慧音さんと雲雀さんに会ったその翌日。俺は昨日のことに悶々としながらも、この日もスタンドを使って日銭を稼いでた。
今回はどうやって稼ぎを得てたかっつーと……
「んーー……お、開きましたよ」
「ああっ、本当ですか! 良かったぁーー」
「いやぁ、助かったよ。これでお金を取り出すことができる! このまま金庫が開かなかったらどうしようかと思って焦ったが、良かった良かった……!」
俺は家の近くにあった、夫婦でやってる服屋の奥でその仕事をしてた。開かなくなった金庫を開けてやるっつーことをな。たま〜にテレビでやってたやつの真似事だ。
スムース・オペレイターズ。何でも引っ張ったり押しやったりして、掴んだものを元の位置からズラしていくスタンド能力だ。こいつで金庫の面倒くさい鍵を解錠して、頑固な金庫を開けてってる。
ダイヤル式の鍵なら、中の歯車まで鍵穴を通してスムース・オペレイターズを内側に送って、正しい噛み合わせになるよう回すだけ。結構簡単な仕事だぜ。
「はい、これお代だ。ありがとよ! また何かあったらおたくに頼ませてもらうぜ」
「ええ、またお願いします」
俺は主人から差し出された手を握って握手してから、代金を貰って外に出た。ああいう風に思ってもらえるのはやっぱ嬉しいよなぁ。
ただ、ああいう商売をしてると今まで以上に稼ぎづらくなったってのはある。つーのもな、この前みたいに射命丸とかいう記者に目をつけられても嫌なんだよな。家で何かをやるっていうのは、色々リスクがあるのよ。
だからこうして、客の家に出向いてスタンドを使う。そーしてる。
「……しっかし、この方法でも俺の食費の足しぐらいにしかならねぇなーー。アリスさんに返す分とかは畑やら居酒屋のバイトだし……。中々集まらねぇもんだぜ」
やれやれだぜ。
でもまぁ、俺にだって色々やりようは他にもある。金を稼ぐ、集めるっつったらやっぱりあれだよな。『ハーヴェスト』。一回だけやった。でも思いの外集まらなくてな……。持続時間のギリギリまでやっても、外の世界でいう一万円も集まったか怪しいぐらいだった。
いや、効率は良いけどさ……。なんか、自分が惨めになるんだよな……。俺、乞食みたいじゃん?
「でも流石に……『ミラグロマン』は使う気にならねぇよな〜〜……」
なんてことを口にしつつ、俺は手に持った一円札をヒラヒラなびかせながら帰路についた。
____________________
しばらく歩いていると、家からもう十数メートルってところまで来た。そこまで来て、俺は顔を上げて家の方を見るとあることに目がいった。
「……誰だ?」
俺の家の目の前に、黒い三角帽子を被った女の子が突っ立ってた。着ている黒いワンピースと白いエプロンといい、そして手に持っている箒といい、それこそ魔法少女的な感じの雰囲気。
ぱっと見はコスプレにしか見えないが、だが、アリスさんのこともある。もしかして、あの子も魔法使いなのか……?
だがそうだとして、なんで俺の家に……?
「ん?」
「……!」
(あ……目が合った)
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……なにジロジロ見てんだよ」
「いや、そこ俺んち……」
「ここがか? じゃあ、お前が星条常治か」
…………!?
俺の名前を知ってる……。こいつ、何者だ?
記憶が正しかったら、俺とは初対面のはずなんだけどな……。魔法使いっぽい姿ってことは、アリスさんの知り合いか?
「なんだよーー、だったらはじめに言えよな。じーっと見てきて何かと思ったぜ」
「……いきなりだな。お前こそ、なんで俺の家の前にいたんだよ」
「あんたを探してたんだよ。アリスに頼まれてな。住所は教えてもらってたんで、ここであんたが帰ってくるの待ってたんだ」
「アリスさんが?」
ってことは、こいつはアリスさんが俺に寄越してきたってのか? なんで———
あっ……。もしかして……
「あいつは今魔法の研究で手が離せないんだと〜〜。だから私が代わりに、アリスがお前に貸したっつー金をもらいに来たのさ」
「ああーー……なるほど。そういや、たしかに今日だったな……」
「おまえ〜〜、アリスと何かあったのか? あいつが外来人を家に泊めたりすることはあるけどさ、家借りるのに金出すとか初めてだ。明らかにお前を特別扱いしてる」
「アリスさんが特に何も言ってなかったら、俺からも言うことはねぇよ……。じゃ、ちょっと待っててくれ。今金取ってくるから」
……あの口ぶりだと、アリスさんとは前から知り合いって感じか。外来人をどうするかとか知ってるってことは、もしかして友だち関係とかか? 本人にゃ絶対言えないけど、友だち少なそうだったんだけどなぁーー。
そんなことを心の中で思いつつ、俺は白黒の魔法少女をどかして家の中に入る。
草履を脱いで式台に上がって、アリスさんに渡す封筒をギリギリ手が届く位置にある箪笥から引っ張り出す。中身に金額的に不足はないってことは……OK。確認した。
俺はまた草履を履き直すために振り返ると、目の前にはあいつが来ていた。
「……入っていいっつった覚えは無いんだが……」
「おう。言われてないぜ」
「いや、入んなよ。不法侵入じゃねぇか」
「ははっ、外の世界のアレか? 私も外来人拾った時、そいつに色々教わったっけな。だけど、この人里にゃあ法も律もねぇのさ。残念だったな!」
べーっと舌を出して挑発してくる魔法少女。
正直、うざい。
「……何がそんなに知りたいんだよ?」
「だぁからー、アリスがお前に肩入れしてる理由だぜ。何かあるんだろ?」
「何度も言うけど、何もねぇよ」
「何も無かったらアリスが大金貸すなんてしねーって。誰にも言わねぇからさ! いいだろ? ちょっとぐらいさ」
こいつ、多分教えないと引き下がらないよな……
誰にも言わないとかどうとか言ってるけど、なんか、こういうタイプって口軽そうにしか見えないんだが……。絶対言うだろ。周りのみんなに。
「〜〜〜〜っ……! わかったよ……。じゃあ、俺もお前から教えてもらいたいことがあんだけど、それと交換でいいか? タダで教えるのは割に合わないよな」
「へっ、何だあんじゃねーか。隠してくれちゃって……。ま、あんたが聞きたいことについては、私が知ってることならいくらでも教えてやるよ」
「グッド。上がりな」
俺は履きかけた草履をまた脱ぎ、魔法少女にも居間に上がるよう促した。
お茶は沸かしてなかったが、水とお茶粉はある。水瓶から水を汲んで、湯呑みに粉と水を入れると、スタンド『スピード・キング』の能力で一瞬で沸騰させる。あったかいお茶の出来上がりだ。
俺はちゃぶ台を挟んで魔法少女の前に座り、沸かしたお茶を少女の目の前に置いた。
「あんた、今お湯出してたか? 水汲んだだけだよな」
「能力さ。お前がさんざん知りたがってたことの一つ……だと思うぜ。俺にはいくつか能力があって、その一つで水を沸騰させたんだ」
「へぇーー。便利なもんだねぇ、お湯を沸かす能力か……。いくつかって言ったよな。他にも能力があるのか?」
「まあ、いろいろな。天候を操るとか、時間を止めるとか、火を出す、毒を出す……」
「ちょ、ちょっと待て……。えぇ?」
へっ、まあ驚くよなぁ……
借りものっつーか、完全にジョジョから引っ張られてきた能力だけど、実際俺に出来ることだからな。せいぜい驚きな。
……そういや、こんな嬉々として能力を紹介したことなかったよな。アリスさん以来か。雲雀さんにゃ、こういう感じでは言ってなかった。
「あぁ? 何だよあんた、ニヤニヤしてよ」
「え? 今……ニヤニヤしてた? 俺が?」
「そーだよ。気持ち悪かったぜ」
「う、うるせーな……。とにかく、俺がアリスさんに金を借りた経緯についてだろ? 今から順番に話してやる」
「えぇーー。それよりもさぁー、私あんたの能力の方に興味いっちゃったぜ。そっちを見せてくれよ」
「はぁぁ??」
ニヤっと笑った魔法少女はいきなりそんなことを口にする。
な、何を言い出すかと思えば……
こいつ、自由か!?
こういうのって傍若無人っつーんだよな? よくもまぁ、人様の家に無理に上がって更に要求できるもんだぜ……。だが、こっちもこっちで情報交換の条件は出してる。今こそそれを突き出すとき。
「じゃあ、はい。お前のまず、名前、アリスさんとの関係、その他諸々のお前に関する情報! そいつらを俺に明かしてくれたら、見せてやる! たっぷり」
「なーんだ、そんだけでいいのか? んじゃ、教えてやるよ! 私の名前は霧雨魔理沙、普通の魔法使い。アリスとは腐れ縁で、魔法の森住みだ。以上!」
「おい、情報少な過ぎだろ!」
「おいおいおいーー。お前にはデリカシーのデの字も無いなぁ? レディの身辺をそんなに嗅ぎ回るとは感心できないねぇ?」
「ああ〜〜っ? 割に合わねぇ! 約束したろーがっ! だったら俺も、お前の出した情報量に見合っただけの能力しか見せてやらねぇからな!」
「スタープラチナ!」
俺はスタープラチナを
魔理沙の目にしっかり焼きつけつつ、ただし物足りなさが確実にあるぐらいの一瞬だ。
実際、魔理沙はスタープラチナの姿はしっかり見えたようで、その姿が消えた時には目と口を見開いて驚きの表情を浮かべていた。
「あ、ああーーっ……!? い、今スゲーの見えた気がするぅ……! わ、わかった! もっといろいろ教えてやるから! な? もうちょっと見せてくんね? ね?」
「ほう……いろいろって、例えば?」
「あ〜〜……す、好きな食べものとか、特技とかぁ、ほら、いろいろだよ!」
「ん〜〜……却下」
「ええっ!?」
「さっきの約束通り、俺が質問したことには全て答えてもらう。んで、俺はちゃんと約束は守る男だ。お前に俺の能力をたっぷり見せてやるから……逃げようとか思うなよ」
俺は魔理沙が逃げられないよう、家の出入り口のどまん前に立ち塞がる。
こうなってしまっては、残念ながら俺の勝ちだな。
俺の能力をそんなに知りたいなら、いくらでも見せてやる。だが、約束は全部きっちり守ってももらう。両方やらなくちゃならないのがつらいところだが……ちゃんとやり遂げるのがこの星条常治よ!
「ま、マジぃ……?」
「マジだ。しっかりと、俺の全ての能力を見せてやるからな。そして、お前は絶対! 逃げられん!」
「あ、あんま変なこととか、聞くなよ……?」
「俺が知りたいと思わなかったらな」
「ああ……しまった。私終わったかも……。嫁に行けるかなぁ……」
「自業自得だ。最初っから真摯にやりとりすべきだったわけだな……。それじゃあ、いくぞ!」
「スタープラチナ! クレイジー・ダイヤモンド! ゴールド・エクスペリエンス! ハイエロファントグリーン! ザ・ハンド! エンペラー! キッス! キラークイーン! ソフト&ウェット! パープル・ヘイズ! ストーン・フリー! ウェザー・リポート! ホワイトスネイク! ボクのリズムを聴いてくれーーッ!」
「ああーーっ!! うるっせぇぇーー!!」
俺が家に帰ってきたのはお昼だったが、いろいろとケリがついた頃にはもう夕方になっていた。スタンド、多すぎるぜ。
だが、この日はこれだけで終わったわけじゃない。この後、魔理沙から聞きたいこと聞いてから、もう一波乱待っていたんだ。
魔理沙と話す中で、いつの間にか頭の片隅においやってたこと。ローリング・ストーンズに現れた雲雀さんの姿。アレに関わることが、これから…………
スタンド:スピード・キング
人型の近接パワー型スタンド。ちゃんとラッシュも打てる。
能力は、触った場所に熱を集めて溜めることができるもの。一見強そうにないが、使いようによってはかなり厄介ではある。
まず人体に触れた場合は体内のあらゆる水分を沸騰させ、一瞬で気絶〜絶命させることができる。その他、ワックスや車に能力を使って、任意のタイミングで溶かしたり、キーを回さずエンジンを掛けたりすることができる。
触っておいた物質に好きなタイミングで高音を発させることができるのは、かなり有用であろう。正面戦闘は難しくとも、日常生活や、せいぜい暗殺になんかは使えそうだ。
幻想郷幽波紋縁起 著者 星条常治