状況がどう転んだのか、俺には分かっていない。
次にどんな言葉を掛ければいいのか、頭を悩ませていると、箒星の方から話し始めてくれた。
「あたしね、小学生の頃から、ずっとバレーボールをやっていたのよ」
「そ、そうなのか……。筋金入りなんだな」
素人の俺のイメージだと、バレーは背の高い人が有利なスポーツだ。
どういう切っ掛けで、背の低い箒星が熱中し始めたのか、とても興味がある。
「あんた、『チビの癖に意外だな』って、思った?」
「いやいやっ、思ってない! 思ってないから!」
「言っておくけど、こう見えても小学三年生までは、クラスで一番背が高かったのよ。あだ名はノッポちゃんだったの」
「へ、へぇ、ノッポちゃん……」
箒星は誇らしげだが、ノッポちゃんは微妙なあだ名だと思う。
それにしても、彼女が一番背の高いクラスなんて、想像するのが難しいな。
俺が困惑している間にも、箒星の話は続いた。
「でもね、小三から先は、背があんまり伸びなくなったわ」
「そうか……。それは、残念だったな……」
「ま、リベロで活躍出来たし、スタメンから外されることは、一度もなかったけどね」
『リベロ』というのは、守備専門のポジションで、とにかくボールを拾いまくるのが役目らしい。
「それなら、悩みは背が低いことじゃないのか?」
「そうよ。背丈に関しては、そこまで気にしてないわ。あたしの悩みは、これ」
箒星は無造作に、自分のおっぱいを持ち上げて、大きく溜息を吐いた。
俺は彼女のおっぱいを凝視しながら、思わず背筋を正す。
「頗るご立派だと、思いますが……」
「死ね。立派になり過ぎたことが問題なのよ。分かる?」
「動くのに邪魔、ってことか……」
背が低いと小回りが利くので、それはそれで武器になる。
しかし、大きなおっぱいの存在が、『小回りが利く』という武器を台無しにしているんだ。
俺の回答を聞いて、箒星は深々と頷いた。
「その通りよ。背はちっとも伸びないのに、胸だけが馬鹿みたいに大きくなって……最近は運動すると、物凄く痛むの……。このままじゃ、スタメン落ちしちゃうわ……」
「それは深刻だな……。我慢出来ないほど、痛むのか?」
「一日なら、我慢出来るわよ。でも、二日、三日と連続で部活が続くと、どんどん痛くなってくるから……」
男の俺は呑気に、『大きいおっぱいって素敵だなぁ』と思っていた。
だが、その持ち主には、並々ならない苦労があるらしい。
おっぱいを小さくするとか、そういう根本的な解決は、俺には出来ない。
それでも、スキル【治癒掌】を使えば、痛みを取り除くことは出来る。
一つ問題があるとすれば、俺が箒星のおっぱいに、触る必要があることだ。
一応、聞くだけ聞いてみよう。
「……俺さ、マッサージが得意なんだけど、しようか?」
「あんた、最ッッッ低ね!! キモすぎっ!! マジで死ね!! そんなこと言って、あたしの胸を揉みたいだけでしょ!? 相談したあたしが馬鹿だったわッ!! このこと、みんなに言いふらすから!!」
箒星は怒髪天を衝く勢いで怒って、俺のスクールライフを破壊しようとする。
「ちょっ、待った! 本当だって!! 本当にマッサージが得意なんだ!! 胸以外で試していいからっ、言いふらすのは勘弁してくれ!!」
「そこまで言うなら、あたしの脚をマッサージしてみなさいよ!! 効果がなかったら、マジでみんなに言いふらすから!!」
「わ、分かった! 任せてくれ!」
斯くして、俺は箒星の脚をマッサージすることになった。
彼女の脚は、全然太っている訳じゃないけど、ややムチっとしている。
しなやかな筋肉の上に、程よく脂肪が乗っている感じだ。
運動部なので、怪我をすることは珍しくないのか、治り掛けの擦り傷や青痣が目立つ。
「──それじゃあ、やりなさい。変なところに触ったら、本当に殺すからね」
「はい。対戦、よろしくお願いします」
箒星はベッドの上でうつ伏せになり、俺は彼女の隣に立つ。
今更だけど、この脚に触らせて貰えるのか……。
俺は感動しながら、今日までに培ってきた経験を総動員して、マッサージを開始する。
まずは、足の裏からだ。靴下越しに、リラックス効果のあるツボを押させて貰う。
「んっ、んんぅ……っ」
箒星の艶めかしい声が、俺の耳朶を打つ。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくれ。ここは、重要なツボだから」
俺は一つ一つ、ツボの効果を説明しながら、真心を籠めて指圧した。
「な、なんか、本格的ね……。身体がポカポカしてきたわ……」
「マッサージの勉強、結構しているんだ。親孝行のために」
「ふぅん……。オタバの癖に、やるわね」
俺が痴れっと嘘を吐くと、箒星は素直に感心してくれた。
本当は親孝行のためではなく、金稼ぎのため、あるいはチヤホヤして貰うためだが、この程度の嘘は許して貰いたい。
「靴下、脱がせてもいいか? 素足を見た方が、ツボを的確に押せるから」
「えっ、いや、それは……あたし、部活の後だから、蒸れてるし……」
蒸れているのが、いいんじゃないか。
そう口走りそうになったけど、本音は喉の奥に押し込んでおく。
「そっか……。まぁ、無理にとは言わないよ。次は
「ええ、いいわよ。なんか、本当に効果がありそうだし」
箒星の許可が下りたので、今度は脹脛に触らせて貰う。
舞香の脚には触り慣れているが、あいつとはまた違った感触だ。
妹の脚はとにかく細くて、肉付きも悪い。当人は自慢げだったが、俺には何がいいのか理解出来なかった。
箒星の脚はプニっとした弾力の下に、硬い筋肉の感触がある。
もっとモチモチしている方が、個人的には好みだが、健康的で大いに結構。
青痣があるので、ここは入念にマッサージしておく。
スキルの効果によって、徐々に痣が薄れ、五分ほどで完治させることが出来た。
「んんぅ……っ、あっ、ん……っ」
箒星は全身を弛緩させて、無防備な状態になっている。
更に十分間、じっくりと時間を掛けて、脹脛だけではなく脛の怪我も治し、施術を終わらせた。
太腿にも触りたいが、流石に許可は貰えないだろうし、ここが引き際だと思う。
「──箒星、終わったぞ。調子はどうだ?」
「ふぇ……? あ、ああ……。ええ、よかったわ……」
半ば眠っていたみたいで、箒星はぼうっとしながら、涎を垂らしていた。
俺が声を掛けると、のろのろと起き上がり、自分の脚を確かめる。
そして、ぽかんと口を開け、硬直した。
いつまで経っても、何も言わないので、俺の方から話し掛ける。
「かなり頑張ったから、俺が変態だとか言いふらすのは、やめて貰いたいんだが……」
「え、ええ、まあ、そうね……。というか、痣とか擦り傷とか、古傷まで消えてるんだけど……?」
「マッサージの効果だな。自分で言うのもなんだが、俺のマッサージは凄いんだ」
「そ、そうなのね……。まあ、うん。気持ちよかったし……。一晩だけ、考えさせて」
箒星はそう言って立ち上がり、再びぽかんと口を開けた。
それから、その場でぴょんぴょんと軽く跳んで、おっぱいを弾ませる。
俺へのご褒美か? と思ったが、どうやら違うらしい。
「嘘でしょ……。身体が軽いわ……」
日常生活を送っているだけでも、身体には微細なダメージが蓄積していく。
俺のスキルは、それを治せるので、身体の調子がよくなるのは当然だ。
全身に触らせて貰えるなら、もっと万全の状態にしてやれるが……また変態扱いされそうだし、言わないでおこう。