デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚 作:デスマス怒る
船の沈没地点に到着したので、船長が呼びにきた。
「着いたぞ。んだが、船の残骸も何も見えねぇな。全部沈んだか流されたかだな、こりゃ。」
「むーん。せめてどっちに流れたか分かります?」
「当時は嵐だったようだからな。風向きから推測するのは難しい。が、海流自体がちゃんと分かってるからなぁ。」
錨を下ろして船を停留。船長含め船員達は船室で海図とにらめっこしている。
エピロは懐からメモリのついた試験管のような道具を取り出した。
「それは?」
「デスマスターの道具で、『デスパワーカプセル』と言います。所持しているデスパワーの量を可視化するための道具です。」
三つのメモリで四段階に分けられているそれは、二段階、つまりはデスパワーが半分たまっていることを示していた。
「特別死の念が強いところでないと自然に一段階以上たまるなんてことはありません。やはり死者は大勢出たのでしょう。」
エピロは船縁から身を乗り出し、
「あのあたりか。」
エピロはデスパワーカプセルを握りしめ、深淵に語りかけた。『深淵の契り』……デスパワー1メモリ分を対価に、攻撃・回復呪文の威力を倍化し、1度だけ即死を無効化する呪法だ。
だが、エピロにとってこの呪法の真髄は深淵との接続が強まるところにある。
本来、デスマスターに使えない呪文や特技の内、この世界にきてから新たに契約や習得、再契約をしたものは普通に扱えるエピロだが、かつてアストルティアでの修行で身に付けた職業固有の呪文、特技は殆んど使えない。
そしてこの世界にはダーマ神官がいない。ダーマ神による転職の儀式はその者の才能や資質を職業に合わせて切り替える。今のエピロが自分で転職したところで、戦士になれば非力で、盗賊になるには器用さにかけるといったことになる。今の彼の肉体や資質はデスマスターとして最適化されているからだ。
しかしエピロは考えた。転職さえすれば使えるのなら自分の肉体はそれらの呪文を身に付けているはずなのだ。それらの技術は自らの深淵に宿っているのでは、と。
そうして開発した呪法『万魔の深淵』は深淵の契りが有効な間、他職業の呪文を引き出して扱えるのだ。
「
海流を操る海賊の呪文は、皆底に眠る沈没船の残骸を浮上させた。
エピロは鞄から宝石を幾つか取り出すと、甲板に並べて魔方陣を描いた。マリーン流宝石魔術の流れを汲む技術である。
「未練を残しさ迷う魂よ、我が声に耳を傾けたまえ……
この呪文は本来、ゾンビを召喚して奴隷とし、使役する禁術。悪のデスマスターの呪文だったものを、エピロが深淵の力でもって改良。さ迷う魂を一ヶ所に呼び寄せる呪文とした。
宝石魔術で拡大化された
「もはや名前を思い出せないが、私は船長だった者。しかし、私は職務を果たせなかった。我らが未練は、ただ一つ。彼らをロモスの港へと……」
船員達の霊は悔いていた。自分達にもっと技術があればこのような自体には、と。
乗客も、ロモスにいる家族に一目会いたいという者達が殆んどだったが、中にはオーザムやリンガイア、ベンガーナに故郷を持つ者もいたが。
「あぁ、ソアラ様!」
「貴女は!」
ソアラの足元に膝まづいた女性。ディーノの世話係りだった人である。
「申し訳ありません……ディーノ様は、ディーノ様は……」
彼女が言うには、沈没の間際に彼女は船の奥の部屋におり、パニックでごった返した船内を進めず、脱出はもはや不可能だった。
そんな状況を収めたのは老い先短い老人達。かれらはせめて子供達だけでも、と船内を回り、バケツリレーの要領で甲板まで逃がし、脱出の手伝いをしてくれたのだという。
「私は最後までディーノ様のそばにあるべきところを、老人達に託し、彼らと運命を共にしました。」
老人達の魂はもうこの地上にはいない。満足して死んだのだろう。
「ディーノは生きています。貴女の行いは間違いではありません。ですから、どうか安らかに……」
「あぁ、ソアラ様、勿体ないお言葉にございます。もはや未練はありません。ディーノ様に明るい未来があらんことを……」
彼女は光に包まれ、消え去った。
「おれの出番はなかったね。」
「だが、彼女に関してはこれでよかったのだろうな。」
さて、それでは本日一番の大仕事に取り掛からんとエピロは鞄を開いた。
船員達はあらかじめエピロの用意した棺を甲板に並べる。
「皆さん、自分の身体の位置は分かりますか?」
「あぁ、ある程度は。」
「分かる人は案内してください、引き上げますので。」
エピロは潜水服と足ヒレ、ゴーグルを身に付けていた。
「それじゃ行ってきます。」
命綱をマストに結び、エピロは海に飛び込んだ。
海の中はほの暗く、所々にレミラーマの青いキラキラが輝いている。散乱した貴重品を示す青い光だ。その他にも、宝箱を示す赤い光と、鍵を掛けてしまわれているお宝を示す黒い光もポツポツ見える。
しかしそれらの光だけでは海底を照らすには至らない。エピロは
「
音の反響で周囲の地形を把握。それに加え霊達の呼び声を聞き取る。
バギマで推進力を得、
遺体を発見すると、邪魔な瓦礫を慎重にバギやザバで退かす。遺体を傷付ける訳にはいかない。
「プラシー……バーシー……ルルルンポウ……世界の果てまでひとっとビュン!!」
一件ふざけた内容の詠唱だが、これはアストルティアにおける
しかし、何も起こらなかった。
詠唱はアストルティアで何度も聞いてきたが、契約はしていないので使えなくて当然である。
仕方なくエピロは
船の上では船員達が海面に浮かんでいる瓦礫の中から遺体を掘り出していた。その彼らに運びあげてきた遺体を任せ、エピロはまた潜っていく。ずっとその繰り返しである。
「エピロさんよぉ、アンタ
休憩中、船員の一人がエピロに問いかけた。
「無理ですね。亡くなられてから時間が立っていますので、どれだけ生命力を注ぎ込んでも元通りの温もりは戻りません。むしろ無理やり蘇生しようとしたらアンデッドになるだけです。」
死者は戻ってこない。それは当然の摂理で、それを曲げるのは神の力くらいのもの。そういう意味ではザオリーマならば、損壊度合いの高い水死体をも蘇生できるのかもしれない。
「ザオラルで蘇生できるのは完全に死にきっていない者だけです。心肺が停止していようとも、体温が完全に奪われていない者だけです。五体満足の者だけです。……いかにデスマスターと言えど、死を従え、乗り越えることは不可能。ただ、そこに寄り添うだけ。」
エピロはそれなりに強い魔族だ。だが決して神ではない。力及ばず救えない命とてあった。
それは、彼がどうこうしたところでどうしようもないこと。気にしすぎても仕方がないが、気にしなくなったらおしまい。
過去を思って黄昏るのはいい。だが、無力感から心が凪になってしまった者にデスマスターは続けられない。死に無感動な存在が、死者の心に寄り添うことなど不可能なのだ。
「デスマスターは死なない……」
「え?」
「大昔から伝わる我々のスローガンです。……しかし、おれはその意味を真に理解できていない。おれなんか未熟者もいいところです。」
皆伝の印である『デスマスターの証』をもってこそいれど、だ。
小休止を挟み、エピロはまた作業に戻った。引き上げた遺体はこの時点で30を超える。
見えている部分には死霊とならなかった者の遺体も存在するが、今回エピロはその者達を引き上げる気は無かった。頼まれもしないのに眠りを妨げる気は無かったからだ。ただ、兄弟や親子、家族で同じところに眠ることを望んだ死霊達のために、数人引き上げた。彼らは
「次で最後だろうね。」
その最後の遺体が厄介だった。海溝となっているところに落ちてしまっていのである。ミコダマで聞こえる声もずいぶん遠い。
「やっと見つけ……!」
ぬるり、と岩陰から大きな影が這い出した。それは巨大な軟体の魔物。
「大王イカ……」
よりによってここで遭遇してしまうとは。しかも大王イカはある程度群れる魔物だ。うかうかしていると仲間が集まって来かねない。大王と名前に付くくせして、実は系統最下級なのが大王イカである。
地上で戦ったならば万に一つもエピロが負ける心配はないだろうが、ここは相手のホーム。エピロの方がアウェーである以上、少々難しい手合いだ。
(
とは言えど
「
あえて急所を外したドルマを放つ。これに怯えて逃げてくれればいいのだが、大王イカはむしろ怒り狂った。9本の足を全て広げ、カラストンビを露わにする。その端には、衣服の切れ端のようなものが引っ掛かっている。
(人の味を覚えてしまっている! もう見逃す訳にはいかないな。)
「
「ピキョオオオオ……!!」
渾身の極大呪文はしかし、すんでのところで躱された。
「暗黒呪文を躱すなんて!」
しかし完全に回避しきることはできなかったらしく、足の一本の根本が雑巾を絞ったようにひしゃげていた。その足は大王イカが少し泳いだだけですぐに千切れてしまった。
だが、それでもなお大王イカの機動力はエピロより上である。8本の触手による高速乱打を回避しきれず、2、3発が胸に直撃した。
「ガッは……」
ガボボボと泡を立てて肺の中の空気を吐いてしまう。呼吸用のバギは意識が途切れて消えてしまった。
(空気を得なければ! ルーラを……)
酸欠で頭が回らず、ルーラの目的地をきちんと想像できない。
エピロがもがくのを見て、逃げようとしていることを理解したのか、大王イカは墨を吐いた。もわもわとした煙幕が広がり、エピロを包み込む。
「
エピロの身体が海面に向けて浮上する。だが、加速は途中で止まり、彼の体はぐいっと引き戻される。エピロが
大王イカの目は狂喜を湛え、カラストンビがギラリと光る。
エピロの魔法力は枯渇寸前。理由としては、そもそもデスマスターがアストルティアの魔法系職業の中でもガス欠を起こしやすい事が一つ。万魔の深淵で引き出した呪文は魔法力の消耗が倍以上に膨れ上がるのが一つ。昼頃から魔力補給なしで作業を続けていたのが一つだ。もう極大呪文は放てない。そもそも今の装備が良く無かった。魔法力を高めるローブではなく潜水服で、しかも素手。当然呪文の威力も落ちている。
(油断、した。)
せめて拘束を解ければ、ルーラで逃げる三段はある。極大呪文ではなく、それでいて大王イカを一撃で屠れる呪文。メラゾーマやマヒャドは自分も危険だ。
(声が……聞こえなくなって……ミコダマが…………
エピロは手の平を大王イカに向け、唱えた。
「
指向性を持った音波のビームが、大王イカの目と目の間を撃ち抜いた。
音というものは空気中より水中の方が早く伝播する。当然避けることはできずに大王イカは息絶えた。また、アラコダマの指向性は強く、流れ弾の心配は無い。
「すまない。どうか、安らかに。」
エピロはしばし祈りを捧げ、呼吸も限界になったところで、ルーラを唱えた。
そして海面で大きく息を吸うと、蜻蛉返りで戻っていった。何せ音の伝播が早いということは、それを聞きつけて魔物が集まってくるのも早いということを意味する。アラコダマだけでなく、エピロの声や泳ぐ時の水音もあったのだ。
遺体に被さった瓦礫をどかす頃には、向こうから数匹の大王イカが泳いできていた。中には上位種のテンタクルスもおり、幼体のだいおうキッズも紛れている。
エピロは遺体を抱えて、さっさとルーラで戻った。
独自設定
・コダマ系呪文の扱い。
オリジナル呪文ではなく、蒼天のソウラ公式の呪文です。
・ダーマの神の転職について
・デスパワーカプセル
ドラクエ10本編でデスマスターでの戦闘中、コマンドボックスの下にあるデスパワーゲージをアイテム化したもの。あくまでもデスパワーの残量を可視化するための道具であり、中に溜め込んではいない。
・深淵の契り
万魔の深淵関連が独自設定です。