デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚   作:デスマス怒る

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難産。



10,死霊探偵パプニカに潜入す ⑤

 

レオナはエピロに向けて手を伸ばし、それを途中でくるりと反転、自分に向けた。

 

「零の洗礼!」

「な!」

 

迸るエネルギーが、レオナ自身を貫いた。

 

「これでわかったでしょう。わたしの記憶を奪うことはできないわ。」

「その技は良い効果だけを吹き飛ばす術。自らにかけられた悪い効果を払うには『光の波動』でもないと……」

「いいえ、あなたの呪文は()()()()よ。だって、わたしを守るために使ったんですもの。」

 

レオナが計画に気がついていることをテムジンやバロンに知られては、彼女に危険が及ぶ可能性が非常に高い。それに何より、ずっとそばにいた教育係のバロンが裏切り者であることを知ってしまったショックで、精神に傷を負ったはずなのだ。

 

「6歳の女の子が背負うには大きすぎる傷です。」

「6さいである以前に、わたしは姫よ。」

「しかし……」

「パプニカの姫として、あなたに命じます!」

「!」

 

エピロは反射的にひざまづき、胸に手を当て、頭を下げた。

 

「あなたの忠誠が偽りでないというのなら、これよりあなたはわたしの騎士です。テムジンの悪逆を挫く矛となり、そしてパプニカを守る盾となりなさい。」

「!」

 

まったく……敵わない、と思わされた。エピロは静かに、最敬礼でもって拝命した.

 

 

翌日、エピロは魔法師団から異動し、レオナの召使となった。事情を知らない者から見れば、ただの左遷であるが、実際のところ彼は彼女の特命を受けることで今までより自由に動けるようになった。

 

魔法師団の制服を脱ぎ、深淵のローブと暗鉄鋼の胸当てという本来の装備だ。ただローブはパプニカの法衣の青に染め直し、黒かった鎧は銀に塗装。鎧に刻まれていた紋章も、パプニカ王家のそれに刻み直された。

 

「召使風情が鎧を着込んで騎士のつもりか。」

「何とでも仰るが良い。レオナ様に命じられたものだ。」

「子供のごっこ遊びか。姫様も騎士に憧れる年齢というわけじゃな。」

 

バロンはエピロに嫌疑的だが、バダックは好意的。そもそもバダックとエピロは何度か戦場で一緒に戦ったことがある。近頃は年もあって動きが鈍っているらしいが、ちょっとピオラの一つもかけてみれば、パプニカ一刀流の技の冴は素晴らしいの一言だった。これでいて人格者なのだからエピロも一目置いている。

 

異動に伴い、彼は2年近く住んだ寮の2人部屋を引き払った。ロメウスは泣いた。エピロも何だか寂しくて、最後の日は2人で酒場に繰り出した。

 

「テムジン殿、ですね。」

「おぉ、エピロか。エピロ・エンディ、でよかったかのう?」

「覚えておいででしたか。」

「当然じゃ。ベギラマにマヒャドまで使える心身気鋭の若者が入ってきたと思ったが、まさか姫様のワガママで異動させられてくるとは。」

「ははは。しかし悪いことばかりじゃありませんよ。少しばかり戦いから距離を置いて、荒んだ心を癒すのもいいものです。」

「君は、本当にそれで良いと思うておるのか?」

 

掛かった、とエピロは心の中でガッツポーズをした。お膳立ては十分。その為に2人きりになれるタイミングを見計らったのだ。

 

「君はそもそも地位が欲しくて魔法師団への入団を決めたのだったな。しかし君はどちらかというと研究者気質。なぜ賢者を志さなかったのじゃ?」

「それこそ地位がないからですよ。賢者と魔法師団と戦士団、おれの前には3つの選択肢があるようでいて、実際は1つでした。」

 

賢者はまず品格を求められる。賢者となるための学びを得る為にはそもそもからそれなりの名家に生まれなければならない。

 

戦士団は地位を求めるならハズレだ。賢者の国であるパプニカで、魔法を使えない者の地位は低い。バダックの様に王族からの信頼厚い者は稀で、そのバダックにしても別段大金持ちというわけでもない。

 

実力でのしあがろうと思うのなら魔法師団一択というのは明白だったとエピロは語った。

 

「しかし君の実力が正しく評価されることはなかった。悔しくはないのかね?」

「悔しくはないのか、ですって。悔しかったですとも!」

 

わざと声を荒げて無礼な態度をとる。釣りの一環ではあるが、本心からというのもまた事実。相手を騙すのならなるたけ嘘をつかない方がいい。

 

「このまま未来を奪われたままなのはゴメンです!」

「そうかそうか。ならば今夜、わしの屋敷に来るが良い。お前を暗闇から掬い上げてやろうぞ。」

 

完全に針にかかった。

 

 

約束通り、城下町のテムジン邸を訪れるとそこにはテムジンと賢者バロンがいた。

 

「意外と質素な暮らしをされていますね。」

「この家は半分仕事場のようなものよ。財産はむしろ別荘の方にある。」

「別荘?」

「いずれお前にも見せてやろう。わしの素晴らしいコレクションをな。」

 

まだ本格的に引きずり込む気はないらしく、その日は酒とツマミを振る舞われ、ちょっとした愚痴大会の様相で終わった。

 

それ以降エピロは度々テムジン邸に招かれた。エピロはテムジンの話に都合よく相槌を打ち、少しづつ信用を獲得していった。

 

「どれ、せっかくじゃバロンよ。あの呪文を教えてやってはどうだ。」

「あの呪文?」

合流呪文(リリルーラ)だ。姫さまの召使ならば、すぐに合流できるようにしておいて損はない。」

 

思いがけず有用な呪文を手に入れるというようなこともあったが、これもエピロから信頼を勝ち取るための策略と見て間違いないだろう。

 

 

十数回目になる頃、とうとうテムジンが別荘に案内しようと言い出した。

 

賢者バロンが暖炉上の燭台を傾けると、暖炉が開き、その向こうに見えるたのは渦を巻く青い魔法エネルギー。

 

「旅の扉……」

「ついて来い。」

 

バロンに促され、次々と旅の扉の向こうに消えてゆく。エピロも意を決して足を踏み出した。

 

ピロロロロ……という特徴的な音と歪む視界。腹の底が引っ張られるような感覚。どうもこの旅の扉を設置した術者はあまりいい腕でなさそうだ、と吐き気を催しながらもエピロはテムジンの隠れ家に足を踏み入れた。

 

(石造り。おそらく地下。地上に建物部分の露出はないか。場所はどこだ?)

 

ふと後ろを振り返ると、

 

「な!」

 

巨大なキラーマシンが座り込んでいた。アストルティアのそれは全高2メートル前後だが、このキラーマシンは5メートルはある。

 

「このキラーマシーンはハドラーの地底魔城で回収されたものだ。」

「キラーマシーン……」

 

アストルティアのそれと違い、心を持たない本当の殺戮機械。ブルーメタルの装甲は並の呪文を通さない。かつてパプニカを襲った別個体は勇者パーティーによって破壊されたという。

 

「安心しろ、動力は断たれておる。勝手に動く心配はいらん。」

「動かす手段はあるがな。魔法使いが中に入ってその魔法力で制御するのだ。とはいえ未だ研究途中。」

「お前にはこれを完成させてもらいたい。」

「それは……国防の為と考えても?」

「そうだ。そして腐り切った王族どもからこの国を奪い返す!」

「王族から……? それはどういう?」

「分からんか、エピロよ。お前を追い出そうという行いの数々は王家が主導しておったのじゃ。」

「国家転覆は、罪では……」

「罪なものか! むしろ腐り切った為政者どもから国を救うのだ。救国の英雄とは呼ばれても、犯罪者にはならんわい!」

「とはいえ、だ。実力行使は最後の手段。現在、国王の子供はレオナ姫ただ1人。王位継承権のあるあの小娘をこのバロンがしっかりとし、摂政としてテムジン様を立てれば、平和裏に実権を掌握できる。」

「その暁には、貴様は大臣として取り立てることを約束しよう。」

 

よくもまぁぬけぬけと嘘八百をずらずら並べ立てられるものだ、とエピロは思わざるを得なかった。そもそもエピロへの嫌がらせの主導者がテムジンであることなど初めから割れている。かつて世界を救った勇者パーティの大魔導師マトリフへの嫌がらせは、彼を追い出すためのものだった。マトリフはエピロのような若者と違い、取り入れることが不可能だったからだろう。

 

だがエピロへの嫌がらせはむしろ、彼を味方に引き込むことを主目的においていた。周りに絶望したところを、甘言で唆し、引き摺り込むための。

 

「大臣ですか。どうです、おれに務まりますかね?」

「誰に聞いているのだ?」

 

エピロが振り返ってからそう言ったので、バロンは怪訝な顔をする。

 

「あんまりあなたを悪くは言いたくないけれど、むいていないわね、間違いなく。」

「でしょうねぇ。おれは政治家の器じゃありませんもん。ね、王女殿下。」

「何っ⁉︎」

 

透明呪文(レムオル)のベールを脱ぎ捨て、王女レオナが姿を現した。

 

「パプニカの王女レオナが命じます。エピロ、テムジンとバロンを捕えなさい!」

「御意の儘に。」

 

レオナの号令に合わせ、エピロがヒャドを唱える。しかし、バロンの防御光膜呪文(フバーハ)に阻まれた。

 

「貴様! なぜだエピロ、地位を手に入れたくはなかったのか⁉︎」

「ぬけぬけと。おれなんぞキラーマシーンの修復と、呪文の研究でこき使ったらそれで終わりでしょう。おれに人の上に立つ資格はない。6歳の女の子にもわかることがわからないとは、お笑いだ。」

「抜かせ!」

 

テムジンは歯軋りする。いくらフバーハといえど、ここにいる魔法師団全員の呪文を弾くだけの耐久性はない。

 

「……罠に掛けた、というわけだな。だが、まだこれがあるわ! デルパァ!」

 

テムジンの持つ魔法の筒から巨大なサソリが解き放たれる。

 

「あれは、魔のさそり!」

「うへぇ、凶悪なお顔だぁ。」

 

アストルティアのそれには、まだ可愛げがあった。しかしこの世界の魔のさそりは違う。

 

「メラゾーマ!」

 

エピロの唱えた呪文はしかし、魔のさそりに傷ひとつ付けることはなかった。呪文の効かない装甲を持つからこそ、テムジンはこの魔物を優秀な殺し屋として重用していたのだ。

 

「バロン!」

「了解。」

 

さそりの後ろにいた悪党2人は合流呪文で姿を消した。それだけではない。消える寸前に何かしらの呪法を起動したのか、唯一の出口である旅の扉が消えてしまった。

 

「……ふむ、ここまでは想定通りですね。」

「逃がしちゃってよかったの?」

「奴らはまだ計画を知るのがおれ達2人だけと思い込んでます。丸め込むのは容易だと考えるでしょう。」

 

旅の扉を閉ざし、その上ルーラ系封じの呪法をかけて閉じ込めたのはあくまで時間稼ぎ。なんなら魔のさそりすら捨て駒だろう。

 

「おれに毒針を向けたなら、覚悟していただきますよ。」

 

冷たい怒りが吹き荒れる。魔物を威圧し、従える技能。師匠の振る舞いを模倣するうちに自然と身についた覇気、魔を支配する王としての心得のようなものだ。しかしエピロはこの能力を好んでは使わない。彼は魔物使いを修めている。ともに戦い、心を通わせてきた。このように無理やり支配するのは好まない。

 

魔のさそりは萎縮し、動かなくなった。

 

「人の味を覚えている以上、生かしておくわけにはいかない。……御免。」

 

テムジンは魔族以外にも何人も邪魔者を消してきた。そして途中から塚を作るのをやめた。死骸はさそりに食わせるようになったのだ。

 

「デスサイズ……」

 

デスパワーにより構築された無数の大鎌の刃が地面より飛び出し、魔のさそりをバラバラに切り裂いた。怪物は痛みを感じることなく生き絶えた。

 

「すぐにでも荼毘に伏してやりたいですが、この密室ではそれも難しい。」

「そう、ね。」

「殿下、別に直視する必要はなかったのですよ。」

「そうもいかないわ。これはわたしの覚悟よ。」

「本当に強いお人だ。」

 

その後、この隠れ家を漁り、テムジンの計画を裏付ける証拠を探したが、案の定実物としての証拠を残すようなヘマをしてはくれてはいなかった。

 

「魔法の筒がいくつか。……どうも全部空ですね。せっかくなのでこちらで使わせて頂きましょう。」

「キラーマシーンはどうするの?」

「試してみたい呪文があります。」

 

攻撃呪文を通さないというが、エピロほどの魔法力で放たれる、それも細く収束させたベギラマは、殺戮機械をいとも容易く溶断してゆく。ものの数分でキラーマシーンの巨体は小さなガラクタの山と化した。

 

その山を囲うように宝石を並べて魔法陣を構築。

 

変形機工呪文(レゴーム)……」

 

ガラクタ達が寄せ集まり、十数体の手乗りサイズキラーマシンに変形(トランスフォーム)した。

 

「この子達に家探しを手伝ってもらいましょう。ミニマシン達、お願いしますよ。」

 

ミニマシン達は4本足をシュタタと動かし、建物中に散って行った。

 

この小さなロボット達は心を持たず、エピロの魔法力によってプログラムされた通りに動く。ミニキラーではないのは武装を一歳持たせなかったからだ。背中に携えた剣や矢筒はオミットされ、左腕はボウガンではなく右腕と同様の指を持った普通の腕に。目から放つブラストビームも、暗がりを照らすライトのレベルまで威力と収束性を下げてある。

 

ものの数分で家探しは完了した。とはいえ目ぼしいものは一つだけ。

 

「名簿……かしら?」

「それも暗号名(コードネーム)で書かれてますね。」

 

いくら証拠となる物品を減らしたくとも、誰が味方かを把握しておくためのメモを足らないわけにはいかず、苦肉の策でこのような形になったのだろう。

 

「ゴーレム、オークキング、ホイミスライム。」

「魔物の名前ね。簡単だわ、それっぽい見ための人が正体よ。」

「メラゾーマ、マヒャド。」

「その呪文が得意な人ね。」

「パンヤノマリーハオレノモノ。」

「マリーさん……確か恋人はいなかったんじゃなかったかしら。」

「なんなら魔法師団員の中だけで彼女に恋慕するのは5人はいたかと。」

「エピロはどうなの?」

「年が離れすぎていてそういう目ではとても。」

「あなた幾つなのよ?」

「ハドラーよりは年下です。」

 

全くもって緊張感のない会話だが、実際テムジンは袋のネズミなのだ。なんなら今すぐにでも天井をぶち抜いて呪法効果の範囲外に出たのち、リリルーラで背後に回り込むくらい訳はない。リリルーラは仲間と合流するための呪文でテムジンと決別した今、本来であれば彼らをターゲットに瞬間移動は不可能だが、それについては対策済みだ。

 

「魔王からは逃げられないってわけね。」

「おれは()()ではないですよ。」

 

などと言いながら、名簿をめくる。その最後、一番新しく加入したと思わしき名前。それを見てエピロは硬直した。

 

「セーブ・レクス? しゃれた名前ね。これがあなたのコードネーム?」

「いや。おれはそもそも名簿に名前を連ねていない。奴らが取らぬ狸の皮算用で、勝手にコードネームを考え、勝手に書き込んだのなら別ですが……」

 

猛烈に嫌な予感がする。いい予感はたいてい思い込みだが、嫌な予感はよく当たる。生存や危険察知の本能を由来とするがためだろう。

 

「エピロ・()()()・エンディ。おれのミドルネームを知ってるのは、3人しかいない……」

 

|レクスを救う()()()()()()()。その言葉にひっかっかるあまりに、エピロはもう一つ、その上に書かれた名前を見逃した。レクス以上に知る者のない名前。

 

『アストルティアハワシノモノ』。




独自設定
・エピロ固有スキルライン
 ??の心得の正体は『魔王の心得』
 習得スキルは凍てつく波動と魔王の覇気。魔王の覇気は魔王の邪気と同じく魔物を従える力がある。

・零の洗礼について
 設定は捏造。ちなみに読み方は(れい)の洗礼。ドラクエ10には『強化ガジェット零式(ぜろしき)』もあるのでややこしい。

・テムジンの屋敷
 この作品では普段の家と、秘密基地の2つあります。旅の扉で酔うのは独自設定です。

・キラーマシーン
 ブルーメタルというのは独自設定。アストルティアのは普通に呪文を通すので材質は異なりますね。

・バロンのリリルーラ
 原作のダイ爆発!にてそれっぽい描写があったので。ちなみに仲間としか合流できないのは独自設定。でないと要人暗殺し放題ですので。破邪の洞窟に置かれているのも悪人の手に渡さないため? でもバロンは習得できてますね。原作でアバン先生がキルバーンに使ったのは魔法の砂の補助があったから、という解釈だと思ってます。
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