デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚 作:デスマス怒る
(面倒なことになった……)
エピロは頭を抱えた。目の前には
時はやや遡る。
ソアラの完治を確認し、旅を再開しようとしたエピロはベンガーナに向かって北上しようとしたところ、バランから同行を申し入れられたのだ。
なんでも、彼はひとまずテランに向かい、後ろ楯を得ることにしたらしい。テランはベンガーナのさらに北であるため、途中までは共に行こう、と言うわけだ。
「私の紋章を光らせ、
そう語るバランはそっと目を伏せていた。なぜもっと早くテランを頼ることを思い付かなかったのか、と考えていることは明白だが、地上の王族事情に疎いバランが思い至らなかったのも仕方がない。
「私が、王族の責務を放棄したから……」
「ほいほいお二人さんストップストップ。後悔先に立たず、とにかく先に進みましょ。」
三人と一匹、連れだって森の中を行く。とりあえずは街道に出てしまいたい。森の中は何が起こるか分からない。腹を空かせたライオンヘッドなどが出てきたら大変……でもないが面倒だ。
「ソアラさん、乗り心地はどうです?」
「ええ、最高です。」
ベホマンの頭上に腰掛けたままソアラは申し訳なさそうにしているが、エピロに言わせれば一度心配停止に陥ってい、後遺症も無いのは奇跡に等しい。できるだけ楽にしておかないと、ダメージがぶり返してきてはことだ。
本来、スライムベホマズンはスライムキングと同型のモンスターで、移動手段はボヨンボヨンと跳び跳ねるものだが、ベホマンは上下に揺れること無くするすると這っている。それはバブルスライム系統の動きに近いが、左右に蛇行すること無く、上に乗る人に快適な乗り心地を提供しているのである。
「ところで、おれ、テランに行ったことあるんで、ルーラで送らなくて良かったんですか?」
「いや、どちらにせよ私達もベンガーナで多少の情報収集はするつもりだったのだ。」
「でもディーノくんを乗せた船の行き先は分かっているんでしょ?」
「あぁ。だから、調べたいのはアルキードが消えたことについて、人間達がどう思っているかだ。既に数日過ぎているわけだからな。貿易船が幾つか岬の近くを通っていただろう。」
それらの船の多くはアルキード行きだ。
「ところで、私からも質問があるのだが。」
「ほいほい、何です?」
「君はテランで伝承を調べていたと言ったが、どうやったのだ? まさか魔族であることを明かしたわけでもあるまい。」
「いえ、明かしました。」
「なに?!」
「王族を訪ねるのに身分を詐称するのもどうかと思って、兜を脱いで、ベホマンを連れて堂々テラン城を訪れました。」
「それで、どうなった?」
「追い返されました。」
しかし、その程度ですんだとも言える。ハドラーの地上侵略が為に魔族は迫害を受けているのが普通のところを、追い返すにとどめてくれたのである。
「問答無用で投獄、処刑で無かっただけマシ、てもんです。」
「君ならどうにでもなるだろう。」
「まぁ、テラン全土を
滅茶苦茶である。それくらい呪文文明のレベルがアストルティアより低いということなのだろうが。
「ま、代わりにアストルティアでは失伝しているような古代呪文がこっちでは出回ってるんですけども。」
「アストルティアで水の呪文と言えば海賊の
「
「
周囲の水分量に規模や威力を左右されるザバ系よりも、燃焼を阻害する冷気の方が使い勝手が良かったのだろう。ザバ系の使い手は今や殆んどおらず、契約の魔方陣も埃を被った大昔の魔導書に埋もれていた。
「結局おれがテランの国蔵書を閲覧できたのは、運が良かったからです。」
テランの村を襲った魔物を召還した死霊の力を借りて撃退し、怪我人に片っ端からエピロが
「死人も複数人いたんですが、傷事態は蘇生可能な範疇だったんで、『反魂の秘術』を使いました。……今思うと軽率でしたけど。」
反魂の秘術は、術者を中心にした近くの蘇生可能な死者をすべて蘇生し、生きている者の傷をも癒すデスマスターの呪法。呪文と違い事前準備が必要なのでホイホイ使えないが、一々ザオラルを唱える手間を考えれば最良の手段である。
「死霊の召還……それは禁呪法ではないのかね?」
「死霊側の許諾がないと力を借りれないので。それに
死霊召還は周囲の地縛霊や浮遊霊に仮初めの体を与える呪法であり、戦闘が終われば安らかな眠りに就かせるという契約に基づいたもの。反魂の秘術も、肉体から抜け出た魂が完全に逝ってしまう前にしか呼び戻せない。
召還した死霊は霊感の有るものにしか視認できない。テランの人々は襲い来る魔物をエピロとベホマンの二人だけで撃退したと思っていることだろう。二人を除いて。
「ともかく、魔物退治と死傷者の治療の功績を以て、おれはテランの城に立ち入り、フォルケン王自ら伝承を語って貰えることになったんです。」
その後、許可を得て蔵書を閲覧。役立ちそうな呪文も許可をもらって契約した。なお、ルーラの契約は忘れていた。できると思わなかったのと、メガルーラストーンが使えないことに気が付かなかったのが半々というところである。
「あ、忘れてた!」
ベンガーナの街も目前というところで突如そう言ったエピロは鞄を開くと、一通の封筒を取り出した。
「紹介状です。エピロ・レクス・エンディからと言えば謁見も叶いやすいでしょう。」
「何から何まで、感謝する。」
ベンガーナの街に着いた一行はそこで解散した。
ベホマンは街の外で待機。エピロは眼と角にモシャスを掛けて偽装し、街に入っていった。
「賑やかだなぁ。ファラザードを思い出すや。ん、でも軍事国家てところは師匠の国みたいだ。」
石畳の感触はもう随分と久しぶりで、望郷の心に囚われそうになる。
エピロは何か道具を買い取ってくれる店を探しだし、手持ちの道具を幾つか売却。メガルーラストーンやアビスジュエルを手放した。この二つはアストルティアに帰りさえすればそこまで高価、希少なものでもない。メガルーラストーンはむしろ下位のルーラストーンの方が希少だ。
「テランの魔物から剥いだ角や鱗でしょう、金のかけらに、余ってる魔法の聖水っと。それから……」
「まだ出るのか?! むしろその鞄の方が欲しいほどだ!」
「流石にダメですよ。この鞄はおれの生命線なんですからゴッポルさん。」
道具鞄と装備袋が一体となった冒険鞄。鞄造りの天才職人トートが最後に作り上げた品である。内側は呪法で拡張されており、そこに超整理術までもが施された逸品。今日まで続くトート流の職人でも、これを越える品は造れない。
オーナーの物欲しそうな眼を後ろに、エピロは店を後にした。財布は随分と重くなり、それゆえの安心感を彼にもたらした。
「んー、肉が旨い!」
せっかくなので露天でちょいと買い食いしつつ、バラン夫妻はどうしたろうと考えた。情報収集と来たら酒場に行くのが一番というエピロの助言で、近くの酒場に向かったはずである。
「覗いてみるかぁ。」
そう思って脚を運ぶことにした。
しかし夫妻は酒場にいなかった。二人は船着き場にいたのだ。バランの方が漁師の一人に船を貸して欲しいと必死で頼み込んでいるのをソアラがなんとか諌めているのである。
「お二人さん、どうしたの?」
「あ、姉ちゃんこの夫婦の知り合いか? 助けてくれ、さっきからすごい剣幕なんだ。」
「あぅ……姉ちゃん……」
確かにバランの剣幕はものすごいが、漁師のおじさんからしてみれば大事な商売道具を、身元の知れない二人に貸すわけにも行かないのである。なお女性と間違われたエピロはゲンナリした。
エピロは二人を引っ張って連れていった。鍛え上げた魔族の肉体に
周囲の群衆は細腕の少女がガタイの良い男を引っ張る様を唖然と見つめていた。一部は「いいぞー、ネェちゃん!」と言ったガヤを上げるが、その度にエピロはションボリしていった。
「離してくれエピロ! 私は!」
「ぐにゃっ!」
急に踏ん張りが強くなったので、エピロは盛大にすっころんだ。バランが
「痛てて、離して欲しかったらなにが起きたかくらいは話してくださいな。」
「ディーノが……」
「息子さんが?」
「ディーノの乗った船が沈没したと言うのだ!」
「なんですって!」
「仕方あるまい、船が借りれぬのなら
「わぁあ、ちょいまち! 無茶をしてどうするんです! 奥さんを置いていく気ですか!」
そう言ってエピロが説得を試みるも、バランは今すぐ探しに行く、の一点張りだ。
「うぅぬ、仕方ないや。」
エピロは自らを強化する呪法『深淵の契り』を発動した。彼の瞳がデスパワーで蒼く染まる。
「
バランの足元に出現した魔方陣から放たれる蜘蛛の糸じみた魔法力がバランの四肢を拘束する。
「
「えぇい、もう!
苦肉の策のキアラルはしかし、バランが纏う
「治療呪文も弾くと思わないジャン……」
こうなるとエピロに取れる手段は一つだけ。この世界の人間に忌避される力を使うので余り使用したくはないが、同じ効果を持つ『零の洗礼』はザオリクと同じく悟りの境地に至った賢者にしか使えない。
エピロは覚悟を決めた。右手に
「凍てつく波動!」
「させぬ!」
バランの放った闘気弾がエピロの足元の石畳を砕き、バランスを崩した彼の手に集った波動のエネルギーは霧散してしまった。
もし、凍てつく波動が直撃していたならば、さしもの
「すまない。だが、私は!」
「あなた!」
それまで遠巻きに見守るしか無かったソアラがバランの前に立ちはだかった。
「ソア……」
パァン、という乾いた音が鳴り響いた。
独自設定
死霊召還や反魂の秘術、凍てつく波動、ザオリク、零の洗礼については独自設定です。エピロがデスマスターに使えない呪文や特技を使えるのは、彼の独自スキルラインによるものです。デズリン師匠もドルマ系を使ってたのでこのくらいは。
なお、エピロは師匠(デズリンではない)に課せられた修行の一環ですべての職業を修め、フルパッシブになっています。必殺技も第2必殺技まで使えますが、1人用メドローアは使ったことがありません。この辺りはまたおいおい。
おまけ
エピロの所持スキルライン
〇デスマスター
・鎌スキル
・棍スキル
・オノスキル
・格闘スキル
・れいかん
〇固有スキル
・??????流氷獄殺法
・万魔の深淵
・??の心得
装備品
・深淵の錫杖
先端に目玉飾りの着いた長い棒。鎌、棍、オノの三つに変化する。
・深淵のローブ
・深淵のカチューシャ
鎧の下に着ている黒い服。
・暗鉄鋼の兜
・暗鉄鋼の胸当て
・暗鉄鋼の腕当て
・暗鉄鋼のすね当て
非力なデスマスターにも装備できる軽くて丈夫な鎧一式。
アクセサリー
・深淵のピアス
・深淵のロザリオ
・深淵の指輪
・深淵のアンク
・深淵のベルト
・深淵のカード
・???の??
・深淵の大紋章
・デスマスターの証
・?????のこころ