デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚 作:デスマス怒る
遺体の回収を終え、エピロはぐったりと倒れ込んだ。
「死ぬかと思ったね……」
今回の事態は魔法力の補給を怠ったエピロのミスである。補給というものの重要性を嫌というほど師匠に叩き込まれていたのにこの体たらく。挙句本来苦戦する要素の無い大王イカに負けかけるなどと。
「
ベホマンにもたれかかり、酸欠で死にかけた脳細胞に
「バランの旦那ァ、船長がお呼びで。なんでも息子さんが乗って流された海流について話したいんだそうですぜ。」
「わかった。すぐに行こう。」
バランはソアラを伴って船長室へ。エピロはもうしばらくベホマンに甘えていようかと逡巡した後、船長室に顔を出すことに決めた。
「この付近の海流は大きく分けて二つ。一つはロモスに向かって流れる潮で、もう一つはここ……」
船長は世界地図の左下に存在する絶海の孤島を指差した。
「怪物島……正式名称はデルムリン島……んだがここらの船乗りはみーんな怪物島と呼ぶ。噂じゃあ魔界と繋がる道があるってぇ話だ。」
それを裏付けるかのように、島に近づいた船乗りが
「キラーパンサーは地上では滅多に見られない猛獣だったな。」
「魔界の獣、故に地獄の殺し屋か。」
この世界の魔界はアストルティアのそれより遥かに不毛で荒れた大地だという。地獄呼ばわりも頷けるというもの。キラーパンサーの咆哮は稲妻を呼び、その鉤爪は空を切り裂くという。
「ならばそんな島にディーノがいるとは考えづらい。船長殿、やはり私達は当初の予定通りロモスに向かいたい。」
ディーノは生きているのだ。乳飲子が無人島に一週間近くも一人で生きられるわけがない。おそらくロモスかどこか、人のいるところに流れついて保護されたと見るべきだろう。
「それを聞けて安心したぜ。ウチのクルーは力自慢だが、怪物とはやりあえねぇからな。そいじゃ、話はこれでしまいだ。本船はこれよりロモス王国へ向かう。」
船は帆をはり、海面を滑るように走り出した。
そしてエピロはまた直ぐ船酔いした。
「助けてベホマン……」
「……ふと思ったのだが、君はベホマズンは使えないのか?」
「
アストルティアの勇者とはグランゼドーラ王国の王家の血筋にのみ生まれる。神によって作られた特別な役割、という意味では
「しかも勇者の中でも使用者はさらに限られていて、師匠の知り合いである勇者姫アンルシア、現状最後の勇者である彼女は
ただ、回復速度に拘らなければ下位の
「
「そうみたいですね。調べてびっくりしましたよ。回復呪文は直接触れくらいしないといけなくて、挙句治癒に時間がかかるなんて。キアリーとかの治癒呪文もそうみたいで。じゃあ呪文を広域にかける技術そのものがないのかと思えば、
攻撃呪文は普通に飛ばしているので、あくまでも回復呪文を発射するという概念だけが欠けているようだ。蘇生呪文の射程に関しては、そもそも使い手が少なすぎて研究が進んでいないというのも大きいのだろう。なおエピロのザオ、ザオラルともに射程は5メートルである。回復呪文共々距離による効果の減衰はない。
「挙句ザオラル以上の呪文は使い手によっては復活後直ぐ戦線復帰できるのか……アストルティアの冒険者達は修羅だな、まるで。」
デスマスターは戦闘においては蘇生のエキスパート。ザオリクこそ使えないものの、ザオやザオラル、反魂の秘術で倒れた仲間を片っ端から叩き起こし、ベホマラーで全快させる。しかもデスマスター専用の技術には、復活させた味方が強化状態になるものもある。
反面、純粋な魔法力は攻撃面では魔法使いや竜術師に、回復面では僧侶に敵わない。この世界では
「ともかく、そのくらいして発展しないと闇の根源を抑えられなかった、というのが大きいんでしょうね。ただ、それでも神の器たる勇者以外がジゴデインに手を出すのは禁忌のようですが。」
英雄ネクロバルサは神からジゴデインを盗み出した咎で、魔物に姿を変えられたという。ネクロバルサという魔物は複数個体生息していることから、もしかすると子孫代々一族郎党罰せられたのかもしれない。ジゴデインが
「この世界での一部の極大呪文は神々の呪文だ。くれぐれも扱いには気をつけ、悪戯に広めぬように。……まぁ、君以外は教えられたところで契約すらできないだろうが。」
エピロは種族としての限界を超える儀式を受けている。彼の生まれる500年前には闇の根源と戦うため、何人もの冒険者が
「超人の領域……凄まじい話です。」
「ソアラさんは真似しちゃダメですよ。おれのこれは師匠が死ぬほどスパルタだったせいもあるんで。アストルティアで普通に暮らす分には人類の範疇でも十分だったのに。」
エピロは恨めしそうな目で何処か遠くを睨んだ。なお、いくら文句を言っても師匠はエピロより強い。まだまだ現役である。
「君より強いとなると私でも勝てるか分からないな……」
「……久しぶりに師匠に会いたくなって来ました……トポルの村のクラムベリーパイも食べたいな……」
ホームシックになるのも致し方なし。帰りたければ直ぐ帰れる異国ならともかく、どうやって来たのかすら見当もつかない異世界は、彼のこれまでの人生の中で、最も孤独だった。友人や仲間も新たにできたが、結局は生きる世界が違う者同士。一番深い根のところでわかって貰えないことがあるのだ。
「帰りたいよ……ベホマン、おれ達…………どうなるのかな……」
「エピロ……」
「エピロさん……」
「ぐふっ……」
「エピロ⁉︎」
船酔いが限界に達し、エピロはベホマンに埋もれたまま気を失ったので、バランは窒息しないように彼をベホマンから引き剥がさなければならなかった。
航海は順調に進み、船は無事ロモス王国の港に到着した。憲兵に事情を説明すると、国の修道院で引き取り、弔ってくれることとなった。
「それじゃ、バランさん、ソアラさん、お元気で。息子さんにもよろしく言っといてくださいね。」
「君には感謝に絶えない。必要だとは思えないが、何かあればこのバラン、
「私たちはこの国でディーノを探します。どうかお元気で。」
「えぇ、お元気で。」
ここでエピロは夫妻と別れ、またベホマンとの二人旅に戻ることとなった。
しかしさしあたっては、やりかけの仕事を終わらすべきだろう。
数日後、きちんと見送りの儀を行い、ロモスの地に葬られた者達は未練を断って成仏した。だが、他国に帰りたいと願う魂も何名かいるのだ。彼らを故郷へ送り届け、弔うまでがデスマスターの役割である。
エピロは棺に
マヒャドは言わずもがなだが、デリシャスオイルはなんなのかというと、調理職人用の植物油である。フルーティな香りが売りだが、同時にこれには賢者ホーローが開発した防腐呪法がかけられている。
これによって調理ギルドで生産される料理は消費期限が凄まじく長い。エピロはこのオイルを遺体の防腐用に調合して使ったのだ。匂いもいいのでアロマがわりにもなるだろう。
とりあえず、外国に遺体を輸送する許可をとるべきだと、エピロはロモス王シナナへの謁見予約を取り付けた。
今回の最後、エピロが王城に向かうシーンでようやく『序曲』のイントロが流れるイメージですね。ここまではチュートリアルとイベントシーン。大王イカは最初の戦闘です。
エピロの名前の由来は『エピローグ』からです。ピエロじゃありません。アバン先生が前の勇者、アバンタイトルから来ているのでその逆。
独自設定
・神々の呪文
存在はしているが知られていない。という設定で、神の呪文になりました。
・ジゴデイン
当初は極大神雷呪文にしようと思っていたのですが、ギガデインが極大呪文じゃなさそうだったので神雷は別名扱いになりました。
・デリシャスオイル
賢者ホーローが保存用の技術を開発したのは公式設定のはずですが、その成果物がデリシャスオイルだと明言されたかどうかはわかりませんでした。フルーティーな匂いは確か海水浴でオーガのお姉さんの背中に塗りたくったらそう言っていたはずです。