脱兎の勇者、日本に逃げ帰る。   作:有象無象のゾウ

9 / 21


 状況がどう転んだのか、俺には分かっていない。

 次にどんな言葉を掛ければいいのか、頭を悩ませていると、箒星の方から話し始めてくれた。

 

「あたしね、小学生の頃から、ずっとバレーボールをやっていたのよ」

 

「そ、そうなのか……。筋金入りなんだな」

 

 素人の俺のイメージだと、バレーは背の高い人が有利なスポーツだ。

 どういう切っ掛けで、背の低い箒星が熱中し始めたのか、とても興味がある。

 

「あんた、『チビの癖に意外だな』って、思った?」

 

「いやいやっ、思ってない! 思ってないから!」

 

「言っておくけど、こう見えても小学三年生までは、クラスで一番背が高かったのよ。あだ名はノッポちゃんだったの」

 

「へ、へぇ、ノッポちゃん……」

 

 箒星は誇らしげだが、ノッポちゃんは微妙なあだ名だと思う。

 それにしても、彼女が一番背の高いクラスなんて、想像するのが難しいな。

 俺が困惑している間にも、箒星の話は続いた。

 

「でもね、小三から先は、背があんまり伸びなくなったわ」

 

「そうか……。それは、残念だったな……」

 

「ま、リベロで活躍出来たし、スタメンから外されることは、一度もなかったけどね」

 

 『リベロ』というのは、守備専門のポジションで、とにかくボールを拾いまくるのが役目らしい。

 

「それなら、悩みは背が低いことじゃないのか?」

 

「そうよ。背丈に関しては、そこまで気にしてないわ。あたしの悩みは、これ」

 

 箒星は無造作に、自分のおっぱいを持ち上げて、大きく溜息を吐いた。

 俺は彼女のおっぱいを凝視しながら、思わず背筋を正す。

 

「頗るご立派だと、思いますが……」

 

「死ね。立派になり過ぎたことが問題なのよ。分かる?」

 

「動くのに邪魔、ってことか……」

 

 背が低いと小回りが利くので、それはそれで武器になる。

 しかし、大きなおっぱいの存在が、『小回りが利く』という武器を台無しにしているんだ。

 俺の回答を聞いて、箒星は深々と頷いた。

 

「その通りよ。背はちっとも伸びないのに、胸だけが馬鹿みたいに大きくなって……最近は運動すると、物凄く痛むの……。このままじゃ、スタメン落ちしちゃうわ……」

 

「それは深刻だな……。我慢出来ないほど、痛むのか?」

 

「一日なら、我慢出来るわよ。でも、二日、三日と連続で部活が続くと、どんどん痛くなってくるから……」

 

 男の俺は呑気に、『大きいおっぱいって素敵だなぁ』と思っていた。

 だが、その持ち主には、並々ならない苦労があるらしい。

 

 おっぱいを小さくするとか、そういう根本的な解決は、俺には出来ない。

 それでも、スキル【治癒掌】を使えば、痛みを取り除くことは出来る。

 一つ問題があるとすれば、俺が箒星のおっぱいに、触る必要があることだ。

 一応、聞くだけ聞いてみよう。

 

「……俺さ、マッサージが得意なんだけど、しようか?」

 

「あんた、最ッッッ低ね!! キモすぎっ!! マジで死ね!! そんなこと言って、あたしの胸を揉みたいだけでしょ!? 相談したあたしが馬鹿だったわッ!! このこと、みんなに言いふらすから!!」

 

 箒星は怒髪天を衝く勢いで怒って、俺のスクールライフを破壊しようとする。

 

「ちょっ、待った! 本当だって!! 本当にマッサージが得意なんだ!! 胸以外で試していいからっ、言いふらすのは勘弁してくれ!!」

 

「そこまで言うなら、あたしの脚をマッサージしてみなさいよ!! 効果がなかったら、マジでみんなに言いふらすから!!」

 

「わ、分かった! 任せてくれ!」

 

 斯くして、俺は箒星の脚をマッサージすることになった。

 彼女の脚は、全然太っている訳じゃないけど、ややムチっとしている。

 しなやかな筋肉の上に、程よく脂肪が乗っている感じだ。

 運動部なので、怪我をすることは珍しくないのか、治り掛けの擦り傷や青痣が目立つ。

 

「──それじゃあ、やりなさい。変なところに触ったら、本当に殺すからね」

 

「はい。対戦、よろしくお願いします」

 

 箒星はベッドの上でうつ伏せになり、俺は彼女の隣に立つ。

 今更だけど、この脚に触らせて貰えるのか……。

 俺は感動しながら、今日までに培ってきた経験を総動員して、マッサージを開始する。

 まずは、足の裏からだ。靴下越しに、リラックス効果のあるツボを押させて貰う。

 

「んっ、んんぅ……っ」

 

 箒星の艶めかしい声が、俺の耳朶を打つ。

 

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくれ。ここは、重要なツボだから」

 

 俺は一つ一つ、ツボの効果を説明しながら、真心を籠めて指圧した。

 

「な、なんか、本格的ね……。身体がポカポカしてきたわ……」

 

「マッサージの勉強、結構しているんだ。親孝行のために」

 

「ふぅん……。オタバの癖に、やるわね」

 

 俺が痴れっと嘘を吐くと、箒星は素直に感心してくれた。

 本当は親孝行のためではなく、金稼ぎのため、あるいはチヤホヤして貰うためだが、この程度の嘘は許して貰いたい。

 

「靴下、脱がせてもいいか? 素足を見た方が、ツボを的確に押せるから」

 

「えっ、いや、それは……あたし、部活の後だから、蒸れてるし……」

 

 蒸れているのが、いいんじゃないか。

 そう口走りそうになったけど、本音は喉の奥に押し込んでおく。

 

「そっか……。まぁ、無理にとは言わないよ。次は脹脛(ふくらはぎ)のマッサージをするけど、触ってもいいかな?」

 

「ええ、いいわよ。なんか、本当に効果がありそうだし」

 

 箒星の許可が下りたので、今度は脹脛に触らせて貰う。

 舞香の脚には触り慣れているが、あいつとはまた違った感触だ。

 妹の脚はとにかく細くて、肉付きも悪い。当人は自慢げだったが、俺には何がいいのか理解出来なかった。

 

 箒星の脚はプニっとした弾力の下に、硬い筋肉の感触がある。

 もっとモチモチしている方が、個人的には好みだが、健康的で大いに結構。

 青痣があるので、ここは入念にマッサージしておく。

 スキルの効果によって、徐々に痣が薄れ、五分ほどで完治させることが出来た。

 

「んんぅ……っ、あっ、ん……っ」

 

 箒星は全身を弛緩させて、無防備な状態になっている。

 更に十分間、じっくりと時間を掛けて、脹脛だけではなく脛の怪我も治し、施術を終わらせた。

 太腿にも触りたいが、流石に許可は貰えないだろうし、ここが引き際だと思う。

 

「──箒星、終わったぞ。調子はどうだ?」

 

「ふぇ……? あ、ああ……。ええ、よかったわ……」

 

 半ば眠っていたみたいで、箒星はぼうっとしながら、涎を垂らしていた。

 俺が声を掛けると、のろのろと起き上がり、自分の脚を確かめる。

 そして、ぽかんと口を開け、硬直した。

 いつまで経っても、何も言わないので、俺の方から話し掛ける。

 

「かなり頑張ったから、俺が変態だとか言いふらすのは、やめて貰いたいんだが……」

 

「え、ええ、まあ、そうね……。というか、痣とか擦り傷とか、古傷まで消えてるんだけど……?」

 

「マッサージの効果だな。自分で言うのもなんだが、俺のマッサージは凄いんだ」

 

「そ、そうなのね……。まあ、うん。気持ちよかったし……。一晩だけ、考えさせて」

 

 箒星はそう言って立ち上がり、再びぽかんと口を開けた。

 それから、その場でぴょんぴょんと軽く跳んで、おっぱいを弾ませる。

 俺へのご褒美か? と思ったが、どうやら違うらしい。

 

「嘘でしょ……。身体が軽いわ……」

 

 日常生活を送っているだけでも、身体には微細なダメージが蓄積していく。

 俺のスキルは、それを治せるので、身体の調子がよくなるのは当然だ。

 全身に触らせて貰えるなら、もっと万全の状態にしてやれるが……また変態扱いされそうだし、言わないでおこう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。