「幻想郷の……人々のため?」
俺は……俺と同じく幻想入りしてきた女性、
中断してた話、どうして雲雀さんは幻想郷に残ってるのか。その理由を知りたかったんだ。幻想郷の人間のため……。それは、どういう意味なんだ?
「この幻想郷には、妖怪とか妖精とか、そういう空想のはずだった存在がいるのは知ってる?」
「ええ。魔法使いとか……っスよね? 人里の上白沢慧音って人も半分妖怪だってのは知ってます」
「そう……。慧音さんは全然問題無いんだけどね、やっぱり、妖怪は人間に害を及ぼす危ない存在なの。それで、この人里にはその妖怪たちに対抗する団体があるんだよ」
「妖怪に抵抗する団体?」
デモ、みたいなもんじゃねぇよな。
妖怪に抵抗って……妖怪と戦争でもする気なのか? ただの人間かつ、文明もそこまで発展してなさそうなこの人里で、そんな力が蓄えられるとは思えねぇけどよ。
でもまぁ、前に畑仕事で妖怪に作物荒らされたりとかしてたし、巫女の霊夢の仕事の一つに妖怪退治があるってのも聞いたことがある。結構妖怪がダイレクトに被害を与えてるってのはそうなのかもな。そりゃ抵抗しようって思いが生まれるっつーのは分かる。
「私ね、その団体に一応入ってるんだ。妖怪に脅かされる里の人々のことを、どうしても放っておけなくてね」
「なるほど……。それで幻想郷に残ってるってことスか……」
「うん。リーダーの人に誘われて。人が少ないし、活動資金も幹部の人たちの自費みたいでね? だから、私にもできることならって思って」
「でも、その団体。具体的にどういう活動してるんスか? まさかしらみつぶしに妖怪退治しまくってるっつーわけじゃないですよね?」
「それしかしてないってわけじゃないよ。妖怪退治もしつつ、幻想郷で力がある妖怪の研究とか、歴史や地形の研究をして妖怪に対する知識を蓄えてる最中って感じ。山に行って、動物みたいな妖怪の生態を調べることもこの前やったよ」
ふーーん……。そういうこともしてるのね。
研究か。妖怪の弱点を見つけて〜とかなのかな。嫌いなもんとか見つけて、妖怪を追い払う的な……。吸血鬼に対するニンニクやら十字架みたいなのを律儀に買い揃えようとかしてるなら、ちょっと可愛いもんだけど……。本当に生態調べに行ってんのはガチだな。そんで同時に、超危なそうだ。
それにしても、幻想郷で力のある妖怪ねぇ……。例えば、八雲紫とかか。霊夢から話を聞いた限りだと、倒せる倒せないの次元にはいなさそうだけどな。何か算段があって言ってるのやら。
リーダー……か。自費でやってるっつーことは、逆に言えば周りから支持されてないとも取れるけど、どうなんだろうな……
「雲雀さんは、妖怪に怯える幻想郷の人間の力になりたいから、その団体に入ったんスよね?」
「うん。そうだよ」
「俺が話を聞いて思ったのは……とにかくその、危なそうだなってことなんスよ。怖いとは思わないんスか? だって、妖怪と敵対するわけでしょ? まさかとは思いますけど、死人とか出てないっスよね……」
「……正直なことを言うと、怖い気持ちはあるよ。里の外に出て調査することもあるしね。私はまだ行ったことないけど……」
「マジスか……里の外って、それこそ妖怪に襲われるんじゃ?」
「この前に2人、亡くなった」
……本当かよ。マジで死人出てるのか……
いくら人里の人に同情したからって、自分の命も危ないところに放り込むこたぁねぇだろうに……。それも何の能力も持たずによ。でもそれは、紛れもなく雲雀さんの優しさなんだろうな。
俺には、ちょっと無理だと思っちまうぜ……
たとえスタンドが使えてもよ。
「あの、ごめんね? すごい暗い感じになっちゃったけど……本当は人里のために活動してる、結構活気ある集まりだからさ!」
「……雲雀さん」
「ん? どうしたの?」
「俺、雲雀さんにまだ話してないことがあるんスよ」
俺にはまだ雲雀さんに話してないことがあった。彼女に話したのは俺の名前と年齢、そしてどれぐらい前に幻想郷に来たのかってこと。
伝えてなかったのは、俺の
「俺、実は能力があるんです」
「え? 能力? それって…………慧音さんの『歴史を喰べる程度の能力』……みたいなって、こと?」
「説明するとめちゃくちゃ長くなるんスけど……例えば、店の中に持って入ってきた
俺は買った鞄の中にしまったスマホを取り出す。
こいつはスタンドのTHE MATTEKUDASAIが変身したスマホだが、スタンドの中でも珍しくスタンド使いじゃなくても確認できるタイプだ。だから、雲雀さんも最初このスマホを目視できていた。
俺は取り出したスマホに念じる。すると、スマホは形を変えて元のMATTEKUDASAIに戻った。この姿はスタンド使い以外には目視できない。つまり……
「えっ、ス、スマホが消えた!?」
「実は俺、色んな能力が使えるんスよ。今のは、俺以外の人が欲しいって言った物に変身できるヤツでスマホになってました」
「い、色んなって……他にも、さっきのみたいな能力があるってこと?」
「ええ。壊れたものを何でも直せたり、天気を操ったり、時間を止めたり……。俺にも、何でこんな能力が備わっちまったのかサッパリなんスけど、少なくとも普通の人間よりかはずっと万能って感じになってるんスよ」
「…………」
雲雀さんは絶句してる。
まあ、そうだよな。口だけならまだしも、実際に能力の一端を目の前で見せたんだ。足りなければ、今目の前でウェザー・リポートで雨雲を発生させたりしてもいい。
とにかく俺が今雲雀さんに伝えたいことは、ちょっと臭いことだけどよ。さっき言った最後の言葉に詰まってる。
「危険なことがあったら、頼りにしてください。俺、この幻想郷に来て初めて会った外の世界の人が雲雀さんなんです。だからその縁は大切にしたいって思ってます」
「もし危ないこととか、困ったことがあったら俺、手伝いますから」
「……うん。頼りにさせてもらうね」
雲雀さんとの会話はこれで終わった。
何つーか、いや、クセーこと言っちゃったな〜って……。あの雰囲気に耐えきれなんだ。でも、初めて会った俺と同じ外来人だ。仲良くやりてぇ気持ちが当然ある。また近いうちに会ってみたいもんだぜ……
だが、それにしても妖怪に抵抗する団体か。話を聞いただけでも危なそうな臭いがプンプンする。俺もちょっと調べてみるかな……
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「またねー慧音先生!」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」
「……お、授業終わってたんだ。ちょうど良いや」
寺子屋前まで戻ってくると、中に居た子どもらが帰り始める最中だった。子どもに手を振って見送ってんのは……あの時、居酒屋で会った女の人。例の半妖、上白沢慧音だ。
母之手で雲雀さんと話してる内に、良い具合に時間を潰せたみたいだな。グッドタイミングだ。今だったら話しかけに行ける。
「あの、すんません。慧音さん」
「ん? 君は…………ああ、以前飲み屋で会った青年か? どうかしたかな」
「はい。えーと、この前の件でちょっと……。あの時はありがとうございました。これ、良かったらぜひどうぞ」
「ずっと気にしてたのか? それほどのことではなかったと思うがな……。でも、有り難く受け取らせてもらうよ。今日はもう授業が終わったんだが、君さえよければお茶ぐらい出そう。上がってくれ」
慧音さんはあの時のことをあんま覚えてなかったっぽいな。まあ、普段の生活の中の一瞬みたいなもんだったんだろう。別に無理もないとは思う。俺が一方的に気にして、話を聞きたくてやって来たわけだからな。
団子を受け取ってくれた後、慧音さんは俺を寺子屋の中に招いてくれた。教室の更に奥に客室があって、俺はそこへ通された。
お茶と買ってきた団子を目の前の机に出されて、俺と慧音さんはお互い向き合って座る。
「幻想郷には慣れたのか?」
「え?」
「君は外来人だろう? いつからここにいるのかは知らないが、来て日が浅いのは一目瞭然。それでも馴染もうと頑張ってるのは分かるさ」
「……あれ、俺が外来人ってこと、教えましたっけ?」
「それぐらい雰囲気で分かる」
はえーー。やっぱり分かるもんなんだな。
純粋な人間じゃない……んだっけか。慧音さん。半分混ざってる妖怪の要素が、そういうのを嗅ぎ分けたりとかしてるのか……
それにしても妖怪、か……。「あの人は違う」とは雲雀さんも言ってたけど、この人も半分妖怪なのはその通りなんだよな。例の団体はこの人のこと……この人は、あの団体のことをどう思ってるんだろうな。
「慧音さん、ちょっと聞きたいことがあるんスけど……」
「うん?」
「さっき、『母之手』っつー店に行ってきたんです。そこで外来人の加賀野雲雀って人と会ったんスけど……慧音さんは、雲雀さんのことご存知ですか?」
「ああ。知ってるとも。私もあの店にはちょくちょく顔を出す。彼女は、とても良い子だと思うぞ」
「雲雀さんのこと、どれぐらい知ってます?」
「お前……」
「い、いや! 変な意味じゃねぇっスよ! そーゆーのじゃなくて……」
そう、そういうのじゃない! そんなストーカーみたいなことはしねぇよ……。だから慧音さん、そのジト目はちょっとやめてくれ……
俺が今知りたいのは、慧音さんはあの団体のことを知ってるのか、雲雀さんがその団体に身を置いてることを知ってるのかっつーことだ。話だけでもかなり危険なのが分かる。慧音さんは、そのことについてどう思ってんのか。それが気になってんだよ。
「例の、
「……秘密結社?」
「簡単に言えば、妖怪に抵抗する団体のことだ……。お前が知りたいのは、それじゃなかったのか?」
「! そ、そうです! 俺もその話を雲雀さんから聞いて」
「なるほど……。勧誘でもされたか? 入るかどうか迷ってるなら、相談に乗ってやってもいいぞ」
慧音さんの雰囲気が少し変わった。何というか、あまり触れたくなさそうっつーか、呆れたような顔になった。さっきまでは穏やかな感じだったのに……
もしかして、その秘密結社とやら。俺が感じた通りの団体なのか? 怪しさ満点って感じだとは思ったが、慧音さんも同じように思ってるのかもしれないのか。
「勧誘はされてませんけど、ちょっと気になって……。だって、妖怪に抵抗するなんてどう考えても危ないでしょ。それに入ってるっつーから、俺は雲雀さんがちょっと心配っつーか……」
「……まあ、君が彼女を憂うのは分かる。同じ外来人だから、といったところだろう。それに、君の考えも正しい」
(やっぱりか……)
「妖怪に抵抗する。この幻想郷において、その行動を取るというのは非常に危険だ。それは単に、抵抗された腹いせとして人里の外の妖怪に襲われるとか呪われるとか、そういうことだけを言ってるんじゃない」
慧音さんは一度お茶を飲み込む。
俺もお茶をちびっと啜って、慧音さんに質問した。
「……そういうことだけじゃないって……言うと?」
「君は、この人里が一体どういう経緯で形成されたか知っているか?」
「経緯? いや……分かんないっスね……。妖怪から身を守るために、みんなで寄って集って暮らし始めた……とかっスか?」
「
外来人の俺になら……? そうやって言うってことは、里の人間は人里ができた本当の経緯を知らないってことか?
そういえば、慧音さんは幻想郷の歴史の編纂者とか何とか……。だから、その辺の事情にも詳しいのか。だが、里の人が本当の歴史を知らないのは何で……?
「別に口外してはいけない話ではない。というのも、例の秘密結社『
「……それじゃあ、人里が生まれた経緯っていうのは……?」
「ここは、いわゆる箱庭のようなものだ。人間は外部の者の意思により、この人里に集められている。その意思こそ、妖怪のものだ」
「え……」
妖怪の意思で、この人里ができたってことか?
何のために? 妖怪って、人を食ったりするんじゃないのか? わざわざ人を一箇所に集めて……牧場みたいにするつもりだったってことなのか? でも今は、むしろ手出しできなくなってるじゃねぇか。
「妖怪と他の生物の違い……君には分かるかな」
「え? えーと……何だろうな。何か、特別な力を持ってるとか? 火を吹くとか変身するとか……」
「ふむ。まあ、間違っているとは言うまい。妖怪と他の生物の最大の違いとは、自分の力だけでその場に存在できるかどうか、ということに尽きる」
「……?? というと……?」
「例えば、人間は空気と水、食べ物があれば生きていける。それは犬や猫や、牛などだってそうだ。だが、妖怪は違う。私は半妖の類だからまた違うのだが、妖怪は自身を恐れる人間の『心』が存在し続けるために必要なんだ」
「……つまり、人里っていうのは妖怪を恐れる人間を一箇所に集めて、管理するために作られたってことスか……?」
「そうだ。人里の人間に手を出してはいけないのは、妖怪の間での暗黙の了解。何よりそれは、自分たちの存亡に関わることだからな。知能のない獣型の妖怪は稀に迷い込んだりはするが、むしろこの仕組みを理解する妖怪は人里を守る」
そういうことだったのか…………。妖怪が人間を食うために人里に攻め込んでこないのはちょっとした疑問だったが、そんな事情があったとは知らなかったぜ……
でも待てよ。そしたら、妖怪に抵抗しようとしてる秘密結社(=蛙手)の存在は見逃していいのか? そいつら、さっき慧音さんが言ってたように人里の歴史を知ってんのなら妖怪への恐怖がむしろ減っちまいそうなもんだが……
いや、知ったからこそ抵抗しようとしてるのか……? 確かに、妖怪からしたら人里は牧場みてぇなもんに変わりはねぇもんな。
「慧音さんは……あの団体のことはどう思うんですか?」
「ふーーん……まあ、褒められたことをしているとは言えないな。妖怪が手を出せないと分かっていて、あのようにしているわけだ彼らは。かと言って、人間である以上妖怪に勝つこともできまい。仮にも妖怪に打ち勝てたとして、幻想郷と共に滅びるのは目に見えている」
「…………」
「愚かではあるが勤勉だ。いずれはそれに気づいて、鳴りを潜めるだろう」
「でも、死人も出てるんスよ」
「そう、それだよ。私も危惧していることだ。私は極力人間を守ることに努めてはいるが、自らの意思で妖怪に立ち向かい、命を落とすのを止めるのは馬鹿馬鹿しい……というのが本音さ。止められるなら、止めたいものだよ」
慧音さんはため息混ざりに答えた。そして置かれた手土産の団子を一つ、二つと口に運ぶ……
なるほどな。『蛙手』の連中の目的と、何でそんなことしてるのかっつー背景はよく分かった。雲雀さんは、ちょっとしか話してないがお人好しな性格だから、連中に手を貸したいって思ったんだろう。手は出されないとたかを括りつつ、勝つのが絶望的な相手に立ち向かうか……。字面は良いし、かっこいいかもしれねぇが、慧音さんの話を聞いた後だとそうは思えねぇ。
だけど、俺は雲雀さんの力にもなりたいのは事実だ……。俺は、どうすりゃいいんだ? 人間として妖怪に抵抗するのを応援すればいいのか、それとも、歴史を知った身として秘密結社を止めた方がいいのか……
「ん……?」
俺は部屋の隅にチラッと目をやった。
さっきまで無かったはずだったんだが、何かの影がそこにあったんだ。黒くて、丸っこくて、だが結構デカい影だった。
俺は驚いた。スタンドの独り歩きっつーのは、ちょくちょくジョジョの原作でもあったことだ。だが、俺は今初めてそれを体験した。俺は何も意識してない。いきなり、それは出たんだ――
「ひ、雲雀さん…………!?」
ローリング・ストーンズ。
首元に複数の穴が空いて、そこから血を流す女性の姿が球体の岩に彫られていた。その人は間違いなく、雲雀さんの姿だった。
スタンド:エボニー・デビル
一言で言うと、人形を操るスタンド能力だ。
何か特別な能力があるのかっていうと無いんだが、本人が相手に対して抱いた恨み・憎しみが人形の動力になるようだ。原作だとかなりのスピード、パワーを手に入れてた。
ちっこい上にすばしっこいので厄介なんだが、ダメージはきちんと本体にフィードバックされる。だからまぁ……他のスタンドが使えるとなると、こっちを使うとはあまり思えないな……
幻想郷幽波紋縁起 著者 星条常治