デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚   作:デスマス怒る

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見きり発車です。次回は未定。



地上編
1,亡国と騎士とデスマスター


黄昏時、漆黒の鎧に身を包み顔をも覆い隠した男が、海に浮かぶ慰霊碑に祈りを捧げていた。

 

男の名はエピロ。ただ、哀れな身の上のはぐれ魔族である。

 

 

慰霊碑に刻まれた名はアルキード。かつてこの場所に存在し、たった一夜でこの世から領地ごと吹き飛んだ王国の名である。海に沈んだのでなく、圧倒的な熱量、破壊力でもって蒸発させられたのだ。そこに住まう民草と共に。

 

それは大地(ガイアー)を灼く呪文(メラ)であってもこれほどのことはない、と彼は思った。エピロはデスマスターである。当然ながら閃熱系呪文、氷結系呪文はそれぞれ最上位まで修めている。

 

過去、賢者の勉強をしていた時は爆裂系最上位や魔法使いの呪文では、件の大地を灼く呪文を修めていた。

 

だがそのどれを用いようと、王国一つを蒸発させることなど出来はしない。

 

「本当に、恐ろしいな。(ドラゴン)の騎士、か。」

 

他に似たような破壊力を持つのであれば、軍用兵器として運用される極大消滅呪文『メドローア』であろうか。しかしこれは最低でも三人、安定性を重視するなら後一人欲しい大呪文。一人で発動など、神話の住人でもなければ、後は軍記物にありがちな誇張である。

 

「あの時は、師匠の極大氷結呪文(マヒャデドス)におれの極大焼失呪文(メラガイアー)をぶつけて、師匠の知り合いに合成してもらったんだったっけ。」

 

かつて、傍迷惑な侵略種が残していった置き土産の後始末に、メドローアを使ったことを思い出す。

 

師匠である氷の魔女と呼ばれる大魔族はケロッとしたものだったが、エピロは魔法力どころか、体力まで注ぎ込んでメラガイアーを放った。

 

そして調整、および射手である氷の魔女が呼び寄せた魔族が見事に敵の兵器を消滅させたのだが、メドローアは火炎と氷結のエネルギーを全くの同量で合成するしかない。かの魔族は合成の際、師匠のマヒャデドスを削って、辻褄を合わせたそうだ。

 

「不甲斐なかったなぁ。師匠に叱られて。」

 

曰く、削るとしたら貴様の呪文であって欲しいものだった、と。

 

口には出さなかったものの、エピロは無茶な、と思った。何せ、師匠とエピロの歳の差は丁度1500もあるのだ。年季が違いすぎる。

 

尤も、それを口にしたが最後、今度は一人でメドローアを成功させてみせろ、()()()のようにな、と言われたことだろう。

 

 

かつての師匠にならい、海面を氷結呪文(マヒャド)で凍らせながら、エピロは徒歩で帰路についた。

 

「ちょっと滑る。まだまだ練度が低いな。」

 

完全に凍り付いたものであれば、上を歩いても滑らない。氷の上が滑るのは表面がうっすら溶けて、水の膜に覆われているからである。

 

そうして岸にまで辿り着き、後は氷の階段を登るだけ。と、かなり登ったところで、疲れからエピロは足を滑らせた。

 

「あ、やば──」

「エピロ!」

 

飛び出してきた男によって間一髪、腕を掴まれ引き上げられた。

 

「無事か?」

「あぁ、すみません。」

「全く、私達の恩人なのだから易々と死なれては困るな。恩を返せなくなってしまう。」

「そうですね、早く帰りましょう。息を吹き返したとはいえ、油断は許しませんから。」

 

その前に、と前置いて、エピロは両手を構えた。極大呪文の構えだ。

 

両手の平から火柱が立ち上り、それは彼の頭上で絡み合い、やがて一つのアーチとなる。

 

極大閃熱呪文(ベギラゴン)!」

 

両手を前に突き出し、特徴的な指の構えから放たれるスパークを起こした魔法力は、氷結呪文で作られた足場を蒸発させた。

 

「上手いものだな。もう閃熱になっている。」

「いや、まだまだですよ。」

 

エピロのベギラゴンは熱量の操作が未発達であり、閃熱のビームが中途半端。先端の方などは火炎放射と見分けがつかない。ただ燃え盛る炎が欲しいだけならメラ系呪文で済むものであるのにこれでは意味がない。

 

と言うのも、エピロの故郷においてはギラ系呪文はメラ系と同じく火属性呪文。メラ系が単体相手を狙う火球で、ギラ系が地を這う帯状の火炎だとされてきた。そしてメラに比べて微妙な性能の呪文であるとも。

 

しかし、この地上に流れ着いたエピロは知った。ギラは閃熱。炎など高熱による自然発火のおまけだと。

 

真のギラ系はプラズマ化するほどの魔力エネルギーをビームとして打ち出す呪文であり、その威力は他の系統の追随を許さず、それがために非常に修得難易度の高い最強の呪文だと。

 

それを知ったエピロは修練に励み、数日で最下級の閃熱呪文(ギラ)を完全なプラズマビームに仕上げることに成功した。そのギラは彼がそれまで使っていたものの数倍の魔法力を必要としたが、威力は倍以上。下手をすれば彼のベギラマに迫る威力であった。

 

そして数日で彼はベギラマをもマスターした。その威力はそれまでのベギラゴンを超えていた。この調子で行くと、最上位のギラグレイドはどうなってしまうのだろうか、と彼は慄いた。

 

 

エピロは男と連れ立って、森の方へ歩いていった。丁度木陰になっていて、涼しいところにテントが張ってあり、そこには大きな一匹のスライム系魔物(モンスター)と、その魔物に寄りかかるようにして一人の女性が休んでいた。

 

「ただいま、ベホマン。彼女の調子は?」

 

ベホマン、とエピロに呼ばれた魔物は言葉を持たないが、代わりに身振り手振りで女性の容体を伝えた。

 

「バイタルは安定、熱も引いてきてる。もう二日もしないうちに歩けるようになるかな。」

「ありがとうございます、エピロ様、ベホマン様。」

「いやぁ、このぐらいどうってことありませんよ。それに、様づけはやめてくださいだ。おれはそんな大層な存在じゃありませんから。」

「しかし……」

「しかしもカモシカもないです。あなたはゆっくり休んで。そして治ったら、旦那さんと一緒に息子さんを探しに行くんでしょう。」

 

この女性は先ほどエピロを助けた男の妻であり、なんと、アルキードの王女でもあったそうだ。

 

それが色々あって一時心肺停止にまで追いやられたのだ。そこを通りかかったエピロが蘇生呪文(ザオラル)でなんとか命を繋ぎ、ベホマンの極大回復呪文(ベホマズン)で失った体力を活性化させることで一命を取り留めたのだ。無論、彼らが通りかかる前までに、旦那の方が懸命に救命を試みていたことも彼女の命を繋いだ一因であるだろう。

 

 

さて、そろそろ日も沈む。エピロは弱めのギラで焚き火をおこすと、鞄からフライパンを取り出して料理を始めた。エピロは故郷では調理ギルドに所属し、『生きる伝説』とまで言われた腕前である。フライパンの上の食材はまるで魔法のようにその姿を変えていった。

 

そうしてエピロが『いやしのスープ』を作っている横で、夫の方はなにやら古紙にペンを走らせている。

 

「まさかあれだけの魔法力を持っていながら、ルーラ系を何一つ使えぬとは。」

「いやぁ、実はルーラ系っておれの故郷ではとっくに失われた古代呪文の代表格で。飛翔呪文(トベルーラ)や、合流呪文(リリルーラ)に関してははじめて聞きました。」

「随分浮世離れしたところからいらしたのですね。」

「そりゃあ魔界と言えども色々ありますよ。」

 

妻の方はそう言って微笑んでいるが、夫の方は注意深く冷静な目線をエピロに向けている。

 

 

夕飯を終え、妻の方に痛み止め代わりの鎮静呪文(キアラル)をベホマンにかけてもらい、エピロは一人、岬の方へと脚を運んだ。

 

切り立った崖の岬。ほんの数日前までは、ここから陸が続いていた。

 

「契約完了っと。」

 

先ほど夫の方が描いてくれた契約の魔法陣を用い、瞬間移動呪文(ルーラ)を契約。役目を終えた魔法陣は光に包まれ消え去った。

 

これで第一段階はクリアだ。契約できた、ということは訓練次第できちんと使いこなせるということ。適正がなく、そもそも契約すらできないという最悪の事態は防ぐことができた。何せ()()地上においては彼の持つ『メガルーラストーン』や『アビスジュエル』が役に立たないことは実証済み。これから旅を続けるに、ファストトラベル手段を持たないというのは考えたくもなかった。

 

「ルーラ!」

 

エピロは威勢よく呪文を唱えた。イメージする場所は懐かしき故郷。彼の身体は魔力の輝きを纏い、僅かに浮き上がる。だが、それ以上何も起こらないままルーラのエネルギーは霧散した。

 

「やっぱりダメかぁ。」

「やっぱり、とは?」

「うひゃあ?!」

 

いつの間にやら彼の後ろには、妻と共にテントで休んでいるはずの男が立っていた。

 

「君に訊きたいことがある。……その、恩人を疑うようで気が引けるのだが、エピロ。君は本当に魔族なのかね?」

「ええ。おれは魔界の名門エンディ家が嫡子、『エピロ・レクス・エンディ』です。」

 

そう言ってエピロは鎧の兜を脱ぎ、その端正な顔立ちを露にした。一目では女性と見紛う程中性的で、長い下睫毛が特徴的だ。長い紫のストレートヘアにはカチューシャのような形の髪飾りが付いている。材質は金属で、黄金色に輝いている。同じ材質の耳飾りが、風に揺られている。

 

肌の色は人間と同じようで、それでいてうっすらとピンクがかっている。別に紅潮しているわけでもなく、そういう肌の色なのだ。

 

だが、目の色ははっきり人間と違っている。白目の部分が真っ黒で、瞳の色は金色だ。その白目が余りにも黒いので、くり貫かれた眼窩に黄色い光が浮かんでいるようにさえ見える。

 

「私の知識の中にある魔族とは少し違っているようだ。()()世界の魔族は耳が尖っている。だが君は人間と同じ耳の形をしている。」

「そりゃ、おれは人間だった魔族を先祖とする者ですからね。羽を持つ(エルフ型の)魔族なら耳は尖ってますが。」

「……どうやら嘘は付いていないようだ。そして確信がいった。君は、異世界から来たのだな。」

「ええ。やっぱり、気が付きましたか。流石は(ドラゴン)の騎士。戦いの遺伝子がそう導いたんですね。テランの伝承は事実だったようです。」

 

男の名はバラン。世界の秩序(バランス)を保つ裁定を担う、神の創りし超人である。

 

「ふむ、私についても調べていたのか。」

「ま、偶然ですけど。故郷、アストルティアに帰る方法を探してあっちこっち調べ回っている途中に、テランに伝わるお伽噺の伝承も大方聞いたというだけです。」

「では、私に出会ったのは偶然だと。」

「はい。」

「ではなぜ、妻の命を助けてくれたのかね?」

「そりゃおれがデスマスターだからですよ。」

 

蘇生呪文と回復呪文を携え、死の縁に陥った者を救い上げる。あるいは未練を残し、それゆえ逝けぬ地縛の魂を呼び起こし、心を癒し、安らかな休息を与える。

 

「救える命は救う。命は駄目だったとしても、せめて心だけは。」

「だから、あの慰霊碑を。」

 

エピロは優しく微笑み、頷いた。

 

「王国の多くは、今もまだ何も知らず、魂だけでさ迷っています。そんなかれらに死の事実を宣告すれば、悪霊と化して周囲に対して手当たり次第に呪詛を撒き散らす可能性もある。あの碑は、かれらの心を守るためでもあり、他者を守る為でもあるんです。……おれの実力ではこれが精一杯なんです。後は、時間だけが癒してくれる、いや、時間でしか癒せない。」

 

エピロは沖合いに浮かぶ慰霊碑を見つめ、涙を流した。

 

「……あなた達夫婦と、あの王国との間に何があったか、おれは知らない。どっちが悪いかなんて興味もない。それを決めるのは当事者の特権ですからね。だから……」

 

エピロは振り向き、バランの瞳を真っ直ぐに見据えた。彼の瞳は死者の念(デスパワー)によって蒼く染まっている。

 

「忘れないでくださいね、バランさん。あなたが吹き飛ばした平穏が有ることを、せめて。」

 

それはデスマスターに許された、ささやかな文句だった。

 

「それは、私に罪の意識を持てと言うことか……!」

 

バランの肩が震えている。

 

「あの国の人間は……愚かで害悪だった!」

「では、ソアラさんは?」

「!」

「バランさん、あなたの陥っている現状を、アストルティアは私の生まれる500年も前に乗り越えたんです。」

「それで……どうなった?」

 

(まこと)の協調を得たり。……しかしそれは両者に対して共通の加害者が居たからという側面もありますね。この世界においては、神話から異なるので通用するかはわかりません。まさか天界に殴り込んで、三神に極大協調呪文(ミナデイン)を叩き込むわけにもいかないでしょう。」

 

かつてアストルティアを蝕み、一部の人類を魔族に創り変えた恐るべき魔瘴(ましょう)。それを生み出していた『大いなる闇の根源』は、アストルティアの民すべて、即ち竜族、エルフ、オーガ、ドワーフ、ウェディ、プクリポ、人間、その他多くの存在が心を一つにしたことで、協調の真髄とも言うべき(いかずち)に打ち倒されたのである。

 

つまるところ、『大いなる闇の根源』はアストルティアという世界そのものに拒絶されたに等しい。

 

「すべての諍いに終止符が打たれたわけではありません。それに、あなた達夫婦の傷は深く、大きい。」

「そうだ。……私は……ソアラから親を奪い、故郷を奪った。だが、人間達は、何を奪っていった?」

 

結果論ではあるが、ソアラは生きている。生きているのだ。

 

「ひとまず、あなたは酷く混乱している。(ドラゴン)の騎士としての役割を担ってきた半生の中で、人間を深く知る機会がなかった所を、余暇を得て、はじめての交流。そこで最も美しいところと、最も醜いところを連続で叩きつけられては無理もないでしょう。」

「ならば、どうするのが正解だろうか。」

「正解など、いつかのあなたが決めること。おれに言えるのは一般論だけです。距離を置くこと。お互いがお互いを傷付け合わないように。それから、落ち着いて、自分から近付きたいと思ったならゆっくり近付けばいいんです。」

「近付きたくならなければ?」

「そのまま距離を置き続ければいい。少なくとも、おれや家族はそうして来ました。これからもそうやって他者との折り合いを着けて生きるのでしょう。」

 

バランはエピロの言葉を黙って聞き取り、頭の中で反芻していた。人間を赦すことはできないかもしれない。だが、もう殺戮はしたくない。妻を傷付けたくはないのである。

 

「君は、これからどうするのかね。」

「故郷へ帰る手懸かりを探し続けますよ。ベホマンと一緒に。まずは経済大国ベンガーナで路銀(ゴールド)の調達ですかね。要らないアイテムを手放して、旅の準備を整えます。それから、当面の目的地は賢者の国パプニカですね。知恵を欲するなら賢者を頼るべきかと。」

「ならば、忠告しておく。君の力は易々と人前に出さないほうがいい。君の魔法力は地上侵略を目論んだ魔王より高いだろう。それに、失われて久しい秘呪文の数々。広域回復呪文(ベホマラー)や存在しないはずのヒャド系極大呪文。それらをいたずらに広めてしまえば、世界のバランスは簡単に崩れるだろう。」

 

それらの呪文が使えるということは、世界の理にも存在している概念ではある。だが、バランすら知らないということは、遥か神話の時代の直後に失われたのだろう。この世界の常識として回復呪文は直接対象に触れるか、極近い距離で手をかざさなければならない。蘇生呪文も、対象の近くに跪く必要がある。

 

しかしエピロの存在がそういった当たり前を覆しかねないのだ。

 

「君が余りにもバランスを崩すようであれば、私は君を討たねばならなくなるだろう。それだけは避けたい。」

「わかっていますとも。おれだって余所様の世界でやりたい放題するような分別のない男じゃありません。それに、単純な年齢じゃおれ、あなたより年上ですからね。」

「あっはっは! 君が年上か。考えもしなかったな、それは。余りにも若々しい。参考までに、幾つなのかね?」

「……魔王ハドラーよりは年下、とだけ。」

 

そんなに自分は童顔だろうか、と思い、エピロは少しだけむくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




独自設定
主に原作未登場の漢字表記

極大氷結呪文(マヒャデドス)
氷獄呪文の別名があります。

極大協調呪文(ミナデイン)
ドラクエ10のミナデインならこの名前が一番しっくりきますね。

極大回復呪文(ベホマズン)
ベホマを範囲化した呪文。両手が必要。

閃熱系呪文について
ゲームシリーズで威力が低いことの辻褄あわせ。なおギラグレイドの漢字表記は極大蒸発呪文の予定です。


その他、アルキード王国の国民の魂やデスパワーについては独自設定です。
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