俺とおっさんは人里の西端を目指して歩き始めた。
蛙手の会合の舞台はそこにあるらしく、同時に里の外へ妖怪狩りや調査を行う拠点としても利用しているらしい。なんでも、『迷いの竹林』に特に近くて重要な場所なんだとか。
俺はその竹林の価値もあんまりよくわかってないんだけどな。だが、おっさんが言うには竹林に近いことで
「なあ、常治クンよ。お前の能力で灯りは用意できないのか?」
「……まぁ、できますけど。持って来なかったんスか?」
「本当はサッとお前の居宅を把握して、もっと早くに接触する予定だったんだよ。えらいこと長く霧雨魔理沙とお喋りしてたもんだからなぁ……。それで、できるんだな? それじゃあよろしく頼むよ」
「はいはい。THE MATTEKUDASAI」
俺がスタンドの名前を口にすると、オモチャの鳥のようなヴィジョンが俺の肩に現れる。
この前も使った、俺以外の人間が「欲しい」っつった物に変身するスタンドだ。
「じゃ、欲しい物を口にしてみてください」
「あん? だから、灯りだよ灯り。灯りが欲しいんだよ」
「もうちょっと具体的に。道具の名前を言ってください」
「……提灯が欲しい」
おっさんがそう言うと、MATTEKUDASAIは「ニュゥゥム」と音を立てながら変形していく。
あっという間に手持ち提灯に姿を変えると、俺はその持ち手を掴んで辺りを照らした。
「これで、周りがよく見えるっスね」
「うおっ、すげぇな……。便利なもんだぜ」
「さて、それじゃあ教えてもらいましょうかね。どうして俺を探っていたんスか?」
「ハッ、いきなりきたなぁ。だが、せめて口にした約束ぐらいは守らないとなぁ。いいぜぇ、ちゃんと教えてやるよ」
足を止めることなく、おっさんは話し始めた。
「まず、俺たちがお前を知った経緯から話そうか。お前、『母之手』に行ったな? あの店に行って、雲雀チャンと話していた……ところを、うちの人間が目撃していてな。ま、ハッキリ言うとそいつは彼女に惚れてたんだ。だから、雲雀チャンを眺めに母之手に行ったところ、彼女と楽しそうに話すお前を目にしたわけだ」
「経緯って……それだけっスか?」
「母之手でお前を見たそいつは、初めて見るお前と雲雀チャンがどうしてあんなに親しげに話していたのかが気になった。そしてお前が帰った後、雲雀チャンを問い詰めたんだよ」
なに?
それじゃあ、俺のことを蛙手に教えたのは……雲雀さんってことか? そいつに問い詰められて、俺の情報を話さざるを得なかったってことなのか……
そんで、能力のことを知った蛙手は俺のことを探していた……
「なるほど……。それで、能力のことを知ったアンタらは俺に協力して欲しくて俺のことを探った」
「ンン〜〜……そいつぁちょっと違うなぁ」
「え?」
「協力してもらうかどうかは、これから決まる。今はその前段階でなぁ。特別な力を持つお前が、里にとって、人間にとって有益な存在かどうかを問う……のが先だ」
「は……? ゆ、有益かどうか……だって?」
何だよそりゃあ……!? 俺が人間の敵かどうかを見極めるってのか? これから?
ふ、ふざけんじゃねぇ。なんでそんなことをこいつらに決められなきゃあいけねんだよ……! 俺は人間だぞ? 人間の味方に決まってるだろうが!
「まーー、お前の気持ちもわかるぜ。でも仕方ないんだよ。ここら西区の代表が言い出したことで、俺らにもどうしようもない。俺の印象だと、お前は悪い奴とは思わんがなぁ」
「当たり前だッ。俺が人間の敵なワケねーだろーがっ!」
「それはうちの代表に是非言ってほしいんだよなぁ」
「…………そういや、さっき西区の代表とか言ってたっスよね。その人の名前は?」
「
「総代、西区代表……っつーことは、六川が蛙手のトップ。そして東西南北の幹部みたいなのがいるってことになるのか? アンタらの秘密結社って、そんな規模デカいのか……」
「蛙手全員で何人になるのかはわからねぇが、少なくとも西区だけで三十人はいる。そのテッペンにいるのが虎堂さんだ」
西区の蛙手の人数は三十。雲雀さんもその一人ってわけだな。
その代表の虎堂って奴に会って、妖怪狩りに俺が参加できるよう掛け合ってみねぇと。そうしねぇと、雲雀さんを守ることはできない。
虎堂が駄目なら、すぐにでも六川の方へ向かって……
「そういえば常治クン、六川総代についてだが……」
「えっ? あ、ああ……何スか?」
「まず会うことはできないと思った方がいいなぁ。あの人は多忙な方らしくてな、前の総代が亡くなってからずぅっと忙殺されてるのよ。本人に会えるのは、区の代表だけと言われてる」
「そうなんスか……」
「フン……総代になるまで、あの人は区代表でな。四人の中で一番の新人だった。そして誰もが、次の総代は歴の長い東区の代表だと思ってたんだよ」
「それじゃあ、なんで新人の六川が総代になったんスか?」
「それがわからねぇんだよなぁ。噂だが、何か謀があったって言われてる。そして、その後釜に選ばれたのがうちの虎堂さんだ。六川総代は、元々西区の代表だったんだよ」
なるほど……。そういうことなら、虎堂は四人の代表の中で一番の新人ってわけだ。もしかして、割と若かったりするのか?
そんで一番総代として期待されてたのが東区の代表で、裏でなんか策略があって六川が総代になったって言われてると……。あんまりピンとこねぇ話だが、掘ってきゃ他にもっと良い情報が知れるかもしれねぇな。
「新人の六川総代の言うことを虎堂さん以外の区代表は中々聞かないらしくてな。それもあって、忙しいんだと。先代が亡くなってまだ三ヶ月だからなぁ、言うこと聞かないのは普通かもしれないが」
「……総代も大変そうスね」
「ハッ、ちげぇねぇ。だが、あの人は優秀な人だ。ぱっと見は地味で派手なこともしないんだが、下準備を徹底してやる。だから里の外での活動では他の区よりも怪我する奴が少なかったんだよ」
「ちなみに今の虎堂って人はどうなんスか?」
「六川総代を慕ってる割には、考え無しに突っ走る感じだなぁ。前の調査じゃ死人も出してる。全体的に見ても他の区より多いなぁ」
……雲雀さんも言ってたな。確か二人ぐらい死んだとか。
待てよ、そういえば雲雀さんってリーダーの人に誘われたとか言ってたよな? んで、蛙手自体は幹部の金で活動してるって……
これって幹部が区代表のことで、リーダー=六川ってことになるのか……? もしそうなら、なんで多忙な六川が直々に雲雀さんを……
「ちなみに蛙手の幹部って、区代表の他にいるんスか? 雲雀さんはリーダーの人に直接誘われたって言ってて、それってまさか六川のことじゃ?」
「地位としての幹部となると区代表までしかないなぁ。他の区は独自に代表が自分の下に役職を置いてるかもしれないが……。
おっさんは急に足を止める。
俺も立ち止まって、おっさんが見つめてる方へ提灯を持ち上げて目をやった。
空はもうすっかり暗くなってたが、時間の割には暗すぎると思ってた。西に向かってるとはいえ、だ。
それが何でかわかったんだよ。俺たちが歩いていた通りを挟む長屋の屋根に、ズラァっと黒い影がたくさん並んでたんだ。
そいつらは目を光らせて、俺たちを凝視していた。
「な、何だ……!? こいつら!」
「カラスだ……。でも、何でこんなに…………!?」
おっさんは取り乱す。
まぁ、当然だよな……。俺も正直ビビった。
だがカラスたちは、俺らがそいつらに気がついたのを認識すると、一斉に羽ばたきだして北の空に飛び立っていった。バサバサ、バサバサと轟音を響かせてだ。
「何だったんだよ……? こ、こんなこと一度も……! まっ、まさか妖怪の仕業かぁっ!?」
おっさんは見るからにビビっちまって、それからはずっとこんな感じだった。ブツブツ妖怪がどうのって喋りながら、ひたすら会合の場所に向かってった。
俺もそんなこの人の様子見ちまったら質問する気も起きなくなってよ……。結局どうして六川が雲雀さんを直接スカウトしたのかはわからずじまいだった。
二人して黙ったまんま、西の方に歩いていった。
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大量のカラスを見てから何分ぐらい歩いたかわからないが、俺たちの目の前にえらく明るい三角屋根が見えてきた。それなりの人数の人の声みたいなのも聞こえる。
会合の場所、ここか。確かに近くに竹林も見える。
もうちょっと近づくと、その建物がどんなもんかもよくわかった。広場を八本の太い柱で囲んで、その上に屋根を乗っけたような感じ。デカい公民館みたいなのを想像してたが、全然違った。
そしてその場所には確かに二、三十人集まってがやがや喋ってたり、何やら荷物を運んだりしてる。
広場の真ん中には低い櫓みたいなのがあって、その上にはおっさんや周りの連中とは雰囲気の違う奴が立っていた。いかにも代表、といった感じのな。
そいつは勾玉みたいなのをネックレスにして首からぶら下げる、若い男。着てるのも和服っちゃ和服だが金色でド派手だ。
あれが、虎堂大河……?
「こっ、虎堂さんっ!」
「……
「へ、へい! だがその前にカっ、カラスがっ!」
「知ってる。とりあえず落ち着け、その話は後だ」
「え、えぇ……」
「……えぇと、星条常治くんだったかな? よく来てくれた。これから西区蛙手の会合を始める。君には是非立ち会ってもらいたいのだが、構わないよな? せっかく来たんだしな」
虎堂は櫓から降りてくると、未だに怯えてるおっさん(三矢って名前だったのか……)を軽くあしらって俺の方へ歩いてきた。
俺と身長はそんなに変わらないし、三矢のおっさんに比べたら全然若いが……えらい偉そうだ。こんだけしか喋ってないのに、鼻につくもんだ……
でも、断る理由は無い。
「えぇ。そのために来ましたンで、大丈夫っス」
「よし。では、これより始めるぞ!」
虎堂は俺の返事を聞くと、踵を返してまた櫓の方へ。
だが今度は櫓に登らず、大声で周りの連中を自身に注目させて周りに集めた。
「……常治くん、常治くん」
「ん? あっ、雲雀さん!」
広場全体に散らばってた奴らが櫓の周りに集まる中、俺の背中をつつきながら声をかけてくる人がいた。
雲雀さんだった。眉を八の字にして申し訳なさそうな顔をしながら、俺の側にやって来た。
「ごめんね……。常治くんのこと、喋っちゃって……」
「いえ、そんな……! 雲雀さんも蛙手の奴に詰められたって聞きました。どうしようもねぇっスよ、そんなんになっちまったら」
「うん……」
ああ、雲雀さんのせいじゃない。
そんな強引な方法に出る奴らの方が悪いんだよ。もし虎堂の最初の一言が雲雀さんと俺への謝罪じゃなけりゃあ、マジでどうしてやろうな。
……どうせ謝罪じゃねぇか。
「人が揃ったところで、いよいよ始めさせてもらう。今回の話題についてだが、まずは次の里外妖怪掃討の予定について。そして……」
虎堂は俺をキッと睨みつけ、指差した。
「そこの男、外来人の星条常治が、我々里の人間にとって無害な存在かどうか! それをこの場で判断するッ!!」
虎堂が指差した段階で周りの結社の奴らは全員俺に注目。そして代表サマのお言葉が広場で木霊すると、次には彼らのざわめきが起こった。
……ま、これは三矢のおっさんから聞いた通りだな。ここで初めてこれを聞いてたら、ブチギレ猛抗議もんよ。
大方、たくさんのスタンド能力を身につけてるってことから危険視されてんだろうなぁ〜〜。三矢は俺と魔理沙の会話を聞いてたから警戒心は持ってなさそうだったが、こいつらは違う……
三矢が虎堂に口聞いてくれりゃあ面倒なことにはならねーだろうに……
「ちょっと待ってください! 常治くんには確かに特別な力がありますけど、彼は人間の敵なんかじゃありません!」
「雲雀、お前が星条と会って話したことがあるのは一度だけだろう。しかもたった数分のことだ。その短い時間で判断しているのか?」
「それはその通りですけど、彼は……何かあったら自分を頼ってくれって言ったんです。会ったばかりの私に。それに外来人でありながら、早く里に馴染もうとしている! たくさん働いてだっているんです」
「その裏で何を考えてるかわからないじゃないか。ひょっとしたら、外来人だというのも偽りの情報で、人の形をとった妖怪の手先な可能性もある。多彩な力がその証拠だ」
「妖怪の手先なら、むしろ力を隠し通して目立つのを避けるはず。どうしてわざわざ私に打ち明けたのかがわかりません。それについてはどう思いますか?」
「外来人と偽っているわけだ。手始めにまず、お前に近づいて信用させる。そういう方法をとっていると想像つかないか?」
虎堂と雲雀さんの舌戦が繰り広げられる。周りの連中のざわめく声もどんどん大きくなってる。
まぁ、味方が雲雀さんだけってのはそうだろうよ。三矢も黙ったままだし……あの人は俺よりもカラスの話の方をしたいんだろうな。
つーかよ、俺の話題なのに俺、蚊帳の外じゃねぇか。
俺話者から弾き出された上に勝手に決められるのか?
「幻想入りしたばっかの奴を信用するのは怖いな……」
「それ言い出したら雲雀だってそうだろ」
「あいつは六川さんが引き入れたんだからまた別だ」
「まだガキじゃねぇか……。あんなのまで疑うのかよ」
「妖怪の奴らはガキみてぇな姿したのが多いぞ。紅魔館の吸血鬼はまさしくそうじゃねぇか」
連中は割と俺が妖怪側だって思ってる奴ばかりでもないみたいだ。
耳に入ってきた会話だと、虎堂の言い分に懐疑的なの人もいるらしい。
……だが、これ以上放っておいても埒があかない。そろそろ俺からも言わせてもらおう。
どうして俺が、
「虎堂さん」
「うん? どうしたかな、星条常治くん」
「そろそろ俺からも喋らせてほしいと思ったんスよ。ずぅっと俺のこと仲間外れにして喋ってんだもんな。俺の言い分、そろそろ聞いてくださいよ」
「……いいだろう」
「俺にたくさんの能力があるっていうのは、雲雀さんから聞いてるはずだ。そしてその能力のうち、『人の死に様がわかる』石の能力がある。雲雀さんと会ったその日のうちに、その石に彼女の姿が見えたんだ」
俺がそう言うと、周りからどよめきが起こる。
雲雀さんも驚いた表情を浮かべている。
虎堂も一瞬驚いたようで口を開くが、すぐに三矢の方に向き直って尋ねた。
「お前、知ってるか?」
「……里の外に住む魔法使い、霧雨魔理沙との会話を盗み聞きしてたんですが……確かに言ってました。俺に気づいていない時に話してたんで、おそらく本当のことかと」
「ああ。俺は雲雀さんの死をどうにか回避したくて、ここにアンタらと話をしに来たんだ」
どよめきはさらに大きくなる。今まで虎堂側だった人間が、本当に俺が人間側なんじゃないかと考え直したらしい声も聞こえてきた。
……まぁ、人間側とか妖怪側とか、そんな極端なことは俺も考えてないんだけどな。無実で、精一杯生きてる人が、理不尽に殺されたりするのが嫌なだけだ。
妖怪側にも、アリスさんみたいな存在もいるわけだしな。
「静粛にィッ!!」
虎堂が声を張り上げる。一拍置いた後、徐々に周囲の声は少なくなっていき、やがて全員が口をつぐんだ。
広場が静まり返ると、虎堂は俺を見据えて口を開く。
「それが本当だとして、だ。君が妖怪の間者であったり、人里を脅かそうとする者でないという線が消えたわけではない」
「虎堂さんっ……!」
「君は黙っていたまえ、雲雀。そこで、星条くん。君をテストしようじゃないか」
「テスト?」
一応言っとくが筆記は自信ないぜ。
聞き返す俺に、虎堂はニヤリと口角を上げて言った。
「妖怪狩りだ。お前一人でな」