しかのこのこのここしたんたんのアニメが今日で最終回という事実に耐えきれなくて、三人称視点の練習ついでに投稿した。後悔はしていない。
ある日、少年は神託を受けた。いや、実際に神託かどうかは神のみぞ知る。単なる夢かもしれないし、魂だけの時に上位者から何かを言い含められたのかもしれない。
神託の内容、それは
『シカと和解せよ』
相当なイカレポンチだった彼は『シカと和解せよ』という言葉を真に受け、その日から彼の脳の8割がシカで占められるようになった。
シカの生態を知るために図鑑や獣医学書といった書物を読み込むのは当然、動物園には週三回のペースで赴き閉園時間までひたすらシカを観察。日本だけでなく海外の論文も読み漁り、時には知り合いのマタギに頼み込んでシカ狩りに同行し、命の儚さと猟師の役目を学んだ。
シカと和解する。誰もが戯れ言と一蹴する言葉を彼だけは何故か真剣に受け止め、それが己の使命だと信じ続けた。いつの日か、シカと運命的な出会いをすることになると論理を飛躍させつつ、彼は自身を磨き続けた。
ブラッシング技術の向上、シカせんべい作りは序の口。シカとのボディランゲージの模索や、肉体が出来上がってきた頃になると山へと赴き幾度となく熊と戦闘訓練に励んだ。
ブラッシングは運命的な出会いをしたシカに至福の時を送ってもらうため。
シカせんべい作りはいずれ巡り会うシカに究極の一品を差し出すため。
ボディランゲージはもはや語るまでもない。異種族であるシカと分かり合うため意思伝達手段を模索するのは当然の帰結。
熊との戦闘訓練は、捕食者やハンターからシカを守るため。
シカの駆除が人間にとって必要だということは彼とて熟知している。だが、愛を誓った一匹のシカがそのターゲットにされることを許容できる者が果たしてこの世界にどれだけいるだろうか。
いくら知恵があろうと、災厄を跳ね除けるほどの力無くしてはシカを守ることなど不可能。故に、山の主とされる熊の元へ赴き、幾度となく拳を重ね、己を鍛え上げ、時には凶悪な外来生物を相手に共に戦った。
心・技・体、全てを極限まで至らせ、現在高校二年生。彼────【
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初冬を迎え、気温が下がった今日この頃。もう一月もすればコートが必要になりそうなこの季節。建御命は都立日野南高校に向かうべく通学路を歩いていた。
「あっ! 建御くん、おはよ〜」
「おっ、建御! 今日の体育一緒に組もうぜー!」
彼、建御命は日野南高校における有名人の1人だ。銀髪碧眼、文武両道で人当たりが良く、体格も程良く爽やかな雰囲気は男女問わず多くの者を惹き付ける。
「おはよう三好さん。沼田は悪い! もう先約が入っているんだ。次の授業なら大丈夫だから、その時な」
次から次へと声をかけられるが、一人一人丁寧に応対し歩みを進める。目の前には、キラキラと輝く金色の長い髪の少女が一人。
「や、おはよう虎視。『今日も』、調子良いみたいだね」
「ッ! あ、あら建御くん、おはようございます。良い天気ですね」
その少女の名は【虎視虎子】。彼女もまた日野南高校に通う高校二年生。成績優秀品行方正、あどけなさの残る美貌でやはり、男女共に人気を博している。だが元ヤンだ。
こんな二次創作を読んでいる傾奇者諸君は当然ご存知であろうが、体裁を保つため敢えて紹介させてもらう。
「虎視さんと建御くんだ!」
「並んで歩いてるよ!」
「こんな光景見れるなんてラッキー! 今日はいい事ありそう!」
さながら動物園のパンダか、もしくは茶を入れた湯のみに茶柱が立ったかのような反応をされる二人。しかし、2人は慣れた様子で一人一人に挨拶をしていく。
やがて、人気が無くなる。なんてこともない、ただ裏道に逸れたからだ。閑静な住宅街、周囲は2人を除いて誰一人いない。
「……お前なぁ! あーいうのマジでやめろよ! 心臓に悪いじゃんか!」
「悪い悪い。でも、あの程度でボロ出しそうになるのはどうなのさ」
豹変。清楚でお嬢様な様子から一変、虎視虎子は猛獣のごとく建御命に食ってかかるが当の本人は穏やかに対応する。もっとも、割と日常的なことなので、お互い悪意は無い。2人は中学時代からの仲で、その時にたまたま虎子がヤンキーであることを知った。
「ったく、日野南高で私の過去を知っているのはお前だけなんだから、もっと隠すの協力しろよな!」
「ハイハイ抑えて抑えて。後ろに同級生歩いているんだから」
「え、マジ!?」
グルンと勢いよく後ろを振り向くが、誰もいない。
「アハハっ、冗談冗談。そうピリピリしなさんな」
「……テメェ、いっぺん死んでみるか…………?」
やいのやいのと盛り上がっていると、突然強烈な気配を2人は察知した。
騒ぐのをやめ、錆び付いた機械のようにギギギと、2人は全く同じ動作で気配の元へ顔を向ける。
そこには、シカの角を生やした女子高生が電線に吊るされていた。
虎視虎子は悲鳴をあげた後早口で独り言を捲し立てているが、建御命はその少女から目を離せなかった。
彼の中に響く原始の呼び声。本能が、魂が訴えていた。あの少女こそ、神託を受け取ってからずっと自身が求めていたシカであると。
感動、歓喜。今彼の脳内には高らかにファンファーレが鳴り響いている。
「おい命。見るからに面倒事だし、さっさと学校行くぞ」
「…………だ」
「へ?」
「……これは、運命だ。彼女こそ、俺が10年以上求めていた、My Deer」
命は震え声で、しかしハッキリと瞳孔ガン開きで戯れ言をのたまい始めた。
「……は? 運命? My Deer? 何言ってだコイツ。良いから、さっさと学校行こうって……」
「あの彼女を! この寒空の下に放っておけって言うのかお前はァァァ────ッ!!??」
「ひいぃ! 声デカ!!」
命は突然がなり立てて捲し立てたと思えば直後にスンと、能面のごとく真顔に切り替わる。あまりの変化の急降下に、虎子はヒュっと喉を鳴らす。
「……明日のニュースで、日野市の女子高生電線に引っかかり死亡って報道されるかも」
「いや、ンなわけ」
一切まばたきせず、淀んだ瞳を虎子に向けて語り出す。そこに、シカ角の生えた少女も電線に吊るされたまま参戦。
「これから毎朝この道を通る度、私の顔を思い出す……」
「あの時」
「助けていればって」
「「一生後悔に苛まれる毎日」」
初めて会ったというのに、まるで十年来の友人かの如く2人は息ピッタリで虎子に精神的圧力をかけていく。
「ああ……もう! 分かったわよー!!」
5分後。
「生☆還」
(む、無駄に疲れた…………)
「…………」
ピンピンしているシカ娘と、朝っぱらから強制的に人命救助をさせられて疲労困憊の虎視虎子。そして、そんな2人─────ではなく、シカ娘の様子をつぶさに観察している建御命。奇妙な状況が出来上がっていた。
なぜあんな所に吊るされていたのかという質問をする虎子に、朝起きたらいつの間にそうなっていたと答えになっていない返答をするシカ娘。
「とにもかくにも助けてくれてありがとう! ヤンキーのお姉さん!」
「ウフフ、別にこのくらいのことは…………」
初対面のシカ娘に自身の黒歴史をさらりと見抜かれ凍りつく虎子。そんな彼女の横を通り過ぎて、シカ娘は未だ口を閉ざした命の前に立つ。
「そして……」
「ハ、ハァ───ッ!? ヤ、ヤンキーって私が!?」
「近くで見ると……やっぱり、お兄さん! 貴方はっ、まさか!?」
「おい私を無視すんな!」
目と目が合う。すると、命は手提げカバンを開けある物を取り出す。それは可愛くラッピングされた、直方体の箱。
「……俺はずっと、この時のために生きていたんだと思う。全ては君にこれを渡すため、これを作った3年前からずっと肌身離さず持ち歩いていたんだ……どうか、受け取ってくれ」
「お兄さん……! うん。私、今とっても嬉しい!」
「なに、この雰囲気」
初対面のはず、自己紹介すらしていないにも関わらず2人の様子はまるで感動の再会をしたかのよう。気色の悪い言い回しをぶつけられ満面の笑みを浮かべるシカ娘。虎視虎子は謎に盛りあがっている2人の様子を見てドン引きした。
「ッ!! こ、これは……!」
箱の中身を見て、驚愕するシカ娘。何事かと思い、虎子も中を覗きに近づく。
「どーした……ん゛ん゛っ! ど、どうされたのですか? 何かおかしなものでも…………って何、これ?」
そこには、きつね色の十字の帯が巻かれた厚みのある円形の物体が入っていた。
「これは、幻のシカせんべい!! シカ界隈で噂されているものの誰一人として見たことの無い究極の逸品! やっぱり、お兄さんは創業300年を超えるシカせんべい作りの老舗【建御屋】社長の御令孫! 建御命!!」
「シカ界隈ってなんだよ。てか、シカせんべい作りで老舗とかあるのか」
「やはり、知っていたか……そう、せんべいだけでなく帯の材質から全てにかけて最高の素材を使い、更にシカが真に好む味付けに調整した至高の作品だ。どうか、食べて欲しい」
シカせんべいの材料は米ぬかと小麦粉。帯は100%パルプ、大豆インクと食べられるノリで出来ている(Wiki調べ)。一体全体ここからどうやって究極の逸品とやらになるかは謎であるがとにかくなんかすごいらしい(小並感)
恐る恐る、シカせんべいを丸ごとかじるシカ娘。口に入れた瞬間、彼女は落雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「すごい……すごいよ! 今まで食べたどんなシカせんべいより美味しい! 見た目、香り、食感、味付け、どれをとっても最高品質! サクッとした食感から瞬時に広がる芳醇な味わい! 私、幸せだよ、お兄さん!」
「シカせんべい如きでそんなにまでなるか……?」
「はははっ、喜んでもらえて何よりだよ」
アハハハ、ウフフフと、2人はたからかな笑みを浮かべ、桃色の空間が浮かび上がっている。虎視虎子は全くついて行くことができなかった。
「君の名を聞かせてくれないか」
「私は……ううん、きっとこの後、そう遠くない未来に再会できる。その時まで、お楽しみっ!」
「そうか……君が言うならきっとそうなんだろうな」
「もう訳分かんねぇ…………って! 建御君! 早くしないと学校遅れますよ!」
「おっといけない。それじゃ、また後で」
駆け足でこの場から立ち去る虎子と命。遠のいていく2人の背中を、シカ娘は見えなくなるまで眺めていた。
「…………」
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