脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

5 / 21


 俺がスキルオーブを落札した後も、オークションは順調に進み──最後の最後で、凄まじい代物が登場した。

 

「本日最後の出品は、奴隷となります! 魔王軍に滅ぼされたエルフの国の姫、クラリステレス!! 金貨一万枚からスタート!!」

 

 舞台の上に登場したのは、青みを帯びた白銀の長髪と、青い宝石みたいな瞳を持つ美少女だ。

 人間よりも耳が長く、肌は真っ白で、ほっそりした身体に民族衣装風のドレスを纏っている。

 それと、顔立ちが信じられないほど整っており、俺は思わず息を呑んでしまった。

 

 勇者を召喚したお姫様、ミュゼも美少女だったが、あれを越えるほどの造形美だ。

 失礼かもしれないけど、エルフのお姫様は、『人』ではなく『美術品』にしか見えない。

 

 会場の数か所から、『一万五千!』『二万!』『三万!』『三万五千!!』と、耳を疑う数字が幾つも飛び出した。

 どうやら、ここは魑魅魍魎の巣窟だったらしい。

 

 エルフの姫は愁いを帯びた表情で、微動だにせず俯いている。

 なんだか、胸が痛む光景だ。

 

「金貨七万枚が出ました!! 七万枚以上の方は、いらっしゃいませんか!? ……はいっ、では七万枚で落札となります!!」

 

 最終的に、お色気ムンムンの熟女が、エルフの姫を落札した。

 勝手な想像だけど、娼館の女主人みたいな人だ。

 

「あの方は、王国北部の女傑、ヴェロニカ辺境伯クマ。魔王軍とバチバチに戦っているから、きっと戦力として、エルフを欲したクマね」

 

 熊の話を聞いて、俺はばつが悪くなってしまう。

 娼館の女主人じゃなくて、まさかの辺境伯らしい。

 

「エルフのお姫様って、そんなに強いのか……」

 

「それは分からないクマ。でも、エルフの生き残りは、彼女のもとに集うはずクマ」

 

 エルフという種族を味方に出来る。それが、金貨七万枚の価値らしい。

 なんか、エッチなことばっかり考えて、美少女奴隷を買おうとしていた俺って、途轍もなく場違いかも……。

 

 自己嫌悪に陥っていると、オークションの係員に呼び出された。

 会場の舞台裏で、金品のやり取りを行うんだ。

 

「──それでは、こちらがお品物となります。スキルオーブは呑み込むことで、スキルを取得出来ますので、お忘れなく」

 

「はい、分かりました」

 

 俺はお金を支払って、三つのスキルオーブを受け取った。

 これはビー玉みたいな代物で、光の塊らしきものが内包されている。

 一つくらい、当たりスキルがあるといいな。

 

「金貨五枚で、スキル百科事典を販売しておりますが、こちらも如何でしょうか?」

 

「あっ、欲しいです! 買います!」

 

 俺は係員にお勧めされた百科事典も、ついでに購入させて貰った。

 ものの見事に、砂糖を売ったお金が消えたけど、後悔はしていない。

 品物を受け取ってから、何気なく周囲を見回してみる。

 

 この場では、他の落札者たちも金品のやり取りを行っていた。

 必然的に、エルフの姫も近くにいるので、彼女と辺境伯の話が耳に入ってくる。

 

「クラリステレス姫、私のために力をお貸しください」

 

「はい、心得ております……。エルフの生き残りを集め、魔王軍と戦いましょう……」

 

 辺境伯に乞われて、お姫様は震えながら頷いた。

 本当は戦いたくないことが、ありありと見て取れる。

 俺は胸が苦しくなって、見ていられなくなり、この場から逃げ出した。

 

「辛い現実から、逃げる……。脱兎の如く」

 

 日本に転移して、自室のベッドに倒れ込み、まずは深呼吸。

 気持ちを落ち着けてから、苦い気持ちと一緒に、スキルオーブを呑み込んでいく。

 

 

 【狙撃手】──目標を狙い撃つ才能を得る。

 熟練度を上げると、狙撃に関連するスキルが発現する。

 

 一つ目は、大当たりと言っても過言ではないスキルだった。

 百科事典で調べると、この手のスキルは『シードスキル』と呼ばれているらしい。

 熟練度を上げると、他のスキルが生えてくるので、シード。つまり、種なのだろう。

 

 

 【治癒掌】──手で触れた相手の怪我や病気を治す。

 熟練度によって、効力が大きく上下する。

 

 二つ目も、当たりと言えば当たり。だが、現時点では、肩凝りを治せる程度の力しかない。

 医学書を読んだりして、怪我や病気への理解度を高めれば、熟練度が上がるのだろうか……?

 だとしたら、このスキルを極めるのは、非常に苦労すると思う。

 

 

 【呪言】──言葉に呪いを籠めて、生物の思考を操る。

 熟練度によって、効力が大きく上下する。

 

 三つ目は、恐ろしいスキルだった。だが、これまた現時点では、大したことが出来ない。

 俺は一階のリビングに下りて、このスキルを使いながら、妹の舞香に簡単なお願いをしてみる。

 

「舞香、悪いけどお茶を持ってきてくれ」

 

「あー、うん……。うん? え、嫌だよ。自分で持ってきなよ」

 

 最初は承諾してくれたが、すぐに素気無く断られた。

 現時点で、この程度のお願いも聞いて貰えないなら、熟練度を上げても、大したことは出来ない気がする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。