未だ無名のリンゼ   作:七海香波

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ウィルアタ峠の道程/人を■■にする魔法

 

 勇者ヒンメルの死から29年後。

 北側諸国、ウィルアタ峠。

 

 

 

 

 

 幼馴染である戦士ゴリラの後を追いかけるザインと別れて、フリーレンたちは三人旅に戻った。

 欠けた一人分の隙間を惜しみながら、彼らは魔法都市オイサーストへの道程を変わらず歩き続ける。

 寒気立つ冬の乾気に白い息を吐き出しつつ、厳しいオッフェン群峰を超えて次の村へ。

 一月も続いた大寒波が明けたとはいえ、標高の高い山道には未だ霜が降りている。

 サク、サクとそれらを踏み鳴らす感覚に小気味良さを感じながら山道を抜けて、峠を越えればその先にようやくオイサーストのあるキュール地方が待っている。

 

 そんな矢先。

 差し掛かった峠道にて目にしたものによって、彼らは足を止めることを余儀なくされていた。

 

「……なんだ、これ」

「うっ……」

 

 絶句するシュタルクと、思わず口元を押さえてしまったフェルン。

 そんな二人の横で、フリーレンは冷めた瞳で彼らと同じもの(・・)を見つめる。

 何の変哲もない峠道の脇に設置されていた、それは。

 

「……悪趣味だね」

 

 それは『石像』だった。

 ただし、彼らの見慣れた勇者ヒンメルや忘れ去られた過去の英雄(クラフトと僧侶アゴヒゲ)たちの(それ)ではない。

 

 ――身体のあちこちを本来曲がるべきでない方向に無理矢理捩り、折り曲げられた者。

 ――股ぐらから頭頂部に至るまでを鋭い一本の木杭で貫かれて、声にならない苦悶を叫ぶ者。

 ――斬り落とされた己の首を胸元に抱えながら、吊られた人形のように棒立ちする者。

 ――刳り貫かれた眼球を口腔に、引き抜かれた二十八の歯を眼孔に詰められた者。

 ――自らの握る剣で腹をかっ捌き、開いた傷口から腸をだらりと垂れ下げている者。

 等々。

 公道に設置するにしてはあまりに非常識な、そしてグロテスクな『石像』が計十三体。

 ここを通り過ぎる誰の視界にも等しく映るように、堂々と野晒にされていた。

 

「これは……」

 

 シュタルクとフェルンがショックから抜け出せない中、一人冷静さを保っていたフリーレンはそれらの横に掲げられた立て看板の存在に気がついた。

 

「……『此の者ら、三十余件に係る強盗・強姦・殺人を繰り返した極悪人なり。汝、今一度自らのふるまいを顧みよ』」

「おや、こんにちは。それを見られているようで」

 

 ばっ、と三人が来た道を振り返る。

 そこにはいつの間にか、一人の白髪の男性が立っていた。

 先日別れたザインと同じ、女神様の信仰に基づく厳粛な服装に身を包んだ『僧侶』。

 しかして意識を取り戻したシュタルクは、そこにザインにはない『戦士』の風格を見て取った。

 胸元に浮かぶ聖典の膨らみ。それに先立つ、重心の定まったブレのない立ち姿。霜を踏み砕く音さえ響かせない歩法と、目に見えてぶ厚い拳の皮膚。

 それはザインよりもむしろクラフトに近い……『武道僧(モンク)』。

 

「俺は武道僧(モンク)のアナムです。旅すがら、修行も兼ねてそのような石像を作っていましてね。それで、どうですか? 是非感想を聞かせていただけると嬉しいのですが」

 

 そう自己紹介を行ったアナムの顔には物腰の柔らかそうな微笑みが浮かんでいた。

 今彼らの目の前にある悍ましい『石像』たちの作者とはにわかには信じがたい、柔和な笑顔。

 その第一印象にひとまず安堵を覚えたシュタルクがまず「え? あ、ああ……」と口を開く。

 

「俺は、あー、なんつーかな。……「怖いな」、って思ったな。あ、いや、思いました……ハイ」

 

 心の片隅に拭い切れない恐れを残しながらもなんとか答えたシュタルクに倣うように、フェルンもまたその凍りかけていた唇をゆっくりと動かした。

 

「私は……そう、ですね。第一印象はシュタルク様と同じですが……これは罪人を題材にした作品、なのですよね。だとしたら、これらの像は罪に対する罰を示していると言えます。因果応報、悪事は必ず自らの下に返ってくる。それをこの作品は示しているのではないでしょうか」

「なるほど、それは重畳。して、そちらのエルフの方は?」

 

 アナムの目が続けて、フリーレンの方を向く。

 その髪と色を同じくする彼の瞳と向き合うことになった彼女は、しかし、シュタルクたちと違って未だ警戒心を保っていた。

 白く、深く、どこまでも透き通った武道僧(モンク)の瞳。

 彼女の口は自身の答えを形にするより先に、直感に従ってその瞳の奥に問いかけた。

 

「その前に聞かせて。これは何?」

 

 ぴりり、と場が途端にひりつく――平坦な口調の裏に滲む、剣呑な雰囲気。

 

「……フリーレン様?」

 

 フリーレンのその様子に、フェルンは疑問を抱く。

 ――何故この人(フリーレン)は、アナムへの警戒を緩めないのだろうか?

 確かにこれらの『石像』は悍ましく、見る者に嫌悪を抱かせるものではある。

 だが、目の前の男は彼女の敬愛するハイターと同じ聖職に就く者であるのだ。

 それに、なにより。

 あれらはしょせん、人を象っただけの作り物(・・・)に過ぎないのに……、と。

 

 しかし一方のアナムは、その自身に向けられる隔意に思い至る所があったようだった。

 彼は微笑みを少しばかり深めて、フリーレンに対して小さく称賛の言葉を贈った。

 

「気づかれましたか。流石はかの勇者一行の魔法使い、といったところでしょうか」

「お世辞は良い。場合によっては、私はお前を今ここで倒す」

 

 更に杖まで取り出して、フリーレンはフェルンとシュタルクに目配せした。

 その目がまさに彼女の冠する二つ名に相応しい冷徹さを伴っていることに、彼らは今更ながら気づいた。

 

「二人にはまだ早いか。……この男、物凄い死臭だ。そんじょそこらの魔族にも劣らない」

「……!」

「それだけじゃない。その『石像』からも同じ臭いがする。お前はそいつらを、本物の死体(・・・・・)を使って作ったんだろう」

「――はぁ!?」

 

 聞く者が耳を疑うフリーレンの指摘に、アナムは答えた――「ええ」と、なんてことのないように。

 

「【人を石像にする魔法(ヴァキーゼルン)】。それらの『石像』は全て、元となった方々が死ぬ直前で俺が魔法をかけて石化させたものです。一人一人時間をかけて、丁寧に拷問して。その身体を流れる命の雫の、最後の一粒が滴り落ちる一歩手前で『石像』にしました」

 

 武道僧(モンク)のアナムは、引き続き微笑んでいる。

 引き続き――慈愛の滲む、人智の及ばない微笑(アルカイックスマイル)を浮かべている。

 その聖なる微笑みで以て行われた悪魔のような自白にフェルンたちが再び言葉を失わざるを得なくなった中で、フリーレンはそのまま詰問を続ける。

 

「何のために?」

「コンセプトに対しての質問ですか? ふむ。……そちらの説明はもうご覧になりましたね」

 

 フリーレンが杖に魔力を巡らせているのにも関わらず、アナムは平然とした様子で話す。

 まるで彼は、自分が彼女に攻撃されることなどないと確認しているかのように。

 

「彼らは最近になってこの近辺で活動するようになった盗賊です。少し前はヴォーネン地方で、その前はアルト領一帯で暴れており、全員がれっきとした賞金首となっています。……頻繁にねぐらを変えては、行く先々で人々を襲い、その日の飯と快楽にありつく連中。時には村一つさえ焼いて滅ぼし、それを肴に宴会を開いていたこともあったそうです」

「だから、こんな末路が相応しいとでも?」

「その通り。他ならぬ彼らだからこそ、この作品に最大限の意味を持たせられる」

 

 段々と昂るフリーレンの魔力。

 それはアナムに、嘘偽りを許さないという言外の圧力を加えていく。

 敏感な周辺の環境生物が次々と逃げ出していく中で、それでもなおアナムは微笑むばかりで己の拳を構えようとはしない。

 

「――シュタルク君。貴方は先ほど、この像を「怖い」と言いましたね。君が最初、その像を見て怯えていたように。……ですが、見たところ今の貴方はある程度の落ち着きを取り戻している。それは何故ですか?」

 

 唐突に話を振られたシュタルクは「え」と声を上げた後、思わず自らの手を見下ろした。

 最初は恐ろしい『石像』への恐怖に、彼の腕は小刻みに震えていた。

 だが、今は不思議とその腕はいつの間にか落ち着きを取り戻している――それは何故か?

 

「……いや、だって。フェルンの言う通り、これは因果応報なんだろ? だったらアンタがこんなことを俺たちにしてくる道理はねぇ。襲い掛かってくる気配もなさそうだし……ならそこまで怖くなさそうだな、って」

「ではフェルンさん。貴女は『因果応報』と述べられましたが、フリーレンさんの態度の通り、この石像を作る行為は世間一般にはやってはならない事として分類されますね。ですが、先ほどの貴女はそこに言及されなかった。これはどうしてですか?」

 

 フェルンはフリーレンに倣って取り出した魔法の杖を片手に、少し考える素振りを見せる。

 ――確かに、これらの『石像』が元は人だったのだとしたら少々やり過ぎのように思える。

 もし自分たちが同じ相手と戦えば、殺した後に墓を作って埋葬するくらいのことはしてやるだろう。

 あえて惨たらしく死後を辱めるなんて、もしフリーレンやシュタルクが同じ提案をすれば彼女は止めようとするはずだ。

 だが、そこまで考えてなお、彼女は目の前の武道僧(モンク)に対してそこまで責め立てる気持ちが湧いてこない……何故だろう?

 

「それは……恥ずかしながら、最初はそこまで考えてはいませんでした。改めて考えてみれば、確かにこれは駄目なことです」

 

 「ですが」と彼女は言葉を一度区切る。

 

「アナム様の言葉を信じるならば彼らは『悪人』なのでしょう? それなら別に、そこまで同情してやる必要もないのではないでしょうか」

「よろしい。つまりはそういうことです」

 

 アナムは無垢な少年少女の答えに満足したように、改めて頷いた。

 これまで後ろに組んでいた両腕を広げ、鷹揚に彼は語る。

 

「罪に対する罰の役割は、大きく二つに大別されます。一つは『贖罪』。その者の犯した罪に対する代償を支払わせること。もう一つは『反省』。自らの罪を見つめ直させ、自省を促すこと。ですが残念なことに、彼らのような大罪人の場合には十分な罰を与えられていないのが現状です。一般的な縛り首にせよ、斬首にせよ、命を支払ってさえ代償を支払ったと言うにはまだ足りず、「どのみち自分は死ぬのだから」と大した反省もしない。だが、最低限社会的排除が為されるのならばそれで良いと、誰もが暗黙の裡にそれを見逃してやっている。それは――勿体ない、と俺は思うのです」

 

 アナムはフリーレンらの横を通り過ぎて、一列に並ぶ『石像』らの側に立つ。

 その瞳に映るのは軽蔑でも嫌悪でもない。

 ただ等しく、重罪人である彼らへの値踏みであり評価であった。

 

「彼らの安い命と無反省では贖い切れない『罪』。死ぬという『罰』を差し引いてなお、有り余る彼らの『罪』。それをお借りして、もっと社会が良い方向へ向かうために費やしてもらう。――そちらのお二人は言いましたね? 「怖いが、それが因果応報ならば。悪いことをしていない自分たちは別に恐れる必要はないのだ」と。その通りです。『悪事を行いさえしなければ、こうならない』。それを世間が学ぶのに、これ以上の素体は他にない」

 

 他の誰でもない、極刑でさえまだ足りない重罪を犯し続けた彼らだからこそ社会に対して果たすことの出来る――『見せしめ』としての役割。

 

「説法や寓話からでは得られない現実。石像や粘土では足りないリアリティ。生物学的に同じであるヒトから造られた象徴(シンボル)だからこそ、世の中に罪を犯すことの愚かしさをなによりも強く主張できる。それが、この作品の目的であると俺は回答します」

 

 石像化とはそれを最大限発揮させるための加工であり、そこに恥じ入ることは何もないとアナムは主張してみせる。

 死臭に覆われてなお色濃く輝く彼の信念が、確かにそこには表れていた。

 ……しかし。

 だからと言って、それが彼のふるまいを正当化するに足るとフリーレンは認めなかった。

 

「僧侶の言葉とは思えないね。それで当人たちに一切更生の余地を認めないのは、聊か傲慢なんじゃないかな」

「そうでしょうか? 彼らは既に成人していますよ。これまでの人生の中で己の行いを顧みる時間など、いくらでもあったでしょう。俺が改めて彼らにそれを与えるまでもなく」

「つまり諦めた、ってこと?」

「その表現は正しくありませんね。そも、その必要はないと俺は思っています。もし彼らを生かして捕え、兵士に引き渡したところで死刑になるだけです。女神様の言葉はそれを聞いて後々に活かすことのできる者に価値がある。土の下で眠るだけになった彼らにそれが出来ると?」

「だけど……」

「フリーレンさん」

 

 否定を重ねようとするフリーレンに、アナムは優しく彼女の名前を呼んだ。

 その瞳がフリーレンの顔を覗き込む。

 

「貴女の仰ることはまったくもって世間的に正しい。それは俺も理解していますし、これ以上話したところで恐らく平行線にしかならないでしょう。――ところで、それは果たして貴女の本心からくるものなのですか?」

「……なにが言いたい」

「シュタルク君とフェルンさんに見られた動揺が、貴女には最初からまったく見られませんね。言葉では俺の作品を否定していても、その節々から見える態度は実のところ無関心(・・・)だ。本当は、貴女は「こんな『石像(もの)』なんてどうでも良い」と考えているのでは?」

「……それは」

 

 アナムの目の中には敵意はなく、また隔意もない。

 ただ、それは……『石像』に向けられたものと同じように、彼女の本質を静かに推し量ろうとしていた。

 

「こちらを否定しようとする貴女の言葉は、貴女のものではない。まるで「そうするべし」と決めた別の誰かの答えをなぞっているかのようだ」

「……」

「真似をしようとしている。理解しようとしている。だが、その尊敬すべき誰か(ヒンメル)の答えは恐らく、未だ貴女の本心となるまでには至っていないようだ」

「……れ」

「それを分かっているからこそ、貴女は俺を否定したい。こんな『石像(もの)』を平気で造る(アナム)に冷酷な貴女(フリーレン)自身を投射して、そんな自分が誰か(ヒンメル)の意志で否定されることを心の底から望んでいる。俺にはそのように――」

「……黙れ!」

 

 放たれる、魔法(かたち)にならない魔力の波動。

 アナムの側を通り過ぎていったそれは、いくつもの大木を薙ぎ倒して山の向こうへと消えていった。

 すかさず次の魔力を充填しながら彼を睨みつけるフリーレンに、なおもアナムは親愛を込めて語り掛ける。

 

「――どうやら、今の俺の腕では未だ貴女の本心に響くまでには至らないようだ。悔しいですが……いや」

 

 そこでアナムは何かを理解したかのように、大人しく言葉を切った。

 ふっ、とフリーレンから視線を外して、彼は三人に対して顔を下げた。

 

「次にお会いできる時には、より良い作品をお目にかけられるようにしたいものです。貴女からの感想は、その時に改めて。では、俺はこれで。実は少々先を急いでおりまして。……お二人とも、どうかそのお心を大切に。そのまま悪を為すことを恐れていてくだされば、彼らの『罪』も少しは報われることでしょう」

 

 そうして、アナムは去っていく。

 フリーレンらが来た方向へと、今度は霜を踏みしめる音と共に。

 その背中へ向けて、フリーレンは変わらず杖の先端を向けていたが……ついぞ、彼女が魔法を放つことはなかった。

 

「良いのですか、フリーレン様?」

「……そうだね。今のところ、あいつの行為を問う罪はないし」

 

 とにかく気に入らない、というのが今のフリーレンの心情の全てだった。

 別に親しくもない相手の心に平然と寄り添おうとしてくる、それ自体は彼女がこれまで出会ってきた尊敬すべき親切な人間たちと変わらない。だと言うのに、アナムに対しては尊敬でなく嫌悪ばかりが湧き上がってきて、今の彼女は非常に気分が悪かった。

 だが、その気分のままに彼と戦うことは出来ない。

 何故なら、客観的に評価すればアナムにはただ賞金首を仕留めたという功績しかないのだから。

 そこに彼なりのやり口を少しつけ加えただけで、それ自体を社会は一々罪に問わない。

 

 フェルンとのやりとりを経て、ようやく彼女は杖を下げた。

 しかしその瞳は変わらず、小さくなっていくアナムの背中を忌々し気に見つめていた。

 

「確かに、私はなんだかんだ言ってまだヒンメルの言ってることを真似しているだけだ。それが正しいことは分かっていても、なんで正しいのかって言われたら、うまく説明することは難しい。だけど、それをまさかあんな奴に指摘されるなんて……。分かってはいたけど、改めて言われると腹が立つな」

「……ですが、それじゃいけないんでしょうか?」

「フェルン……」

 

 顔を顰めるフリーレンに、フェルンは思ったことをそのまま吐き出した。

 

「それが正しいことの理由を分かっていなくても。正しいとされると分かっていて、とりあえずそれを行うのなら問題は起こりません。ハイター様も仰っていました」

 

 ――良いですか、フェルン。私は貴女の目の前でこうして善い大人であろうとしていますが、その実私はそこまで立派な人間ではありません。では、何故そうするのか?

 それは、貴女に善い行いをする人間に育ってほしいからです。子供は親の背を見て育つと言いますからね。

 今はとにかく、意味が分からなくても良いのです。形だけでも私の善いところを真似てください。

 そうしていれば、いつかきっと女神様は貴女のことを褒めてくれますからね。

 ――ハイター様は褒めてくださらないのですか?

 ――はっはっは。いいえ、もちろん私も褒めてあげますとも。こっちへ来てください。どれ、頭を撫でてあげましょう……。

 

「……そう」

「いけない考えでしょうか」

「良いんじゃねぇか? 俺だってよく言われたぜ。「馬鹿は身体で覚えさせなきゃ分からん」って、何百回も木剣を振らされたりしたし。あの時は全然分かんなかったけど、つまりそういうことだろ?」

「それは少し違う気がするけど……ありがとう、二人とも。少しすっきりしたよ」

 

 フリーレンは再び杖を執る。

 その魔法は、今度こそ盗賊たちに安らかな眠りをもたらした。

 

 その行為が正しいのか、彼女はうまく説明することは出来ない。

 ただ、彼女が心に思い浮かべたヒンメルは微笑んでいたし、側の二人もまた納得したような面持ちだった。

 だったら、きっとそれは正しかったのだろう。

 

 やるべきことを終えて、彼らは再び歩き出す。

 

 オイサーストはもうすぐだ。

 

 




「見た者の悪性をこそ映し出す『石像』。心胆寒からしめる残虐な『罰』を前に、ヒトは否応なしに己の内に秘める悪性を顧みずにはいられなくなる、か……。いやはや、流石は聖職者と誉めるべきかな。実に興味深い試みだよ。このような悪意への向き合い方もあるんだね。
 ところでアナム君、聞きたいのだけれど。他ならぬ君自身はあれらに何を見るのかな?
 ねえ。教えておくれよ。……女神様は、いざ()の時を迎えた君を誉めてくれると思う?」

 少女の顔をしたモノは、魔法と交換で手に入れた新品の『信仰の証』を手の中で転がしてみる。
 問いかけの先では、それを削り上げたのと同じ手が今まさに新たな『作品(・・)』へと赤色の洗礼を施さんとしていた。
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