俺は奴隷商の建物から出て、シロとクロを引き連れ、武器屋へと向かう。
「今更だけど、自己紹介をするよ。俺の名前はイッサ。世界を跨ぐ商人だ」
「シロだぴょん! よろしくぴょんっ、ご主人!」
「改めまして、私はクロです。姉共々、何卒よろしくお願い致します」
俺は自己紹介を終わらせてから、二人に質問をする。
「二人とも、武器が必要だよな? 何が欲しい?」
「鉈が欲しいぴょん! シロはこう見えても、故郷では『首狩り赤兎』の異名で、恐れられていたぴょん!」
シロはそう言って、鉈を振り回す動作を披露してくれた。
彼女の見た目は華奢で、背丈も俺より頭二つ分低いけど、その動作だけで明らかに強いと分かる。
「赤……? 白兎じゃなくて?」
「返り血で真っ赤に染まるから、赤兎だぴょん!」
怖っ、と俺が戦慄していると、クロがおずおずと声を掛けてきた。
「ご主人様、本当に宜しいのでしょうか……? 私たちはまだ、なんの働きもしておりませんが……」
「護衛の仕事をするのに、武器は必要だろ?」
「いえ、私も姉さんも、脚だけで悪漢の一人や二人は、容易く蹴り殺せます」
クロはそう言って、この場で軽く足踏みして見せる。
すると、石畳に亀裂が走った。怖っ、と俺は再び戦慄させられる。
「ま、まぁ、武器はあるに越したこと、ないよな……?」
「はい、肯定します。あった方が、出来ることは増えるかと」
だったら、買うべきだろう。話が纏まったところで、武器屋に到着した。
シロは刃が分厚い鉈を二本も購入。どうやら、二刀流で戦うらしい。
クロは鋼のガントレットを購入。こちらはキックだけではなく、パンチにも自信があるらしい。
「特技は狩猟だったよな? 弓矢って、必要ないのか?」
「矢を射るよりも走った方が、確実に獲物を仕留められるので」
狩猟と言えば、弓矢を使うイメージだが、クロは至極当然のように否定した。
兎獣人の素早さは、飛来する矢を上回るのだとか。
「それは凄いな……。ギャンブルで抱えた借金なんて、狩りで稼げば返済出来たんじゃないのか?」
「難しいぴょん! 魔王が出現してから、世界中の魔物がパワーアップしたぴょん! 雑魚を狩るのにも、今では一苦労だぴょん!」
「そ、そうなのか……」
シロ曰く、昔は雑魚で有名だった魔物『ゴブリン』すらも、今では強敵らしい。
昔のゴブリンは緑色の小鬼であり、体長が一メートル程度。
人間の子供並みに非力だったので、容易く千切って投げることが出来たとか。
しかし、今のゴブリンは緑色の大鬼で、体長が三メートルもある。
その身体つきは筋骨隆々で、鉄を砕く怪力が備わっているとか……。
俺が頬を引き攣らせていると、クロが一つ提案する。
「ご主人様も、何か武器を持つべきです。使えずとも、持っているだけで抑止力になりますので」
「なるほど、確かに……」
そういえば、俺にはスキル【狙撃手】があるんだ。
熟練度は全然上がっていないが、才能は備わっているはず……。
折角だし、弓矢を購入しよう。魔物の腱や木材、鉄板を張り合わせることで、威力を高めた代物──複合弓を店主に勧められた。
俺は素人だが、握ってみるとしっくりくる。これにしよう。
さて、護衛と武器が手に入ったので、次は宿探しだ。
この辺りで、二人に今後のことを説明しておく。
「俺はスキルを使って、一人で遠出することが多いんだ。二人には生活費を渡すから、俺がいないときは、宿屋で普通に生活してくれ」
金貨が詰まった袋をクロに渡すと、彼女はぽかんとした表情を浮かべる。
「こ、こんなに……? 一体、どれだけの期間、不在なのでしょう……?」
「最低でも、週に一回は顔を出すよ。お金は無駄遣いしなければ、適当に使ってくれていいから」
お金の管理はクロに任せよう。シロは金貨を見て、目の色を変えているので、どう考えても駄目だ。
「ご主人っ、シロがギャンブルで増やしてやるぴょん! 楽しみにしてるぴょん!」
「ギャンブルはやめような……。シロはそれで、身持ちを崩したんだろ?」
「今度は大丈夫ぴょん! 運が下がりに下がった後だから、これからは上がる一方だぴょん!」
ギャンブルで失敗する典型的な考え方だ。運気の上下に、規則性なんてない。
まぁ、お小遣いをあげるので、借金をしない程度に遊ぶのであれば、別に構わないかな。
「私たちの役目は、ご主人様がこちらに滞在している間の護衛、だけですか……?」
「ああ、そうなる。俺のスキルによる転移は、他人を同行させられないんだ」
「そうですか……。もし宜しければ、家を購入されては如何でしょう? 管理は私と姉さんが出来ますので、長期的に見れば、宿屋より安く済みます」
クロの勧めに、俺は渋い顔をする。
「家って、そんな簡単に買えるのか? 面倒な手続きが、ありそうだけど……」
「面倒なんてないぴょん! お金を払って終わりだぴょん!」
シロの話が本当なら、購入するのも悪くはない。
クロが頷いているので、不動産屋に行ってみよう。
──結局、俺は異世界でマイホームを購入した。
甘味処メルメルのお隣で、大通りに面している。
赤いレンガの二階建て住宅。一階が1LDKであり、二階には個室が三つ。
この間取りは、日本にある兎場家と同じだった。風呂もあるので、文句の付け所がない。
お値段は金貨百枚。迷わず一括払いした。
これで俺も、一国一城の主だ。かなり呆気なくて、なんの感慨も湧かない。
新居の家具を揃えたところで、お昼時になった。
マイホームのリビングにて、クロが作ってくれた食事をとり、俺は二人に相談を始める。
「うーん……。何かこう、人類のためになることがしたいんだけど、良い案はないか?」
「人類のため、ですか……? スケールが大きい話ですね……」
俺は追放された勇者で、気軽に異世界から逃げられる。
片や、同郷の勇者たちは、魔王軍との戦いで心身を疲弊させて、辛い日々を送っている。
その落差から、俺の心に生じた罪悪感……。これを払拭するべく、『人類のためになること』を求めたが、クロは難しい顔をしてしまった。
「そんなの簡単ぴょん! 魔物を狩ればいいぴょん!」
「うっ……それは……」
シロがあっけらかんと言い放った回答。それを聞いて、俺は思わず頭を抱えた。
魔物を一匹でも多く狩れば、人類に貢献出来る。その理屈は正しい。
だが、ファンタジー定番の雑魚敵、ゴブリンですら、体長が三メートルもある化け物なんだ。普通に怖い。
「ご主人様。まだ日が高いですし、試しに一狩り行きますか?」
「えっ、マジで言ってる……?」
「はい、マジです。王都周辺であれば、比較的安全に狩りを経験出来ますよ」
「良い考えぴょん! 最近の狩りは全然稼げないけど、楽しいことに変わりはないぴょん!」
シロとクロにとって、魔物狩りは娯楽のようなものらしい。
これは後で知ったことだが、獣人は闘争本能が強くて、血湧き肉躍る戦いが好きなんだ。