“サオリ、少しいい?”
うん?先生、どうした?
“「彼女」について”
ああ、姉さんについてか...まあ、いいぞ。別に話したくない話題というわけでもないからな。
姉さんは今でこそあんな感じだが、昔は私達を引っ張っていってくれるまさに姉のような人だった...
ああ、勘違いしないでほしいが、別に血縁関係があるわけではない。さすがにそこを勘違いはしない...?ならよかった。
それで昔の姉さんだが、文字通り私達のリーダーみたいだった。励まして、分け合って、教えあって、今思えばリーダーとしての私はかなり姉さんに影響されていた気がする。
ほら、その時の写真だ。もうこの一枚しか残っていないが...
“えっと...皆しか写っていないんだけど”
え?肝心の姉さんが写っていない?仕方がないだろう。この時には三脚なんてものは無かったし、カメラもあまり上等とはいえなかったし...
それに、この一枚以外の写真はもう全て焼けてしまったんだ。だからあの時の輝いていた姉さんは、もう、見られない...
“大丈夫サオリ?無理はしなくていいからね”
あ、ありがとう先生。無理しない程度に、か。
それでその後...いつ頃起こった事かは忘れてしまったが、いつのまにか姉さんが居なくなっていた。皆を頼んだとだけ言って。また会えるって言って。
だが、その後に姉さんとは会う事は叶わなかった。
理由は分からない。何をされていたのかも。
だが...
“あの時に...”
ああ、そうだ。
おそらくだが、マダムに何かしらをされていたのだろう。姉さんの口も実質的に塞がれている以上、私達にそれを知る術はない。
そして、そこからは先生も知っているだろう。
“救護騎士団に保護されるも、精神に異常”
“また、四肢の一部の欠損。その他多数”
“これだけ挙げても、まだ全体の一部”
あの姿は私も見させてもらったが、痛々しいものだった...それにまるで、あれは何も面影がない、抜け殻のようだった。
私は、そのまま泣き崩れて...
“...もういいよサオリ。ありがとう”
あ、ああ、もういいのか...?では失礼する...
トリニティ自治区にあるとある病院の一室。
「......」
ここでは一人の少女が療養をしていた。
エデン条約調印式後、保護されたアリウスの生徒たちは一時的に治療が行われ完治したと断定された後、各地で奉仕活動を行うように決定された。
今となってはほとんどの生徒は退院し、空き病室も増え平常運転に戻りつつあるこの病院には、唯一まだ退院できていない生徒が居た。
「.......」
彼女はまだ、失った両腕を前に伸ばし続ける。まるで未だ自分に腕があるように。
片方しかない濁った目にはこの無機質な病室がどう見えているのだろうか。
幸せな日常なのか、はたまた未だに地獄は続いているのか。それとも現実を見続けているのか。
それを私達が知る方法は残されていない。