脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

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 ──俺は舞香と一緒に帰宅した後、貰った衣服をスマホのカメラで撮影して、箒星に画像を送ってみることにした。

 

『この服、どうかな?』

 

 俺は返信があることを祈りながら、五分ほどスマホの画面を凝視する。

 そして──きちんとメッセージが返ってきた。

 

『へぇ、いいわね。メンズには詳しくないけど、夏の新作?』

 

 好感触だ。しかも、会話が続きそうな気配がする。

 既読無視だと思われないように、素早く返事をしなければ。

 

『そうです、夏の新作です。俺が選んだ訳じゃないよ』

 

『でしょうね。美容院には行ったの?』

 

『行った。酷い目に遭った』

 

 この髪で学校へ行くことを考えると、非常に憂鬱だ。

 調子に乗っていると思われて、パリピの陽キャにイジメられるかもしれない。

 明日は日曜日なので、まだ猶予がある。髪を黒く染めるべきか……。

 

『自撮り、送りなさいよ』

 

 俺が悩んでいると、箒星からとんでもない要求をされてしまう。

 

『えっ!? いや、それは恥ずかしいかも……』

 

『キモ。いいから送って』

 

『はい。ちょっと待って』

 

 メッセージから感じられる圧に屈して、俺はすぐに白旗を振った。

 自撮りと言われても、自分を撮ったことなんてないので、舞香にお願いしよう。

 リビングに駆け下りて、大きく頭を下げる。

 

「舞香っ、俺を撮ってくれ! 出来るだけ格好よく!!」

 

「ほほぅ? 意中の女子に送るつもりでしょ!? 舞香には丸っとお見通しだよ!」

 

「相変わらず話が早いな! 頼む!」

 

「フフン! そういうことなら、舞香には取って置きの写真があるよ!」

 

 舞香は得意げに鼻を鳴らして、俺のラインに写真を送ってくれた。

 それは、モデルの撮影現場で撮られた俺の写真だ。

 自分で言うのもなんだが、涼しげな夏服と、どこか冷めた表情が、いい感じに噛み合っている。

 

「これが自分だなんて、未だに現実味が湧かないな……」

 

「全部現実だよ! 自信を持って、お兄ちゃん!」

 

 舞香に背中を押されて、俺はこの写真を箒星に送った。

 

『は? 誰これ?』

 

『兎場一茶です』

 

『同姓同名の別人ってこと? そういう寒いノリ、いらないわよ』

 

『いや、そうじゃない。正真正銘、俺だよ』

 

 俺が最後に送ったメッセージ。

 それに既読は付いたが、返信はなかった。

 信じて貰えなかったのか、信じた上でイタい奴だと思われたのか……。

 まぁ、オタクの陰キャがいきなりチャラくなったら、良い反応は返ってこないよな。

 俺は気落ちしながら、不貞寝することにした。

 

 

 ──翌日。特に予定もないので、家庭用のゲームを始める。

 しかし、箒星にどう思われたのか気になって、全く集中出来ない。

 一分毎に、彼女からの返信はないかと、スマホを確認してしまう。

 

「駄目だ、息苦しくなってきた……」

 

 こんなときは、異世界に逃げよう。脱兎の如く。

 バイト代が入ったので、再びスーパーで業務用の砂糖を買い、俺は異世界へと転移した。

 日本でのことは一旦忘れて、ファンタジーを満喫するんだ。

 まずは、甘味処メルメルへと向かう。すると、今日も閉店中の看板が掛かっていた。

 

「ごめんくださーい! メルルー? いるかー?」

 

「はひぃ! って、貴方は!? お砂糖を売ってくれた人ですぅ!?」

 

「久しぶり。元気そうで何よりだよ」

 

 俺は親戚のちびっ子に接するような態度で、メルルの頭を撫でた。

 相も変わらず、モコモコの髪の毛だ。

 

「元気ではあるのですがっ、お砂糖がなくなっちゃったのですぅ! また売ってくださいぃ!」

 

「閉店中って、甘味が完売したから?」

 

「そうですぅ! 新作のプリンが、飛ぶように売れたのですぅ!!」

 

 俺があげた安物のプリン。メルルはアレを再現することに、成功したらしい。

 

「こんなこと、聞いていいのか分からないけど、どれくらい儲けたんだ?」

 

「なんとっ、純利益が金貨五十枚ですぅ!!」

 

「おおー……。凄い、のか?」

 

「凄すぎるのですよぅ!! でもでもっ、お砂糖が買えなくて……!!」

 

 これまた相も変わらず、砂糖はグリード商会が買い占めているらしい。

 そういうことなら、俺が砂糖を売ろう。とは言え、幾らでも売れる訳じゃない。

 モデルのバイト代で、スマホゲーのガチャとか、新作のゲームとか、漫画とか、色々と買いたいものがあるんだ。

 

「とりあえず、前回の二倍の量を持ってきたけど、買うか?」

 

「買うですぅ!! 前回と同じ値段で、いいのです……?」

 

「ああ、いいよ。毎度あり」

 

 一袋で金貨百五十枚。二袋で金貨三百枚。

 また大金が手に入った。異世界だと、俺は簡単に大金持ちになれるんだ。

 

「イッサさん、折角なのでプリンを食べていってください!」

 

「おっ、いいね! オリジナルの味を知っている俺が、採点してあげよう」

 

 メルルの勧めに従って、俺はプリンを出して貰うことにした。

 三十分ほど経ってから、出来立てのプリンが用意される。

 硝子の瓶に入っており、見た目は普通のプリンだ。

 瓶の底には、きちんとカラメルソースが入っている。

 

「ど、ドキドキするのですぅ……!!」

 

 メルルの円らな瞳に見守られながら、いざ実食。

 

「うーん……。うん、間違いなくプリンだな。再現性は百点満点だ」

 

「や、やったぁ!! やりましたっ!! 大金星ですぅ!!」

 

 俺が点数を付けると、メルルは大喜びで飛び跳ねた。

 ……惜しむべきは、再現したものが安物のプリンであったこと。

 今度、もっといいプリンを持ってきてあげよう。

 

「ご馳走様。それじゃ、俺はもう行くよ。お店の経営、頑張ってな」

 

「はひっ! またお砂糖、売りにきてください!」

 

 俺はメルルと別れて、大金を抱えながら街へ繰り出す。

 このお金で何を買うか、よく考えてみよう。

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