──俺はシロとクロを引き連れて、王都近郊にある森へとやって来た。
街道が近いので、騎士団が定期的に、魔物の間引きを行っているらしい。
そのため、凶悪な魔物は滅多に現れないのだとか。
「ご主人様、ゴブリンを捕捉しました」
「お、おおぅ……。あの、本当に大丈夫? 勝てそう?」
「はい、一匹だけなら勝てます」
クロの報告を聞いて、俺は頬を引き攣らせた。
ゴブリンの姿なんて、どこにも見当たらないが、クロは耳で捉えているらしい。
「二匹でも、なんとかするぴょん。でも、三匹なら逃げるぴょん。ご主人、逃げ足に自信はあるぴょん?」
「ああ、逃げ足なら世界最速だぞ」
「にししっ、それは頼もしいぴょん!」
シロはにんまりと笑って、両手に鉈を持ち、闘志を漲らせた。
目付きが猛獣のモノになったので、俺の背筋がぞわりと粟立つ。
いざとなれば、俺は過去に逃げることも出来るので、今回はシロとクロの実力を信じてみよう。
こうして、俺たちはコソコソと森の中を歩き、川辺でゴブリンを視認した。
筋骨隆々な緑色の大鬼。事前の情報通りだが、実物を見ると尋常ではない迫力を感じる。
体長三メートルって、デカすぎだろ……。
ゴブリンは丸太に座りながら、手掴みで生魚を貪っていた。
シロとクロが俺に目配せして、弓矢を指差してくる。
どうやら、先制攻撃は俺の役目らしい。
「ふぅ……。頑張れ、俺」
小声でスキル【呪言】を使って、気休め程度に自分を励まし、弦に矢を番える。
初めての経験なのに、堂に入った構えが取れたと思う。
ゴブリンまでの距離は、目測で五十メートルほど。
かなり遠いのに、不思議と当てられる自信があった。
的は大きいし、動いてもいない。風の流れも穏やかだ。
集中して──射る!!
風を切って放たれた矢は、ゴブリンの背中に命中して、見事に突き刺さった。
だが、内臓までは達していない。分厚い筋肉によって、防がれたらしい。
「グギャアアアアアアッ!?」
致命傷とは程遠いが、ゴブリンは突然の痛みに悲鳴を上げた。
「クロっ!! 行くぴょん!!」
「はいっ、姉さん!!」
シロとクロ。二人の健脚は、矢の速度を上回る。
ゴブリンが振り向くのと同時に、シロが奴の右脚を鉈で斬り付け、クロが左脚をブン殴った。
鉈は筋肉を断ち切り、骨に食い込んだが、脚を切断することは出来ていない。
シロは鉈を無理に引き抜かず、手放してゴブリンから距離を取る。
「二本あるから、一本はくれてやるぴょん!」
「姉さん、遊ばないでくださいね。手早く仕留めましょう」
クロが殴った左脚は折れているみたいで、ゴブリンは地面に膝を突いた。
シロとクロは油断せず、完璧なコンビネーションで、ゴブリンを翻弄しながらダメージを負わせていく。
重点的に腕を狙い、ゴブリンが満足に四肢を動かせなくなったところで、二人は獰猛な笑みを浮かべる。
そして、左右からゴブリンの首に、強烈なキックを叩き込んだ。
「「必殺っ、白黒ぴょんぴょんアタック!!」」
ゴキッと嫌な音がして、ゴブリンの首がへし折れた。
あの必殺技は、おっぱいで挟撃する他にも、こんな恐ろしいパターンがあったらしい。
「おおーっ、凄いな! 二人とも、こんなに強いなんて驚きだよ」
「ご主人の先制攻撃のおかげだぴょん!」
「ご主人様、実に見事な一矢でした」
シロとクロは俺を持ち上げてくれたが、あれがなくても倒せていただろう。
大型の生物を殺したのは初めての経験だが、全くと言っていいほど嫌悪感は湧いてこない。
むしろ、異様な達成感が込み上げてきた。
快楽物質が脳内からドバドバと溢れ出して、『魔物をもっと殺そう!!』という、素敵な考えに支配されそうになる。
勇者として召喚されたときに、脳を弄られたのかもしれない。
そうでなければ、流石にあり得ない状態だ。
「──あれ? ゴブリンが煙を出してるけど、なんだこれ?」
ふとゴブリンの遺体を見遣ると、黒い煙を出しながら急速に萎んでいた。
最終的に、体長が一メートル程度の、痩躯の小鬼になってしまう。
「魔物は死ぬと、魔王パワーが抜けて、元の姿に戻るぴょん」
「パワーアップした魔物を倒しても、得られる素材はパワーアップ前のものなんです。だから、魔物狩りは割に合いません」
二人はそう言って、使った武器を俺に見せてきた。
鉈は刃毀れしており、ガントレットは若干へこんでいる。
ゴブリンの耳を持ち帰れば、討伐報酬として銀貨二枚が貰えるらしい。だが、装備のメンテナンス費用にすらならないとか。
「国が討伐報酬を上げてくれたり、しないのか?」
「以前は銀貨一枚だったので、一応は上がっています」
「そっか……。せめて、装備のメンテナンス費用くらいは欲しいよな」
「国も戦費の調達に苦労しているので、これが限界なのでしょう」
クロの話を聞いて、俺は異世界の苦しい事情を儚んだ。
魔王を討伐するまで、こんな状況が続くのだろう。
「今後も定期的に、街道沿いの魔物を狩りたいんだけど、二人の力を貸してくれるか?」
「狩りは楽しいから、幾らでもやるぴょん! でも、毎回赤字だぴょん。ご主人は、それでいいぴょん?」
シロは俺の懐を心配してくれたが、砂糖を売ればお金は工面出来る。
「ああ、いいんだ。少しくらい、人類に貢献したいし」
「ご主人様、ご立派です。私は貴方様にお仕え出来て、とても嬉しく思います」
クロが恭しく頭を下げてきたので、ちょっと胸が痛くなった。
俺は別に、一生懸命やろうとは思っていない。
休日に数匹だけ、魔物を狩れればいいくらいの気持ちなんだ。
見たいアニメがあるし、遊びたいゲームもあるし、日本での生活を犠牲にするつもりはない。
「そうだ、二人とも。怪我はないか? 軽傷なら、俺のスキルで治せるぞ」
俺の問い掛けに、シロとクロは顔を見合わせて、同時に自分のおっぱいを持ち上げた。
「運動した後は、胸の付け根が痛くなるぴょん」
「私も姉さんと同じです」
俺は暫し無言で、二人のおっぱいを見つめる。
箒星ほどではないが、やっぱり大きい。
「……非常に言い難いんだが、俺の回復スキルは【治癒掌】なんだ。触らないと、治せない」
「ご主人なら、触っていいぴょん! シロとクロは奴隷だぴょん!」
「姉さんの言う通りです。お好きなときに、お好きなだけ触ってください」
あっさりと二人から許可を貰った俺は、背中に冷や汗を掻く。
おっぱいに触れるなんて、嬉しいことこの上ないが、いざ『触っていい場面』を前にすると、腰が引けてしまう。
「い、いや、あの……俺はさ、二人とは仲間になりたいというか、その、エッチなことを強要したい訳じゃなくて……」
嘘だ。本当はエッチなことを強要したい。でも、そんな度胸はない。
「ご主人はやっぱり甘いぴょん! シロの目に狂いはなかったぴょん!」
「姉さん、ご主人様は甘いのではなく、優しいのです。そこを履き違えてはいけません」
シロとクロは俺の反応を見て、柔らかい笑みを浮かべた。
それから、俺の手を片方ずつ取って、自分のおっぱいに誘導する。
「ご主人っ、早く治療して欲しいぴょん! このままだと、胸が痛すぎて死んじゃうぴょん!」
「姉さんの言う通りです。これは治療行為なので、決してエッチなことではありません。人助けだと思って、触ってください」
ここまで気を遣われたら、もう否とは言えない。ありがとう、ありがとう。
俺は意を決して、二人のおっぱいを治療する。
おっぱいマッサージも、きちんと本を読んで学習した。
胸、肩、首に溜まっている疲労物質は、おっぱいマッサージで取り除くことが出来るらしい。
俺は全身全霊の集中力を以て、スキルを使いながらモミモミする。
「「んふぅ……っ、あっ、あっ」」
シロとクロは艶めかしい声を上げているが、これは立派な治療行為だ。
天地神明に誓って、エッチなことではない。
この日は狩りを切り上げて、マイホームに戻り、夜までマッサージを続けさせて貰った。
二人とも気持ちよさそうに失神して、痙攣が止まらなくなったが、身体は完全に回復している。
俺のマッサージの腕前も、スキルの熟練度も上がった。
めでたしめでたしで、今日という一日を締め括ろう。