?)
「まあ……助けてくれた人はいますね。介抱してもらって、翌日博麗神社に連れて行ってもらいました」
(……反応を見る限り、彼を保護したのは霧雨魔理沙ではない様子。となると、人形使いの方かしら? 情報をくれた妖精に聞いとけば良かったなあ〜。でも、どちらにせよ
……何か考えてるな。アリスさんに迷惑かけたくないし、敢えて名前を伏せといたけど……。怪しまれてるのか?
そもそもこの射命丸、俺が博麗神社にいたことをなんで知ってるんだ? 人里での聞き込みではねぇよな。2人が喋ったってことも無さそうだけど……。となると、神社にいたところを見られてた……?
「ちなみにですけど、博麗神社にいた理由というのは外の世界に帰るためじゃなかったんですか? どうして幻想郷にいるのかを教えてもらっても?」
「帰りたかったですよ。でも、色々あって帰れなかったんです。なんでも、幻想郷に招かれたとか何とか……。俺にもよく分かりませんけどね」
「ほう! それはちょっとだけ興味深い。他の外来人とはどこか違ってるみたいですね」
(これは博麗の巫女に聞いたらちょっと分かりそうね)
「そうそう、違ってると言えば能力の方もお聞きしたいんです! さっきの守護霊のようなものは外の世界でも使っていたんですか?」
「いや、あれは幻想入りしてから発現したんスよ」
きたな……。これは特に気をつけるべき質問だ。あんまり下手なことは言えない。霊夢が念を押して言ってた……
『いい? あんまり嫌な目立ち方したくなかったら、あなたのその能力のことはベラベラ口外しないことよ』
『そうか? 俺が言うのも何だけど、結構すごいだろ。むしろ抑止力っつーか、情報だけで妖怪とか牽制できそうなもんだと思うけどなーー』
『幻想郷はそんな甘くないわ。むしろ強者に飢えてるやつもいるし、興味本位でいくらでもあなたに近づくやつがいる。結局はあなたの自由だけど、一応警告だけしといたから』
……やっぱり取材受けたの失敗だったかもしんねぇな……。こいつの新聞、幻想郷中にばら撒かれるんだったら霊夢の警告フル無視じゃねぇか。だけど、まだ隠せる。射命丸に見られたのはクレイジー・ダイヤモンドだけだ。
「へぇー、そうだったんですか。壊れたものを直す程度の能力……といったところですかね? でも結構良い体してますよね、あの霊。力仕事もできそうですし……。そもそも霊なんですかね?」
「さあ……それは俺にもサッパリ」
「ふーーん……」
ビュッ――――!
「うおっ!?」
バシィィッ!
「おおっ、ナイスキャッチ!」
はっ……! ハァァァ!?
こ、こいつ、いきなりペンを俺の顔に投げてきやがった! 冗談だろ!? どーなってんだこいつの頭! いや、それよりも……!
や、やらかした……!!
「突然すいませんね〜。あなたに危険が迫ったら、霊が出てきて守ってくれる。それを確かめるつもりでやってみたんですが……まさか本当にその通りとは。すごいですね。でも今出てきてるその腕、さっき常治さんが出してた霊のとは……また別のものですよね」
完全に俺のミスだ。あんなに警戒してたつもりだったのに……! クレイジー・ダイヤモンドの腕じゃなくて、常々使ってたスタープラチナを
こいつ、やっぱりタダもんじゃねぇ! 今確信に変わった! 壊れてないカメラを渡してきたのも、この時のためのブラフだったんだ……!
追い込み漁業みたいに、俺を都合が良い方向に追いやってたんだ。
「……何か、意図的に隠されてることありますよね? 常治さん。能力って、本当に壊れた物を直すだけなのかな? 最初の霊が壊れた物を直す能力を持ち、で、今のその腕の霊はまた別の能力を持ってる……なんてことって、あります?」
「…………」
「んん〜〜……黙秘権行使! って感じですか。私としては裏取りもしたかったんですけどねぇーー。ま、仕方ない」
射命丸はため息を吐きながら立ち上がると、ペンをスタープラチナの手から取り返す。そして靴を履き直して、出口の方へと步を進めた。
……まさか、帰るのか? 終わり?
それ以上はぶっ込まないつもりでいるのか……。いや、俺が隠し事をしてるのはバレちまった。それに、これを記事にするなら、どんな形で幻想郷にばら撒くのか…………
……俺は今から、褒められないことをする。
「いやぁ、取材に応えていただいてありがとうございました。約束通り、あなたのお店の宣伝の文言! ちゃんと書いときますんでね〜。できれば、もう少し色々聞いときたかったんですけどね。あの霊のこととか。でも、大丈夫。私は
そう……。それが困るんだよ。
俺には他に隠された能力があるっていう真実。それをばら撒けば、色んな方向に話が広がるかもしれない。それは……今は避けたい。もうちょっとタイミングを図らないと、変なトラブルになって居座りづらくなるかもしれないってのが、一番困る……!
すんません、射命丸さん。許してくれ……!
ガシッ――――
「えっ、常治さん? どうして腕を掴ん――――」
「ヘブンズ・ドアー」
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まあ、正直に言うと罪悪感はある。めちゃくちゃな。本当に悪いと思ってるよ。何たって、一方的に約束を破ったんだから。言い訳はしない。
あれからどうしたかっていうと、射命丸さんの記憶、俺に関することを丸っきり全部書き換えた。結構チグハグにな。だから、目を覚ましてからは混乱するたぁ思う。手帳のメモも、クレDでインクをペンの中に戻して白紙化した。これで問題は無いはずだ。射命丸さんはちょっと離れた路地裏に置いてきた。人目にはつかないし、大丈夫とは思う。多分……
ちょっと欲張った結果とはいえ、俺のやらかしでああなったからな……。射命丸さんもちょっとズリィとは思ったけどよ、後から「やっぱりこの話無し!」っつってヘブンズ・ドアーは、やっぱダメだよなァァーー……
幻想郷、俺が想像してるよりずっと魔境らしい。
何つーか、外の常識はここにはねぇんだな。
スタンド:「ヘブンズ・ドアー」
本編に限らず、外伝作品でも活躍するスタンドだ。活躍の機会が多いからか、時間と共に能力が変化してる。能力というよりかは発動条件が、って感じだが。
能力は対象を本に変えて、記憶を覗き見たり改竄することができる。命令を書き込めば、その通りに対象を動かすこともできる。
登場初期は、このスタンドの本体が描いた漫画の原稿を見た人間を本に変える能力だった。それからスタンド自体が対象に触れたり、離れた位置にいる人間も本に変えれたりするようになり……最近だと触るだけでも本に変えてる。
直接的な攻撃力が無い以外は、長所しかないスタンドだ。
幻想郷幽波紋縁起 著者 星条常治