俺がスキルオーブを落札した後も、オークションは順調に進み──最後の最後で、凄まじい代物が登場した。
「本日最後の出品は、奴隷となります! 魔王軍に滅ぼされたエルフの国の姫、クラリステレス!! 金貨一万枚からスタート!!」
舞台の上に登場したのは、青みを帯びた白銀の長髪と、青い宝石みたいな瞳を持つ美少女だ。
人間よりも耳が長く、肌は真っ白で、ほっそりした身体に民族衣装風のドレスを纏っている。
それと、顔立ちが信じられないほど整っており、俺は思わず息を呑んでしまった。
勇者を召喚したお姫様、ミュゼも美少女だったが、あれを越えるほどの造形美だ。
失礼かもしれないけど、エルフのお姫様は、『人』ではなく『美術品』にしか見えない。
会場の数か所から、『一万五千!』『二万!』『三万!』『三万五千!!』と、耳を疑う数字が幾つも飛び出した。
どうやら、ここは魑魅魍魎の巣窟だったらしい。
エルフの姫は愁いを帯びた表情で、微動だにせず俯いている。
なんだか、胸が痛む光景だ。
「金貨七万枚が出ました!! 七万枚以上の方は、いらっしゃいませんか!? ……はいっ、では七万枚で落札となります!!」
最終的に、お色気ムンムンの熟女が、エルフの姫を落札した。
勝手な想像だけど、娼館の女主人みたいな人だ。
「あの方は、王国北部の女傑、ヴェロニカ辺境伯クマ。魔王軍とバチバチに戦っているから、きっと戦力として、エルフを欲したクマね」
熊の話を聞いて、俺はばつが悪くなってしまう。
娼館の女主人じゃなくて、まさかの辺境伯らしい。
「エルフのお姫様って、そんなに強いのか……」
「それは分からないクマ。でも、エルフの生き残りは、彼女のもとに集うはずクマ」
エルフという種族を味方に出来る。それが、金貨七万枚の価値らしい。
なんか、エッチなことばっかり考えて、美少女奴隷を買おうとしていた俺って、途轍もなく場違いかも……。
自己嫌悪に陥っていると、オークションの係員に呼び出された。
会場の舞台裏で、金品のやり取りを行うんだ。
「──それでは、こちらがお品物となります。スキルオーブは呑み込むことで、スキルを取得出来ますので、お忘れなく」
「はい、分かりました」
俺はお金を支払って、三つのスキルオーブを受け取った。
これはビー玉みたいな代物で、光の塊らしきものが内包されている。
一つくらい、当たりスキルがあるといいな。
「金貨五枚で、スキル百科事典を販売しておりますが、こちらも如何でしょうか?」
「あっ、欲しいです! 買います!」
俺は係員にお勧めされた百科事典も、ついでに購入させて貰った。
ものの見事に、砂糖を売ったお金が消えたけど、後悔はしていない。
品物を受け取ってから、何気なく周囲を見回してみる。
この場では、他の落札者たちも金品のやり取りを行っていた。
必然的に、エルフの姫も近くにいるので、彼女と辺境伯の話が耳に入ってくる。
「クラリステレス姫、私のために力をお貸しください」
「はい、心得ております……。エルフの生き残りを集め、魔王軍と戦いましょう……」
辺境伯に乞われて、お姫様は震えながら頷いた。
本当は戦いたくないことが、ありありと見て取れる。
俺は胸が苦しくなって、見ていられなくなり、この場から逃げ出した。
「辛い現実から、逃げる……。脱兎の如く」
日本に転移して、自室のベッドに倒れ込み、まずは深呼吸。
気持ちを落ち着けてから、苦い気持ちと一緒に、スキルオーブを呑み込んでいく。
【狙撃手】──目標を狙い撃つ才能を得る。
熟練度を上げると、狙撃に関連するスキルが発現する。
一つ目は、大当たりと言っても過言ではないスキルだった。
百科事典で調べると、この手のスキルは『シードスキル』と呼ばれているらしい。
熟練度を上げると、他のスキルが生えてくるので、シード。つまり、種なのだろう。
【治癒掌】──手で触れた相手の怪我や病気を治す。
熟練度によって、効力が大きく上下する。
二つ目も、当たりと言えば当たり。だが、現時点では、肩凝りを治せる程度の力しかない。
医学書を読んだりして、怪我や病気への理解度を高めれば、熟練度が上がるのだろうか……?
だとしたら、このスキルを極めるのは、非常に苦労すると思う。
【呪言】──言葉に呪いを籠めて、生物の思考を操る。
熟練度によって、効力が大きく上下する。
三つ目は、恐ろしいスキルだった。だが、これまた現時点では、大したことが出来ない。
俺は一階のリビングに下りて、このスキルを使いながら、妹の舞香に簡単なお願いをしてみる。
「舞香、悪いけどお茶を持ってきてくれ」
「あー、うん……。うん? え、嫌だよ。自分で持ってきなよ」
最初は承諾してくれたが、すぐに素気無く断られた。
現時点で、この程度のお願いも聞いて貰えないなら、熟練度を上げても、大したことは出来ない気がする。