脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

15 / 21
15

 オークション会場へ行ってみると、次回の開催日は未定だった。

 ある程度、品物が揃わないと、開催されないんだとか。

 そんな訳で、現時点だとお金の使い道に、オークションは選べない。

 

「──となると、娯楽か?」

 

 異世界の娯楽と言えば、色事、賭博、食事しかない。

 エッチな奴隷に興味はあるが、クラリステレス姫のことを思い出すと、居た堪れない気持ちになる。

 奴隷だって、喜怒哀楽の感情がある人な訳だし、尊厳を無視してエッチなことをするなんて、俺には無理そうだ。

 賭博と食事にも、興味がない。

 

 さて、どうしたものか……。俺が頭を悩ませていると、大通りの方が騒がしくなった。

 市民たちが野次馬のように群がっているので、俺も興味本位で行ってみる。

 すると、騎士団と思しき人たちが、這う這うの体で城の方へと向かっていた。

 見るからに屈強そうな騎士たちが、数多の重軽傷者を出しているんだ。

 遺体を乗せている馬車も多々あって、少し眩暈がした。

 

 ──ひそひそと、周囲から市民の声が聞こえてくる。

 

「こりゃ酷いな。負けちまったのか……?」

 

「ああ、魔王軍を相手に惨敗だとさ」

 

「勇者様は何をやっているんだ? 召喚には成功したって話だろ?」

 

「勇者って言っても、最初から強い訳じゃないらしい。まだまだ、鍛えている真っ最中だろうよ」

 

 俺は幾らでも逃げられるが、この世界に住んでいる人たちは、そうもいかない。

 みんなが怯えている様子を見て、少しだけ罪悪感が湧いてくる。

 俺がチートで無双出来る勇者だったら、魔王軍なんてパパッと倒してやるのにな。

 

 そう思っていると、騎士団の中に見知った顔の人物を発見した。

 俺と同い年のイケメン、幸村勇人。清楚系の美少女、姫村沙雪。

 前者は恰好いい鎧を身に付けており、強そうな剣を背負っている。

 後者は金糸で彩られた白い法衣を身に纏っており、邪気を祓えそうな白銀の杖を持っている。

 

 二人の表情は信じられないほど暗くて、敗戦を経験したのだと理解出来てしまう。

 

「俺だけ逃げて、ごめん……」

 

 自ずと、身勝手な謝罪が口から零れた。誰にも聞こえない程度の、か細い声だ。

 俺はあの二人を見て、『自分は逃げられてよかった』と、そう思ってしまったんだ。

 罪悪感と自己嫌悪に苛まれながら、大通りを後にする。

 

 

 ──剣と魔法のファンタジー世界で、勇者と魔王が戦う。

 創作物では、珍しくもない設定だ。

 俺は心のどこかで、『どうせ勇者が勝つ』と、高を括っていた。

 それが既定路線だと、盲信していた。だが、現実は厳しいのかもしれない。

 

「俺にも何か、出来るかな……?」

 

 自分を犠牲にする度胸なんて、流石に持ち合わせていない。

 ただ、この罪悪感を払拭するために、無理のない範囲で何かしたい。

 何をしようか、悩みながら歩いていると、不意に声を掛けられた。

 

「あれっ、あんちゃん? 浮かない顔して、どうしたんだよ?」

 

「え……? あ、ああ、ヌグリか……」

 

 貧困層の少年、ヌグリ。以前に、街の案内をしてくれた奴だ。

 

「そんなぼうっとしてたら、スリに狙われちまうよ」

 

 ヌグリはそう警告してから、俺の後方を睨み付けて、シッシッと手で何かを追い払う仕草をする。

 俺が後ろを振り向くと、襤褸を着た男が舌打ちして、去って行った。

 

「お、おおぅ……。もしかして、俺が狙われてたのか……?」

 

「うん、そりゃ狙われるよ。あんちゃん、弱そうだし」

 

「そうなのか……。というか、よく俺だって気付いたな? 俺、イメチェンしたんだぞ」

 

「へへん、オイラに変装は通用しないぜ!」

 

 ヌグリは得意げに胸を反らして、指で作った輪っかを自分の目に当てた。

 目が良いことをアピールしているのだろう。

 あるいは、見に特化したスキルでも、持っているのか。

 

「うーん……。街中も安全じゃないって、結構困るなぁ……」

 

「あんちゃん、大通りから離れすぎな」

 

 ヌグリに指摘されて、俺はハッとなった。

 いつの間にか、路地の奥へ奥へと進んでいたらしい。

 

「ヌグリ、悪いけど案内して貰えるか? 大通りまで」

 

「あいよ、お安い御用だ! 串焼き、また奢ってくれよな!」

 

「ああ、分かった。約束する」

 

 俺はヌグリの案内で、無事に大通りまで戻ってきた。

 それから、約束通りに串焼きを奢ってやる。

 

「あんちゃん、護衛用の奴隷を買ったらどうだ? たんまり金を持って、ぶらぶら一人で出歩くなんて、どうかしてるぞ」

 

 ヌグリは俺が抱えている布袋を一瞥して、呆れながら忠告してきた。

 硬貨が詰まっていることは、音で分かるのだろう。

 

「そっか、そういう奴隷もいるのか……。でも、俺はスキルを使って、遠出することがあるんだ。他の人は物理的に連れて行けないから、奴隷だけを街に残すことになる」

 

「家に置いておけばいいだろ?」

 

「いや、無理だ。この街に、俺の家はないから」

 

「ふーん……。金があるなら、買うなり借りるなりすれば?」

 

 ヌグリの提案は至極尤もだ。買うのはハードルが高いので、まずは借りよう。

 

「うん、そうだな。そうするよ。……ところで、護衛用の奴隷って、どこで売って貰えるんだ?」

 

「あっちだよ。食べ終わったら、案内してやる」

 

 ヌグリが串焼きを完食するのを待って、俺は奴隷商へと移動する。

 護衛用の奴隷となると、強さは勿論のこと、信頼出来る人材でなければならない。

 そんな好条件の奴隷は、この街一番の高級奴隷商にて、探すしかないのだとか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。