脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

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 髪を切られ、染められ、ついでにパーマなるものまで掛けられた。

 それと、眉毛も抜かれた。痛かった。

 美容師のイケメンが俺の髪に、ワックスなるものを付けて、ようやく全てが終わった。

 俺は恐る恐る、魔改造された自分を鏡で確認する。

 

「だ、誰だコイツ……?」

 

 そこには、茶髪のチャラチャラしているイケメンがいた。

 俺が戸惑っていると、隣で舞香が騒ぎ出す。

 

「ヤッバ!! お兄ちゃんヤバい!! マジでヤバい!!」

 

「そうか……。ヤバいか……。まぁ、髪が茶色だし、ヤバいだろうな……」

 

「超イケメンだよ!! 流石は舞香のお兄ちゃん!! 遺伝子は裏切らないねっ!!」

 

 どうやら、俺はイケメンだったらしい。知らなかった。

 正直、嬉しいという感情よりも、拒否反応が顔に出てしまう。

 陰キャの俺は、チャラチャラしたイケメンが苦手なんだ。

 そんな苦手な存在に、他でもない俺自身がなるなんて……。

 

「ウェーイ!! 少年っ、また来てくれよな!!」

 

「ま、まぁ、気が向いたら……はい……」

 

 お会計を済ませて、美容師に見送られ、俺と舞香は美容院から出た。

 街を歩いていると、いきなり舞香が腕を絡ませてくる。

 

「どうした? なんか、距離感がおかしくないか?」

 

「これでいいのっ! 舞香、今日からブラコンになるから!」

 

「お、おおぅ……」

 

 突然のブラコン宣言に面を食らっていると、見知らぬお姉さんに呼び止められた。

 スーツ姿の真面目そうな人だ。

 

「そこのお兄さん! 少しだけ、お時間をいただけますか!?」

 

「は、はい……?」

 

「私は、こういうものでして──」

 

 お姉さんが名刺を差し出してきたので、受け取ってみる。

 そこには、『モデル事務所、サマーズ所属。マネージャー、戸上(とがみ) 麻音(あさね)』と書かれていた。

 舞香が名刺を覗き込んで、キラキラと瞳を輝かせる。

 

「お兄ちゃんっ、サマーズ! サマーズだよ! きっとこれ、モデルのスカウトだよ!」

 

 舞香の様子を見る感じ、サマーズとは有名な事務所なのだろう。

 モデル事務所なんて、俺は全然詳しくないが、怪しい話ではなさそうだ。

 

「妹さんの仰る通り、スカウトのために声を掛けさせていただきました。当事務所の男性モデルが、急に仕事に来れなくなってしまって……」

 

 代理の人材を探していたところ、俺を見つけたらしい。

 

「い、いや、無理無理、無理ですよ……。俺、陰キャなので……」

 

「モデルは喋らなくても大丈夫ですよ! ただ、カメラの前で立っているだけでいいんです!! 先方にご迷惑をお掛けしてしまうと、私のお給料が少なくなってしまうんです……!! どうかっ、ここは一つ! 人助けのためだと思って!!」

 

 マネージャーは少し涙目になって、ペコペコと頭を下げてくる。

 ここで透かさず、舞香が彼女の味方をした。

 

「お兄ちゃんっ、やろうよ!! お兄ちゃんが雑誌に載ったら、舞香は鼻高々だよ!!」

 

「いやでも……恥ずかしいし……」

 

 俺が渋っていると、マネージャーが鶴の一声を発する。

 

「お給料も出ますよ!!」

 

「やります」

 

 金欠中なので、お金の力には抗えない。

 という訳で、俺と舞香はマネージャーの案内で、撮影現場へと移動した。

 カメラマンや照明、衣装、メイク担当など、色々な人たちが忙しなく働いている。

 

 俺はすぐに、着せ替え人形のように扱われて、メイクを施された。

 されるがままに身を委ねているので、『もうどうにでもして』という気持ちになってしまう。

 まな板の上の魚って、こんな気持ちなんだろうな。

 

「あらぁん? 坊や、信じられないほど肌が綺麗ねぇ。流石はサマーズ所属のモデルだわぁ」

 

「ど、どうも……」

 

 メイク担当のオカマに褒められた。ギャルっぽいおっさんだ。

 俺の肌が綺麗なのは、スキル【治癒掌】のおかげだろう。

 手持無沙汰なときは、自分の手のツボを押しているんだ。

 

「はぁ……はぁ……。坊や、照れちゃって可愛いわねぇ……。べろんべろんに、舐めちゃいたい……」

 

「ひぃぃっ!?」

 

 オカマの悍ましい台詞に、俺の背筋は凍り付いた。

 舞香に助けを求めようとしたら、あいつは俺のことを放っておいて、見知らぬ美少女に声を掛けている。

 

「レイナさん! サマーズのレイナさんですよね!? 私っ、大ファンです! 雑誌っ、いつも読んでます!」

 

「あら、そうなの? ありがとね、子猫ちゃん」

 

「キャーーーっ!! 素敵ぃ!!」

 

 レイナという人物は、ストレートロングの黒髪と切れ長の目を持つ、スラッとした美少女だ。

 髪質が非常によくて、シャンプーのCMに出てきそう。

 というか、実際に出ている人かも……。テレビで見たことがある。

 

「坊やっ、他のオンナに目移りしちゃイヤぁん! 今はアタシだけを見て!」

 

「ひぃっ!?」

 

 オカマは嫉妬に狂った女の目をして、俺の顔が向いている方へ割り込んできた。

 それから、幾つかのシルバーアクセサリーを取り出して、俺の耳に合わせ始める。

 

「坊や、イヤリングを付けてもいいかしらん? きっと似合うわよぉ」

 

「いや、いやいやいや、耳に穴を開けるとか、無理無理。怖い怖い」

 

「穴を開けるタイプじゃなくってぇ、挟むタイプだから大丈夫よん!」

 

 イヤリングを付けている男なんて、チャラチャラの極みだ。

 俺とは対極に位置する存在なので、どうしても受け入れ難い。

 ここは断固として断ろう。そう決めたときには、もうイヤリングを付けられていた。

 あんまり目立たないような、シンプルなやつだ。

 

「あぁん!! とってもイイわぁ!! アタシっ、坊やのこと気に入っちゃった!! ラインを交換するわよん!!」

 

「いや、しません。俺は、それをしません」

 

 百歩譲って、イヤリングはまだいい。どうせ今日限りのものだし。

 だけど、オカマとラインの交換なんて、絶対に嫌だ。

 

「アタシ、これでも業界では有名人なのよん!? 坊やにランウェイを歩かせてあげるわぁ!!」

 

「いや、結構です。マジで」

 

「えぇっ!? ら、ランウェイよ!? みんなの憧れっ、ランウェイを歩けるのよん!? 名刺っ、せめて名刺だけでも受け取ってぇ!!」

 

 名刺の受け取りも拒否して、俺はオカマとの関係を断ち切る。

 『ランウェイ』が何か知らないが、ウェイ系はもうたくさんだ。

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