脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

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 ──パリピの陽キャに絡まれることもなく、半日が過ぎた。

 昼休み。担任の教師に呼び出されて、何かあったのかと心配されたが、『思春期です』の一点張りで難を凌ぐ。

 唐突なイメチェンで、不良になったと思われたらしい。

 

 教室は居心地が悪いので、別の場所で昼食をとるべく、人気のない場所へと移動する。

 あちこちから人の視線を感じるが、自意識過剰だと自分に言い聞かせて、素知らぬ顔を維持。

 校舎の片隅に到着すると、一足早く弁当を突いているシマの姿があった。

 

「シマ、俺も一緒にいいか?」

 

「ひゃいっ!? ど、どどど、どうぞですぞ……!!」

 

 許可を貰ったので、遠慮なく彼女の隣に座って、俺も自分の弁当を突く。

 手作りの卵焼きと、冷凍食品を適当に詰め込んだものだ。普通に美味い。

 ……シマがロボットみたいな動きで、箸を動かしているので、少し可哀そうになってきた。

 

「なぁ、そんなに緊張しなくてもいいんだぞ? 見た目が変わっても、俺は俺だから」

 

「そ、それは……っ、はひぃ……」

 

「おかず、交換してくれよ。俺は卵焼きをトレードに出す!」

 

「せ、拙者はピーマンの肉詰めを出しますぞ!」

 

 俺はいつものように、シマとおかずの交換をした。

 作るのが簡単な卵焼きと、作るのが面倒なピーマンの肉詰め。

 等価交換とは言い難いが、彼女は快く応じてくれる。

 

「相も変わらず、シマの肉料理は美味しいな。自分で作ってるんだっけ?」

 

「そ、そうですぞ……!! お母様に、これくらいはやれと、言われておりまして……はひ……」

 

「へぇ、偉いな。これで風呂に毎日入れば、もっと偉いが」

 

「は、入りましゅ!! 今後は毎日入りますぞ!! 臭くてごめんなさいっ!!」

 

 俺が本気半分、冗談半分の物言いをすると、シマは毎日入浴宣言をしてくれた。

 しかも、謝りながらの土下座という、オマケ付きで。

 

「お、おい、どうした……? なんか、らしくないけど……」

 

「ごめんなさいっ、ごべんなざいぃ!!」

 

 突然、シマが泣き始めた。鼻水まで垂らして、ギャン泣きだ。情緒が不安定すぎる。

 

「落ち着けって。別に怒ってないし、いつもの軽口だろ……? 本当にどうしたんだ?」

 

「うぅぅっ、ぶええええぇぇぇぇん!!」

 

 ブサイクな泣き顔を晒すシマに、俺はドン引きしてしまった。

 だが、こんなのでも、大切な友達だ。

 俺は努めて冷静に、彼女に寄り添って背中を撫でる。

 

「大丈夫、大丈夫だぞ。よく分からないけど、きっと大丈夫だ」

 

 十分ほど適当に慰めていると、シマはずびびっと鼻をすすって、一先ず泣き止んだ。

 それから、少し落ち着いた口調で、再び謝ってくる。

 

「ごべっ、ごべんなざい……。拙者、トバっちに置いて行かれたような気がして、頭がぐちゃぐちゃに……」

 

「ああ、なるほど……。まぁ、陰キャのオタク友達が、いきなりパリピ陽キャみたいな見た目になったら、悲しくなるよな」

 

「そ、そうですぞ……。拙者、トバっちに縁を切られるのかと……」

 

 シマの不安の種を聞いて、俺はフッと笑ってしまう。

 

「いやいや、そんな訳ないだろ。イベントの周回、一緒にやりたいし」

 

「で、ですが! 拙者と一緒にいると、トバっちの株が、下がってしまわれるかと……!!」

 

「下がる株なんて持ってないから、安心してくれ」

 

 俺がスマホのゲームを起動すると、シバはおずおずと付き合ってくれた。

 一緒にイベントを周回していると、徐々にいつもの雰囲気に戻っていく。

 画面に注視していれば、俺の姿は視界に映らないので、シマも気楽になったらしい。

 

「トバっち、このレアアイテムをあげますぞ。あ、これもどうぞ。それから、これとこれも」

 

「え、いや、いいよ。悪いから」

 

「いえいえ、どうぞどうぞ。ご遠慮なさらずに」

 

 ……おかしい。シマは前々から優しい奴だったが、こんなにレアアイテムを譲ろうとするなんて、今までになかったことだ。

 一体なんのつもりなんだと、訝しげにシマの横顔を見遣ると、彼女もこちらをチラ見する。

 そして、にへらと気持ち悪い笑みを浮かべた。

 

「もしかして、ギャン泣きした詫びのつもりか?」

 

「ふえ? え、あ、あぁ、あい! そ、そうですぞ! これが拙者の詫びですぞ!」

 

「そうか……。そういうことなら、遠慮なく貰っておくよ。ありがとう」

 

 俺が感謝して笑みを浮かべると、シマは顔を真っ赤にして、目をぐるぐるさせた。

 

「キュン……。ど、どう致しましてぇ! ふひっ、ふひひ……。あのあのっ、トバっち! 他に何か、欲しいものは御座いませんかな!? ま、マンションとか、車とか、お金とか!」

 

「いや、いらない」

 

 俺が素気無く断ると、シマはしゅんとして俯いた。

 やっぱり、今日のコイツはおかしい。

 俺のイメチェンが衝撃的すぎて、頭のネジが緩んだのかもしれない。

 

「──話は変わりまするが、どうしてトバっちは、イメチェンしたのでありますか?」

 

「ある人に、モサっとしててダサいから、美容院に行けって言われたんだ」

 

「そう、ですか……。もしや、女子ですかな……?」

 

「ああ、その通りだ。俺も思春期だから、そろそろ異性の目が気になってさ」

 

 箒星の名前は出さずに、適当な理由を伝えておく。

 すると、シマは形容し難い表情で歯噛みした。

 

「ぐぬぬ……っ!! あ、あのっ、拙者! 一つだけ、トバっちにお願いがありますぞ!」

 

「お願い? なんだよ、改まって」

 

 シマが正座しながら、三つ指をついて深々と頭を下げてくる。

 

「何卒っ、拙者と同じPCゲームをしていただきたく!」

 

「どうして……と聞く前に、残念なお知らせだ。俺はパソコンを持っていない」

 

「拙者が買ってあげますぞ!!」

 

「いや、やめてくれ。そんな高価なプレゼント、友達から受け取れないだろ」

 

 シマの懐事情は知らないが、もしかしたら大富豪なのかもしれない。

 だとしても、友達から過度な施しを受けるのは、心情的に躊躇われる。

 

「で、では、拙者のお古のやつ! もう使ってないやつを引き取ってくだされ!」

 

「えー……。それも、悪いような気が……」

 

「ふ、ふぇ……っ、や、やっぱり、拙者と一緒にPCゲームは、したくないということ……?」

 

 シマが鼻水を垂らして、再び泣きそうになったので、俺は彼女の背中を摩ってフォローする。

 

「違う違う、そうじゃないって。泣くなよ」

 

「では、貰ってくだされ……!! PCゲームはいいですぞ! ボイスチャットを繋いで、一晩中一緒にゲームが出来まする……!!」

 

「夜も一緒にゲームがしたいから、俺を誘ったのか?」

 

「そ、そうですぞ! 拙者っ、トバっち以外に、友達がおらぬ故……!!」

 

 唯一の友達がイメチェンして、なんだか遠くへ行ってしまいそうだから、シマは不安になってしまったのだろう。

 そこで、夜も一緒にゲームをすることで、オタク友達として繋ぎ止めておきたい。という魂胆らしい。

 シマの涙ながらの懇願に、俺は白旗を上げることにした。

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