デスマスターはかえれない ダイの大冒険奇譚 作:デスマス怒る
「どうしてこーなった。」
エピロの横では高貴な身分と一目でわかる格好をした少女がベホマンをクッションにして眠っている。
そして目の前では年老いた大魔導師が用心深い目をしたまま座り込んでおり、エピロにはモシャスがかかっていない。
なお、エピロは目の前の老人がメドローアを一人でぶっ放せる激ヤバ魔法使いである事を知らされているものとする。
時は2年ほど遡る。夫妻と別れたエピロは半年かけて5人の遺体を各国に還した。それなりに時間がかかったなとエピロは思ったが、ルーラが使えない事を思えば海路で世界中を巡って半年は十分早いのだろうと直ぐ考えを改めた。航海技術はアストルティアに比べてまだまだ発展途上である。
事実、シナナ王は持ち前のお人好しっぷりを発揮し、エピロに兵士数人とロモス最速の船とその船乗りを貸し与えたのだ。これが普通の船であればもうあと2倍の時間は必要だっただろう。
途中、嵐にも遭遇したが、エピロは風の呪文も使える。
ともかく、エピロは仕事を無事に終えたのだ。シナナ王に船と人員を返却し、さらにお礼としてルーラストーンを5個セットで献上した。これはエピロが船の中で船酔いを克服し、暇を持て余したので手慰みに作った代物である。
普通のルーラストーンと同じで、一箇所しか場所を登録できない上、場所の登録もルーラを使える術者に頼まねばならない。この世界にルーラストーンの位置登録呪法を使える神父やシスターもいなければ、いざないの石碑も存在しないのだ。
しかもエピロの呪法では一個につき10回で中の呪文が擦り切れる。安全保障は実証済みだが、使用の際は必ず王宮魔導士を伴うように言っておいた。
その後、エピロは当初の目標通りにパプニカに向かった。賢者の国と聞いてエピロが思い起こしたのはドワチャッカ大陸のドルワーム王国。かつて賢者の修行を積んだのを思い起こす。
「そういやおれザオリク使った事なかったや。」
習得はしていたが、賢者時代に人死に遭遇していないので使う場面が無かったと言える。当時一番お世話になった呪文は
「この世界の賢者はどんな感じかな? 古代呪文の復元プロジェクトとか古代遺物の研究チームとかあるのかな。」
古代遺物といえば、パプニカの近くにはヨミカイン遺跡なるものがあり、そこにはかつてヨミカイン魔導図書館があったという。図書館自体は魔王軍幹部のガンガディアという男によって破壊されたらしいのだが、せめて古代の魔導書の一冊でも残っていないだろうか、とエピロは思った。
「まぁ立ち入りの許可が出れば、だけどね。郷に入っては郷に従え、だ。」
ベホマンに跨ったまま、独りごちる。一目に付く心配のない陸路ではこうやってスライムナイトスタイルで進むのだ。本気で駆けるベホマンは時速70キロは出る。
エピロのカバンには『ドルボード』という古代の乗り物も入っているのだが、いかんせん燃料であるドルセリンが無い。一応錬金釜という便利な代物も所持するが、ドルセリンのレシピを知らないのではどうしようもない。
「こんな事なら機械工学にも手を出すべきだったかな。」
ドルボードを燃料でなく魔法力で動くように改造できれば、とエピロは少し悔やんだ。今まで知識が必要になればその都度勉強していたが、ことここに来てそもそも学ぶ教材が存在しない事実に直面したのだった。
夜の街道を進み、パプニカ城下町を囲む城壁が見えて来た。
「やっと着いたや。」
なぜ船で直接パプニカの港に行かなかったかというと、ベホマンのためである。自分で雇った船乗り達ならともかく、一般の乗客も乗っている船に、大人しいとはいえ大型の魔物を載せるのは流石に断られてしまったのだ。
遺体を輸送する旅でもパプニカには行かなかったのでルーラで移動もできない。
エピロは
しかしエピロはその方法を取ることはしなかった。ベホマンと離れたくは無かったのである。この世界にはいない緑のキングスライム。もし悪意ある人間に見つかれば、金儲けの種にされてしまうことだろう。スライムベホマズンは愛情深い種族。たとえ遅いかかかってくる悪党であろうと、ベホマンは戦うのを躊躇うだろう。
ともかく海路を徒歩で進み、ホルキア大陸の端がよく見えるようにまで近づいてからルーラで飛んできた。
ルーラは行ったことがなくても見えている範囲に移動できるのだ。ただし、行ったことがあっても次元を隔てていれば飛ぶことは叶わない。アストルティアで魔界と地上がルーラストーンで移動できないように。この世界からアストルティアまでルーラで帰れなかったように。
ともかくエピロはパプニカの目前まで辿り着いた。しかし真夜中ゆえに城門は閉ざされている。野宿決定というわけだ。
「夜食にするよ、ベホマン。」
テントを張り、焚き火を灯し、フライパンを取り出す。作るものは『きようさ肉まん』だ。
「何個食べる?」
ベホマンはしばし悩むと、5回瞬きをした。
「五つ? 食べ過ぎじゃないの〜」
ベホマンは不服そうに頬を膨らませた。
「んじゃあ四つだ。おれは二つ。」
フライパンに肉と野菜、それから外側の生地を同時に放り込む。そのまま手首をトントンと叩くと、一人でに生地が広がり、具を包み込んだ。あとは水を入れて蓋をし、少し蒸せば完成である。
以上の作業をエピロは三つのフライパンで同時にこなす。フライパン一つで肉まんが二つ、計六つだ。アストルティアの調理職人はフライパンだけであらゆる料理をこなすが、同時並行で複数のフライパンを操れるものは限られる。
だがエピロより上もいる。八つのフライパンを同時に振るい、しかもそれぞれ全く別の料理をこなすのだ。エピロの師匠に仕える料理長である。
アツアツの肉まんを胃袋に収めると、満腹感から瞼がずっしり重くなる。
「おやすみベホマン。」
「ぴぃ……」
二人は寄りかかるようにして眠り就いた。
翌日、エピロが目を覚ますと、なんだか肌寒いくらいの気温であった。ザバとギラで即興の蒸しタオルを作り、顔を拭くとようやく目も冴えて来て、どうやら霧に覆われていることがわかった。
「ベホマン。」
「ぴぴ?」
「行くよ。
ベンガーナで購入したネジ巻き時計によると、現在は早朝の5時過ぎ。朝日はすでに昇り始めているが、時間帯と霧の影響でまだまだ暗い。エピロは
街道を外れ、森の奥へと進む。かなり奥まったところには異臭と瘴気を放つ塚があった。周りにはその存在を隠匿する呪法がかけられていたが、エピロの魔法力の前では薄手のベールも同然。
「グオオオ!」
「ガアア!」
「ビシャアアアア!」
3体の悪霊が塚から噴き出す瘴気より現れ出でた。尖った耳と紫の肌。この世界の魔族であろう。
「ニンゲンめぇ!」
「
襲いかかってきた1体をクモノで拘束するが、長くは持たない。エピロは得物である深淵の錫杖を構えた。
拘束を解き、切り掛かってきた1体を水流の構えでいなし、反撃の一撃を叩き込む。悪霊は大きく吹っ飛んだが、ダメージには至っていない。さらにもう1体と連携をとり、素早い連撃でエピロを攻め立てる。
「殺す、殺す、殺す!」
「ぴぃ!」
エピロが1人で2体を相手どる間に、残りの1体がベホマンに襲いかかっていた。しかし悪霊の槍の穂先はベホマンに届く事なく、逆に悪霊は彼の放ったキングプレスによって生まれた大地の揺らぎに吹っ飛ばされた。
この悪霊達を倒すだけなら手段はいくらでもある。デスマスターの
だがこれらは最終手段。デスマスターの役割は未練を断つこと。強制的にとどめを刺すのは本意ではない。
「死霊召喚、骸骨!」
漆黒の体を持った黒い骸骨の剣士が2体、召喚される。骸骨達はそれぞれ悪霊をはがい締めにする。
「同胞達よ……邪魔をするな!」
「落ち着け友よ、彼らは敵ではない!」
2体を悪霊によって足止めし、残った1体を錫杖での足払いですっ転ばせる。
エピロは3体の悪霊の足元に宝石を投げつけ、魔法陣を構築した。
「彼の者達の、その心身蝕む苦しみを鎮めた給え!」
「わ、我々は……」
「落ち着かれましたか? したらば自己紹介をば。おれはエピロ・エンディ。旅のデスマスターです。」
「我々は……見ての通り魔族だ。人間に殺された……」
「ハドラーのとばっちりですね。」
「とばっちりか……そうだ、そうだな。だが……あの男…………あの男はハドラーよりも悪質だ。本当の邪悪だ。」
「それが貴方達の未練ですか。」
魔界での苦しい暮らしに嫌気が差し、地上へと逃げ延びた魔族達。それが彼らだ。しかし、彼らは家族や仲間ではない。はぐれ魔族は孤独なものだ。地上の人里離れたところで、ささやかに暮らしていた。
「だが、ハドラーが勇者に斃された後、人間達は何もしていない我々に矛先を向けた。ハドラーが斃されたことで恨みを果たせなくなったのを、我々に向け、命を奪ったのだ。」
彼らはパプニカの土地で暮らしてこそいれど、パプニカの国民では無い。法によって守られておらず、それが為に私刑を罰されることも無い。魔族が魔族であるという理由だけで殺されることを止める術を持たなかった。
何せこのパプニカにはハドラーの居城が存在する。魔族への忌避感は他国より根強い。
だがこの国王族は莫迦ではない。積極的な魔族狩りの政策を進めてなどいない。そこに資金を割くくらいであれば、戦後復興を進めるべきなのだ。ハドラーが倒され、戦争が終わってまだ5年程。傷が癒えるには程遠い。
「この塚は墓と呼ぶのも憚られる代物。首を刎ねられ処刑された我々の死骸が雑多に埋められているだけに過ぎない。」
「テムジンという男がいる。パプニカの大臣にして司教だ。この男はパプニカの支配者にならんと数年前から暗躍を繰り返している。我々に虚偽の罪をでっち上げ、処刑したのもその一環。国を守ってくれている頼れる大臣とアピールするためだ。」
「そんなことの為に……」
エピロは激怒した。必ずその司教を除かねば、パプニカという国は内側から腐り落ちてしまうだろう。
「……デスマスターは死した者の未練を晴らし、安らかな眠りを祈る者。テムジンがどうなれば、貴方達は納得しますか?」
「死ねば、だ。テムジンだけではない。我々に理不尽な怒りをぶつけた者達全て。我々を屠るのを愉しんだ者全てを殺せば! 我々は満足だ。」
「約2名そうは思っていないようですよ。」
「なに?」
エピロの召喚した骸骨。そのガワこそ彼の魔法力で形作られた人形だが、中身の魂はこの塚に眠る死霊2人だ。この2人こそ憎悪と絶望を押さえつけて理性を保ち、そして同胞を助けるため、エピロを呼び寄せた者達だ。
「なぜだ? 恨めしくは無いのか! 怒りは! 苦しみは!」
「あるさ! あぁあるとも! だからもう沢山だ! 我々死人が生者の妨げになっていい法は無い!」
「なんだと!」
「よく考えてみろ! 俺たちが大挙して王城を襲い、テムジンとその部下を殺したとしよう。次の奴らの行いに正当性が生まれるぞ…………」
そうなれば、第二のテムジンが現れる。しかも今度は自らの野心の為でなく正義のために動く者が。そうしてまた罪の無い魔族が正義の名の下に殺され、負の連鎖が始まるだろう。
「エピロ殿、どうか我々をこの忌まわしい塚諸共滅ぼしてください。」
「な、貴様っ!」
「ふーん。滅ぼせ、と? 嫌です。」
「え?」
「だって未練晴れて無いじゃあないですか。一応おれ、復讐は肯定派なんです。」
「だが復讐で未練を晴らせば魔族の未来は!」
「にゃー……つまりですね、やり過ぎなきゃあいいんです。」
そういうエピロの顔にはとてもとても悪い笑みが浮かんでいた。
デスマスターは死霊使いなどとも言われるが、それは本質と言い難い。数百年前のデスマスター、ネリム女史はデスマスターを死霊探偵と呼んだ。
エピロはテムジンを探るため、パプニカ王家に潜入捜査をすることにした。パプニカ魔法師団への入団願書を届け出たのである。しかしながらエピロには後ろ盾はない。ので、ハドラー戦役で両親を亡くした少年であるという設定で通すつもりである。
「気品を要求する王室に、身元不明の若者を雇う気があるのか?」
「最初から落とす腹づもりにせよ、入団試験くらいは受けさせてもらうよう立ち回るつもりです。そこでベギラマやベホイミを披露して見せれば、採らないなどという選択肢は消え去ることでしょう。」
在野の魔法使いにして置くには惜しいと思わせ、たとえ身分が不確かであろうとも手元に置いておきたいと思わせるのだ。ただ流石に極大呪文は封印する。魔族であることがバレかねない。
そして入り込むことさえ叶えば、後ろ盾がいないというのはむしろアドバンテージになる。地位も名誉ないゆえに貪欲に手柄を求める力ある若者。悪心を持った者が手駒として丁度良いと思うような危うさを醸し出させるエッセンスとなるのだ。
「テムジンは接触してくるはずです。後は彼の計画を暴くだけで、パプニカ王がその名の元に断罪してくれるでしょう。国家転覆を企んでいるわけなのですから極刑は免れられないでしょうね。処刑代の上で懇願し、泣き喚く様を特等席で見てやりましょ。」
「君は顔に似合わず残虐な物言いをするな……」
「直接手を下したければ、恩赦を願い出て国外追放に留めてもらうというのも手ですね。この国の外に出たなら老人1人野垂れ死のうと不審な点はありませんから。」
時間にして5年もあればテムジンの失脚計画は完了するだろうとエピロは続けた。
「これ以上を求め、他の人達にも危害を加えようというのなら、
「それでいい。どちらにせよ、我らは君に勝てぬからな。計画を進めている間は大人しくしておくとしよう。」
エピロは満足げに頷いた。魔族の寿命は長い。5年くらいは直ぐだと彼はそう思っていたのだった。
独自設定
・
極大呪文ではないです。メラ系におけるメラゾーマポジです。
・マホステの原理
・ルーラストーンの仕組みについて
・トベルーラは他人にかけられない
・
別名氷獄呪文。ヒャド系の極大呪文です。対象を完全に凍てつかせるまで消えない黄泉の冷気。ハドラーのメラゾーマのヒャド版のような性質です。バーンクラスの魔法使いが使えば、周囲数キロが永久凍土になります。エピロが凍らせた海面も厚さ1メートルはありました。
・ニフラム
アストルティアには存在しない呪文ですが、エピロはデスマスターになってから研究して再発明、習得に至っています。上位の二フラーマやニフラーヤは宝石魔術の補助ありで使えます。ニフラムは威力を抑えるために宝石魔術を用いました。
・テムジンについて
どうせこの時代から悪どくやってきたに決まっています。